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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
11/64

十一話 試行錯誤

 カナンから依頼報酬となる品質向上の仕方を教わった。そのあまりにも簡単すぎる方法に、聞いた直後は絶望する程だった。ともあれ、カナンはティニアに逗留して【鍛冶】スキルを上昇させる気らしく、もし金属製の装備が欲しいなら依頼してくれ、と言って別れた。ついでにカナンと、ニグレドともフレンド交換を行い、本日に関しては完全にパーティーを解散した。


 時刻は十時ちょっとすぎ、ログアウトして夕食を取ったり、風呂に入ったり部屋を綺麗にしたり―――そういう雑事に時間を取っていたら、何時の間にかこんなにも時間が経過していた。ログインしっぱなしなのも考え物だなぁ、と思いつつ今夜もゲーム内で寝る事を決意している。ともあれ、パーティーを解散したその意味を果たす為に道具屋で購入した道具をまた借りた宿屋部屋で広げる。


 ブックスタンド、鍋等【錬金術】に使用する道具だ。どれも職人ギルドに置いてある物よりも二段階程ランクの高いものであり、余していた金貨を購入するのに使ってしまったものだ。ついでに手持ちには大量の原石があり、それらは既に錬金鍋の中に水と共に投入されている。工程的にも最後の方であり、かき混ぜる動作に気を付けながら時間通り、水を抜いて完成した道具を確認する。


 アイテム名:魔石

     品質:2

     説明:低品質の魔石。触媒などの幅広い用途に用いられる。


「出来たぁ―――! やっほ! ヒャッホ! ヒャッホォ―――!! あぁ、本当に解りさえすれば簡単だったんだな、品質の上げ方って……というかこりゃあ知識がなければ解らないもんだわ。やっぱチュートリアルを聞いておくってのは大事なんだな……」


 そう言いつつ完成した魔石をインベントリの中へと放り込む。この作成、プロセスに関しては錬金術教本に書いてある通りにやっている。そこに一切の問題はない。だがそれとは別に、この世界には影響を与える要素を忘れてはならない。


 そう、魔力だ。或いはマナ、エーテルとも表現される物質。


 【錬金術】であれ、【料理】であれ、【鍛冶】であれ、その完成品の品質を決めるのは使った素材と道具、そして魔力の”方向性”らしい。特に【錬金術】の様に魔力が密接に絡む。故に製法を守りつつ、作成者は同時にその作品に付与する魔力、その方向性に気をつけなきゃいけないらしい。良い道具はそれをコントロールしやすくしてくれたりし、良い素材は力が込めやすくなる。後は製作者の技量次第。というわけで、一切コントロールとかを考えなければそりゃあ最低品質になる、という事だ。


 なんでもチュートリアルだとコントロールの仕方は教えるが、どの方向性とか言わず、それは自分で探す必要があるらしい。なんともめんどくさい事だが、それはそれで楽しそうだとも思う。


 ともあれ、カナンが今回教えてくれたのはその方向性に関して、どう干渉すれば”プラス”方向になるか、というのを教えてくれた。大体のものは魔力の方向性をプラスに持って行くことで品質が上昇するらしく、これを覚えておけば最低品質から脱出する事はそう難しくはないらしい。プラスとかマイナスとかは専門的な話になるらしく、正直良く解ってはいない。ただ、こうすれば品質は上昇するってのは理解できた。


「これでついに最低品質を脱出かぁ……低品質が単価銅貨三十枚で単純に三倍だっけ? やっぱり生産ってすごい金になるな。それに【錬金術】もこの1回で11から12レベルに上がってるし……っつー事はこれ、錬金術を明日半日程ずっとこれやってれば、結構レベル上がるんじゃねーか? 少なくとも他のスキルよりも遅れている分は取り返せそうだな」


 良し、


「寝よう。明日だ明日!」


 フレンドを通したショートメールでニグレドへと、半日は【錬金術】のレベリングに時間を費やすと予め伝えておく。別にニグレドとは固定パーティーを組んでいる訳でもないのだ、彼女もそれなりにやりたい事があるだろうし、こう言っておけば無駄に拘束する事もないだろう。そんな考えからショートメールを送り、そしてベッドの上へと体を投げ出す。とりあえずは目標を【錬金術】を20にする事とする。


