7人目 冬月 美雪
私の毎日は慌ただしい日々で追われていた。
朝は早起きして弟妹達の朝ご飯を作って。学校に行き、学校から帰ってきたら家事を始める。そして夕飯の準備をし、弟妹達に夕飯を食べさせたら、残りの家事をする。私が寝る頃には弟妹達はスヤスヤと寝息をたてて寝ている。 そんな生活だ。
私の両親は出稼ぎに行っている。七人の子供を残し出稼ぎに行っているので家のことは一番上である私が全部やっている。
親戚は皆遠い場所に住んでいるから協力してくれない。
────お姉ちゃんだから。
というのがいつの間にか自分の口癖になっていた。
だけど高校三年生である私には進路やテストが大変である。
進路は家計を助けるために働きに出ようと思っているが、先生たちは進学の方がいいと勧めてくれた。
学年の中でも頭のいい私だから、先生たちは余計に進学を勧めてくる。私も夢というモノがある。
だが、私の夢を叶えるには頭の良さ、そしてお金が必要だ。夢を諦めて働きに出ようと決意したのは高二の時だった。弟妹たちはどんどん大きくなる。それに連れてお金も必要になる。出稼ぎに行っている両親のお金じゃ、今もキツイというのにさらにお金が必要となると食べていけなくなる。
そのことを考えていると勉強する意味がわからなくなっていた。そして今も窓の外をぼーっと眺めながら授業を受けていた。
「美雪、美雪」
授業中なのに小声で私に話しかけてきたのは友達の梨香子だった。
「どうしたの?梨香子」
「あのね、さっき先生が説明してた公式わからないの…。放課後少しだけ教えてくれない?30分くらいでいいからさ!」
梨香子は両手を合わせて「お願い!」と言ってきた。まぁ、30分くらいなら大丈夫かな?
「いいよ、でもそれ以上の時間は取れないからね」
「ありがとう!」
梨香子は大きな声を出してしまい、先生に注意されたのは言うまでもない。
─────────…
梨香子は飲み込みが早く15分程度で終わった。今度お礼にお菓子をくれるそうだ。
私は急いで帰って夕飯の支度をする。人数も多いから当然時間も掛かる。
「お姉ちゃーん」
「んー、なに?小春」
小春は次女の中学三年生だ。
「今度さー、友達と買い物行くからお金頂戴」
「は!?この前お小遣いあげたでしょ!」
「足りないんだよー、それじゃあ」
小春はちょっとお金使いが荒い。なのでお小遣いがない時は大抵私のお金を借りに来る。(本人は借りに来るのではなく貰ってる感覚だけど。)
「お姉ちゃんだって、お小遣いもらっても使わないじゃーん」
「あのね、これは生活費が足りなくなった場合に使ってるの!小春はちょっとお金使いが荒いんだから!少しはうちの現状も考えて!それより手伝ってよ!」
「もうわかったよー、じゃあ行くのやめればいいんでしょ!!」
小春はふてくされてみんなの寝室部屋に引きこもってしまった。
いつも家事やってるんだから、たまには手伝ってよ。
──────────…
ミヤは水晶を見て、隣にいる執事を見て、また水晶を見て、執事を見て…を何度も繰り返していた。
「なんですか、お嬢様。そんなチラチラと」
「執事はいつも私の身の回りのことやってくれるよね?大変なの?」
執事は「はぁー」とため息をついた。
「そりゃあ大変でございますよ。人間と同様家事というモノをやらなければなりませんし」
「ふーん、おもしろそう…」
「は?」
「家事とかおもしろそう!私やったことないから……決めた!今日は私が家事をやる!」
「え、えっと…おやめになった方が…よろしいかと…」
執事は予想をしていた。家事と言う名の仕事を増やされるだけだと…!
