6人目 吹咲 奏
地獄にも定例会というものがある。
地獄に堕ちた者の人数確認やこれから堕ちてくる者達の確認をする。
各地区のリーダーが集まって報告をする定例会を地獄ノ女王ことミヤは暇そうにしていた。
「……となります。以上です」
「お嬢様、これで全部終わりました。なにか一言おねがいします」
「うーん。特にない!」
ミヤの一言に一人の女の人が立ち上がった。
「地獄ノ女王様!あなたはいつも勝手過ぎますし、適当過ぎます!!」
「また、クロアー?別にいいじゃーん」
「よくありません!」と言い、クロアことクロア=ニュウエはミヤを指さした。
「地獄ノ女王様はいつも勝手に地獄に落とす者を決めており、私たちも迷惑しております!勝手に決めないでください!」
周りの人達は「また始まったよ…」と思いながら二人のやりとりを見ていた。
「クロアの言いたいことはわかったよー。でも、それは無理な話だよ」
「なぜですか!」
「私の犠牲者は私で決めたいから」
ミヤはニコッと答えた。
───────────…
ミヤはベッドのど真ん中で絵を書いていた。
「お嬢様」
「んー、なに執事ー。」
「クロア様の言った通り、少々控えた方がいいかと…」
「なにが?」
「犠牲者のことです」
ミヤの手が止まった。
「執事、私の契約を破るの?」
「い、いえ。そのような事は…。ただこんな頻繁にやっていると趣味程度じゃ、見られなくなるんでは…」
ミヤはまた絵を書き始めた。
「大丈夫だよ、その心配はないよ。だって、私は地獄ノ女王だよ?」
ミヤの絵には「きょうのぎせいしゃはだれにしよう」と書かれていた。
────────…
ある会場でピアノのコンサートが開かれていた。その会場で奏でられているメロディーに皆息を呑んでいた。
母は有名なピアニスト、父は有名な指揮者の間に産まれた一人娘だった。
演奏が終わると拍手が会場に響き渡る。
天才少女、吹咲奏はその場で一礼をした。
──────────…
音楽科のある高校に奏は通っている。朝から家でピアノを少し弾いて、学校でも授業の一環としてピアノ弾いて、夜はレッスンに行きピアノを弾くという。毎日ピアノを弾いていた。
奏はいつも技術テストで一位をキープしていた。両親が有名な音楽家で才能もあったが、それ以上に頑張ってきた。親の七光りなんて言われないように。
今日も技術テストがある。奏はいつものようにピアノを弾いた、いつものように───…。
─────────…
「ピアノは心が和むねー、執事」
ミヤは水晶を見ながら言った。
「…お嬢様の口からそんな言葉が出るとは思ってはいませんでした。」
「あの人の弾くピアノもいいけど、心もいいよ!次の犠牲者に最適!」
ミヤは水晶に映っている吹咲奏を見ながら言った。
──────────…
『2』
この単語は私の技術テストの順位である。技術テストは私は毎回『1』だった。パーフェクトに演奏した筈なのに…!誰が一位に!
技術テストの順位が書かれている紙をぐしゃっとした。
「詩音すごーい!技術テスト1位じゃん!」
一人の女子の一言で教室はざわめく。
詩音…睦月詩音が技術テストで1位になったって事は私が1位ではないこと。有名な音楽家の両親を持ちながら、普通の家庭に生まれた睦月詩音に負けたんだ。
私が負けたことにみんな驚きを隠せていない。それもそうだ。音楽家の両親を持っているというせいもあるか単独のコンサートを開く私だ。そんな私が負けたのだから…。
「はーい、静かに」
担任の先生が声をかけた。
「皆さん、来月にあるこの学校の伝統行事である定期演奏会があります。」
音楽科であるため年に2回ほど定期演奏会がある。開校してから毎年行われており伝統深い行事である。
「そのトリを睦月詩音さんにお願いしたいと思います」
トリまで取られた…。
トリをやる人は全学年の中で一番上手い人がやる。1年の時はどちらも私がやった。まさか2年生になってトリの座を取られるなんて…!