 おそらく、そう難しくはないと思う。



                  ◆



 朝の支度を終え、リアルとゲーム内でもあらかじめ用意しておいた朝食を取り、そしていざ、【錬金術】のトレーニングを始めよう。そう思ったところで部屋の扉のノックがかかる。これからスキルトレーニングに取り掛かろうというテンションだったため、若干水を差されたような感じだったが、扉を開けた向こう側にいたのは。


「……」


「お前か」


 ニグレドだった。扉の開いている隙間からするりと横を抜けると、そのまま部屋の中に入り、ベッドの上を占領する様に寝転がる。半日は【錬金術】に時間を割くと予め伝えてあるはずなのだが、それでもここに来たという事は……おそらく暇なのだろう。この程度で脈ありだと騒ぐ童貞臭さはない為、軽く溜息を吐いてからニグレドの事を無視し、準備を進めている鍋の方へと視線を向ける。


「さて―――召喚した精霊にある程度作業を分担させれば作業が捗るし、スキル上げにもなるか? とりあえず水の精霊と火の精霊呼んで火加減の調整とかを任せてみるか……あ、ニグレドちゃんは暴れんなよ。鍋が倒れて火事になるとか嫌だからな」


「暴れない」


 怒っているような気配を感じたりもするが、それを無視して魔石の作成を始める。最近魔石の消費が激しいし、ルーン石も大分心もとない数に減っている。ここら辺で一気に稼いでおくのも悪くはないだろう。



                  ◆



「ん―――んー……。ふぅ、大分集中して作業してたけど今何時だろう」


 お腹が空いて来た事に、かなり集中していたことに気付く。既に鍋についていた火は消え、そして今は部屋に備え付けのテーブルの上で、彫刻刀を使ってルーンを魔石に刻み込む作業の真っ最中だった。そのルーン石を完成させるところまで手を動かしてからホロウィンドウを表示させ、そこに書いてある時刻を確認する。大よそ一時ごろ、お腹が空くのも納得できる時間帯だ。リアルでは軽く昼食をとったが、此方では何も食べていないのを思い出してしまった。インベントリの中に入れておいた干し肉を取り出し、それを齧りながら出来上がったルーン石を【鑑定】で眺めてみる。


 アイテム名:ラグズのルーン石

     品質:4

     説明:霊性を意味するルーンを刻まれた魔石。

         触媒の他に、消費する事によってラグズの加護を得る。


「ここ数時間で一番の出来だけど―――ヴァルキリーさんの餌行きだな」


 クオリティに満足しつつ、完成した魔石とルーン石を纏めてインベントリの中へとしまい込む。実際、お金に関しては現在余裕がある。本当に必要になった時、インベントリの中の魔石やルーン石を纏めて売却すればいいのだ。それまでは完成した低品質魔石や通常品質ルーン石を活用すればいい。ともあれ、これで一応の生産活動は完了した。ステータス画面を開いて、この半日の成果を確認する。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:20

  体力:21

  敏捷:21

  器用:23

  魔力:33

  幸運:15


 装備スキル

  【召喚術:26】【精霊魔術:24】【陰陽道:22】【ルーン魔術:28】【仙術:23】

  【マントラ:22】【錬金術:18】【瞑想:18】【索敵:19】【鑑定:20】

  【投げ:16】【格闘:21】【身体強化:19】【見切り:20】【召喚師の心得:15】


 SP:13


「20いかねぇかぁ、マジで丸一日を生産に消費する事を考えないとレベル上がらなくなってくるかもなぁ。もしくはもっと難易度高いもんをやるか、って所か。まぁ、基本の基本をひたすら無言で反復してりゃあ経験値も低くなるか」


 ぶっちゃけた話、HPやMPが存在しない世界なので、HPポーションやMPポーションの様な便利品がない。傷の治療をするポーションというのはあるが、それでも即効性のあるものではなく、徐々に傷が治って行くというものだ。その為、ポーション類に関してはそこまで欲しいものが見えないのだ。それに魔力の消費に関しては【瞑想】で間に合っている部分があるから。となるとやはり、品質4のルーン石、そして品質3の魔石を大量生産するのが個人的な目的と合わせて、効率的なスキルトレーニング方法かもしれない。


 そこまで考えたところで、ベッドの方へと視線を向ければ、完全に寝息を立てて眠ってしまっているニグレドの存在がいる。眠ってしまうなら別にここじゃないどこかで自由にやってればいいのに―――と、行ってしまうのは野暮な事だろう。明らかに少女にしか見えない彼女の上にブランケットをかけて、【錬金術】の道具を音を立てない様に片付けながら部屋を出る。部屋から出てロビーへと出たところで、銀貨を一枚渡す。


