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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
12/64

十二話 王国の中心

  【そしてその時】情報提供スレその12【私は見た……!】


 ここはEndless Sphere Onlineの目撃情報を報告スレです。

 内容は戦闘、生産、イベント、面白系と種類を問いません。

 ネタがスベっても泣かない事。

 最近GMがネタを求めてスレに出没気味なので見つけたら巣に戻しましょう。



221.名前:名無しの冒険者

    GM発見。どうやら本日はランケル噴水広場で歓迎の舞の模様


222.名前:名無しの冒険者

    あぁ、こっちでも見た。今日は三色でカラフルに決めてたな……


223.名前:名無しの冒険者

    PLが自重してない感あるけど、一番自重してないのGMだよな


224.名前:名無しの冒険者

    多分エンフィー最強のエンジョイ勢だろうなぁ、アレ


225.名前:GMごろー

    エンジョイせずに何がゲームさっ!


226.名前:名無しの冒険者

    はーい、GMの巣はあちらですよ-


227.名前:名無しの冒険者

    出口はあちらです


228.名前:名無しの冒険者

    まぁ、間違いなくエンジョイはしてるよな


229.名前:名無しの冒険者

    噂するからご本人降臨してるじゃねーか!


230.名前:名無しの冒険者

    GMごろーは一番活発だよなぁ


231.名前:GMごろー

    (´・ω・`)歓迎されてない様なので街の方で舞を続けますね


232.名前:名無しの冒険者

    仕事しろよwwww


234.名前:名無しの冒険者

    踊る以外に仕事がねぇのかよww


235.名前:名無しの冒険者

    昔のMMOでGMが降臨するのとかあったけど

    ほんとそのテンションのままでやってくるな……


236.名前:名無しの冒険者

    GM射出するイベントとか楽しかったなぁ


236.名前:名無しの冒険者

    召喚獣に白髪巨乳が出てくるのか(困惑


237.名前:名無しの冒険者

    8スレ目の>>156の奴?


238.名前:名無しの冒険者

    >>237あ、もう出てたのか……


239.名前:名無しの冒険者

    白髪巨乳を召喚したサマナーの話だっけ?

    正直クッソ羨ましいから早くスキル構成知りたいんだけど


240.名前:名無しの冒険者

    アレが羨ましくて召喚師始めたけど色々だるい


241.名前:名無しの冒険者

    そのサマナーだけどティニアの近くで白髪女神様と殺しあってた


242.名前:名無しの冒険者

    召喚獣と殺し合うのか……


243.名前:名無しの冒険者

    確かに白髪巨乳は素晴らしい、素晴らしいが!

    やっぱりロリなんだよなぁ……


244.名前:名無しの冒険者

    ロリ系の召喚獣ってか召喚人? の報告もあるけどな


245.名前:名無しの冒険者

    サマナー始まったな……!


246.名前:名無しの冒険者

    ここに似た様な理由でサマナーを始め、

    ずっと召喚できない事を知って涙を流している私がいます


247.名前:名無しの冒険者

    結論から言うと帝国に行って奴隷買った方が早いんだよなぁ

    この世界って基本的に可愛いの多いし



                  ◆



 朝、ログインしてダイゴから話題に上がっていたとメールが届いたから、軽く情報提供スレを見てきたが、ほとんど雑談所の様なノリで軽く流れていた。そのまま軽く他のスレも確かめるが、やっぱり所々で自分の存在が確認できる―――まぁ、レギンレイヴの様なヴァルキリーを召喚すれば嫌でも注目はされるよな、とは思う。ホロウィンドウを使って外部のサイトへアクセスする様に、名前:名無しの冒険者を見ていたが、やがてそれに飽きて、ホロウィンドウを投げ捨てる様に消す。


 そうやって、馬車の後ろから両足をぶら下げる様に、外の風景を眺めている。


 現在の居場所は鉱山と製鉄の街であるティニア、そして”王都アルディア”の間の街道になる。馬車の後ろから足を下ろす様に座っている自分の隣にはやはり、ニグレドの姿がある。自由にすればいいのに、とは思っているが半ば固定パーティーの様に彼女は自分についてくる。その事に関しては諦めている、というよりは認めているという感覚が強い。特に相談や交渉をしている訳ではないが、ここ数日ずっと彼女を一緒に行動している為、こうやって一緒に行動するのがなんとなく、馴染む気がする。