「何事も経験だよ!そうと決めれば着替えなきゃ!」
ミヤは水晶のある部屋を飛び出した。執事は仕事を増やされる覚悟をし、トホホ…という顔をしていた。
「…本日は犠牲者が見つからなかったのですかね」
独り言のようにつぶやき、執事はミヤを追いかけた。
─────────…
弟妹たちが寝ている時間に電卓の音が部屋に響いてた。
「赤字だ…。お父さんたちの振り込みまでに食べる物足りるかな…」
美雪は家計簿をつけていた。日に日に赤字になっていくのに美雪は悩んでいた。バイトするにも時間が足りない。どうしようか…。と考えていると寝室の方から──ガラッ。という音が聞こえた。
「小春、どうしたの?それに何その格好!?」
小春は派手な服を着ていた。普段からおしゃれな小春だが、今着ているような派手な服を着ているのを見たことない。化粧も濃く、アクセサリーをじゃらじゃらと付けていた。
「そんな服やアクセサリー、いつ買ったの…」
「友達が買ってくれただけ、今から出かけてくるから」
「出かけるって、夜中だよ!?ダメに決まってるじゃない!こんな物騒な時間に」
「大丈夫だから」
小春の手にはスマホが握られていた。
「ちょっと小春、そのスマホもどうしたの!?」
「だから友達が…」
「友達がそこまでする!?」
いくら友達だからといって中学生がプレゼントするようなものではない。
「あ〜、もううっせぇな!!」
小春は家計簿を付けていたテーブルを蹴った。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!こんな貧乏な家だから友達がくれるんだよ!!文句あんのか!?」
「なっ…。小春!確かにうちは貧乏だけど、だからって中学生がスマホをプレゼントするの!?」
寝室からガタンっと音が聞こえた。
「おねぇちゃんたち、どーしたの…?」
四女の莉夏が起きてきた。おそらく寝ぼけてるが私たちの声で起きてしまったのだろう。
「なんでもないよ、莉夏。さぁ、早く寝なさい」
「うーん」と言い莉夏は布団に入った。
莉夏と話している時に小春は出て行ってしまった。あんなに物をどうしたのか…。幸い明日が休日で良かったと思った。
次の日の朝。小春は帰って来なかった。
弟妹たちは怪しんでいたが中学一年の三女の千秋の一言でみんなが小春の話をしなくなった。
「小春お姉ちゃんさ…、結構学校で有名なんだよね」
「千秋、どういうこと?」
私がそう聞くと千秋は俯いた。
「こ、小春お姉ちゃん。いろんな人の男の人たちと付き合ってるらしいの…。小春お姉ちゃんの周りの友達もそういう人達で…」
「え?」
時間が止まったように感じた。
小6の長男、春輝と小5の次男、秋人は意味がわかったらしく言葉を失っていた。
小3の三男、夏也と小2の四女、莉夏は首をかしげていた。
「そっか、教えてくれてありがとね。千秋」
朝の食卓から気まずい空気が流れていた。
──────────…
────ガシャン!!
────パリンッ!!
────ドンガラガッシャーン!!
「…執事。掃除というものは大変だねー。する前より汚くなったよ!」
ある意味才能だと執事は思った。それに最後のドンガラガッシャーンってどうやったらあんな音が出るのかと逆に興味が湧いた。
「お嬢様…。もういいです。自室にお戻りください…。」
「でもまだ綺麗なってないよ!」
執事はニコッと笑顔になり、その場所からミヤをつまみ出して内側からガチャっと鍵をかけた。
「ちょっ!執事ー!そこは私に掃除させろー!」
ドンドンっとドアを叩くミヤを無視して執事はミヤがやらかしたあれやこれやを片付け始めた。
「執事ー!」
「…なにしてるんですか、地獄ノ女王様」
ミヤはパァっと顔が明るくなった。
「クロア!いいところに!クロアの仕事室を掃除してあげる!」
「はっ!?」
「きっと資料だの、いっぱい散らかっているでしょ?だから私が掃除してあげる!」
仕事室というのは地獄の中心部であるここで各地区のリーダー達は資料を集めたりと仕事をすることがある。その為各地区のリーダー達は仕事室という場所を一人一部屋設けている。
