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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
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二話 基本は勉強

 ファーレンに昼飯をおごってもらったり、道具や装備の購入の仕方も教わってみれば、あっという間に三時間が経過してしまった。ファーレンという人物は自分が思ったよりも誰かに教える事が好きな様で、つきっきりで色々と教えてくれる。これ、本当にお金を貰わなくてもいいのかと悩んだりもしたが、お給金をギルド側から受け取っており、初心者教官という職業として地位を保障されているので、路頭に迷う事もないそうだ。特化型召喚師という職も少ない事を合わせて、それなりに安泰だとか。趣味は本を買い揃える事らしく、それ以外でお金を大きく使う事もなく余り気味であるとも。


 故にファーレンは色々と教えてくれた。そしてそれを通じてこのゲームのシステムを覚えた。


 まず、店での買い物は普通のゲームの様なメニューではなく、リアルの様に実際にあるかをそこで確認しなきゃいけなかったり、装備の能力などの確認に関しては【鑑定】と呼ばれるスキルが必要だったり等。冒険者として活動するならばある程度必須のスキルというのが存在し、早い段階でスキルを取得するのに必要なSPを取得し、覚えておくべきだとも教えられた。あとはこの世界ではリアルとは別にお腹が空き、そして喉が渇く。これを放置すると普通に餓死する様に出来ている。


 幸いなのは尿意や便意が存在しないことだろうか。ちなみに風呂は大衆浴場が存在して、ちゃんと入れるらしい。


 そんなこんなで三時間が経過したらギルドへといったん戻り、ギルドカードを受け取る。手のひらに収まるサイズのカードであり、この世界での身分証明書に当たるものだ。これを持っている事でギルド側で仕事の斡旋や紹介等が解禁されるため、此方の生活では必須のアイテムとなる。無くさない様にしっかりとインベントリへとしまい込むと、ギルド前の広場へと出る。”始まりの街ランケル”と呼ばれるこの街は中央の噴水広場を中心に円形に広がる街であり、周辺のモンスターの弱さや絶えないそれらによるトラブルにより、冒険初心者が冒険を始めるのにうってつけの街らしい。この広場も時によっては大会やバザーなどで使用されたりもするらしい。


 そんな広場へと到着すると、ここなら十分に広い、とファーレンが言う。


「さて、歩くのは面倒だしパフォーマンスをする意味でも軽くやるよー」


「何を―――」


 と、言い終わる前に、ファーレンは白い手袋に包まれている両手を合わせ、印を結んでいた。それは間違いなく西洋というよりは東洋の動きのものであり、その手の動きは漫画やアニメで見覚えのあるものだった。西洋人の恰好に東洋の印結びという組み合わせだったが、不思議とアンバランスさはなく、調和を感じさせるものがあった。しかし自分の理解を超える素早い手の動きを完成させると、ファーレンは手を掲げる。


「来い! 朱雀!」


「えっ」


 と声を零した瞬間、炎を空が覆う。同時にその炎が巨大な怪鳥の姿を取り、赤く燃える炎の鳥を生み出し、召喚する。出現したそれはダイブで一気に近づき、ファーレンはその上を飛び越す様に跳躍するとその背に乗り、そのまま大分する朱雀は地表すれすれで両足で此方を掴み、重量屋重力の支配を一切見せる事無く一気に空へと駆け上がり、凄まじい速度で街の外へと飛び出し、


 一瞬の内に街の外の草原に到着し、自分を解放し、ファーレンを背中から下ろして姿が消える。


 発生した出来事によろよろとよろめき、そのまま草原に倒れる。草の気持ちよい匂いと、背中に当たる日差しの暖かさを感じながら、ファーレンの軽い笑い声が聞こえる。


「ははは……こんな風に召喚術を極めて行けば攻撃するだけじゃなくて力を借りる事だって出来る。だからと言って自由に動かせる訳じゃないし、できる事は限定されているんだけどね、契約だし。やっぱりテイミングした方が遥かに自由にいう事を聞かせられるけど、契約関係の方が出力が圧倒的に上なんだ。契約であれば自分よりも遥かに上位の存在を従える事も出来るからね。ちなみに今のは【召喚術】と【陰陽道】の組み合わせだけど―――大丈夫?」