「ツレが寝ているんで延長で」


「了解! ごゆっくり」


 どっかでレベリング―――と思っていたが、実は狩場を利用せずに鍛える方法を考え付いていた。それを実行する為にも、今噛んでいる干し肉を食べきってしまい、そして大通り沿いの適当な屋台を見つける。どうやらプレイヤーが経営している屋台の様で、売りに出されているのは西洋風焼きそば、和の調味料が手に入らない部分を全て此方の世界の調味料で調整したものらしい。それを自分の分だけ購入し、口の中へと運んでみる。


「焼きそばっつーよりは、ソースのスパゲティって感じだけど……まぁ、食えなくはないな」


 そんな感想を抱きつつ、ティニアの外を目的とし、歩き出す。なるべく広い場所、それも人がいない場所の方が都合がいいからだ。。幸い、昨日のゴブリンラッシュの後の帰り道で、ある程度街の周りの地理は頭の中に叩き込んである。だからさほど迷う事もなく、スパゲティの様な焼きそばを口にしつつ、街の外に出る。そこから更に街道に沿って南へと向かい、街道横の平原に出る。時折モンスターが出現する場所ではあるが、それでも街に近い分、直ぐに逃げられるし、直ぐに応援も呼べる。そういう対応をしなくちゃいけないモンスターが出てくるとは思えないが、とりあえずは心構えとして持っておいた方がいい。


 ―――と、ニグレドが言っていた。


 このファンタジーな世界での心構えや基本的な旅の知識は大半が検索エンジンで調べたものか、或いはニグレドから来たものだ。なのであまり、偉そうに言う事が出来ない。が、とりあえず、それは置いておく。重要なのはこれからここで、レベリング―――いや、鍛錬を始めるという事だ。間違いなく人目が付く場所だろうが、そこまで気にする事でもないと判断し、


「ヴァルキリー召喚!」


 魔法陣を出現させ、そこからヴァルキリーが登場する。何時もの様に鎧に包まれた美しい女性の姿をしているヴァルキリーは、戦女神の格でありながらレベルの問題で戦乙女の格で召喚されている。それであっても、圧倒的な能力を持って敵を薙ぎ払う、召喚術で切り札的存在になってくれている。しかし、他の召喚獣やプレイヤーに対して、ヴァルキリーだけは戦力が突出し過ぎていないかとも思う所はある。が、それを自問していても意味はない。もしかして【召喚術】が実は優遇スキルだった、という可能性があるのだから。


「私を呼んだか主よ。戦場ではないところを見ると戦以外の用事であると見るが」


「うん。なんか発現的にヴァルキリーさん、エインヘリヤル鍛えてるって言ってるし、俺の事もその流れでちょっくら鍛えてくれないかな、って」


「いいぞ、ただし一時間に付き10ルーン石だ。数時間纏める場合は少し割引しよう」


「なんだよその課金ガチャ見たいなレートは」


 ツッコミにヴァルキリーは辛辣だな、と苦笑を交えながら言う。何度か召喚して、顔を合わせる回数は増えているが、こうやってまともに正面から話すのは、今回が間違いなく初めてだ。幻狐や小鬼は比較的にコストが低く、使いやすいので意味もなく召喚してはお使い等をさせているが、ヴァルキリーはコストの問題があり、そうする事が出来ない。しかしヴァルキリーは楽しむ様に言葉を続ける。


「まぁ、実際の所は鍛える事に関しては問題はない。ただ此方側へ長時間出現しているとなるとそれなりに媒体を必要とする。質の良いルーン石……そうだな、お前たちで言う品質4程度の物であれば一時間は此方側にいられるだろう。そうでもなければ数に物を言わせるしかないだろうな。先に言っておくが誰にだってやるわけではないから、そこらへんは勘違いをするなよ」


 そう言ってヴァルキリーは光と共に盾と槍を消し去る。しかし気になるのはヴァルキリーの言動だ。


「いや、誰にでもしないってどういうことだよヴァルキリーさん」


「一々ヴァルキリーと呼ぶのも面倒だろうに。我が名はレギンレイヴ。気軽にレギン、或いはレイブとでも呼ぶがいい。長い付き合いになる気配がするからな。ともあれ、お前の何故、という疑問ももっともなものであろう。が、それは何も私やこの世界が全て”システム”によって組まれている者だけではないからだ」