睦月詩音はみんなに拍手をされながらその場に立ち上がりお辞儀をしていた。
「おめでとう!」「よかったね、詩音!」などと睦月詩音にみんな喜びの声かけていた。
──────────…
レッスンの無い日は放課後、音楽室でピアノを弾くのが日課だ。今日は珍しくレッスンが休みだったので音楽室に向かう。音楽室に近づくにつれてピアノの音が聴こえてくる。
(誰?この音は先生かな…)
綺麗な音色だった。
ガチャっと音楽室の扉を開けて目を疑った。
「あ、奏さん」
睦月詩音だ…。
「さ、さっきのピアノは睦月さんが?」
「はい!下手くそですけど…」
下手くそなら技術テストで1位になれないでしょ…。
「ところで奏さんはどうして音楽室に…?」
「ピアノのを弾こうと思ったけど…今日はもう帰るわ」
「あ、…お気を付けて」
私は音楽室を後にした。
あの音色を聴くのはおかしくなりそう。
音色で魔女が私を惑わすんだ。1位の私が「あなたは1位じゃないのよ」って惑わすんだ。
─────────…
ミヤはある本を見ていた。
「『魔女は人を惑わす生き物だ。』って書いてるんだけど、執事これ本当だと思う?」
「…そういう魔女もいるかもしれませんが、全員そうとは限らないと思います」
「自分が悪いのに魔女のせいにされる人って可哀想だよねー」
ミヤの読んでいた本のページには魔女が笑って人間が泣いていた。
─────────…
定期演奏会まで一週間。
皆自分の披露する楽器に真剣に取り組んでいた。
「吹咲さん、そこはもう少し感情豊かに!」
「はい」
私も先生の指導を受けながら最後の仕上げに入っていく。
だが、先生の指導が日に日に厳しくなっていった気がした。
「吹咲さん!!そこはもっと感情を込めて!上の空になってますよ!」
「す、すみません!」
なんで?こんなに頑張ってるのに…!
私は休み時間も削って、ピアノに取り組んだ。
昼休み。一番休み時間が長いから。練習するには最適だ。
でも音楽室が近づくにつれて聴こえてくる。魔女の音色が。
魔女の音色につられて、誰が弾いてるの?と音楽室の前を通る人が音楽室を見ている。
魔女の音色が定期演奏会のトリを任せれる…?
そんなのだめよ。定期演奏会に来てくれた人まで魔女に取り付かれてしまう。
───魔女を退治しなければ。私がトリをやらなければ…!
放課後も音楽室から魔女の音色が聴こえてくる。この忌まわしき音色を止めなければ。みんなが魔女に取り付かれてしまう前に。
ガチャっと音と共に魔女の音色は止まった。
「あ、奏さん!」
「睦月さん、また残って練習?疲れてない?」
「はい!定期演奏会も近いし頑張らないといけませんから!でも少し疲れてるのは事実ですね」
魔女は微笑みながら嬉しそうに言った。
「疲れてるなら、楽になりましょ?」
「え?」
鈍い音と共に魔女の頭からたくさんの赤いのが流れた。
魔女は私が退治した…!私は魔女を倒した英雄だ…!
音楽室には鉄の臭いで埋め尽くされていく。
英雄は誰にも顔を見せちゃいけない。
私はその場から立ち去った。
────────…
定期演奏会の日が来た。睦月詩音は意識不明の重体。頭からあれだけ血を流したのによく死ななかったものだ。
舞台裏ではみんなが慌ただしくしていた。でも最後のトリである私は時間がたっぷりあった。近くのベンチに腰を下ろした。みんなが慌ただしくしているのを横目で見ながら。
────「お姉さんもあの舞台に立つの?」
女の子の声が聞こえた。
「お姉さん、横!」
私の隣には小さな女の子が座っていた。真っ黒なドレスのようなものを着ている。見に来て迷い込んだのかな?
