十話 暗き底へ向かって
粗方必要な道具を道具屋で買い揃えたついでに、ズボンだけは初期装備だったことを思い出し、防具屋で布製のズボンを防具として装備する。個人的にそこまで違いが判らないが、【鑑定】スキルを使用すれば防具の強度が上昇しているのが解る。防御力ではない、強度だ。この世界に強度の概念はあっても、数値化される武器や防具の強さはないらしい。不親切の様に見えて、ここもまた運営が発揮する妙なリアリティの部分だろう。ともあれ、ズボンの色を白に変え、これで完全に準備は整った。
ティニアの大通り一番奥の道から外れ、その脇に逸れる様に廃坑エリアへと入る。人の気配はないが、人が下へと向かった、という証拠は足跡としてそこら中に残っていた。索敵関係が一番優秀なニグレドを先頭に、中央に依頼を頼んだ青年、カナンを置き、そして後ろを自分が固めるという陣形で廃坑の中へと進んで行く。警戒しつつ薄暗い、所々に掛けられたランプが僅かな光源となる廃坑へと入り込む。
が、地上一階部分は正直期待外れもいいところだった。
モンスター化した蝙蝠が襲い掛かってくるも、幻狐を召喚し、放置するだけで完全に殲滅が出来る、言ってしまえばその程度のレベルの敵だった。幻狐自体も大分力を引き出せるようになってきたが、それにしたって最近のラッシュを考えると実に物足りない感じがする。いや、間違いなくあのゴブリンラッシュや野犬ラッシュと比べてしまってはいけないのだろう。まぁ、それをこれからも期待していると言ってしまうと非常にアレなのだが。
ともあれ、地上一階では話にはならず、そしてカナンが求めている鉱石ももっと下の方にあるらしい。地下へと潜る事には異存がなく、更に深く潜り、地下一階へと到達する。ここに出現する敵は地上一階と変わりはない。召喚時間が切れた幻狐の代わりに木端天狗を召喚し、団扇に吹き飛ばされて壁に衝突して死ぬ蝙蝠の大群が生み出される結果となった。ここに長くとどまる理由はなく、さっさと廃坑の中を進んで行き、地下二階へと降りる。
ここへきてようやく、廃坑へ来てからの初の変化がみられる。
「……なんだこれ」
足元を覆う、薄い紫色の煙が存在していた。足元、靴が触れているが、特に感触があるわけではないが、ガスの様な気体に見える。おそらく、というか間違いなくこれが瘴気という存在なのだろう。まだ体に対する干渉や影響を感じないが、更に下へと潜って行くことで、おそらくは強まって行くのだろう。これを見ている感じ、あまり長居できる狩場ではないように思える。こうなると今までの様なラッシュを期待できないだろう。そう思うと少々残念に感じる。
「ん……敵」
既に右手にナイフを構えながらそう言い放つニグレドに対して、此方も何時でも動けるように両手を開ける。その状態で前方、ニグレドが警戒している方向へ視線を向ければ、
半透明の存在が近づいてくるのが見える。【索敵】スキルで判明するその名前は”ゴースト”、かなりオーソドックスな幽霊型のモンスター、定番に入るタイプだ。その姿は半透明の白い人間の様で、透けて向こう側が見える。女の様な、男の様な、性別のわかりにくい姿をしているそれは顔が爛れており、此方を発見するのと同時に襲い掛かってくる。が、既にニグレドが動いていた。残像を生み出す動きでニグレド本体が首を割き、続く三つの残像が心臓、首、そして頭にと刃を突き刺して行くが、
「手ごたえがない」
ゴーストの向こう側で、ブレーキをかける様に若干斜めになりながら着地したニグレドが呟いた。おそらく、その姿の通りにあらゆる物理攻撃を無力化するのだろう。だとすれば、この存在に通じるのは魔法攻撃、或いは【マントラ】や【仙術】で霊体への破壊性能を肉体へ付与した場合なのだろう。どうするかを一瞬だけ考え、控えていた木端天狗に攻撃の命令を繰り出す。命令を受け取った木端天狗はその団扇で真空の刃を生み出し、それでゴーストを細切れに切り裂いた。その成果に木端天狗は胸を張る。ちょっと可愛らしい。
だが、
「困ったなぁ……まさかゴースト系のエリアだったなんて。これじゃあワザと流血させて呼び込んで殲滅する何時もの手段が使えないぞ」
