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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
一章 王都編
18/64

十八話 王都殺人事件

「弁明を聞こうか」


「違うんです……違うんです」


 騎士団詰所、そこには腕を組んで椅子に座るガルシアの姿がある。王都での事件、そしてそれに遭遇したのが自分の部下であるなら顔を出すのは当たり前の話だろう。だがその顔は笑顔が浮かんでるようで怒りの表情を見せ、腕を組んで威圧する様な気配を放っている。


「違うんです……犯人を捕まえようとしたんです。逃げられそうだったんで確実に仕留められそうな召喚術使ったらなんか何時もとは違うヒャッハー娘が来たんです。しかもその直後に下界を楽しむぜ! とか叫んでどっかへ走り去って行くし誰か契約破棄させて。チェンジお願いします。というか! 行動の選択自体は悪くなかったのぉ! アレがレギンレイヴだったら投槍して壁にでも縫い付けてくれたの! 悪いのは脳筋ヒャッハー娘なの!」


「今日から訓練は更に過酷になるぞぉ」


「ひぎぃ」



                  ◆



 ―――殺人犯は脳筋ヒャッハー雷娘の攻撃を喰らった結果、体がバラバラになって周りの家を数件巻き込みながら蒸発した。スルーズを宜しく、とかポーズを決めているがもう二度と呼ばない事は心の中で固く誓った。レギンレイヴに関して文句を言っていたことに対して物凄く謝りたい気分になった。ヴァルキリーはきっと、レギンレイヴ以外はああいいう存在ばかりなのだ。次回から強くレギンレイヴの登場を祈りながら使う事を誓う。結局は召喚しないとレベリングにはならないのだから。いや、精霊魔術との複合の様に攻撃方法があるのは解ったのだが。


 ともあれ、殺人現場から一日が経過する。


 結論から言うと、首謀者に関して得られた情報は非常に少なかった。それもそうだ、召喚した戦女神であるスルーズが渾身の一撃で一帯ごと敵を滅ぼしたため、目撃情報以外は完全に相手に関する情報がないのだ。その為こってり絞られもしたが。いや、こってり絞られる以上にその日の訓練は過酷の一言に尽きたりもしたのだが、ともあれ。王都では殺人事件が発生した。


 これならまだ、あり得る話だ。


 昼間に死んで、次の日の朝、また一人死んでいるのが確認された。


 少し尋問はされたがダイゴは事件のあった日の内に解放され、様子を見ると王都に留まり、そして自分とニグレドは休みが終わったという事で騎士団に戻った。既に犯人は殺害済みであるため、次回は発生する事はないと思われていた。


 が、発生した。


 二度も。


 事件があり、犯人を召喚術で完全に消し飛ばした次の日の朝、そして午後に一度。その時はダイゴは宿におり、そして自分もニグレドも完全に騎士団で訓練をしていたため、疑いとは無縁の状態だった。ただそうやって一気に増えた犠牲者に対して、何かをしようとする立場にはいなかった。騎士団という立場に一時的にいる自分達に、自由に動き回る権利はないのだ。


 一週間の鍛錬が始まる。


 やる事は変わらないが、内容は密度と共に増えて行く。朝はフルマラソンで始まり、そこから反復練習に入る。それから反復技術が何処まで浸み込んでいるのかを調べる為に、自分ひとりに対して多数で連携を取ってくる相手に、ひたすら逃げる様に、耐える様にスキルを運用する事を覚えて行く。追い込まれた時に咄嗟に迷わない様に、予め追い込まれた状況を再現して訓練しておくことで慣れる事を覚える。


 使う武器は勿論刃が潰れていたりするが、それでも骨は折れるし、肉は切れる。その度に回復魔法を使って治療し、ほとんど休むことなく訓練を再開する。結局できる事もやらされることもそれしかないのだ。ルーティンワーク化したそれを繰り返し、約束された一週間までまた一日が近付き、