「私は毎日キレイにしてますし、使ったのはきちんと元に戻してますので大丈夫です」
ミヤを「ぐぬぬ…」と呟いたが、すぐにあることを思いついた。
「ねぇ、クロア本当は仕事室汚いんじゃないのー?」
「は?…何を言ってるんですか?先程も言った通り私は毎日キレイにしてますし」
「汚いからそんなこといって私を仕事室に入れたくないんじゃないのー?」
クロアはカチンという顔をしていた。ミヤはもうひと押し!と思った。
「もうわかったよー、クロアは自分の仕事室が汚いから私を入れたくないんだねー?あ〜、残念」
「そ、そんなわけないじゃないですか!!来て確かめてみますか!?」
「うん!」
クロアはやっちまった…と顔をしていた。ミヤはクロアが負けず嫌いなのを知っていた。
「早く行こー!」
ミヤはクロアの腕を引っ張った。
そのやりとりをドア越しに聞いていた執事はクロア様ご愁傷様です。なんて思っていた。
─────────…
小春が帰ってきたのは次の日の夜だった。つまり二日ぶりに帰ってきたということだ。弟妹たちが寝た頃に帰ってきた小春を私は待っていた。話しをするために。
「小春、ちょっと」
「なに」
小春は私を睨んできた。睨みたいのは私の方だ。
「千秋から全部話聞いたよ、男の人たちと付き合ってるの。それも全部プレゼントしてもらったんでしょ?」
「…だったらなに?」
「付き合うのは遊びじゃないんだよ、わかってる?複数の人と付き合うのはどうかと思うけど。」
「うっさいなー、いいじゃん。ホイホイと金出す方が悪いじゃん。」
「まさか、社会人と付き合ってるの…!?それも複数の人と!」
「だってさ、デートに付き合えばプレゼント買ってくれるんだよ?うちの両親みたいにちまちま働いて貧乏生活するより、一回で稼げるならそれでいいじゃん。」
「小春…、あなたのために働いてるのよ!?私たちが生活できるようにって!それを…!」
小春は「はぁーっ」とため息をついた。
「お姉ちゃんだって本当はやりたいことあるじゃん、将来の事とか。けどお金なきゃできないじゃん。お姉ちゃんも社会人とデートしてお金貰いなよ」
パチンっと乾いた音が響き渡った。私が小春の頬をビンタしたからだ。
「いった…」
「小春、今日はもう寝な」
「言われなくてもわかってるよ!!」
小春はばんっ!と勢い良く寝室のドアを閉めた。
私だってお金があれば看護大学に進みたかった。勉強も頑張ってきた。けどどんなに頑張ってもお金がなきゃ意味がない。
世の中、お金だ。お金を持っている人が勝ち組なんだ。きっと貧乏じゃなければ小春もあんなことには…。
「家事ができても悩みってあるんだね」
女の子の声が聞こえた。莉夏かと思ったけど莉夏と声が全然違う。顔をあげると小さな女の子が立っていた。
「え!誰!?」
夢でも見てるのか、それとも疲れすぎて幻覚?
「私はミヤ!お姉さんってすごいよね、家事をなんでもこなして弟妹たちの面倒を見て!」
ミヤという子は真っ黒な洋服を着ていた。うちの貧乏な家には似合わないお嬢様が着るような服を着ている。
「ねぇ、お姉さんの願い一つだけ叶えてあげようか?」
「え?」
願い…私の願いは沢山ある。けど、一番は──。
「小春が…」
この世から居なくなればいい──。
…なんて恐ろしい事を考えてしまった。確かに小春がいなきゃ、こんなに悩んだり苦労しなかったかもしれない。それでも私の家族だ。私の妹だ。そんなことを考えてはいけない。
「…願いなんてないよ。今の生活で十分だから」
これが私の答えだ。お金では買えないモノがある。私はそれをたくさん持っている。だから、願いなんて叶えてもらわなくてもいい。
「そっかー、わかったよ!」
そのまま私は眠りについていた。
朝起きると小春がまた居なくなっていた。また夜に外に出て遊んでるのか…。と思っていた矢先だった。
家にある電話がメロディーを奏でていた。うちに電話が来るなんて珍しい…と思い私は受話器をとった。
「もしもし?」
「もしもし冬月小春さんのご家族の方ですか?」
「はい、私の妹ですけど…」