「大丈夫。叫ばせれば……いっぱい来る……筈だよ」
「え、良く死んでないね、そんな戦い方で」
カナンが恐れるかのような声で喋るが、ぶっちゃけ死ぬ奴は生への執着心が、本気具合が足りないのだ。ゴブリンラッシュを乗り越えた今、なんとなくだが”本気のなり方”というのが見えてきた気がする。なので、恐れるのはそれを怖いと思っているからであって、無理なのは無理だと思っているからだ。どうにかするのは、常にどうにかしようと思っている者のみ。故に成せば成る、成さぬば成らぬ。それだけの話になる。
「とりあえず前衛交代で。ニグレドちゃんが戦闘に関しては完全に無能っぽいから俺が前に出て、ニグレドちゃんが後ろから索敵宜しく」
「無能……」
寂しそうに呟くニグレドが後ろへと下がって行く。再びカナンを間に挟む様にフォーメーションを組むと、次の改装へと向けてさらに進む。道中出現するゴーストに関しては、これは木端天狗が確実に処理できる。木端天狗の召喚時間が切れた場合は幻狐へと切り替える。前まではこの流れをする事は出来なかっただろうが、【召喚師の心得】でクールタイムが削減されている現在、一つが切れたら次のを、という運用ができる様になってきている。
やはりレベル制やスキル制MMOにおけるレベル概念は圧倒的だと思う。
ともあれ、ゴーストの存在に気を使いつつも、次の階層へと降りる。
到着する地下三階は、地下二階よりも瘴気の色が濃く見え、明確に気持ち悪い、という気分を生み出すものであった。これに対してゴーグルは必要ないが、マスクは必要だった。少なくとも、布を口の周りに巻くだけでもかなり気分は改善されるものだった。なお【マントラ】と【仙術】を試した所、自分への影響をはねのける事に成功し、【精霊術】で風流操作を行う事により、自分の周囲の瘴気を払いのける事が出来た。便利ではあるが、魔力の消費が流石に現地に到着する前に重すぎる。自分もニグレドもマスクで我慢し、戦闘となったらスキルや魔術で瘴気を祓い飛ばそうという決断を取る。
ここでも地下二階とは違う、新しいモンスターが出現した。ゴーストと共に出現するのは体が完全に土と泥で構成された塊の様なもので、その名前は”狂った地の精霊”であった。その姿をよく確認すれば、確かに地の精霊に通じる姿が、部分的にはある。だが全体的に言ってしまえば醜い姿に変質してしまい、あまり良い光景とは言えなかった―――特に精霊魔術を使う人間からすればなおさら。またもや急所に攻撃を叩き込んでも即死しない為、ゴーストと共に出現するその存在は主に自分が引き受ける事になる。木端天狗に走らせてヘイトを取らせ集めたところで、
召喚術で一気に殲滅する。
そうやってある程度の安全を確保しながら素早く、地下三階も戦難い敵が多いという事でスルーし、
そして目標である地下四階へと降りてくる。
地下三階から地下四階へと降りると、周りの風景はガラっと変わる。今迄はある程度整備されていた坑道ではあったが、むき出しの岩肌は荒れており、所々紫色に変質している。それは間違いなく前の階層よりも濃い瘴気が充満し、そして壁に浸み込んだ結果発生している現象なのだろう。今迄は壁にかかっていた照明代わりのランタンやランプもこの階層からはなくなり、自分が光源を用意しない限りは完全に暗闇が支配する階層となっていた。正直な話、あまり気持ちのいい場所ではない。最初はここで鍛えようかと思ったが、出現するモンスターや環境等を考えて、その判断を変える。
「……カナンの鉱石を見つけて、ボスだけ討伐したら地上へ戻ろう」
「賛成」
「……意地でもボスとは戦うんですね」
そりゃあ勿論、こんな環境で戦う経験なんてめったにない。この先、似た様なダンジョンが存在するかもしれない。だとしたらそれに先駆け、ノウハウを入手しておいた方が圧倒的に有利になれる。そういう考えもあるが、割とテンションが上がったまま、落ちてこないというのもある。戦闘の楽しさに目覚めてしまった部分があるのかもしれない。
「だけどボスは地下五階に行かないと出現しませんよ……?」
「行こうか」
「うん」
「え、即断?」
