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地獄ノ女王  作者: 夜魅
33/35

30人目 赤佐 千結

『その昔──地獄が出来て、まだ日が浅かった頃、当時の地獄ノ王女が亡くなった。

 当時の地獄ノ王と地獄ノ女王は深い悲しみに陥った。地獄の住人もそうだった。

 なんとしてでも王と女王は王女──愛娘(まなむすめ)を生き返したかった。

 そこで王は黒魔女に相談した。

 すると黒魔女はこう言った。

 『王様と女王様の力と私、黒魔女の力、もう一つの力で王女様を生き返らすことが出来ます』

 王がもう一つの力はなんだ? と黒魔女に問いかけた。

「もう一つの力は──」


 王は黒魔女の言う通りにした。

 少しだけ歳月がかかってしまった。それはもう一つの力を手に入れるのに少々時間がかかってしまったからだ。

 こうして黒魔女の言われた通り王女を生き返らすための力は揃った。

 実行に移し、王と女王は願った。

『どうか生き返って──』

 祈りが通じたのか、王女は生き返ったのだ。

 しかし記憶が無かった。

 それでも王と女王は喜んだ。

 たとえ記憶がなくても、また一から始めれば良いのだと。

 そして歳月が流れ、王女は女王となった。

 未来の地獄ノ王を産み、安らかに眠りについた。』



 地獄図書館の中でも一番古いと言ってもいい本をエルリとクロアは読んでいた。

「誰が書いたのかしら」

「それはわかりません」

「こんなのじゃ、ミヤちゃんの目的のヒントなんかわからないわ……」

 エルリは本をパタンと閉じた。

「"もう一つの力"って何でしょうね」

「そこなのよ。そこだけなぜか塗りつぶされているのよね」

「しかも誰かが塗りつぶしたような跡……」

「こんな古い本なんか読む人あまり居なさそうなのにね」

 クロアはその言葉に引っ掛かりを感じた。

(読む人があまり居ない……)

「あー! 天国ノ王女様とクロアさんだ!」

「リルキ静かに」

「あら、あなた達は……」

 エルリとクロアの前に双子のリルキとリミカが現れた。

「天国ノ王女様、クロアさんお勤めご苦労様です」

「あなた達もね。ところでどうしてここに……」

「ボク達、地獄ノ女王様の事でなにかヒントになるものを探しに来たんですよ〜」

「あら、私たちと一緒ね」

「そうだったんですか〜、ところでこの本なんですかー? すごく古そうですけど」

「これは昔地獄であったことが書かれていたわ」

「読んでもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 リルキはエルリとクロアが先程まで読んでいた本を読み始めた。

 リルキの顔がどんどん真面目な眼差しに変わっていく。

(いつもこれなら良いのに)

 と、クロアは心に留めておいた。

「塗りつぶされている……?」

 リルキは呟いた。

「ええ……そこだけね」

「……この塗りつぶされたところ新しいよ」

「え?」「なに?」

 エルリとクロアが同時に返答した。

「どういうことですか、リルキ」

 リミカは動じなかった。

「そのままの意味だよ。このインクの濃さだと、ここ最近……人間界の時間だと最近ではないかもしれないけど地獄の中では新しいほうだよ」

 リルキの言葉にエルリとクロアは顔を見合わせた。



  ◆ ◆ ◆



 私の夢は医者になること。

 それは小さい頃からの夢であった。

 父は医者であった。

 小さい頃から接する時間は普通の家庭より遥かに少なかったけど、それでも大好きであった。

 父は有名病院の医者をしていた。

 そして父は言った。

「人の死より悲しいものはない──」

 父は患者が亡くなると私を抱きしめた。

「また若い子が亡くなってしまった。それはそれは可愛くて綺麗な子だった。」

 父が泣いている、私にはどうにも出来ない。

 だから私は決めたんだ。

 人の生命を散らせはしない。

 父が泣かなくてもいいように。

 全ての人を"死"から救おうと。


 など、と思っていたが現実はそんなに甘くなく。

 2年生になってから3度目の留年を過ごしていた。

 天気がいいので大学の外にあるテラスで──

「……はぁ、わけわかんなーい!!」

 医療の本を見ても、チンプンカンプンな内容に頭がパンクしてしまいそうだった。

「が、頑張りましょうよ。千結(ちゆ)さん!」

「もぉ、無理ぃー」

 現役合格したのはいいが医療大学の勉強の難しさを甘くみていた……恐るべし!