「大丈夫に見えますか……うぇっぷ」


「いやぁ、パフォーマンスしたいから割と派手にね? ほら、若いんだから頑張る頑張る」


「いや、それでもこれはない」


 よっこらしょ、とショックから立ち直りながら立ち上がる。しかし朱雀なんてものが鍛えれば召喚できるのか。それはそれで実に楽しみだと思える。ああいう巨大な力を持った存在を召喚師、攻撃させる。やっぱり召喚師というのはそういう存在じゃないと。まぁ、今はどうせもっと小さくて弱い存在ばかりなのだろうが。


「さて、復活したなら実践を始めようか。とりあえず最初にこれを渡しておくよ」


 そう言ってファーレンが虚空から白い手袋と、そして透き通る様な半透明の石などの道具を取り出す。どうやらファーレン達NPCにもインベントリは存在する様だ。それをファーレンから受け取り、石をインベントリへ、そして手袋を装着する。手袋は最初はちょっと大きめかと思ったが、次の瞬間には手にフィットしており、そしてなめらかながらも硬さを感じる、良質のものであると解る。


「手袋は色々と手を使う職業だからね。保護の為と召喚行動の効率化の為に必要なんだ。それは基本的な支給品だから遠慮せずに貰っておくといいよ。そして一緒に渡した石が”魔石”で基本的な召喚術の触媒になるよ。それを一個消費する事で一回召喚術が使用できる」


「あぁ、コスパが悪いって意味が解りましたわ」


 その言葉にファーレンは苦笑する。インベントリの中におさめられた魔石を確認し、それが全部十個存在しているのを覚えておく。つまり今は十回までしか召喚攻撃を行えないという事だ。ちゃんと管理しておかないと土壇場で困ったことになりそうだこれは。


「さて、そろそろ一番簡単な召喚攻撃から始めようか? まだ【召喚術】を取得したばかりの状態だと最下級の召喚しか行えないからね、召喚できるのはサラマンダー、フェアリーにスタンピードってぐらいだろう」


「あ、センセー、この召喚できるのってどこを確認すれば解るんですか?」


「うん? 基本的には何が召喚できるか、なんてものはどこにも書いてないからね。私みたいに実験して調べたり、文献をチェックしたりしなきゃ基本は見つからないよ―――まぁ、私の生徒だし、予め私がした発見に関しては君と共有しておくよ。あとで他にも召喚できるものに関して教えておくから、まずは適当な召喚から始めるといいよ」


「うっす」


 ファーレンに返答すると、ファーレンが数歩後ろ、此方を良く見る事の出来る距離へと下がる。そこまで下がったところで、ファーレンは眼鏡の位置を調整し直す。


「さて、召喚術の実践編だ。召喚術というのは多少土地の影響を受けるものでもあるけど、ここでは関係のない話だ。そして影響がなければやる事は簡単だ。最下級や初級召喚術に詠唱や魔法陣の展開は必要とされない。召喚したい召喚物を想像し、呼び出すだけで大丈夫だ」


「……よし」


 スキルの使い方にしては既に教室でレクチャーを受けている。故にやり方は理解している。頭の中で使いたいスキルを思い浮かべ、そしてキーとなる行動やワードを口にすればいいのだ。スキルによってもっと条件が付いたりするが、【召喚術】スキルである場合、魔石の消費と召喚したい存在を呼ぶことが条件なのだろう。


 右腕を上へと突き上げながら、手を開き、そして声を出す。


「来い! サラマンダー!」


 言葉と共に開きっぱなしのインベントリから魔石が一つ消費されるのが確認できた。そしてそれと同時に目の前で巨大な炎の塊が出現し、全長二メートルほどの赤いトカゲが炎の中から地を這う様に出現する。召喚された召喚獣、サラマンダーはそのまま大きく口を開き、十メートル先まで届くであろう巨大な炎のブレスを数秒吐き続け、そして終わると満足そうに炎の鼻息を漏らして消えて行く。


「お、おぉ! おぉぉ!! すげぇ! かっけぇ!! 赤いワニみてぇ!」


「はは、初召喚おめでとう。基本的にこれが召喚術の基本だよ。契約行為、代償、そして顕現。基本的にはこの三つのプロセスで召喚を行使するんだ。やあ、次は応用編、私達特化型サマナーがメインとする召喚術と他の魔術の組み合わせについてだ」