「アレ、ヴァル……レギンさんこの世界がどんなものか理解しているんだ」


「じゃなきゃ召喚に応じない」


 物凄いフランクに、めんどくさそうに、そしてストレートな答えだった。そりゃそうだ、システムに支配でもされていなければこんな高位の存在を初心者が召喚できるわけがない。だけどレギンレイヴは、それだけではないと言っている。システム外の部分も影響を受けているから、こうやっているのだと。


「貴様らに対して言葉が、概念が通じるかどうかは解らないが、我々、召喚に応える者には相性と言えるものが存在する。それは召喚者の思想だったり、資質だったり、或いは才能、魂と呼べるものに反応し、呼応し、そしてそれに応じる様に召喚の契約を結ぶわけだ。低級の召喚物であれば相性関係なく召喚できるだろう。だが貴様の利用する≪十絶の陣≫、私の様な≪死と生の導き手≫等は相性を必要とする」


 いいか、とレギンレイヴが前置く。


「そもそも【ルーン魔術】で召喚するならもっとメジャーな≪クランの猛犬≫か、或いは≪影の国の女王≫でも召喚すればよかろう。特にスカサハは凄いぞ。教師という存在であればアレ程素晴らしい人材もないだろう。神話を少し知れば理解できる事だ―――だが思い付きもしなかったし、召喚しようとも思わんだろう? それが証拠だ。無意識的に相性の悪さからその存在を視野の外へ押し出しているのだよ、貴様は。まぁ、だからと言って最初の方に私を呼びだすのもまた相当の豪運だと言えるがな」


 言われてみればケルト系もまた、ルーンという繋がりがあるのだから、ルーン石を通じて召喚が出来たのかもしれない。だが不思議と、その神話の戦士達を召喚しようという考えは一度も浮かばなかった。ルーン魔術という単語をネットで少し調べれば間違いなく北欧神話だけではなくケルトの方の話も多く出てくるはずなのに。何かひどい暴論を投げかけられている気がするが、納得できそうなのが酷く恐ろしい。


「まぁ、信じろとは言わんがな。0と1のデータとして見るも良し、此方が信じる様に魂や相性を信じるもよし。私はどちらであろうと一向に構わん。ただ、私個人としてはこの縁も何かの巡り会わせだろうと思っている。死んだらヴァルハラに来るがいい。良い所だぞ、主神や同期は召喚がなくて暇をしているがな。最近働きまくっている私は嫉妬の的だがな!」


「レギンさん、話せば結構フランクなんだな。定時退社するけど」


「契約は厳守だからな。それだけはどう足掻いても無理だ」


 しかし、レギンレイヴの話が本当だとすれば、例えスキルを取得したって召喚できない召喚獣や、苦労して契約方法を見つけたとしても召喚する事が出来ない事なんて発生できてしまう。それはなんというか、色々と非常に困る。レギンレイヴの様な強力なヴァルキリーを召喚できたのはまだいい。ただ似た様な事をした場合、失敗したら非常に困る。レギンレイヴの場合はどうだっただろうか? 記憶が正しければ、ファーレンにヴァルキリーの召喚が強力であるとオススメされた結果、使用を始めたのだ。


 ……もしかしてファーレンはヴァルキリー召喚との相性がここまで良いとは思わなかったかもしれない。


「まぁ、あれだ。今は余り悩まず鍛えろ。今はまだ私一人しか召喚できないが、それでもそのうちミストやスルズの首根っこでも掴んで参上してみよう。一瞬で貴様が干物になるかもしれないがな」


「雇用主への反逆は悪いけどNGで」


「ならば、そうならぬ様に鍛えるしかなかろう。確か無手だったな」


 そう言うと、レギンレイヴは両手の拳を握り、そして殴り合う体勢に入る。その堂々とした姿は、間違いなく殴る事に慣れている存在のそれだ。昨日見た、あのグラップラーの赤髪の女よりも洗練されている感覚がある。あくまでも第一印象が、だが。レギンレイヴが此方の要望に応えてくれるのだ。ここは感謝するべき。