「私、○○警察署の者です。実は小春さんが─────────。」
警察官の人が電話してきた訳を聞いた瞬間、時間が止まったような気がした。力が抜けて──カツン。と受話器を落としてしまった。
私があんな事を思ったから罰が下ったんだ──。
───【お姉さんの願い叶えてあげたよ!】
そう誰かが呟いたような気がした。
──────────…
ミヤこと地獄ノ女王は大きな水晶を見ていた。
「…お姉さんの願い叶えてあげたよ」
ミヤは水晶に向かってつぶやいた。
「……なんでよ、なんで私が死ななきゃいけないの!?」
ミヤの横にいた女の人が叫んだ。
「なんでみんな笑ってるの!?私死んじゃったんだよ!?」
女の人は泣いてる。
「なんで!どうして!?お姉ちゃん助けてよ!!」
女の人はとうとう泣き崩れてしまった。
「仕方ないよ?あなたが夜また勝手に家を出て、事故で死んでしまったのだから」
女の人はキッとミヤを睨んだ。
「それに家族にあんな態度とったら嫌われるよ。あなたも家族がうっとうしいかったんでしょ?あんな大人数だしね?でもそのぶん家族もあなたがうっとうしいかった、噂もあっから…。」
「………。」
「あなたはもう生きれない。だから私と一緒に来て、小春お姉さん。」
─────────…
【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが大きく揺れた。
「お嬢様、めずらしいですね?人間の願いを叶えるなんて」
「……尊敬する人の願いは叶えてあげるの!それにあのお姉さんは犠牲者に最適だったし!」
ミヤくるっと自室をの方を向き歩き始める。
そんなミヤの前から怒ったクロアがやってきた。
「あ!地獄ノ女王様執事!!オマエ、なぜ地獄ノ女王様から目を離した!!」
クロアは今にも執事の胸ぐらを掴みそうな勢いだった。そんな状況をミヤは興味津々と見ている。
「なんのことでしょうか…」
「私の部屋が地獄ノ女王様のせいでめちゃくちゃなんだ!!」
「え…」
執事はミヤの方を見た。
「クロアが1枚だけ片付けてない資料があったから片付けてあげようと思ったら──」
ミヤと執事、そしてクロアはクロアの仕事室に来た。クロアの仕事室を開けた瞬間、執事の口がヒクヒクとひきつってしまった。
「このざまだ…」
クロアの仕事室に大量の資料が舞っていた。そして本棚などが倒れて本が散乱している。
「なぜこうなるんですか!?」
「さっき話した通りだよー」
ミヤの話によるとクロアが仕事室を少し空ける時間があった。クロアから「なにもしないでください」と言われたのにも関わらず、ミヤはクロアの先程まで使っていた1枚の資料を片付けようとした。その資料をしまう場所がミヤの身長では足りなく、クロアのいつも座っている回転するイスの上に乗って資料をしまおうとした。───が、回転するイスが不安定であり、おまけにイスを使ってもギリギリ届くか届かないの高さであった。届いてしまおうとした時だった──回転するイスがクルッと回り、伸ばしていた手がたくさんの資料を飛ばしてしまい、見事にたくさんの資料が美しく舞っていった。
今度はそれを片付けようとしたミヤは床に散らばっている資料に滑り、本棚に掴んだがそのまま本棚も倒してしまったというわけだ。もう自分ではどうにも出来なくなってしまったミヤはクロアが戻ってくる前に逃げたというわけだ。
「よく、本棚の下敷きになりませんでしたね…」
「危険を感じて、すぐ余けた!!」
「そんな自信満々に言うな!!どうしてくれんですか!?」
「…執事が片付けてくれる!」
「は?私がこれをですか…?」
「うん!やっぱり私には掃除…ていうか家事に向いてないみたい!!」
その後、ミヤはクロアにげんこつを喰らったことは言うまでもない。
美雪はミヤの憧れの的になっていますw
家事ができるから、たったそれだけで憧れの的になれるなんてw
なので、ミヤの目には小春が嫌な奴に見えたんでしょう。
ミヤの家事のできなささは天下一品ですw
え?作者ですか?
作者は…(;-ω-)ウーン…(T▽T)アハハ