「あ、はい」


 まだ召喚成功の感慨を抱きつつも、振り返ってファーレンの方へと視線を向ける。予め自分のステータスはファーレンに見せてある。故にどういう組み合わせができるかは解っている筈だ。


「現状君のスキルで出来るのは【瞑想】と【索敵】以外を組み合わせる事だ。【鑑定】がないのが惜しいけど、その二つも悪くはない。【索敵】はどんな状況であれ必須である敵を探し、警戒する能力だし、【瞑想】もポーションに頼らず魔力を回復させる方法だしね。魔術師としては押さえておかなきゃいけないスキルだ。で、話は戻るけど【召喚術】との組み合わせだね」


 そこで一旦区切り、


「まずこの中で媒体を必要とするのが【ルーン魔術】と【精霊魔術】になるね。この中でも楽だと言えるのは【精霊魔術】になるだろう。それぞれの精霊の媒体となる自然物か、或いは人工物を持っていればいいんだからね。火の精霊ならマッチを、水の精霊なら綺麗な水を、刃の精霊ならダガーを帯刀しておけば、その格にあったのを召喚できるよ」


「割とバリエーション豊富なんですね」


「まぁ、それだけ”良質の炎”とかを用意するのが難しくなってくるんだけどね。ちなみに【ルーン魔術】はルーンに対する知識と予め魔石にルーンを刻印させておく必要があるからね、物凄く面倒だしお金がかかる。それでも召喚できるヴァルキリーやエインヘリヤルは強力だから破産しそうになるんだよなぁ……」


 なんだかしみじみと実感のこもった言葉に、苦笑が漏れるしかない。それを見たファーレンが恥ずかしそうに眼鏡を動かし、


「で、この中で比較的楽な部類が【陰陽道】と【召喚術】の組み合わせだ。既にみているかもしれないけど両手で印を結ぶ事を代償行為とするから、両手がふさがるってデメリットを抜きにすれば特にアイテムを消費する必要もないんだ。あ、いや、一部の召喚物は道具を用意して来るけど、全体的にはそうでもないから。だから最初はこの組み合わせで鍛えて行くのがオススメだよ」


 まぁ、印を覚えなきゃいけないのが辛いかもしれない、とファーレンはそれに付け加えるが。ただ低コスト、魔力のみで召喚できるのであれば、それは非常に便利なものだろう。これは覚えておいて損はない。


「さて、それじゃあ最後に私達サマナーにのみならず、重要なのは体力と魔力だ。体力のない魔術師なんてただの荷物だし、魔力がなければ威力が出ない。だからこの二つが一番重要だ。時間があるなら走り込みでもして体力をつけておくことをオススメするよ。……常に後衛で安全に守ってもらえるというわけでもないからね?」


「あぁ、成程……」


 言われてしまえば納得の理由だった。


「ま、他の魔術とは違って召喚術にその場で立っていなきゃいけない、という制限はほとんどないから、逃げながら召喚して戦うというやや強引だけど、そういうのもアリだよ。そこらへんは君任せになるけど。じゃ、これで基本的な講義はおしまい。今、そして近い未来には召喚できるであろう召喚物を君に教えるから、一度自由にここら辺で戦ってみるといいよ。ここで動かずに待っているから」


 そう言うとまた召喚術を使用したのか、ファーレンは虚空から椅子を召喚してその上に座る。その堂々とした姿に多少笑いが込み上げてくるのを自覚しつつ、ファーレンから知識を教わり、


 そして実戦の為に動き出す。



                  ◆



 ランケル南部草原と呼ばれるこの草原に出現するモンスターは弱いらしい。如何にもゲームの開始地点という風の設定だ。最初から強かったらそれはそれで面白そうだが、苦情が絶えないだろう。


 ともあれ、初期の状態でも苦戦する事はなく、敵を倒せるように設定されているらしく、よほど慢心でもしていない限りは死ぬ事もないらしい。ただHPという概念がこのゲームには存在しない為、何処までダメージを喰らっていいのかさえも解らない。同じくMPの概念もなく、何処まで魔法を撃てるかは完全に使って試さないと解らない風になっている。


