28人目 占霧 星羅
地獄ノ女王ことミヤは【地獄ノ女王所有物部屋】にいた。そして、その隣には執事と、ミヤより小さな影が一人。
「⋯⋯と、まぁこんなもの」
「地獄ノ女王様、よく集めましたね、にゃは」
「でもまだ足りないでしょ?」
「足りないです。にゃは」
小さな影は語尾に『にゃは』と付けている。『にゃは』という時は、いつも笑顔で、小さく鋭い歯(牙)を見せている。
「わかった、とりあえずここからはもう出よう」
「そうですね、にゃは」
ミヤと執事、そして小さな影が【地獄ノ女王所有物部屋】から出てきた。それと同時にリルキとリミカが通りかかった。
「あ〜、地獄ノ女王様と執事さん⋯⋯と、誰?」
「こちらは魔女のナニャさんです」
「魔女のナニャです、よろしく。にゃは」
「よろしく〜」
「魔女でも“黒魔女”ですね」
「黒魔女です。にゃは」
ナニャは魔女である。ミヤより、小さく、人間からいうと、見た目は八歳くらいと思ったらいいかもしれない。ナニャは魔女特有の尖り帽子を被ってある。ミヤより幼さが残っているが腕は一人前。そして、地獄にいる黒魔女には、れっきとした仕事がある。
「でも、ナニャさんがどうしてここへ?」
リミカの問いにナニャは『にゃは』と笑顔になり。
「囚人が一度脱走したから、もっと重い処罰をしようと思って、地獄ノ女王様に聞きに来たの! にゃは」
「私的には、ずっとこちょこちょ刑でいいかと⋯⋯」
「それは軽すぎる。にゃは」
地獄にいる魔女の仕事は、神界、地獄、天国、人間界でもっと重い罪を犯した者が逝く、施設である。人間界でいう刑務所。その中でもナニャは一番偉いのである。
ミヤが地獄ノ女王になってから、少し地獄は変わったのだ。それは上に立つ者達である。本来、というか先代の地獄ノ王様の時までは、上に立つ者は必ず、その役職の経験歴が一番高い人だった──が、やはり若い人の方が才能があったりした、というのもあり、ミヤが地獄ノ女王になって一番最初に仕事をしたのは、『上に立つ者は才能豊かな人であり、年齢は問わない』と決めたのだ。
最初は少し気が進まない人もチラホラいたが、地獄ノ女王様の言うことは絶対だと思い、批判を受けることは無かった。
ナニャもその一人である。ナニャは生まれた時からの天才であった。生まれた時からすぐに幸せにする魔法も使えれば、不幸にする魔法も使えた。
魔女の中でもナニャにしか使えない魔法もいくつもある。そのため、魔女たちは皆、ナニャに慕うようになった。
そして、もう一つ。ナニャは魔女でも“黒魔女”である。魔女は大きく分けて二種類いる。
一つは、黒魔女。黒魔女の本来の仕事は不幸にすることである。そのため、最も重たい罪を犯した奴らを成敗すると同時に不幸にするために、黒魔女は刑務所に勤務しているのだ。ちなみにナニャは幸せに出来る魔法も持っている。黒魔女が幸せに出来る魔法を使えるのはごく僅か、と言われている。
そして、もう一つは白魔女。白魔女の本来の仕事は治癒である。そのため、神界、地獄、天国のそれぞれの病院に勤務している。人間界でいうと看護師みたいな役職である。地獄の病院だけは、外見と中は黒いが、魔女は白い。
「ナニャさんは、なんでここから出てきのですか〜?」
リルキは【地獄ノ女王所有物部屋】を指さす。本来なら、ミヤと執事しか入ってるところを見たことない。
「整理整頓のため。にゃは」
「それなら執事さんがやってくれるんじゃないですか〜?」
「私も忙しい身なので、ナニャさんが宮殿に来たついでに頼んだんです」
「へぇ〜。そうなんだ」
リルキはそれ以上探索しなかった。
嘘だな、リルキは心で思った──が、ミヤもそれに負けず、怪しまれてる、と心で思った。
◆ ◆ ◆
「⋯⋯出ました。24時間以内に告白されるでしょう」
「え!? 占霧さんそれ本当!?」
「私の占いは嘘を言わない」
その24時間以内にこの子は告白されて彼氏ができた。
評判がまた飛び交った。
占霧家は占い一家だ。父と母は有名な占い師で、テレビに出たり、有名人なんかたくさん占ってきた。そして、私には姉が三人いる。その三人も全員占い師だ。
父と母並に有名ではないが、二人の娘、というのもあり、結構人気らしい。
そして、末っ子の私も占い師を目指す高校二年生だ。