 王都で再び殺人事件が発生する。


 三日連続、しかも今度は日に三度発生する事となった。もうこうなると完全に悪質な殺人事件となってくる。初日は現行犯でその場で殺害され、二日目は見つかっておらず、三日目も見つからない。そうやって自分達は訓練しかしない四日目、殺害現場の現行犯で犯人らしき存在が捕まる。その正体は人に扮したアンデッドであったとの事。情報は得られない為、即座に殺害が決行された。


 それで事件は終息しなかった。


 五日目、再び犠牲者が出る。ここまで来ると王都の下層、及び中層で警邏する警備の数が増える。王国の騎士が警邏する時間も増え、裏路地も完全に見張りの対象として絞られる。それは勿論裏町にも及ぶらしく、裏町にも派遣される騎士が出てくる。ただ、それに訓練中のひよっこは関係ない。まだまだ平団員にも技量で劣るものが出来る事と言えば、訓練しかない。自分が少数と訓練をしている間、或いは食堂で、他の同僚たちが働いているのを聞く。また出現した、襲撃犯は倒した、だけど真犯人が見つからない。黒幕がいる筈だ。


 そんな言葉を聞き、力になりたくても―――どうにもならない。


 そんな風に悶々としながら訓練する日々が結局、一週間続いてしまう。



                  ◆



「―――さて、お疲れ様。たったの二週間だったが、これで晴れて自由だ。鍛錬の仕方は叩き込んだし、どこへ出しても不安はないだろう。ほら、スキルレベルもいくつか50に届いたんだろ? そんな不景気な面構えをせずに、少しは喜んだ表情を浮かべろよ。地獄から抜けられたんだろ? ほら、どんな感じに仕上がったのかを見せてみろよ」


 騎士団の訓練所、ガルシアの私室でそんな言葉をガルシアに投げられる。今の自分の恰好はあの騎士団の制服ではない。それは記念に貰ってインベントリに入っている。今自分はあの大きなスリットのある長いシャツにインバネスコート等の何時もの召喚師ルック。冒険者としての活動の服装であるため、これに袖を通すのは一週間ぶりであり、それは騎士団からの解放でもある事を証明していた。しかし、それを前に心が晴れる事はなかった。寧ろ今まで以上にもやもやしていたままだ。ガルシアに促されるまま、ステータス画面をチェックする。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:52

  体力:53

  敏捷:46

  器用:39

  魔力:47

  幸運:24


 装備スキル

  【召喚術:45】【精霊魔術:45】【陰陽道:42】【ルーン魔術:41】【仙術:50】

  【マントラ:50】【錬金術:35】【瞑想:40】【索敵:31】【鑑定:31】

  【投げ:50】【格闘:50】【身体強化:50】【見切り:48】【召喚師の心得:32】


 SP:36


 間違いなくだいぶ上がったという内容だった。。スキル習得画面を確認すると、カンストしたスキルを上位のスキルと入れ替えたりできる様になったりしている。SPもこの二週間で大分たまり、ステータスも騎士団の一員として最低限のレベルに入った気もする。これから更に実力を伸ばしたければ間違いなく上位スキルを取得するべきなのだが、スキルには”統合、複合”というものがあって、複数のスキルをカンストする事で取得できるスキルがあるらしく、まだカンストしていないスキルも多いため、スキルの入れ替えは見送っている。それにおそらく、普通にスキルトレーニングを行うよりは圧倒的に遅れているだろう、これは。それ以上に意味のある訓練だったのだが。


 ともあれ、今はそれが重要なのではないのだ。


 重要なのは、巷の殺人事件に関してだ。


「なんか訓練終了したのはいいんですけど、事件の発見者でありながら何もしていない上に解決していないってのが物凄い心残りで……」


「気にするな……と言っても無理か。まぁ、数日中にどうにかなるだろうが、それまでに王都を出るか、あまり街の方を歩き回らないか、一応気を付けておいた方がいいぞ。撃退できる力は持っていてもな。取りえずこの二週間の給料は貰ったか? ほとんど働いていない様な気がしても気にするな。そして困ったことが何時でも頼れ」