 妙な所でのリアル趣向が結構好みだった。


 ともあれ、一切の油断や慢心もなく、ファーレンに教わったことをしっかりと頭の中でリピートしながら、南部草原に存在する一般的なモンスターを見る。それは少し大きい豚の様なモンスターで、体表が赤色になっている。やはり名前が表示されないのは【鑑定】スキルを保有していない事が原因なのだろうか。或いは別のスキルが存在するのかもしれない。ただ重要なのは相手がパッシブであり、此方に対して積極的に攻撃を仕掛ける様子も、干渉する様子も見せない事だ。


 その事に若干罪悪感を覚えるが、


「来い! サラマンダー!」


 魔石を消費し、容赦なくサラマンダーを召喚する。出現と同時に発生する熱波に赤い豚はよろめき、そして口から吐き出すブレスを受けて一気に豚は焼け死んだ。それが死んだ後もご機嫌な様子でサラマンダーは広範囲に炎を吐きだし、そして満足した所で消えて行った。


 炎が完全に消えたところでゆっくりと豚の所へと向かうと、完全にオーバーキルといった様子で、所々炭になっている敵の姿があった。


「えげつねぇ、どう見てもオーバーキルじゃねぇかこれ。やっぱ召喚術って必殺技みたいなもんなのかなぁ」


 基本的にどのゲームでもそういう感じだったし、等と思いながら目の前のホロウィンドウが出現する。そこには”Enemy Drop”、とモンスターのドロップ品が表示されている。


「あ、やっぱり豚肉取れるんだ」


 【料理】スキルがあったし、きっとそれで使うんだろうなぁ、なんて事を思いつつ初の討伐成果である豚の存在を眺める。明らかにコスパが悪い、と評価するしかなかった。この豚を数回殺すだけの火力が最下級の召喚物には存在し、そしてこの一匹で得られるドロップに対して魔石の消費速度が合わない。明らかに”赤字狩り”という領域に入るのだ。


 これを黒字にするには、一回の攻撃で数匹纏めてなぎ倒すしかない。


「っつーことはこれ、軽くヘイトとってトレインして纏めたところで召喚したらいいんだろうな」


 そこまで考えたところで、大丈夫だろうか? なんて考えが頭に来る。割と自由にやっているし、今モンスターを倒した所だ。特に忌避感解かなかったし、ゲームであると割り切っている所が強いからだろう。ただ大量虐殺とかになるとどうなってくるのだろうか?


 ―――まぁ、問題ないだろう。ゲームと現実をごっちゃにしなきゃ。


 結論が出たところで計画を実行する為に動き出す。足元を見れば投石に使えそうな石が落ちている。それを四個程持ち上げ、そして左手に握る。右手に一個握っておき、そして軽く走りながら見かけた赤い豚のモンスターの頭に投げつける。それを攻撃だ後判断した豚が鼻息を荒くして、此方へと向かって一直線に追いかけてくる。


「うひぃ、怖い」


 そんな事を呟きつつ背中を見せて走り出す。ついでに見かける他の豚たちにも小石を投げてヘイトを取り、そして一纏めになる様に円形走り回る。此方の方が敏捷が僅かに高いのか、一直線に走ると向こうが此方を追いつけきれないのが解る。それを利用して付かず離れずの距離を維持し、一か所に集まったところでサラマンダーを再び召喚する。


 数秒後、豚の悲鳴と共に四つのローストポークが完成されていた。


「うっし、これならある程度黒字になるかな」


 魔石の正確な値段は知らないが、こうやって複数狩りが出来るならこっちの方が遥かに効率が良いだろう。纏め狩りはゲームでの基本的なレベリング方法だし、魔石のコストを考えるともっと纏めてから狩った方がいいのかもしれない。そう考え、他のプレイヤーの姿がないのを確認し、他のプレイヤーが来る前に実験しようと思い纏め狩りを開始する。



                  ◆



 それからたっぷり二時間が経過する。ぶっちゃければ最初の十五分で魔石は使い切ってしまった。が、その後にスキルの実験などを行っていたために少々時間がかかってしまった。結果から言うと【召喚術】は強力だが非常にお金のかかる攻撃手段であるという事だった。だがサラマンダーで一度に十体の敵を焼き殺せたことを考えると、破壊力は十分なのだ。どこかで金策についてを考えなくてはならないかもしれない。