 そう思考を生んだ瞬間、いや、その合間に、


 レギンレイヴから高速の拳が三発、体に叩き込まれる。鎖骨、肋骨、そして左肩がその素早い拳撃によって砕かれるのを知覚する。崩れ落ちそうになる体を倒れる一歩手前で堪え、そして両足で立ちながら吐血する。赤い血を口の中から吐きだすのはこの世界ででも、現実でも、初めての経験であるが故に吐き気を感じる。だがそんな事を許さないレギンレイヴの拳がもう一度唸る。今度が来ると解っていた。故に自由に動かせる右手でガードに入ろうとし、


「甘い」


 右手の砕けるような感触を受け、ガードした右腕ごと体を後ろへと殴り飛ばされる。平原の上に転がりながらもなんとか体制を整えようとするが、再び湧き上がってくる気持ち悪さに血反吐を吐きだす。


「甘い。実に甘い。闘争の開始に合図はないぞ。構えた瞬間から殺しに行くという意味だ。常在戦場の心得が抜けている。なんとも嘆かわしい。その無様な姿では女一人ものにする事すらできんぞ」


「容赦、ねぇ……!」


 【マントラ】で呼吸を通して鎮痛しようとするが、


「邪魔だなそれは」


「かはっ」


 喉に叩き込まれる拳が体を持ち上げながらそれを邪魔する。感じる痛みと息苦しさに全身を駆け抜ける様な痛みを覚える。が、それは間違いなくここで生きているという証であり、そして我がこの地で、他の存在と等しく対等であるという証でもある。であるならば、痛みは祝福すべきであり、逃げるべきものではないのかもしれない。


「基本、スパルタ方針でな。上手い手加減の仕方を知らん。エインヘリヤル共は殺しても勝手に時間で蘇ってくれるから楽でいいが、お前は違うのだったな。まぁ、数回殺してしまっても恨むなよ。蘇生と再生はそれなりに得意だから安心して死ぬときは死ぬが良い―――手と足を間違えるかもしれないが」


「人選ミスかもしれないなぁ、これッ!」


 痛みを堪えながら、吐けるものを吐いて立ち上がる。思考が真っ赤になり、拳を握り、ステップを取りながらレギンレイヴに接近する。だがそれをレギンレイヴは軽いスウェーで回避しつつ、確実にカウンターを鳩尾に叩き込んでくる。息が吐きだされるのを感じつつ、レギンレイヴの声が聞こえる。


「熱くなっても冷静にな」


 ―――どうやってだよ……!


 殴り飛ばされ、殴りかかり、また殴り飛ばされる。


 一言で言ってしまえば、圧倒的に容赦がない。武器である盾と槍を持たずにいようとも、その戦闘力は一切落ちる事がなく発揮されていた。これでいて本来よりも数段能力は落ちている状態なのだ。今のレギンレイヴは恐ろしい程に弱体化されていると言ってもいいかもしれない。そんな彼女を相手に即死をしていないのは、単純に彼女がこれを教導という事を念頭に置いてあるからだというのが理解してある。


 ただ、それはそれで悔しい。


 そして切実に思う、


 甘く見過ぎた。もうちょっと人目に付かなさそうな場所でやれば良かった。


 しかしその思考を否定する様に、脳はヒートアップしていた。エンジンがかかっていた。半日の間、ずっと生産活動をしていたせいでなまっていた体を全力で動かす事に喜びを感じてさえいた。それが自分本来の気質か、あるいはヴァルキリーという”死”に直結している存在を前にしている事で生存本能が主張してきているのか、それを理解する事は出来ない。だが、デスペナルティーを受ける事以上に、


 一撃も与えられずに死ぬ事は勘弁だった。


 この女の子の様子であれば、間違いなく容赦なく殺してくる。砕けた拳を丸めて殴れるようにし、痛みは感じつつも思考の外へと追い出す。言葉で動き方を教える様な存在ではないらしい。きっと、今の自分にやっている様に、死ぬほど追いつめる様に攻撃を繰り出し、その生死の境で己の真を掴ませようとするのだろう。ならば、


「流儀に乗っ取るまでよぉ!」


「死んだらヴァルハラへ連れて行ってやるぞ」


 ははは、と笑い声を耳にしながら、拳を叩き込まれる。その一撃でまた骨が砕けるような感触を得るが、それを無視しつつ拳を一撃、レギンレイヴに叩き返す。残念ながらそれはあっさりと回避されてしまう。だがその瞬間に魔石を消費して召喚獣を、サラマンダーを召喚する。