地下四階の出現モンスターは地下三階と同じ内容だった。しかし全体的に強化されている感覚があり、間違いなく自分の強さに対して、適正レベルの部類に入るか、それを若干超える強さになってきている。ニグレドであれば間違いなく苦戦必須の場所ではあるが、召喚術という広範囲に放てる爆撃型の能力と、そして狭い坑道という環境は相性が良い。たとえ相手が自分よりも強くとも、召喚術を使用すれば大抵の敵は一撃で屠れる。故にまた坑道内で敵をひとまとめにし、ニグレドが攪乱している間に準備を整えて敵を処理する。それであっさりと地下四階の攻略も完了し、地下五階への階段を発見する。
そして到着する地下五階。
◆
「祓え、清めろ木端天狗!」
木端天狗が団扇を振るい、瘴気を一気に吹き飛ばす、【陰陽道】の地脈への干渉効果でその団扇に浄化能力を付与するが、それでもそれは自分とパーティーの周りの空気を浄化するにとどまる。そしてそれも、数秒後には圧倒的に溢れ充満している瘴気によって埋め尽くされる。それをショックと共に目撃した木端天狗は、汗を掻きながら必死に団扇を仰いでいる。物凄く頑張っているのは解る。解るのだが、その姿が妙に可愛らしく、逆に癒されるてしまう。頑張れと応援したくなるぐらいには。
それ以外は大体地下四階と似た様な光景になっている。それを認識しつつ、警戒を始める。
「……帰りはスクロールで一瞬で地上に戻れるからいいですけど、ここまで来る事になるとは……」
「いいじゃないか、もっといい鉱石が取れるって事で。つか俺としてはこう、”騙して悪いが……!”的な展開をある程度予想していたのに、特に裏もない普通の冒険者でちょっとガッカリだよ」
「期待外れですみませんね」
「警戒」
カナンのしみじみとした声に苦笑を返しつつも、実際ギルドを通さない相談だったから、騙されている事も考慮していた。ただそれがここまで来たところ、確実にないと言うのが理解できた。仮にそういう風に騙すのであれば、ルートを制限したりどこかへ誘導しようと多少行動を見せるからだ。此方が強引に地下五階へと向かうのを完全に認めている様子から、騙そうとする事は想像し難い。
「というかカナンくん、俺達このままボスに特攻する予定だけど大丈夫? ここまで反対してねぇけど。あと鉱石採取してないし」
「それ、色々と判断遅いと思うんですけどね……まぁ、実力を見ている感じ二人とも余裕持って対処している感じですし、ボスでも案外行けちゃうんじゃないかなぁ、って。五階にいるって事以外は情報ないんですが。あ、鉱石に関してはボス部屋にあるっぽいのが一番いいらしいんで。たぶん」
「前情報なしかぁ」
「燃える」
「そのバーサークっぷりが一番怖いんですけどね」
大丈夫大丈夫、とカナンを宥めながら移動を開始する。完全に物理無効の存在ばかりで満たされているが、それでも纏めて一撃で屠れる以上、召喚術の敵ではない。ニグレドの動きを視線で追って、それを自分の動きの参考にしつつも、マッピングをカナンに、索敵をニグレドに、そして護衛を自分が行うという形で、着実に地下五階の攻略を進める。やはり相性というものがあるらしく、苦労はそこまではない。ただ自分がメインとして戦闘を行う以上、徐々に魔力が削られて行く感覚はある。時折【瞑想】の為に小休止しつつ、地下五階、ボスがいるであろう場所を目指す。
そこに到着するにはやはり、そう時間はかからなかった。明らかに人工物だと解る鉄の扉が存在し、そこには何枚もの札が張られてある。その奥には空間が存在するらしく、そこがボスの間であるのは解りやすい形だった。
名前:フォウル
ステータス
筋力:17
体力:19
敏捷:20
器用:22
魔力:32
幸運:14
装備スキル
【召喚術:24】【精霊魔術:21】【陰陽道:21】【ルーン魔術:25】【仙術:21】
【マントラ:19】【錬金術:11】【瞑想:17】【索敵:18】【鑑定:18】
【投げ:15】【格闘:17】【身体強化:15】【見切り:16】【召喚師の心得:12】
SP:8