「そういえばこの前のテストろのちゃん満点だったんでしょ? 教授たちが話してたの盗み聞きしたけど」

「そんなのわかりませんよ〜。そもそもテストの点数は生徒がわかることじゃありませんし」

「なんだこいつぅ!」

 私は、ろのちゃんのおでこにデコピンをした。

「痛っ。千結さん〜」

「あははーっ」

 ろのちゃんは可愛い妹みたいな存在だった。3度目の留年をしている私に対しても優しく接してくれる。

 ろのちゃんの父親は小さな個人病院を経営しているようだ。

「というか、ろのちゃんどんな勉強法してるの?」

「えー? 秘密です」

「なんだとー」

 もう1度おでこにデコピンをしようとしたら「やめてくださいー!」と言い、おでこを隠された。

 可愛い妹め。



  ◆ ◆ ◆



 ミヤは大きな水晶を見ていた。

「怖いねー、人間って」

 そう呟いた。



  ◆ ◆ ◆



 結局テストの結果は惨敗だった。

「あー、もう、ろのちゃん!! やけくそにケーキでも食べに行かない!?」

「千結さんごめんなさい。私今日用事があるんです」

「何、男か!」

「違いますよ」

「この私を差し置いてリア充に……!」

「だから違いますって!」

「もういいもん、私一人で食べに行ってやる!」

 私が大げさに嘘泣きをしようとした途端だった。

「一人では行くなよー」

 背後から声が聞こえた。

「うわ、びっくりした」

(わたり)教授こんにちは」

「こんにちは久山(くやま)。おまえはいい子だな。それに比べて赤佐はいい年こいて何を……」

「あー、聞こえない〜」

「まぁ、いい。……けど一人で外は出るなよ」

「なんでですか?」

 ろのちゃんが亘教授に質問した。

「ここ最近、不可解な殺人事件が起きているんだ」

「はぁ? 何それ」

「赤佐は成人して何年経つんだ……ニュース見てないのか」

「全然」

 私の返答に亘教授は、ため息をついた。

「近場で殺人事件が起きてるの知らなかったのか?」

「そんなに多発してるの?」

「多発してるもなにもほとんど見つかった遺体がバラバラなんだ」

「うげぇ……」

「ただでさえ、今年は全国的に殺人事件が多いっていうのに、さらに近場が殺人事件が多いと不安だ。だから一人であんまり行動するなよ、いつ何が起こるかわからないから」

「わかりました。亘教授」

「本当に久山はいい子だ」

「ろのちゃんは渡しませんよ!」

「なにか勘違いしてないか」



  ◆ ◆ ◆



 ミヤは自室にあるベッドで睡眠をとっていた。

 人間界でいう昼寝、というものをしていた。

 そこに執事が現れた。

「お嬢様……寝てますね」

 スヤスヤと寝ているミヤの寝顔を見ていた。

「……本当に似ていますね」

 そう呟き、部屋をあとにした。



  ◆ ◆ ◆



 ろのちゃんといつものように一緒に大学に居た時だった。

「赤佐おまえ2年生何回目だよ」

 そう馬鹿にしてきたの一つ上の先輩であり今4年生である。

「三回目ですけど」

「うわ、だっせぇ。俺なら恥ずかしくて学校やめるわ〜。ってか、隣にいる子可愛いじゃーん」

 先輩は舐めるような目でろのちゃんを見てきた。

「俺と付き合わね?」

「嫌です」

 ろのちゃんがきっぱりと断った。

「はぁ? いいだろ? 俺お金持ちだし、こんな何度も2年生やってるやつと居るより、ずっと楽しいぜ?」

「お言葉ですが、先輩4年生二回目ですよね? 先輩が留年してないなら言うのはわかりますけど、同じ立場ですよね?」

 ろのちゃん言う時は言うんだなー、と感心していた。

「……調子乗んなよ、女風情が!!」

 先輩がろのちゃんに向かい、拳を上に挙げた。

 まずい、と思い私は咄嗟に先輩の腕を掴み、鳩尾に蹴りを入れた。

「かはっ……」

「に、逃げるよ、ろのちゃん!」

 私は、ろのちゃんの手を引っ張り大学をあとにした。


 大学から少し離れているカフェでひと休みしていた。

「千結さんありがとうございました」

「いいって、ろのちゃん」

「ほんと、私が変な事言ったから」

「いいよ、あれは事実だし……それにろのちゃんがあんなに言うなんて驚きだよ」

「引きましたか?」

 ろのちゃんは心配そうな顔をして聞いてきた。

「ううん、全然。むしろあんなに言えてすごいなー、って感心したよ」

「そうですか……あの千結さんなにかお礼させてください!」

「えー……別にいいのに」

「いいえ! ぜひ!」

「……じゃあ、勉強の仕方教えてよー」

「……」

 黙っちゃった。なんか悪いこと言ったかな?