 そして組み合わせで発生する特化型【召喚術】に関する実験だが、【陰陽道】との組み合わせで召喚が出来たのは小鬼、そして幻狐だった。どちらもサラマンダーとは違い、現れたら攻撃をぶっぱするのではなく一定時間出現してサポートするタイプの召喚物だった。小鬼は前衛系、その大きさは自分の半分ぐらいしかないが豚を殴り飛ばす程度には強く、そして幻狐は狐火等を浮かべて攻撃する魔法攻撃タイプだった。どちらにしろ、二体とも今の自分よりも強いが、出現できる時間は五分が限度であり、召喚後は再召喚までのクールタイムが存在していた。


 どうやらそうホイホイと召喚はさせてくれないらしい。


 【ルーン魔術】による召喚は材料不足故に行う事が出来なかったが、【精霊魔術】による組み合わせは材料の用意が簡単で会った為、簡単に行えた。と言っても召喚できたのは緑色の小さくて丸い鳥の形をした風の精霊、ずんぐりむっくりな蠍の様な姿をした土の精霊だけだが。此方もどちらかというと【召喚術】と同じタイプで出現すると同時に攻撃かサポートを行うという召喚物だった。風の精霊は衝撃波とカマイタチの連射で、土の精霊は体の周りに石つぶてを浮かべ、近づいてくる敵へ自動迎撃をする石つぶての結界を生み出していた。


 そんな実験の他にもステータスとスキルレベルの上昇やSPの取得が発生しており、スキルの習得等で少し時間を食った結果が二時間だった。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:7

  敏捷:11

  器用:7

  魔力:15

  幸運:5


 装備スキル

  【召喚術:5】【精霊魔術:2】【陰陽道:3】【ルーン魔術:1】【瞑想:2】【索敵:2】

  【鑑定:1】


 【鑑定】は必須スキルである故に迷う必要はなく、体力と敏捷が上がっているのはトレインする為に走り回ったからだろう。器用はおそらく印を結ぶための手の動きか何かで、魔力は魔法攻撃しか行っていないから順当といった感じだった。そんな風に二時間の狩りと実験を行い、インベントリにいっぱいのドロップ品を集め、椅子の上に座って本を読んでいるファーレンの下へと戻る。


 帰ってきた此方を見つけると、お帰り、と言いながらファーレンが顔を上げてくる。


「軽く様子を見てたけど、ちゃんと戦い方のキモが解っているようで何より」


「キモ?」


 そう、とファーレンが肯定しながら頷く。


「基本的に超火力と引き換えに細かい事を投げ捨てているのが私達特化型だからね。となると一匹ずつ、という風ではなく一気に集めて薙ぎ払う殲滅兵器の様な戦い方がベストになってくるんだ。だからさっきみたいに集めて戦うってのは間違っていないんだ―――まぁ、そんな戦い方が出来るのも最初の内だけだけどね。そのウチ一人じゃ厳しくなってくるだろうし」


「ほむ」


「ま、それはそれとして、今日はお疲れ様。とりあえず初級講座はこれで終わりなんだけど……流石にここでバイバイ、ってするのもね? 装備とかも見繕ってあげるから、本日の戦利品がどんな感じか確認してもいいかな?」


「あ、はい」


 ファーレンに隠す理由などない。インベントリの中身を見せると、それを見ながらファーレンはうーん、と唸る様に首を捻る。


「これだと消費した魔石に対して赤字かなぁ……」


「えっ、ホントですか」


「ホントホント。だからコスパ悪いって言ったでしょ? 魔石を八個購入するだけの余裕はあるけど、そうするとどうしても装備を購入する余裕がなくなってくるね。将来的に魔石にルーンを刻印したりする事も考えると完全に赤字だねぇ、しばらくは」


「うわぁ……」


 ファーレンが言うには今回のアイテムを全部売り払ったとして、入手できる金額は手持ちと合わせて全部3銀貨程になる。100銅貨で1銀貨に、100銀貨で1金貨という良くある解りやすい単位なのだが、問題は魔石が一つ40銅貨前後するという事だ。需要の影響で値段が前後するらしいが、今だと大体40ぐらいで、それだと魔石を十個揃えるにはやはり足りない。装備を買わなきゃいけない事も考えるとやっぱり圧倒的に足り無くなってくる。


 完全な赤字狩りである事に肩をがっくりと下ろすと、ファーレンが小さく笑って来る。


「まぁ、私も駆け出しの時はそんな風に落ち込んだものだよ……とは言え、やっぱり生徒を放り出すのも良くないな、うん。私のおさがりでいいなら多少装備品を融通してあげるけど……どうだい?」