 ガルシアのそんな言葉を受けつつ、騎士団を抜けてしまった。


 何時の間にか、半分ぼーっとした表情で訓練場前に立っている事に気が付いた。我に返ると何時の間にか横にニグレドが存在し、そして視線を合わせる。お互いに視線を合わせて首を傾げる。


「……なんつーか、ホント短く感じたなぁ」


「うん」


 ニグレドからは肯定の言葉が返ってくる。楽しかったが、それでもやはりもやもやとする気分が残っている。事件の管轄が王国騎士団となると、もはや自分が口出しできるようなことではない。ここからは移動先を考えながら再びスキルトレーニング、主要スキルを全て50レベルにしてしまう事を目標にしようと、心の中で考えておく。ともあれ、何もできないのは若干もやもやする、そんな終わり方だったと思う。


 とりあえず、移動を開始する。なんでもダイゴはまだ王都にいるのをフレンドメールを通して知っている。だから王都から出る前にまずはダイゴに会いに行こうと計画する。ロープウェイに乗って上層から一気に下層へと移動し、そしてそこで王都の街並みを確認する。


 一週間前までは人で溢れていた道路も、今ではその数を多く減らしている。所々騎士団の団員がパトロール姿が見え、明らかに連続殺人犯を警戒しているのが見える。何時もよりも少し暗い雰囲気の王都に溜息を零しながら、大通り沿いの宿を発見する。ここにダイゴが泊まっているのは確認済みなので遠慮する事無く宿の扉を開けて中に入ると、ロビーで煙管を片手に優雅な時間を過ごしているダイゴの姿を見つけた。やはり煙管を持っていたか、なんて妙な納得をしつつダイゴに声をかけようとすると、


「お! おっつー! それともお勤めご苦労さん? しかし騎士団に所属できるってのもすげぇよな。俺はそんな事全く考えなかったわ。んじゃ全員そろったんだし行こうぜー!」


 そう言って近づいて来たダイゴは自分とニグレドの肩を強く叩いて、そのまま宿の外へと押し出す様に出て行く。そのまま肩を抱く様に間に割り込み、笑顔を見せるが、


「何のことだよ」


「あぁ? 決まってんじゃねぇか―――俺達で黒幕見つけるんだよ。イベントはやらにゃあ損だろ?」



                  ◆



「いいか、よく考えろよ? 俺達が相手をしたのはアンデッド。だけど多分普通のアンデッドじゃねぇ。俺の予想が正しければ【召喚術】と何らかのスキルを組み合わせる事によって使役している特化型召喚師の召喚獣だ。あ? この場合召喚獣でいいんだっけ? とりあえず、そんな感じな。だから消されても痛くねぇ、神出鬼没、んで黒幕がバレねぇって事だ、隠れて召喚して、離れた場所で暴れさせればバレねぇからな」


「つまり?」


「お前の出番だよ馬鹿野郎。まぁ、あくまでも俺がつけたアタリなんだけどな? だけどなんつーか、割と雑ってか? 命令されたことしかしてねぇ? 多分そんな感覚がするからそうだって思ったんだけど、専門家としてはそこらへんどうよ」


「いや、どうって言われても……」


 ダイゴは事件の黒幕を見つけ出す事に対して非常に乗り気だった。この一週間、トレーニングを続けつつ情報の収集も行っていたらしく、騎士団でひたすら対人訓練を受けている間、事件に関するヒントなどを集めていたらしい。なんともプレイヤーらしい行動だった。いや、これが本来のプレイヤーとしての遊び方なのかもしれない。自分とニグレドのやり方が少しおかしいのだと思う。ともあれ、


「それに犯人に関しては大体アタリを付けてきた」


「ほー……」


「あ、信用してねぇな? ―――今は王国と帝国が緊張状態だってのは知ってるな? 火種さえありゃあ爆発して戦争になってもおかしくない状況なんだぜ、今。王国と帝国がぶつかってないのは主に二つの理由がある。まず最初の理由が王国側にある。つっても、王国の国王が外交通して戦争を止めてるって話な。王国は俺達的な一般ファンタジーの”良い国”って感じのやつで、戦争に反対してるんだよ。なんでも”人と人が争えばモンスターに殺される”って理由で。超まともだろ? んで二つ目の理由な」