「占霧さん、私のも占って!」
「あたしも!」
「順番ね。順番」
慣れた手つきでタロットカードを机の上に並べる。
うちの学校で当たると評判の私の占いは外れない。
◆ ◆ ◆
ミヤとナニャはリルキとリミカと解散した後、大きな水晶に映っている占霧星羅を見ていた。
「ここでいつも決めてるんですか? にゃは」
「うん。ちゃんと条件に合った人を見つけてるよ」
「それなら安心。にゃは」
「もう少しなんだよね⋯⋯?」
「そうです。にゃは」
ナニャの答えを聞くと、ミヤは笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
こんなことは初めてだ⋯⋯。
ある女子生徒に、すぐに自分を変える大きな出来事があるか、と占ってくれと頼まれた。
タロットカードで、私はすぐに占いを始めた。
そして、出たカードは『死神』。つまり、『死』を表すことになる。
「ねぇ、占霧さんどう?」
「あ⋯⋯」
あなたには、すぐ死が訪れます、とでも言うのか? そんなこと言えない。
「も、もう一回やりますね⋯⋯」
「うん? 別にいいけど?」
何かの間違えかもしれない。もう一度、一から占いし直す。
ダメだ。結果は変わらない。
その後も何度も試みるが結果は変わらない。
「ねぇ、占霧さんまだなの?」
「え、あ⋯⋯」
どうする? 素直に全てを伝える? けれど、学校で占って『死』が出るなんて、信じてくれない⋯⋯いや、私の占いなら信じる可能性がある。
どうする? どうする? どうする?
「せ、占霧さん⋯⋯?」
「あ⋯⋯ふ、不吉なことが起こる⋯⋯」
「えー、それはやだなぁ。その不幸がどんなこととか回避できる方法も占ってくれる?」
「も、もちろん⋯⋯!」
そうか、回避出来る方法を占えばいいのか⋯⋯!
慣れた手つきで占う。
結果は──『無』。
つまり、不可能。
「ねぇ、どうだった?」
「あ⋯⋯回避はできないって⋯⋯」
「えー! 最悪〜。あ、不幸の内容は占うのはできないの?」
「じ、実はさっき結果出てて⋯⋯」
「えー! なになに教えて!」
言う? 言わない? それが頭の中でごちゃごちゃする。
「あ⋯⋯」
「あー、それとも失恋かなぁ? 先輩のこと好きなのに〜」
「! ⋯⋯そう、し、失恋!」
「えぇ!? 当たっちゃったよ〜。最悪だなぁ〜。ま、新しい恋見つけよ! 占霧さんありがと!」
「い、いえいえ」
ああ、彼女に嘘をついてしまった──。
そして、私は占霧家の占いの掟をまだ知らなかった。
◆ ◆ ◆
エルリは久しぶりに地獄宮殿に来ていた。最近、地獄ノ女王の監視を双子に任せっきりにしてしまったこともあり、様子を見に来た。
ミヤの自室の扉を開けると、ミヤはエルリの顔を見るなり、げっ、と顔に出ているほど、嫌な顔をした。
「もう、そんな顔しなくてもいいじゃないかしら?」
「うるさい」
ミヤは、プイッ、とエルリから視線を逸らした。
エルリは、あらあら、と思ったが、すぐにミヤの隣にいる、とんがり帽子を被っているナニャに気がついた。
「あら、あなたは⋯⋯?」
「黒魔女のナニャです。にゃは」
「はじめまして。私は天国ノ王女エルリです」
エルリは、ニコッ、と笑った。ナニャもそれにつられて、にゃは、と笑った。
「何しに来たの」
ミヤは冷たい言葉を放った。
「様子見よ、ただのね⋯⋯?」
◆ ◆ ◆
タロットカードで『死神』が出た時はびっくりした。そして、嘘を教えてしまったことに心の中がモヤモヤとしていた。
そんなモヤモヤが取れぬまま、家に着いた。
「ただいま⋯⋯」
「あ、おかえりー」
「あ、叶湖姉さん⋯⋯」
「どうしたの? 星羅。なんか疲れてる?」
「うん、ちょっとね⋯⋯」
家に帰ると、一番上の姉の叶湖姉さんが久しぶりに家に居た。近くで一人暮らしをしているが、たまにこうして帰ってくることもある。
「星羅。ちょっとリビングにあるソファーに座って」
「え? なんで⋯⋯」
「いいから、いいから」
私は叶湖姉さんに促されるまま、ソファーに腰を下ろした。叶湖姉さんは私の向かいにあるソファーに腰を下ろした。
そして、私の目を、ジッ、と見てくる。叶湖姉さんの目つきが変わっていく。
(まずい、占われてる⋯⋯!)