 ともあれ、目標であったレベル30によりにもよって【ルーン魔術】が到達してしまった。本来は【召喚術】をレベル30にしたかったが、それでも王都アルヒアに対する好奇心の方が勝ってしまった為、迷う事無く早朝から王都へと向かう事を主張した。その主張が通り今、こんな風にニグレドと並んで王都へと向かう馬車の中にいる。


「あぁ、癒されるー……」


「……」


「い、いや、自業自得だって思うかもしれないけどさぁ! でも本当に辛かったんだよ昨日はさぁ! 拳が砕けた状態で殴るってどんだけ痛いと思うんだよ。まぁ、殴る以上殴り返される、或いはそれに痛みが付随するのは常識の話なんだけどね」


「ん……フォウル……ちょっと変わった」


「そうか?」


 その言葉に対してニグレドは頷く。俺が変わったという。確かにそれに対する自覚はある。AIに対して人権を認める、という感じではないが、この世界で生きる存在に対しては”一個の生命体”として対等である事を認識している。そういう所から来る認識の変化、性格の変化はあるかもしれない。なんというか、もっともっと本気で、もっと全力はそうじゃないだろう、というべきか、もやもやして解りにくいが、自分の本気はまだこんなもんじゃないという感覚がある。故に頑張れる。まだ終わらない。そんな感じだ。言葉として表現するのは難しい。だけど、


「嫌いじゃない」


「そっか、嫌いじゃないか」


「うん。パパは……ここ、凄く……くろうして……情熱を注いで……そして新たな世界だって……言ってた。だから……本気で向き合う……フォウルの姿は……見ていて嬉しいし……気持ちがいい」


 あぁ、確かにそれは気持ちの良いものだろう。そして同時に、ついて来る理由も大体解ってくる。それ以上に関しては考えたりしない方がいいだろう……何か、今のこの関係を壊してしまうような気がするから。ぬるま湯に甘えているのはどうなのだろうか、と思う。


「ま、まあアレよ! 楽しけりゃあいいのよ、楽しけりゃあ! それよりも王都に到着してから何をするかを決めようぜ。やりたい事は色々とあるけど、ぶっちゃけそこまで細かくスケジュールとかリストとか作ってないから、向こうに到着してからも結構行き当たりばったりな流れになると思うんだけど」


「ふぅ……」


「露骨に溜息をつかれるなんてレアなアクションを……!」


「仕方がないから……説明する」


「お願いします」


 そして、ニグレドは説明し始める。



                  ◆



 ―――現状、プレイヤーが開始地点として存在するのは決して一か所ではないらしく、複数に分かれているらしい。一つが今、自分のいるアルディア王国。西のケルスト帝国。北のアーライ聖国。この三つがプレイヤー達の開始地点であり、キャラクター作成時にランダムで開始地点は決定されるらしい。それを考えると友人と同じ国でスタートが出来たのは相当運が良い方だろう。ともあれ、この三国中、二国は絶賛緊張状態にある。


 それは即ちアルディア王国とケルスト帝国だ。


 原因となったのはアルディアとケルストの国境での出来事であり、国境沿いの村が一つ山賊によって略奪されたことが始まりである。ケルスト側にあったその村を略奪したその山賊はアルディア側へと逃げたのだが、ケルスト側の兵士たちはこれを国境を超えて追撃した。それだけであれば後日謝ったりすれば多少どうにかなったらしいが、ケルストはその行動に対して一切の謝罪を送るどころか山賊をアルディアの手の者であったと糾弾した。その結果、アルディアとケルストの関係は一気に悪化した。


 言ってしまえば良くある国家間のゴタゴタだが、ここで問題になるのはケルスト帝国がガチガチの侵略国家であり、そしてその国家としての成り立ちに関して、多くの侵略行為があったという事だった。そして勿論、いちゃもんを叩きつけて戦争に発展させ、そっから侵略なんて良くある手段である。そこまで考える事ができれば、解りやすい話―――アルディア側が疑い出すのだ、これは侵略戦争を吹っ掛ける為にケルスト側で仕込んだ茶番ではないかと。