「あは、冗……」

「いいですよ」

「え?」

「勉強法教えます」

 ろのちゃんは屈託ない笑顔で答えた。

「ほ、ほんと!?」

「はい。じゃあ、早速今日の夜"実行"しましょうか」

「なんで夜?」

「夜の方が効率がいいんです」

「な、なるほど……」

 やっぱり頭のいい人の言うことは違うなー。



  ◆ ◆ ◆



 ミヤは【地獄ノ女王所有物部屋】にいた。

「もう少し……あと少し……」

 ある"方向"に向かってそう呟いた。



  ◆ ◆ ◆



 今、私はファーストフード店でろのちゃんと話していた。

 勉強法を教えてくれるということになったので夜までファーストフード店で時間を潰していた。

 そして時刻は午後10時を回っていた。

「ねぇ、ろのちゃんまだ始めないの?」

 私の言葉でろのちゃんは時計を見た。

「……少し早いですが、始めましょうか」

「よし! なにからする?」

「とりあえず外に出ましょう」

「外……?」

「はい、行きましょう」

 早々と行く、ろのちゃんに「あ、待って」とそのあとを追った。


 ろのちゃんはどんどんと人通りの少ないところへ入っていった。

「ろのちゃん、ちょっと場所間違えてない……?」

「いいえ、間違えていませんよ」

 るのちゃんがそう言った瞬間、歩くのをピタリとやめた。

「千結さん約束してください」

「なにを?」

「まず声を出さないこと、その場から逃げ出さないこと」

「う、うん?」

「本当に守ってくれますか……?」

 ろのちゃんの顔がとても怖かった。

「も、もちろん」

 そう言わないと、ダメな気がした。変な汗が垂れる。

「じゃあ、その場にいてくださいね」

 ろのちゃんはいつもの笑顔になった。

 その同時に若い女の人がやって来た。

 次の瞬間私が見たのは──

「っ!?!?」

 ろのちゃんがその人に向かって鋭い刃物で腹部を刺していた。

 女の人は悲鳴をあげることもなく、その場に倒れ込んだ。

「ぁ……ぁあ……」

 私の足はガクガクと震えていた。

 助けを呼びに行かないと……でも足が震えて動けない。

「千結さん、どうしたんですか? 勉強始めますよ?」

 ろのちゃんの服には女の人の血が付いている。

 そんなの気にしない笑顔を私に向けてきた。

「ぁ……や、ぁ……」

「勉強したいって言ったのは千結さんですよ。そんな驚かないでください。どうせ医者になったら人間の内部を生で見ることが当たり前になるんですから……それの予行練習ですよ」

 狂ってる……!