「む」


 そう声を漏らしたレギンレイヴは炎から逃れる様に下がり、その瞬間に素早く印を結ぶ。


「姚天君―――落ッ魂ン陣ッ!」


 魂を抜き去って殺す陣を召喚する。それをレイギンレイヴは、何でもないかのように鋼鉄の靴に包まれたその足で踏みつぶす様に一瞬で砕いた。砕かれた陣の破片が宙を舞うのを視線で追う事もなく、拳を振り上げ、それで再び、若干ヤケクソ気味にレギンレイヴへ向かう。


「スカサハ先生が良かった!!」


「貴様ァ!」



                  ◆



 気づけば、顔面に大地が当たっていた。あ、これ絶対気絶してたな、という自覚が自分には合った。全身に感じる痛みと疲労を堪えながら視線を持ち上げれば、そこにはもはやレギンレイヴの姿はなく、見えるのは完全な暗闇に包まれた空、そして目の前でしゃがみ、ジト目を向けてくるニグレドの存在だった。おうふ、と口から変な音を漏らしつつ、指や足の感覚を確かめて行く。全身の骨を砕く程激しく訓練という名の拷問を行っていたが、今はその痛みはない。ただ、その代わりに全身の筋肉という筋肉が断裂した様な、そんな痛みがある。


「……」


「……」


 そのまま数秒間、ニグレドと見つめ合う。しゃがんでいる為、そのミニスカートの中が見えそうで見えないのが実にはらはらする。そんな事を考えつつ、口を開く。


「こんばんは」


「……」


 返答の代わりにデコピンが飛んできた。かなり痛い。そして理由は解っている。


「心配させるな?」


「……」


 コクコク、とニグレドはジト目を解除せずに頷いて肯定する。それに対してよっこらしょ、と声を零しながら体を持ち上げ、そして座り込む。【マントラ】で呼吸しながら体を整えつつ、体から骨折などのダメージが抜けているのを確認する―――まぁ、まず間違いなくレギンレイヴがやってくれたのだろうが、今後しばらくあの女の顔を見る気にはなれない。


「あー……やっぱアレだな。良い発想だったかもしれないって思って挑戦する前に、相談しなきゃ駄目だな。テンション上がっている間はいいけど、終わった後から思い出すと酷い黒歴史になるわ。俺、反省するよ……」


「ん……許す」


 と言いつつも、ニグレドは片手で此方の頭をぺしぺしと叩いてくるのを止めない。まぁそれだけの理由はあるのだからしょうがない。


 とりあえず、レギンレイヴとの修行結果を確認する。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:24

  体力:25

  敏捷:25

  器用:26

  魔力:36

  幸運:18


 装備スキル

  【召喚術:29】【精霊魔術:27】【陰陽道:24】【ルーン魔術:30】【仙術:25】

  【マントラ:27】【錬金術:18】【瞑想:18】【索敵:19】【鑑定:20】

  【投げ:21】【格闘:26】【身体強化:24】【見切り:25】【召喚師の心得:18】


 SP:15


 全体的に凄い酷い上昇の仕方をしていた。特に肉体関係のスキルに関してはこれでもか、と言えるレベルで上昇している。しかしまぁ、何だかんだでその上昇の仕方には納得だ。半分記憶が飛んでしまっているのが難点だが、凄まじくバトルを繰り広げたのだけは覚えているのだから。これを繰り返せばレベリング、


 なんて気にはクソの程にもなれない。


 おそらくレギンレイヴ本人は喜ぶだろうが、とりあえずはもう勘弁してほしいという気分だった。ともあれ、もう既に夜遅い時間だった。体の節々に感じる痛みを何とかこらえつつも立ち上がり、そして視線をニグレドへと向ける。


「……奢らせていただきます」


「よろしい」


 溜息を吐きつつも、思っている以上にこの世界へ、ドップリとハマってしまっている自分に溜息が吐きたかった。

 発想:レベルも実力も上のヴァルキリーさんと対戦すればレベリングになるんじゃないか……?


 結果:格が違いすぎて拷問だった。姚天君プギャー


 というわけで、召喚の設定っぽいアレコレを投下しつつレベリング回。何度も言うようだけど、基本ネトゲとはカンストしてからがナンボだと思う。なので下位スキルのカンストぐらいまではサクサク行きますわ。


 裏でデータを作成していると唐突に鬼畜データが作りたくなる。

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