 ありえない話ではないだけに、アルディアのケルストに対する悪感情が国民全体で上がって行く。こんな風に国全体で”悪”に対する流れが出来上がってしまうと、緊張感は嫌でも高まってしまう。こうなれば戦争へは秒読みの段階になってくる。外交や政治に関してはそこまで詳しい訳ではないが、交渉で抑え込めるにしたって限界はあるらしい。


 何より戦争の準備が進められているという最大の理由は、ティニアの活気が証拠らしい。ティニアで大量の武具が作成されているのは軍隊の為である、というのがニグレドの見解だった。今迄は、ランケルとティニアは冒険者の色の濃い街であった。それ故に国家の問題が見えにくい部分もあった。だけど王都は国の中枢となる。そこへ到着すれば違う、といった。


「確実に……募兵している。騎士団試験も……しているだろうし……きっと、士官も……目指せる」


「これはまた夢のある話だな」


 士官にしろ、騎士団にしろ、それは自分がそれにふさわしいだけの実力を証明する必要のある事だ。現状、自分にそんな力があるとは思えない。レギンレイヴをぶっぱしたとしても、それは間違いなく自分の実力ではない。やはり、全体的に実力を押し上げる必要が出てくる。ニグレドの予想では、ほぼ確実に戦争に発展すると考えている。軍需用に乗っかる様に商売すれば儲けられそうだし、兵士として活躍してもいいし、地位を築くのも悪くはない。


 ただ、やはり力だ。男としては力をつけずに何がある。


 それにやはり、欲しいのだ。


 確固たる信念が。まだまだ、心意気が、自分の強さを支える精神とも言えるものが足りていない様な気がする。故にそれを見つける事を目標としつつ、更に力を求めて鍛える―――それを目標としようと思う。ただ、そこまで焦るものでもない。焦りすぎて失敗したら滑稽なのだから、熱くなりつつも常に冷静に判断する様にしなくてはならない。つまりは何時も通り、どこまでも何時も通り判断するだけだ。


「しかし戦争、戦争か……間違いなく参加すればいい経験にはなりそうだけど―――人がいっぱい死ぬんだよなぁ、そうなると。あんましいい気分じゃねぇな」


「止まって欲しいね」


 そうだな、とニグレドに応える。実際、戦争には起こって欲しくない気持ちがあるが―――同時に、これは最高の鍛錬の場である、と告げている自分もある。悲しい事だ。おそらくは戦争という存在そのものを経験した事がないから、そんな事を考えられるのだろうと思う。いや、それこそゲームと現実の混同ではないのだろうか。まぁ、ここら辺は寧ろ”深く考えてはならない”部類に入る様な気もする。軽く頭を横に振り払い、浮かび上がる考えをとりあえず追い出す。


「まぁ、戦争が始まったなら始まったで、始まらないなら始まらないでそういう風に動き回ればいいんさ。基本的にはスキルや持っている技術を鍛える方向性で進むわ。とりあえずスキルを全体的に30レベルにする方向性かな」


「ん、私も頑張る」


 この反応、やっぱ脈あるんじゃないのか? と疑ってしまうのが男の悲しい性、というものなんだろう、きっと。



                  ◆



 ―――ぶっちゃけてしまえば、ティニアから王都アルディアまでの距離はかなり遠い。それも馬車に乗って半日程度では済まないレベルで。馬車に乗っていたとしても二日かかるというレベルの距離がティニアからアルディアまではあり、もし徒歩を選んだとしても五日はかかる。それぐらいの距離がそこにはある。故に馬車を利用しても三日短縮、二日程の長旅になる。これに関しては純粋に驚くしかないだろう。普通、ゲームと言っても一日もあれば世界の端から端まで移動できるように設計されているものだ。


 だが今、自分が経験する世界はリアルと変わらない大きさ、広さ、長さが経験できている。本当に旅行しているような感覚がそこにはあった。ただそれはそれとして、丸二日も何もしないのは暇でしかない為、馬車の道中は可能な限り時間を潰す様にスキルの鍛錬に時間を使う。馬車が動いている間は派手な事は出来ないが、幸い魔術や召喚術であれば一歩も動くことなく、放つだけでトレーニングをする事が出来るのだ。レベル30の大台に乗りそうなスキルは既にいくつか存在する、だったらこのほかに何もする事のない、集中できる時間を有効活用するほかはない。馬車の後ろから足を下ろした状態をデフォルトに、なにも存在しない、後ろの空間へと目掛けて召喚術を何度も発動させる。