 と思ったが、少し興味が出てしまった。私も狂ってしまったのだろうか。

「さぁ、こちらに来てください」

 ろのちゃんは私に手を差し伸べた。

 その手を握ってはいけない……けれど私はその手を握った。

 狂ってる。

 もう後戻りは出来ない。

 だって、こんなに素晴らしい"教材"が目の前にあるんだから。



  ◆ ◆ ◆



「おい、執事。話がある。」

 クロアは仕事をしている執事に話しかけた。

「なんですか? クロアさん」

「おまえ……地獄ノ女王様の目的知ってるよな?」

「……さぁ、知りませんよ。ただ私はお嬢様の指示に従っているだけです」

「……まぁ、わかってても言わないよな。じゃあもう一つ質問だ」

「なんですか?」

「最近地獄図書館に行ったか?」

「……私が忙しいのはご存知でしょう……地獄ノ女王の執事という立場ですから、そんな時間ございませんよ」

「……それもそうか」

 クロアはそう言い残し、去っていった。

「……早めの方がいいかもしれませんね」

 執事はそう呟いた。



  ◆ ◆ ◆



 あの日から私とろのちゃんは、たくさんの"教材"で勉強した。

 ある時は老人。またある時は若い人。年齢層が様々だ。

 おかげでわからなかった授業内容もわかるようになってきた。

 そして今日はおしゃれな喫茶店でろのちゃんと二人っきりで話していた。

「お客さん誰もいないし、マスターも中に入ったから貸切状態だね」

「そうですね……千結さん次はどうします?」

「次? そういえばまだ小さい子を勉強したこと無かったな〜」

「お待たせしました。ココアでございます」

「「え?」」

 注文していないはずのココアが私とろのちゃんの前に置かれた。

 それにも驚いたがもう一つ驚いたことがあるそれは──

(子ども?)

「あの私たち頼んでないよ……?」

「私……ミヤからのプレゼント!」

「プレゼント……?」

 真っ黒なウェイトレスの服……ではなく、真っ黒なワンピース……ドレスなのかな? 着ているミヤちゃんと言う女の子は屈託ない笑顔を見せた。

「お姉さんたち勉強してるの?」

 ミヤちゃんの質問に千結ちゃんは「そうだよ」と答えた。

「頑張ってね! ミヤ応援している!」

「ありがとね」

「じゃあね、ばいばーい!」

 ミヤちゃんは中に入っていった。マスターの孫なのだろうか……?

 入れ替わりでマスターが中から出てきた。

「……おや、お客さんなにか頼んでいたかの?」

 マスターは私たちの目の前にあるココアを見つめた。

「いいえ、けどミヤちゃんっていう女の子がプレゼントって言って私たちにくれたんです。マスターさんのお孫さんですか?」

 千結ちゃんの質問にマスターは首をかしげた。

「ミヤちゃん……? そもそも私には孫なんか居ませんぞ?」

 マスターの言葉に私とろのちゃんは固まった。



 後日、新しい"教材"の決行を決めた。

 流石に夜遅く一人で歩いている子なんて居ないので、昼間公園から家に帰る一人の子どもを狙うことにした。

「千結さん動き始めました。あの作戦で行きましょう」

「わかった」

 一人で家に帰ろうとしている六歳くらいの女の子に私たちは声をかけた。

「あ、あのここから駅の行き方って分かる?」

「駅? わかるにゃ……よ!」

「お姉さんたち駅がどこにあるかわからなくて……」

「私が教えてあげる!」

 どうやら教材はうまく引っかかったようだ。

「こっち!」

「え?」

 女の子は駅と反対方向を指さした。

「行こ! お姉さんたち!」

「う、うん……?」

 女の子は私とろのちゃんの手を引っ張って行った。



 駅とはどんどん違う方向へ女の子は進んでいく。

 流石に幼すぎて道がわかってないとか……?

 いつの間にか人気のない道へ来ていた。

 でも決行するのには丁度いい。

 女の子はピタリと足を止めた。

「お姉さんたち、馬鹿……?」

「え?」

「ここはね、ある殺人事件の犯人が住んでいる近くなんだよ? 全国いろいろなところで人を殺してるの」

「な、何言って……」

「……同じ罪の人に殺されるのは……いい気味……にゃは」

 女の子がそう言った瞬間、背後から激痛が走った。

 倒れ込んだ私の横ですぐにろのちゃんが倒れ込んできた。

 痛い。痛い。痛い。

 待って、私の教材……まだあなたのこと調べていない──。



  ◆ ◆ ◆



【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが大きく揺れた。

 ミヤとナニャは今日手に入った犠牲者を見ていた。

「地獄ノ女王様、お疲れ様……にゃは」

「ナニャもお疲れ」

「地獄ノ女王様……他の者たちが勘づいて来てます、にゃは」

「知ってるよ、前から。でも次は一気に犠牲者を手に入れるから」

「じゃあ、予定より早く実行できますかね、にゃは」

「それはわからないけど。でももう少しだよ……」

「わかりました。私はこれで失礼する、にゃは」

 ナニャが【地獄ノ女王所有物部屋】から出ていった。

 そしてミヤがポツリと呟いた。

「早く会いたい……お母様」

お久しぶりです。

私生活が多忙だったため、一年以上開けての更新となってしまいました。申し訳ございません。

更新停止をしていましたが、再開します!

……といっても、ラストスパートに近づいてきました。

これからも楽しんで読んで頂けると幸いです!

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