「え、いや、それは……」


 流石に世話になりっぱなしじゃないか、と言いたい所だが、ファーレンは片手を持ち上げて言葉を制して来る。


「良いんだよ。生徒らしい生徒はほとんど来なくて暇をしているんだ。だったら偶に出来た生徒を優遇してやっても悪くはないだろう? 君は将来ここから羽ばたいて、私が見た事のないような場所にも行くんだ。そうすれば私の知らない召喚獣や召喚物、文献や記録に触れるかもしれない。それを私にちょこ、っと教えてくれればいいんだ」


 な、と言ってウィンクして来るファーレン。しかし俺がそこまで大成する保障なんて一切ないから、空手形である事とは全く変わらない。寧ろ彼自身が教官をやめて冒険者に転職したほうが遥かにいいんじゃないかとさえ思える。だけどそれを口にするのは彼の好意に対して不誠実であるのも事実だ。ここは彼の生徒として、黙って受け取るのがいいのだろう。


 そしてこの恩を返せる時に返す。それがいいだろう。


「……では、お願いします」


「良し来た! では両手を開けて―――」


「朱雀はもう勘弁してください」


 響き渡るファーレンの声を耳にしつつ、ここは良い世界だな、と空を見上げ、善意に触れながらそう思う。



                  ◆



 そこから再びファーレンの家に戻り、ファーレンがドタバタと音を鳴らしながら昔使っていた装備、というものを取り出してくる。一つ目はインバネスコート、召喚師の標準装備らしく、黒いインバネスコートは防御力に優れるだけではなく、召喚時の魔力消費を軽減してくれるらしい。その他にはもっと旅や戦闘に適した黒革のブーツ、そしてチャイナドレスの様に大きなスリットが入ったシャツだった。それに合わせる様にズボンも存在するのだが、此方はさすがに足の長さが違って入らないらしいため、無理だった。ただこのスリットシャツとブーツには文様が描かれている。これは何でも召喚補助らしいが、まだルーンに関して勉強をしていない自分には良く意味が解らない事だ。


 ともあれ、そうやって軽く装備が一新された。お古のダガーを腰に差し、何時でも刃の精霊が召喚できるようにもなり、駆け出し召喚師としては漸くまとも、といったレベルになれたらしい。それを見て、ファーレンは笑みを零す。


「ま、こんな感じかな……? 結構古いからボロボロじゃないか心配だったけど、まぁなんとかなっているようだね。次は中級講座でそれは受講に銀貨二十枚必要になってくるよ。それまでさようなら―――なんてことは言わないからね、困ったらドンドン尋ねに来るといいさ。見ての通り暇してばかりの本の虫だからね」


「いえいえ、本当にお世話になりました。とりあえずは色々と頑張りながらお金を溜めようかと思います」


「うん、応援しているよ……っと、これを渡すのを忘れてた」


 そう言って走ってファーレンは消え、そしてまたドタバタしながら戻ってくる。その手の中には一冊の本が握られており、それを此方へと手渡しながらファーレンは言う。


「ルーン魔術の担当は頭が若干アッパラパー入っているやつでね……そいつから教わるぐらいならその初心者教本で勉強した方がいいよ」


「ホントお世話になりました。ホント」


 どんどん恩が溜まっていくのは辛いなぁ、と思いつつも、それだけやる気が湧いてくる。間違いなくここで生きている実感を得ているからだろうか。いや、それでも、この頑張ろうという気持ちは決して悪くはない筈だ。そう思い、ファーレンへと深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


「うん、応援しているよ」


 受け取った本をインベントリの中へと収納しつつ、頭を上げてファーレンの家から出る。


 時間的にはそろそろ現実世界の方でも昼食を取るべき時間だ。少なくともこっちでお腹が空いていないから、現実でもそうであるとは限らない。これから自分の冒険を始める前に、軽くリアルでの腹ごしらえでもしておくべきなのだろう。


「そうと決まったら一旦ログアウトして、それから狩りとか金策とかを考えるか。あー……でも教本も読みたいんだよなぁー」


 やる事が多くて充実しているなぁ、それを実感しつつメニューを表示させ、ログアウトボタンを押した。

 少しずつ、少しずつ強くなってゆく。


 目指せ勇者バカスタイル

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