 存在を呼び寄せるタイプではなく、クールタイムが比較的短い一撃爆撃型の召喚術、それらを短い間隔で使用する事でスキルトレーニングとして経験値を溜めこんで行く。勿論、そこにはぶつけるべき敵が存在しない為、本当に戦闘をするのよりは効率が落ちる事は否めない。それでも何もしないという選択肢は存在しない。召喚術を放ったり、偶には呼び寄せた召喚獣と時間を潰したり、そうやって低めだったスキルを上げようとしたり四苦八苦する。


 勿論、馬車はずっと動いている訳ではない。夜等になれば止まり、馬の為に休息を取ったりする。そういう時は馬車から降り、肉体関係のスキルレベルを上げる為にニグレドという相手に対して模擬戦を挑む。此方が格闘のみに対してニグレドも短剣を使用しない格闘戦。とはいえ、此方は魔術や召喚術の利用が出来ない―――万が一発動してしまえば殺してしまうかもしれない為に。


 負け越してしまったが、それもまた経験。投げられ、殴り飛ばされ、土に転ぶ度に少しずつ、受けたものが経験として体に染みつき、血肉を形成して行くのが感覚として理解できた。故に文句もなく、逆に結構楽しんで戦いに打ち込む事が出来た。本来の自分はここまで好戦的だっただろうか。そんな考えが頭をよぎるが、多少脳のリミッターが外れる様な事件はあったのだ。それを考えればしょうがない、で済ませられるかもしれない。


 そんな風に、二日間の馬車旅は暇な様で、意外と満ち足りた時間だった。


 新幹線やタクシー、飛行機に乗って旅行や移動する回数が圧倒的に増えている中で、馬車の様にそこまで早くはない、周りの景色をゆっくり鑑賞しながら出来る旅とは現実ではほぼ経験の出来ないものだ。トレーニングの合間に街道から視線を外せば、その横を雄大な山脈が雲を突き抜け聳えているのが見える。なんでもそれは霊峰らしく、恐ろしい程に強いモンスターが生息しているとの事。その内、強くなったら挑戦するのも悪くはないかもしれない。そんな事を眺めながらも、馬車の旅は続く。


 そうやって鍛えたり、景色を眺めたりしている間に、時は過ぎ去って行く。



                  ◆



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:26

  体力:28

  敏捷:28

  器用:30

  魔力:37

  幸運:18


 装備スキル

  【召喚術:31】【精霊魔術:30】【陰陽道:28】【ルーン魔術:30】【仙術:28】

  【マントラ:30】【錬金術:18】【瞑想:23】【索敵:22】【鑑定:22】

  【投げ:25】【格闘:28】【身体強化:26】【見切り:27】【召喚師の心得:20】


 SP:18


 二日間の鍛錬の成果として考える、間違いなく召喚周りに関しては不満の残る数値だ。上昇値が低い。それと比べると肉体関係に関してはいい感じに上昇したのではないかと思えるものがある。最終的には高速で動くニグレドを掴んで叩きつける事も一回だけだが成功したのだ。成果としては良い方だろう。それに王都での活動レベルである30に何個かのスキルが到達している。ただやはり、二日も時間があって、それでモンスターと戦う事を考慮すれば間違いなく召喚術辺りは35まで行けた気がする。そう考えると惜しいと思わざるを得ない。


 しかしそんな不満を吹き飛ばす様な光景が馬車からは見えた。


「……すっげぇ」


「うん……凄い」


 王都アルディア―――それはトレーニングの不満さえも吹き飛ばす程の偉容を誇る街だった。


 簡単に説明すれば、王都アルディアは形としては巨大な三角形、あるいはコーンだと想像すればいい。コーンの頂点部分が王城となっており、そしてその少し下、上層には明らかに高級そうな物件が見える事から、おそらくは貴族街なのだろう。街の各所には上り下りを手助けする様なロープウェイ風の乗り物が稼働しているのが見えるし、下層は下層で凄まじい数の家とかが見える。とにかく凄まじい。凄まじいという言葉に尽きる。まだ王都アルディアの全体を馬車の中から捉えただけだが、それでもその発展具合と、そしてその広さに関しては舌を巻くしかなかった。ランケルやティニアと比べるのもおこがましい。