「⋯⋯星羅、ある子に嘘の結果を教えたようね⋯⋯」
「う、うん⋯⋯」
「うちの掟知っているよね?」
「え、掟⋯⋯?」
「まさか、知らないの⋯⋯?」
「う、うん」
叶湖姉さんは、それはやばいわね、と呟いた。
「占いで必ず出た結果を占った人に伝えなければいけない。それがたとえ、いいのだとしても悪いのだとしても⋯⋯そして、一度でも嘘の結果を教えたら、占いは当たらなくなるわ」
「え⋯⋯」
叶湖姉さんは私の顔を見るなり「まぁ、大丈夫よ」と言ってきた。
「昔に占霧家にそういう人がいたって言うだけで、今はわからないわ。今のご時世、占いだけで食べていける家なんて、ほとんどないのにウチは大丈夫でしょ? だから、一度嘘を教えたからって今後占いの結果が当たらないなんて、デマかもしれないし⋯⋯それに星羅はまだ学生の身で本業ではないでしょ?」
「そうだけど⋯⋯叶湖姉さんの言ってる掟がもしあったら⋯⋯」
「そんな時は違う仕事に就くことね。もしかしたら、今後占いでは食べていけない可能性だって出てくるんだから、今のうち違う夢を見つけるのも一つの手よ?」
叶湖姉さんの言い分にも一理ある。けれど、私は将来占いを本業にしたい。確かに一家全員が占い師ってこともあるかもしれないけど、私はただ単に占いが好き。だから、今後は嘘を教えないようにしよう⋯⋯たとえ、悪い結果が出たとしても。
そして、この数日後。あの女子生徒は不運な事故で亡くなってしまった。
◆ ◆ ◆
エルリは、すぐに帰ってしまった。エルリが帰った後、ナニャは少し気難しそうな顔をしていた。
「なんか引っかかる⋯⋯にゃは」
「エルリが?」
「そう。ヘタしたら裏でなにかやってる⋯⋯にゃは」
「裏でなにかしてる⋯⋯?」
「地獄ノ女王様。このことは誰も知らないよね? にゃは」
「誰にも話してないよ? このこと知ってるのは私と執事のみ」
「執事さんが口を滑らせてとかは⋯⋯にゃは」
「それはないよ。執事が教えてくれたんだよ?」
「それもそうですね⋯⋯ところで今回のは決めたのですか? にゃは」
「決めたよ、さっき水晶に映ってた人⋯⋯」
「順調ですね。にゃは」
◆ ◆ ◆
私は今日も学校で占いをしていた。いつも私の占いに来てくれる人だった。
今日占って欲しいと言われたのは人間関係のことだった。最近、友達に一つ距離を置かれているみたいだ、という話だった。
「ねぇ、占霧さんどうかな⋯⋯?」
「⋯⋯大丈夫。きっと前みたいに仲直りできます」
「本当!? 良かった〜ありがとね!」
「いえいえ」
「あ、ねぇ占霧さん次私!」
「いいですよ、そこに座ってください」
次に来た生徒を席に座るように促した。
「あのね、ウチの彼が二股してるみたいなんだけど、本命はどっちか調べて欲しいの」
「わかりました」
慣れた手つきでタロットカードを並べ、占う。
「⋯⋯出ました。本命はアナタですよ」
「本当!? やっぱりそうよねぇ! ありがと!」
「いえいえ」
その数日後だった。私が登校するなり、大半の女子に囲まれた。
「占霧さん⋯⋯占い外れたんだけど」
「え?」
「友達に絶交されたんだけど!? 仲直りするなんて嘘じゃん!!」
「ウチも本命は、あっちだって言われたよ!!」
次々に私の占いが外れた、と言ってきた。
やめて⋯⋯やめてよ⋯⋯私の占い信じてたんでしょ?