野犬ラッシュやゴブリンラッシュでの上昇を見慣れているせいか、道中での上昇が本当に低く感じる。何より肉体系のスキルを一切育てる事が出来ていない。やはり物理無効化なんて敵が出現するところは鍛錬には向いていないのだろう。経験を積む、という意味では最適の場所かもしれないが、あまり長居したくはないと、道中での上昇結果を考慮しながら思う。さっさとボスを倒したら地上に戻り、別の狩場を探さなくてはならない。王都へ行くのには最低レベルが30必要なのだ、この調子では到達するのに数日かかってしまう。
「うっし、魔力の回復完了。ほんと【瞑想】様便利だわ」
「本当に挑むんですね……」
「楽しみ」
地下五階は既に適正外、即ち自分よりも強い敵が出現する階層になっている。そんな場所で出てくるボスは、まず間違いなく強敵であるに違いない。自分の糧にしてやる、と軽くバーサーク入りながら扉を蹴り開け、そしてその向こう側へと抜ける。
そこに広がるのはやはり、完全に闇に包まれた広い空間だった。感じるのは肌寒さであり、何者かに見つめられているという感覚だった。そんな風に部屋に入り込むのと同時に腰からつりさげたランタンの光と炎、そして腕を振るう事によって生まれる風を媒体に、それぞれの精霊を召喚する。
「来い! そして満ちよ!」
言葉と共に光が広い空間を満たす。瘴気を風が吹き飛ばし続け、そして炎が暖かさを体に戻す。それぞれの精霊がそれで消える事無く、召喚術に維持されてこの世界に残り続ける。瘴気は彼らを狂わせるため、この空間を維持する事には此方同様、必死だろう。
侵入と同時に此方に有利な空間を生み出しつつ、視線を前方へと向ける。そこに広がるのは一体のモンスターの存在である。光の精霊によって照らされ、黒い靄がその巨体から引き剥がされ、その輪郭が現れる。ボロ布を装着し、下半身のない骨だけの体が浮かび上がり、半透明なオーラを纏いながら、二つの大鎌をその横に浮かべている。姿を見れば、まさに死神という言葉に相応しい外見をしているだろう。【索敵】スキルによってその名を確認すれば、ボス表記と共に”デスイーター”という名前が出現する。
「主食ゴーストかな?」
「お腹壊しそう」
「そんなこと言ってないで来ますよ!」
念力か何かで操られている大鎌が高速で回転しながら投擲される。能力的に回避が不可能であろうカナンの腰を掴み、その姿を抱えながら大鎌を飛び越え、そしてカナンを壁の端へと投げ捨てながら開いた両手で印を組む。
「幻狐招来!」
「こぉーん!」
デスイーターの頭上に召喚した幻狐が雷と狐火を纏いながら急速に落下し、そのスカスカの体を貫通する様に炎と雷を叩き込む。いや、スカされたのだろう。おそらく実体部分が極端に少ない事を利用して攻撃をそこに通したのだろう。こいつ、中々に賢いのかもしれない。そんな事を考えているうちに、もう一つの浮かび上がっている大鎌の上にニグレドが到達していた。
「殺った」
そして言葉と共に背後から一閃、デスイーターの頭を斬り飛ばす。その体が床へと受かって落ちて行くが、
「アンデッド属性でここまで簡単に死ぬわけはないよな―――サラマンダー!」
落ちる体へと向けて容赦なくサラマンダーを放つ。それに反応する様にデスイーターの体が落ちながらバラけ、炎を体を分解する事で回避する。斬り飛ばされた頭もカタカタと耳障りな音を立てながら浮かび上がり、回避に入っている。
同時、背後から感じる脅威の予感に、飛び上る。次の瞬間に背後から大鎌が襲い掛かってきたのを視認し、判断が正しかった事を悟る。ニグレドも大鎌の攻撃を回避しつつ素早くデスイーターの骨を二本、真っ二つに砕いて床に叩き落とすのを確認し、ステップを取る様に横へ着地する。
「アレだな。こいつ、物凄く面倒なタイプだ」
「たぶん……骨……全部砕かないと……駄目……かも」
「あ、ぼくはこっちでつるはし振るってるんで頑張ってください」
どうやら採取が出来る場所を発見したらしく、カナンは良い笑顔でつるはしを振るい始める。それが原因で死んだら本当に笑えるのだろうが、現状、デスイーターのヘイトは完全に此方へと向けられている。その姿を確認し、弾丸のように飛んでくるデスイーターの骨を自分は拳で、そしてニグレドはナイフの柄で砕く様に迎撃しながら横へ転がる。