 これは、


「北の聖国が原因だってよ。この聖国は基本的になんか宗教ベースの国らしいんだけど、昔からずっと帝国も王国も睨んでいるらしくて、王国と帝国がぶつかれば即座に割り込んでくるって話だ。んで漁夫の利を狙うか、あるいは仲介って形で入り込んで侵食して来るだってよ。まぁ、そこらへんは良く解ったもんじゃねぇ。だけど解っていることが二つあるんだなぁ、これが」


 それはつまり、


「戦争をしたいって馬鹿は二つある。帝国と聖国って事だ。んで普通の殺人事件ならそれでまだいいけど、この時期にしかも王都で、連続殺人事件を起こすなんて明らかに煽ってるってしか考えられないだろ? 緊張状態ってのはストレスの溜まりやすい抑圧された状態なんだから。だったらそこでそれが決壊する様なイベントを用意すりゃあブチギレて勢いのままに戦争へ……って感じに行けそうなわけだがどうよ。けっこーいい考えしてね?」


「っつーことはお前の予想だと帝国、或いは聖国の人間が騒ぎを起こしているって事か」


「おう」


 脳内ヒャッハーにしてはまともな情報、そして纏め方だった。確かにそう考えると色々と辻褄の合う部分はある。戦争を吹っ掛けている帝国であればまず間違いなく戦争に発展させられるから有利、そして聖国であれば帝国と王国を衝突させ、疲弊させる事が出来る。人の不安と悪感情を煽る事によって戦争の開戦を早める、嫌らしいが確かに通じる方法だ。


 実際、この数日はずっともやもやしていて、フラストレーションが溜まり気味だった。ダイゴのおかげで大分頭は冷静になっているが、それでも他の者達はそうじゃないだろう。しかしこの男、馬鹿の様で仕事はちゃんとやっている。こういう情報を一体どこから入手してきたのかが非常に気になる。だが、疑問はある。


「……騎士団が……同じことを考えない……訳がない」


「そうだよな」


 ここで考えられるようなことを、騎士団が思いつけない訳がない。向こうの方が此方よりも遥かにこの事件に対しては真剣だろうに、なのにこの程度の事を思いつかない訳がないだろうとは思う。だけどそれはダイゴは頭を横に振って否定する。


「いいや、全部がそうとは限らねぇ。少なくとも相手がネクロマンサーだろう、って程度にしか認識は騎士団にはねぇだろ。特化型召喚師なんてレアな存在は多分選択肢から消えてる。んで既にWIKIやスレで普通の【ネクロマンシー】と【召喚術】と組み合わせた場合の違いに関しては調べてきたぜ。やっぱ【召喚術】と組み合わせた場合の方が知能は上がらなくても全体的に強くなる―――それなら俺達三人を同時に相手してもソッコで潰れなかった理由は納得できるだろ?」


「犯人は……帝国か……聖国の……特化型召喚師」


「と、いうのが俺の推理! 我がクサレ友人であるフォウルくんをみりゃあわかるけど、特化型召喚師ってのは割と長い時間召喚させられるし、召喚物のステも割と強力だわ。数がすくねぇのは基本的にスキルの育成がクッソ面倒で、枠を取りすぎる。後ついでにスキルの上位化とかで先が見えなさすぎるってのが問題だ。組み合わせられるバリエが豊富だかんな! そうやった知名度の裏をかいた相手の人選だと見た!」


「筋は通ってる」


「通っているだけに恐ろしいなぁ」


 調査すれば黒幕を見つけられそう―――なんて事を考えられそうなだけに厄介だった。ダイゴの表情を見れば、完全に黒幕を探しに行く気が満々であるのは良く解る、それはいいが、