「やっと、見てくれたね!私、ミヤって言うの!お姉さんの弾くピアノ早く見たいなー!」
ミヤという女の子は足をバタバタさせながら私にむかって言った。
「ありがとう。あなたは誰と来たの?」
ミヤは「一人で!」と答えた。
「お兄ちゃんかお姉ちゃんを見に来たの?」
「ううん、私はお姉さんを見に来たの。お姉さん有名だもん!」
こんな小さい子でも私の名前を知ってるなんて…。やっぱり私は天才なんだ。
「ありがとうね」
ミヤは笑顔で「いーえ!」と答えた。
先生が遠くから走ってきた、私の顔見た途端安心した様な顔を見せた。恐らくそろそろ出番なんだろう。
定期演奏会でトリを出来るのは嬉しいことだか同時にすごい緊張する。自分のコンサートよりも緊張してしまう。でも指が全て覚えてる。
いつもどおりにやれば大丈夫。
私が弾き始めると自分でもわかるくらい会場の空気が変わる。
その瞬間は私の好きな時。
いつものように指を滑らせる。いつもと違うのは人が沢山いるというだけ。それ以外変わりはない。
最後の最後まで手を抜かず、一つ一つの音を大切に弾いた。
私が前に出てお辞儀をした瞬間、拍手や歓声が起こった。気持ちいい、すがすがしい。
けど私の真上にあるスポットライトがグラグラしてるのに私は気づかなかった。
──ゴスっと鈍い音と共に私の頭から痛みが走った。どんどん体に力が入らなくなる…。
客席に居る人達は悲鳴をあげていた。
瞼が重くなった。
─────────…
おもちゃのピアノのような音が聴こえる。荒々しく鍵盤叩いてるような音が聴こえる。
「あ、お姉さん起きた?」
「あなたは…」
舞台裏にいた女の子だ。確かミヤだっけ?
ミヤの手には小さいおもちゃのピアノがあった。おそらくそれで弾いて(?)いたのだろう。
「なに、この大きな水晶は?」
次に私が目に入ったのは横にある大きな水晶だ。自分よりでかい水晶である。
「いろんなのを映してくれる水晶だよ!お姉さんの様子もぜーんぶ見てたよ?」
私の様子も…?
「だからお姉さんが人を殺そうとしてたのも見たよ!英雄気取ってた所もね!」
英雄気取ってた…?魔女を倒したのよ、私は!英雄気取ってたわけではない!私は英雄なんだ!
「お姉さん、いい加減気づきなよ。お姉さんは英雄じゃないお姉さんが魔女だったんだよ?」
私が魔女…?
「違う!私は魔女なんかじゃない!!」
「英雄は自分勝手に人を殺さないよ?それにお姉さんは認めたくなかったんでしょ?自分より才能がある人を。本当は気づいてたはずだよ」
「う、うるさい!うるさい!なによ!!なにも知らないくせに!!ここはどこよ!?帰りたいわ!!」
帰ってピアノを弾かないと指が鈍ってしまう。
「帰れないよ?」
「…え?」
「お姉さんは死んで地獄に堕ちたんだよ♪」
何を言っていてるかわからない。
「お姉さん、人を殺しちゃったもん。結局あの人も定期演奏会中に息を引き取っちゃったし。自業自得だね?」
地獄…?人を殺した…?
「認めたくないよね?けど、大丈夫。私が可愛がってあげるからね♪」
───────────…
「7人目だよ、執事。」
「そうでございますね。」
ミヤは自分の所有物部屋を見て回っている。広い所有物部屋にあるのは、空っぽの大きな細長い瓶がチラホラある。
「…早く全ての瓶を埋めなきゃね。そうしたらきっと……。」
ミヤは所有物部屋の奥の方を見ていた。執事はその様子を見て、何も声をかけることが出来なかった。
昔から褒められてきた天才は褒められなくなると、褒められてる人に嫉妬してしまう。と作者の思い込みで書きました。
奏は褒められるのが昔から褒められるのが普通だと思っていたんでしょうね。
そして、クロアの登場です!
クロアとミヤの絡みを書くのが好きです!
クロアは仕事の出来る女、という設定になっています。見た目は17歳くらいの設定ですが。
ちなみにミヤは見た目は10歳くらいで、執事は20代前半です。
今後ともクロアとミヤの絡みを書いていきたいと思います