「持久戦か」
「……」
コクコク、と頷くニグレドの姿を確認し、敵を滅殺する為に召喚術の準備に入る。おそらく、考えられる限りで面倒な部類に入る相手ではあろうが、ボスである事には間違いがない。自分の持てる全てのスキルを持って殲滅の体勢に入る。
◆
「その邪魔な大鎌を迎撃しろヴァルキリー!!」
「ハァァァ!!」
ボス部屋と呼べる広間に浮かぶ大鎌の数が二つから四つに増えていた。絶え間なく大鎌が回転しながら死のワルツを演出し、襲い掛かって来ていた。タンクが存在しないパーティーであるため、攻撃を防いでから確実に攻撃を叩き込むという手段が取れず、ニグレドと共に広間を縦横無尽に駆け回りながら入り込めた瞬間に骨を砕き、攻撃を叩き込むというスタイルを取っている。ただそれもどう足掻いても限界があり、ヴァルキリーを召喚させられる。召喚されたヴァルキリー右手の銀槍で大鎌を殴り飛ばす様に迎撃し、それを床や壁に叩きつける事で短い時間ではあるが、攻撃不能の状態へと追い込んで行く。
その隙をつく様に、部屋全体を周回する様に浮かび、攻撃の為に襲い掛かってくる骨を砕く。骨自体の耐久力はそう高くはないが、弾丸のように飛んでくるその一撃はかなり痛い。拳での迎撃に失敗したとき、そのまま拳を砕かれてしまい、左手が使用不可能になっている。【マントラ】は体力の回復効果はあっても、傷の治療に対してはそこまで効果を発揮しない。故に、片手が使えなくなり、【仙術】と【陰陽道】による組み合わせを封じられていた。
ただそれでもスキルそのものは使える。前衛として前に出つつ、襲い掛かってくる骨を迎撃し、精霊を召喚し直す事によって、この空間を維持する。
そうやって三十分ほど戦い続けたところで、
「ヘルにでも泣きついていろ!」
大鎌を四つ、同時に無効化させたヴァルキリーがそう叫びながら神聖だと一目でわかる光を槍に纏わせ、それを一撃として薙ぎ払う様にデスイーターへと叩き込んだ。それがトドメとなったのか、直接頭へと響かせるような断末魔を響かせながらデスイーターのボロ布が、そして大鎌が力を失って床へと落ちる。表示されるドロップに、これでデスイーターの討伐が完了した事を証明していた。
「ふん、薄汚い亡者め。生者を呪う前にやる事があるであろうに……」
「かっこつけてるけどヴァルキリーさんがまたラストアタック持ってった……」
「さて、エインヘリヤル共を鍛えないといけないな! さらばだ!」
そう呟くとヴァルキリーが魔法陣の中へと逃げて行った。お疲れ様、と心の中で呟きながら、視線をニグレドへと向ける。流石に疲れている様子があるが、充実感に満ちた表情でもあった。サムズアップを彼女へと向ければ、ニグレドもサムズアップを返してくる。
そうやって、デスイーターの存在した空間にはカーンカーンカーン、とツルハシが突き刺さる音しか響かなくなった。ドロップをインベントリの中に格納しつつ、その内容を確認するのは後でにしようと考え、視線をカナンへと向ければ、実に満ち足りた表情でつるはしを振るう上半身裸の青年の姿があった。
「見た事もない鉱石がいっぱいでると興奮しますねぇ! これで色々となんか作れそうですわ!」
「なんで脱いでるん」
「ノリで」
じゃあしょうがないな、とニグレドと視線を合わせて納得する。ただ、もう二度とデスイーターと戦いたいとは思わなかった。この先、デスイーターと同系統のエネミーが出現したとしても絶対に先制爆撃か何かで骨を全て一瞬で破壊する事を誓う。いや、多分それが一番正しい戦闘方法なのかもしれない。広範囲を魔術か召喚術で一気に爆撃、それでケリをつけるのがいいだろう。この反省も後に回す。とりあえずは満足げなカナンが服を着ている間に、戦闘による成長をチェックする。
名前:フォウル
ステータス
筋力:20
体力:21
敏捷:21
器用:23
魔力:33
幸運:15
装備スキル
【召喚術:26】【精霊魔術:23】【陰陽道:22】【ルーン魔術:28】【仙術:23】
【マントラ:22】【錬金術:11】【瞑想:18】【索敵:19】【鑑定:19】