「お前、それをどうやって見つけ出すんだよ」


「えっ? お前らコネとかあるだろ?」


 無言でニグレドがダイゴの腹に腹パンをし始める。それを喰らい、よろめきながらご褒美です、と言いつつ殴られ続ける。その奇妙な光景を眺めつつ、どうするべきか軽く悩む。いや、余り悩む必要はないのかもしれない。何だかんだで一番最初に事件に遭遇してしまったものとして、どうにかしたいとは考えていたのだ。だとしたら行動に移すべきなのだろう。となると、情報を得られそうな場所に行くしかない。それに関しては一か所知っている。


「……グラウさんを頼ろう」


「あの人……嫌い」


 ニグレドがそんな事を言う。いや、理由は解っているのだ。ただ盗賊ギルドなんて行った事のない場所よりも、そして居場所を知らないリーザよりも、現状居場所を知っていてこういう事に詳しそうなのはグラウぐらいだ。だったらここは軽く、利用しておいた方がいいんじゃないだろうかと思う。助けてくれるかどうかは別として、だがダイゴは眼を輝かせている。完全にやる気満々であった。


 その姿を見て、軽く溜息を吐く。


「まぁ、ダメ元で試しますか」



                  ◆



 裏町は表通りよりも多少活気がある。その理由は被害が、殺人現場の多くが大通り付近の路地裏で発生していたことからかもしれない。それとも顔に傷をつけていたり、道に唾を吐いて歩く彼らは殺人犯程度では死なない自信や自負を備えていたからかもしれない。とりあえず、裏町へと到着すると、一回は訪れたあの和風と中華風の様式を混ぜた仙人の屋敷へと向かう。門は開いており、自由には入れる様になっているらしい。少し遠慮しながら門をくぐって、屋敷に通じる扉を開けて玄関に入る。


 そこには前回同様、見張りの様な男がいる。


「……あぁ、お嬢と一緒にいらっしゃった人達じゃねぇですか。親分に何か御用で」


「えーと、ちょっとグラウさんに聞きたい事があるんですけど、今時間ありますか? というか会っても大丈夫ですか?」


「親分からはそろそろ来るであろうから、来たら自由に通せと言われておりやす。どうぞおあがりくだせぇ」


 一瞬、言葉を失くす。だがあの竜人、グラウは遥かに長い時を生きてきているらしいのだ。だとしたら自分達が理解できない様な法則や術を知っているのだろう。たぶん、あまり驚いてはいけないのだ。軽く呼吸を整えたら感謝し、玄関へと上がる。それに続くダイゴが小声で話しかけてくる。


「……ヤーさん?」


「それ系」


「……」


 とたん、ダイゴが黙る。モンスターや殺人犯よりもこっちの方が怖いらしい。若干アンバランスな馬鹿だなぁ、と思いつつ前と同じように進み、前回同様賭けごとに乗じている下っ端に挨拶をし、そしてグラウのいる部屋へと通してもらう。


 前回同様、そこは煙で溢れかえる部屋だった。ノータイムで風の精霊を召喚し、それで煙を吹き飛ばしてそしてソファの上で寝転がる竜人の仙人の姿を発見する。今日は前回とは違って白い男物のチャイナドレス姿であり、煙管を吹かしながら此方へと視線を向け、半分夢見心地の様な様子で笑みを浮かべる。


「どうもグラウさん、紹介ありがとうございます。おかげで騎士団で死ぬほど辛い目にあってきました」


「おーぉ、なんよ随分良い空気吸っとったらしいの。坊主から苦情きたわ、繋いでおけんのに有望そうなのを送り込んでくるなっと。あの坊主はぁ、昔から生意気だったかんの。少しは苦い思いすればええよ。苦労しているようで今日もクスリがまずいのぉ!」


 元上司をからかう為だけに紹介をしたのだろうか。いや、きっとこの男には善意というものが存在したに違いない。いや、あって欲しい。あったらいいなぁ、程度には思っておく。ともあれ、グラウはなんだか今日も機嫌が良さそうに思える。この調子なら聞きだせるだろうか、そんな事を思っていると、ダイゴへとグラウの視線が向けられる。