なんで一度外れたくらいで掌を返すように私を責めるの⋯⋯?
「このインチキ!!」
「詐欺師!!」
──ブチッ。
私の中で何かが切れる音がした。
「⋯⋯じゃあ、今からみんな一斉に占ってあげる」
私は大半の女子に囲まれてる中、地べたに座り、タロットカードを並べた。そして、慣れた手つきで占った。
出たカードは『死神』。
「あー、なんということ⋯⋯皆死んでしまうわ」
私を囲んでいる女子たちが引きつった顔を見せた。誰も口を出そうとしない。
「ちなみに回避できることは出来ないらしい⋯⋯残念だわ〜」
私はタロットカードをカバンに入れ、カバンを手に持ち、教室を後にした。
あんなとこ一秒でも居たくない。
着いたのは屋上だった。
ドアを開け、屋上から落ちないようにかけられている柵に手をかけ、真っ青な空を見上げた。
──【死ぬのはお姉さんだよ】
「は?」
どこからか、女の子の声が聞こえた。
「お姉さん、後ろ!」
「えっ、誰!?」
後ろを振り向くと目の前には真っ黒な女の子が立っていた。真っ青な空とは真逆みたいな女の子。
「私はミヤ。お姉さん占いするんでしょ? すごいねー」
ミヤという少女は私に一歩近づいてくる。
(気味が悪い⋯⋯)
私は一歩後ずさりした。背中には先程の柵がある。
「あ、でもお姉さんムカついて、みんなが死ぬって結果を教えたんだっけ? あれも嘘だよね?」
なんで知ってるの!?
「う、嘘なんかじゃない!!」
「嘘だよ」
ミヤという少女はまた一歩私に近づいてきた。もう一度私は後ずさりする。柵に私の重さが負担していた。
「えー、だって⋯⋯」
ミヤという少女は人差し指を立て、上に振りかざした。その瞬間、私のカバンのチャックが勝手に開き、タロットカードが出てきた。
「え!?」
タロットカードが宙に浮いている。
その並びは私が占いをする時と同じ並び方。
「お姉さんの結果は⋯⋯これだね」
──パシッ! と私胸元に一枚のカードが当てられた。
当てられたカードは『死神』。
「ちょっ、何言っ──」
──ビュゥ! と突然強い追い風が吹いた。思わず、風の勢いで後ずさりしてしまう。
──ピシッ、という音に気づかなかった。
「あっ⋯⋯」
私の目の前に真っ青な空だけが映し出された。
そして、勢い良く落ちていった。
──【死ぬのはお姉さんだよ】
その声が聞こえた時には、すでに地面は真っ赤な染まり、意識が薄れていった。
◆ ◆ ◆
「ひどいですね〜にゃは」
ミヤとナニャは【地獄ノ女王所有物部屋】にいた。
「なにが?」
「自ら殺しちゃうなんて⋯⋯にゃは」
「殺してなんかいないよ?」
「さすが地獄ノ女王様。にゃは」
「地獄ノ女王か⋯⋯」
ミヤは【地獄ノ女王所有物部屋】の奥の方を見た。
「⋯⋯もう少し」
「はい。もう少し。にゃは」
【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが揺れた。
『一週間連続毎日更新!』七つ目!
今日で一週間連続毎日更新!は終わりました。また不定期連載です。なるべく早く更新できるように頑張ります!
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