【投げ:16】【格闘:21】【身体強化:19】【見切り:20】【召喚師の心得:15】
SP:12
全体的にヴァルキリーが経験値を掻っ攫っていったような気がする。間違いなく【ルーン魔術】のレベルの上昇っぷりはヴァルキリーが大活躍した所にあるのだろうが、あの女は本当に手加減する気が皆無だな、と思う。【召喚術】よりも先に【ルーン魔術】がレベル30に到達しそうな気配すらある。それ以外に関すれば、全体的に物理系が成長したとも言える。【陰陽道】と【仙術】は拳が砕けてから使えなかったため、砕けた拳で殴ったりしたのだ。
そりゃあ上がるわ、と納得するしかなかった。これでもまだ30には届かないのが辛い。
「ふぅ……とりあえずカナンは終わった?」
「終わりました。本当にありがとうございます。最初はこのまま地下で殺されるんじゃないかと思っていましたけど、なんか予想よりもいい成果ですし。文句は多少しかありません」
「まぁ、多少はね? 目的達成したしいいでしょ」
「そうなんですけどね」
お互いに言いたい事は色々とあるかもしれないが、最終的に目標は達成できたので、お互いにそれはいいという事にする。忘れろ、ではなく飲み込んでおけという事だ。最終的にお互いの目的は達成できたのだから、態々引っ張りあげて叩きつける事はなく友好的にしようという意味だ。あぁ、本日は疲れたから地上に戻って休もうか、と思っていると、
左拳に痛みを感じる。
「いったぁ―――!! なにやってんだよ!!」
「治療」
左拳に痛みを感じると思ったら、そこにはポーションをぶっかけ、包帯を巻きつけるニグレドの姿があった。そういえば左拳は砕けていたんだよな、と今更ながら思い出す。回復魔法は習得していない為、割とここらへん、不便かもしれない。今度は回復魔法を習得した方がいいのかも、と思いつつ左拳に関してはニグレドのなすがままにする。
「……フォウルさんは痛覚入れてるんですね」
「まぁ、この方が圧倒的に”生”を感じられるから―――あいったぁー! もうちょっと優しくできませんかねニグレドちゃん」
「無理」
断言された。はぁ、と息を吐くと、帰還の準備を終えたカナンが近づいてくる。そう言えば良く戦闘中に死ななかったなぁ、と思いつつその姿を視線で追いかけていると、近寄ってきたカナンが人差し指を持ち上げる。
「ところで報酬の話ですけど……事前に内容に関して相談がなかったわけですが、個人的に発見した【鍛冶】や【錬金術】、生産系スキルの品質向上の方法なんかでどうでしょう」
「あ、俺はそれ知りたいけど―――」
ニグレドはどうなんだろうか。そう思いつつ視線をニグレドへと向ければ、ニグレドは頷く。
「私もそれで……大丈夫」
「ではそういう事で。内容に関してはここだと危険なので地上に戻ってから教えますね」
「了解。あと治療サンキュな」
「……」
ぐっ、と無言でニグレドはサムズアップを向けてくる。何だかんだでこの合法ロリは女子力高いんじゃないかと思う。治療の手際とかを見ると物凄く良いし。いや、違うか。ファンタジー慣れしているだけか。
ともあれ、望んだほどではないが、結果を出す事は出来た。個人的には少々残念と言える結果ではあったが、それでも少しずつ強くなっているのは間違いのない事実であった。このままこのペースを―――とは思うが、それは無理だろう。少なくとも、
今の自分の心は、この程度では満足が出来ないと言っている。
もっと強敵を、もっと広い世界を、もっと心をそこから震わせるような出来事を。
ただただ、それを体と心が求めていた。それを念頭に置きつつ、やるべき事、進めたい事を頭の中で纏めつつ、本日の冒険を廃坑からアイテムを使用する事で脱出する事で追える。
そろそろ、【錬金術】のレベルを上げないといけないな、とも思いつつ。
安定のヴァルキリーさん
18禁とか15禁とかはプログラム側が認識し、抵触する出来事を目撃した場合はそれを正しく認識できなかったり、干渉でいなかったりとかそんな感じかなぁ、と思っていたりする。世界観は考えててもゲームとしての設定はスキルとかのシステム周り以外は割と雑だったり。