「んで、こっちが新しい坊主っちゅーわけか。これもまた面白そうな童じゃがの、勝手に手をだしよったらお嬢が怒るのが辛いんだなぁ。まぁええわ。三人そろって面白そうでお似合いじゃと言っておくわ。この調子でもっと面白いのを集めてくれや」


「お、おう、……どうも?」


 流石のダイゴでも、この独特のペースには完全に飲まれていた。この男とまともに話す技術を持っているのはやはり、リーザぐらいなのだろうか。しかし聞きたい事があるのだ、話が逸れる前に聞きださなくてはならない。元々此方を待っていたような感じもあるのだし。これ以上雰囲気にのまれる前に、さっさと用件を切り出してしまおう。


「えーと……巷で噂の殺人事件ですけど、ある程度容疑者の方向性を絞ったので、それに関して調べたいんです。なので今、王都にいる特化型召喚師で帝国、あるいは聖国出身の者、そういう人を知りませんかね?」


「ええよ、調べちゃるからまた明日ここへ来るとええでよな」


「あ……はい、どうもなんか世話になっているので本当にありがとうございます」


「きひひひ……引退した爺の道楽よ。こまかぁ事は気にせんでええでよ。な、細かい事を気にしてたら流れを見逃すっちゅーもんよ。ほれ、帰った帰った。また明日取りに来るがええよ」


 そう言ってグラウは再び煙管を吹かし始める。本当に独特の世界観を持っているというか、完全に自分の世界観に閉じこもっているというか、何というか不思議な人物だった。ただし、嫌悪感はない。これが仙人の特徴なのだろうか、煙の様に捕まえがたく、それでいて真実が見えてこない。ただ、それを通してみたいものは見れる。そんな感じだ。


 ともあれ、退室を促されてしまったのだから、さっさと去らないと後が怖い。ずっと鼻を押さえているニグレドを持ち上げて脇に抱え、入口へと向かって歩き始める。


 完全に敷地の外へと出るまで、ずっと背中にグラウの視線が突き刺さっていたような気がする。



                  ◆



「なんつーか……俺、あの兄さん苦手だわ」


「嫌い」


「俺はあんまり嫌いじゃないけどなぁ……」


 二人同時にマジかよ、という正気を疑うような表情を向けられる。そんな視線を向けられるのは非常に心外なのだが。確かにあのグラウの態度はなんというか、気味が悪いというか若干見下しているとも取れるが、結構面白いとも思う。まぁ、それに関してはホント人それぞれって感じだ。それにグラウのおかげで情報が手に入りそうなのは事実なのだから。


 とりあえず、


「これからどうする? 情報収集? 現場を見る?」


「この一週間の間に暇だからそれは全部終わらせておいたぜ。断言するけどこれ以上何も新しい発見はないと思うぜ。そこらへんじっくりやってたから」


「……にゃーん」


「ケーキは駄目です」


 暇な時に毎度ケーキを食べたら出費が嵩む上に太りやすいのだから駄目に決まっている。今のこの可愛いニグレドの姿が食生活のせいで崩れてしまったら一体どうしろというのだ。このゲーム、体の変化とかは普通に起きるのだから、許せないぞ。


「がびーん」


「リアクションが古いなぁ……まぁいいや。時間が空いているってならやりたい事があるんだ。ちと付き合ってくれよフォウルくぅーん!」


 馴れ馴れしく近づいて肩を抱いてくる友人に鬱陶しさを感じつつ、何だよそれ、と聞くと、


「PvP」


 プレイヤー同士の対戦、という答えが返って来た。

 ヤクギメ竜人爺さん再び。そしてPvPのお誘い。ひたすら修行の描写なんて誰が読んでも辛いだけなのでそこらへんは若干加速なのです。


 基本的に騎士団の訓練はスキルやステータスではなく、戦いで必要な連携とか技術を鍛えるタイプなので、プレイヤー達のスキルやステータスのレベリングと比べると若干効率が落ちるかも。

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