 現実世界で言えばニューヨークの様な大都市がそこにはあった。ざっと見るだけでも、ティニアやランケルの数倍の大きさであるように見える。これは間違い無く一日で全てを回る事は出来ないだろうと確信する。それだけに、王都アルディアの姿には胸に来るものがあった。これだけの大きな街には相応の未知が満ちているのだろう。それをこれから全力で味わい尽くすと考えると、興奮して来る。


「ま、まず最初は拠点確保だな。そっからガイドを雇って、軽く王都内を案内してもらったりするか」


「ん……私たちだけだと……多分迷う」


「それで正解ですよお二方。王都アルディアは王国一の大都市ですからね! アルガン王によって統治されているこの国の中でも最も成長が凄まじい都市です。この調子だと街の周りをもっと広げるかもしれませんなぁ」


 まだ拡張を続けている、という驚異の事実に驚きを浮かべる。そうなると益々この王都が気になってくる。馬車が近づいて行くにつれドンドンと大きくなってゆく王都の姿を視界に捉えながら、これからやる事で気分は高揚していた。早く、到着はまだか、そんな事を思いながら、馬車がゆっくりと王都の前まで到着するのを待つ。


 城壁と門によって入口は完全に固められており、ちゃんと検問をしているのか門番が荷台や入る者をチェックし、管理していた。流石に先の街とは警戒が違うな、と思いつつ王都へと入るのにチェックでまた時間を消費しつつ、特にトラブルが起きる事もなく入る事が出来た。


 門を通ったところで馬車から降り、ここまで運んでもらったことに対して銀貨を三枚払い、門から続く中央大通りへと視線を向ける。大量の人で溢れる街中を人は商売をしようと走り回っていたり、冒険者が談笑しながら店へと向かっていたり、やっている事はランケルと同じだったが、その規模が桁違いに違う。これだけ人がいて詰まったりしないのかとも思うが、そんな事は一切なく、人は流れて行く。本当に、一体どこまでこの世界は作り込まれているのだろうか。感心ばかりするしかない。


 ともあれ、呆けている間に時間は過ぎ去って行く。それは実にもったいない事だ。このまま時間を浪費はしたくない為に、ぼうっと王都を眺めるニグレドの腰を抱き、その姿を横抱きに持ち上げて歩き始める。脇の下に抱える様な形だが、借りてきた猫の様にニグレドは大人しい。その眼は依然、ぼうっと王都の姿を感嘆と共に眺めている様に見える。


「とりあえず宿は……」


 少し上へと移動した方がやはり、値は張るけどいい部屋になりそうだな、とこの街の性質を考えて判断する。上へ行けば行くほど防衛力は上がり、そして景色の良さも上がるという点がこの形の都市にはある。だから基本、高地の方が宿代が高くなるのは当たり前だ。しかし、割と金銭的には余裕がある。大通りの正面にはロープウェイの駅の様な建物が存在する。その前には料金説明の看板が置いてある。中層、上層と別れており、今存在するのが中層。値段に関しては銅貨で済む為、リーズナブルだ。だが、それよりも気になるのは原理だ。


 そこまで科学が発展している様には見えないのあが、一体どういう原理で動いているのだろうか、この施設は。


 そんな事を悩んでいると、駅構内にその答えはあった。ニグレドと二人分を支払つつ駅の中へと入れば、ロープウェイの成り立ち、その技術が何処から来たか、という説明が掲示板に貼ってあった。


「―――遺跡から発掘された技術をベースに、高品質の魔石を動力源に入れて動かしているのか……さっぱりわからねぇ」


 技術的には帝国の方から来た、とも書いてある。となるとこういう魔法科学っぽい事に関しては帝国の方が色々と詳しいのかもしれない。そう考えると帝国の方へとも行きたくなってくる。目標は増えるばかりで、実に困る。王国に満足したら帝国へ行こう。そんな事を思いつきながらロープウェイに乗り込んだところで、


 漸くニグレドが再起動する、というより現実に帰ってくる。


「恥ずかしい」


「あいよ」


 解放するとニグレドが床の上に着地する。その衝撃で軽くロープウェイが揺れるが、大したものではない。そこから特に言葉を語るわけでもなく、ロープウェイの窓から外を、アルディアの広がる光景を眺める。


 やはり、その姿には圧巻される。様々な文化、思想、道具、様式、それらを交えながら統一感を生み出し、この都市は発展している。今の王、そして過去の王達が頑張ってきた結果なのだろう。そういう風に設定されて生み出された世界ではない、人の努力によって生み出された世界は。そう、開発者の意思が存在しないのだ、この町並みには。神がこれがいいと思って生み出したのではなく、


 一人一人の人間の努力が、意思が、もっと良い方に持って行こう。負けたくはない。もっと良い場所を生み出したいんだ。そう思って努力を諦めなかった結果が、この大都市なのだろう。その意思を考えると、胸打つものがある。おそらくは誰もがそうか、程度で済ませてしまう事だろうが、その意思に関しては尊重したい、敬服したいものがある。そう思うのは間違っているだろうか。いいや、これはまだ上から目線だ。”現代”という世界を知っているが故に、良くぞここまで積み上げた、と見下しているだけに過ぎない。


 もっと、対等である事の意味を理解しなくてはならない。


 そんな事を考えているうちに、下層に到着する。ニグレドと共にロープウェイから降り、駅を出る。そこに広がっているのは下層よりも人が少ない、綺麗に整備されたエリアだった。ロープウェイの正面には公園が存在し、ベンチには休んでいるような人の姿が見えるが―――その大半は一般人、ここに住んでいる存在の様に見える。となると、中層は居住区を兼ね備えているのかもしれない。そんな事を思いつつ、軽く周りへと視線を向ければすぐ近くに案内板を見つける。


 やはり冒険者が多い事を考慮してか、冒険者向けにギルドの位置や宿泊施設の位置等が書いてある。大半は下層に集中しているが、それでも中層にも宿泊施設やレストランの類はあるらしい。それを確認してから案内板に載っている宿で、一番良さげなのを覚えておく。


「決めた?」


「おう。お前は―――って聞く必要はないよな」


「うん。一緒」


 今更、といった感じで色がニグレドの言葉にはあった。まぁ、確かに”今更”とも言えるものだろう。実際、ニグレドとの付き合いもそこそこなものになってきた。というかこの世界限定であれば、友人であるダイゴよりも付き合いの長い相手になってきている。


 とりあえず、宿は決めた。だからそのまま公園を抜けて案内板のあった宿へと向かえば、それは二階建ての綺麗な、食堂付きの宿だった。外観も、そしてロビーもしっかり清潔にしてあるため、印象はかなり良い。中に入り、カウンターへと向かうと受付に男が出てくる。


「ここにしばらく逗留すると思うので部屋を―――」


「一つで良い」


 視線をニグレドへと向ける。ニグレドが視線を返してくる。まぁ、本人がそう言うのであれば、否定する理由はない。ワリカンで計算するとしてこれなら大分費用が抑えられて、此方としては美味しい所でもあるし。


「ベッドはどうしましょうか?」


「ダブルサイズで」


「かしこまりました。朝食付きのプランとなりますと―――」


 サクサクと朝食、夕食付きと選び、前払いとしてそれなりの銀貨を支払う。部屋の鍵を受け取り、そのまま宿の階段を上って二階へと上がる。直ぐに部屋の扉を見つけたので、扉をあけ放つ。


 扉を開けて確認する部屋は割と広い。トイレ、そして風呂場が存在している様に見える。中に入って確認する風呂場は現代にある様なシャワーはないが、バスタブはある様だ。近くには説明書もあり、水の入れ替えや温め方に関する注意がある。それさえ注意すれば風呂に入る事が出来る様だ。地味に此方へ来てから、湯に入る機会はなかったから、楽しみかもしれない。


 ともあれ、とりあえずは投げ出す様にベッドの上へと倒れ込むと、同じくぼふ、とベッドに倒れ込む様な音がする。


 ―――まぁ、何だかんだで二日間も馬車に乗っているのは疲れる、という事だ。


 何をするよりも前に、


 まず最初に寝た。

 漸くスタート地点というか、シナリオを始める環境が整った。こっから何時ものスタイルを進めて行く感じになるんじゃないかなぁ、って。まぁ王都編、始まります。


王国:脳筋モンスタースレイヤー

帝国:俺様侵略者

聖国:宗教キチ


 王国←緊張状態→帝国

 聖国→いいぞ、はよ争え→王国・帝国

 王国・帝国→はよ滅べ→聖国


 解りやすい状況

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