26人目 武黒 悠里
地獄ノ女王ことミヤはパソコンである動画を見ていた。
「おぉー! すっごーい!」
ミヤは目をキラキラと輝かせていたが、その横目で執事は、ため息をつく。
「お嬢様⋯⋯いい加減に仕事を⋯⋯」
「ねぇ、執事! この女の子すごいの! 見て!」
執事は渋々とミヤの言う通り、パソコンを見た。
「⋯⋯本当に凄いですね」
「でしょー! なんとかの天才少女だって!」
「空手ですね。空手の天才少女って書かれてます」
「そう、それー!」
「しかも黒帯じゃないですか」
「黒帯?」
「空手の中でも、とても強い人じゃないと付けられない帯ですよ」
「へぇー」
ミヤは、もう一度、空手の天才少女を見た。
「ふーん、なんか観察しがいあるかも」
ミヤはの口角は上がった。
◆ ◆ ◆
小さい頃から、ずっと空手をしてきた。家が道場というのもあり、学校に行く前に朝練。学校から帰ってきても練習。休日なんか朝から晩まで空手の練習をしてきた。
そんな中、私は学校では女子にモテていた。登校していると、よく声をかけられる。
「悠里さんおはようございまーす!」
「おはよう」
三人の女子に挨拶をすると「キャー!」と言い、走っていった。
かわいいなぁ、と思いながら、見てると後ろから「悠里さぁん、おはようござぃまぁす!」と声が聞こえた。
「あぁ、おはよう」
後ろを振り返ると、女子の中でもリーダーグループ三人がいた。皆、顔立ちは整っており、化粧もしているから“顔”は可愛いが、中身は最悪だ。
正直、私も苦手なタイプだ。
しかも、どうにもこの三人は私は好かれていない。恐らく、他の女子は私の言うことをちゃんと聞くが、この三人が命令をすると、言われたことはやるが、グチグチ言ったり、渋々とやるからであろう。まぁ、命令する内容が最悪ってこともあるかもしれない。
「あぃかわらずぅ、にんきものねぇ、武黒さぁん」
「そんなことはないよ」
三人は私に近づいてくる。そして一人ずつ耳打ちし的だ。
「うぜぇんだよ、筋肉女」とリーダーの祢津架純。
「消えろよ、カス」と箕野来羽。
「この世からいなくなってよ」と野松奈代。
そして、三人は何事も無かったのように学校の方へ歩いて行った。
(全く、陰湿にやるより、堂々とやった方がいいのに)
悠里は悪口を言われて傷つくより、むしろ呆れていた。
◆ ◆ ◆
ミヤは空手の天才少女、武黒悠里のファンみたいになっていた
ネットで検索すれば、武黒悠里の試合がいくつか出てきた。
「本当に強いな〜。そうだ、大きな水晶で見てみよう!」
パソコンだと、見れるのにも限りがあるから、とミヤは大きな水晶で武黒悠里を見ることにした。
◆ ◆ ◆
「悠里さんと出かけられるなんて感激です⋯⋯!」
「いやいや、私の方こそ。たまたま道場が休みでな。来てくれてありがとう」
今日は休日だ。いつもなら朝から晩まで、ずっと空手の練習をしているが、今日は道場が休みなのだ。自主練習をしようとしたが父さんから「たまには友達と出かけてこい」と言われたので、いつも私に挨拶をしてきてくれる三人の女子とショッピングモールに来たのだ。
「それにしても、みんなオシャレだな」
「これぐらい普通ですよ〜」
ジャージとTシャツで着た私はなんだか恥ずかしくなった。
「な、なぁ」
「なんですか?」
「私のために⋯⋯その⋯⋯服を選んでくれないか? 自分だとわからなくて⋯⋯」
「えぇ!? それはむしろありがたいです!」
「私たちが選んでもいいんですか?」
「あぁ、頼む」
私がそういうと三人は目を光らせた。
数分後、私はジャージとTシャツではなく。スキニーパンツ(というものらしい)とVネックにロングカーディガンを羽織っていた。
「すごいな⋯⋯初めてこんな服を着た⋯⋯」
「悠里さんプリクラ撮りに行きましょ!」
「⋯⋯ぷりくら?」
「知らないんですか!?」
「あ、あぁ⋯⋯少々こういうのには疎くてな⋯⋯」
「じゃあ、プリクラ撮りに行きましょー!」
私は腕を引かれるまま、すごく騒がしい所に入っていった。
「音がすごいな⋯⋯」
「ゲームセンターですからね〜」
周りを見ると、箱のようなものに、ぬいぐるみや大きめのお菓子、さらにはフィギュアが入っている。
そして奥の方へ行くと、なにやら女の人がでっかく載っていて個室のような部屋になっている機械がいくつもあった。
「これがプリクラですよ!」
「こんなにたくさん⋯⋯?」
「機種によって、異なりますからね」
「なんか携帯みたいだな⋯⋯機種が沢山だなんて」
「あ、ちょうどこの機種空いてるから入ろ〜」
私たち四人はプリクラ機の中に入っていった。
「思ったより狭いな」
『コインを入れてね!』
「そして、機械が喋るのか⋯⋯すごいな」
「私たちが操作しますので、悠里さんは安心してください」
「ああ、頼む」
この後、プリクラというもので写真を撮ったが、まぁ、驚いた。
目はでかくなり、色白になり、口は真っ赤になっていた。
機械はすごいなー、と改めて感じた。
「お手洗いに行くが、他に行く者は?」
「あ、アタシ行きます!」
「ウチは待ってる」
「私も〜」
私たちはお手洗いに行った。幸い、混んでいなく、すぐにを用を足すことが出来た。
そして、お手洗いから出た時、待っていた二人が一人の男に言い寄られていた。
「悠里さん⋯⋯あれカツアゲですかね」
私と一緒にお手洗いに行っていた人が呟いた。少し声が震えていた。
「わからない⋯⋯とにかく助けよう」
私は待っていた二人の元に駆け寄った。二人はビクビクしていた。
私は二人にカツアゲ(?)をしている男の肩を掴んだ。
「あの、この子達になにか?」
私を見るなり、男は睨んだ。っていうか、タバコ臭いし。二人は、私に、助けて、と訴えていた。
「いや〜、ちょっとお金を貸してもらおうかとね〜。軽く一万円くらい」
「見ず知らずの人に借りるのか」
「あ? 何だ、その言い方?」
「お金借りるくらいなら自分で稼げ」
「⋯⋯うるせぇな!!」
男は私の肩を力強く握ってきた。けれど、私はそんなのお構い無しに男の腕を両手で掴む。そして、私の肩にあった男の手を剥がし、私はクルッと180度回転し、そのまま背負い投げをした。
柔道と空手は違うものだが、少しだけ柔道もやっていた時期があった。
「ぐへぇ!」
ショッピングモール内では、言葉で表せられないような音が響いた。男は床に強く体を強打し、とても痛そうだ。
そんな男を周りにいた買い物客は冷たい視線や驚いた表情を浮かべながら通り過ぎていく。
「オマエ、次そんなことしたら⋯⋯わかってんな?」
「うっ⋯⋯」
少しやりすぎたか? と思った直後、カツカツと高いヒールの音が私達に近づいてきた。
「ダーリンどうしたのぉ!?」
男に駆け寄ったのは根津架純だった。
「か、架純⋯⋯ちょっと金貸してもらおうと思ったら、この女に⋯⋯背負い投げされて⋯⋯」
男は私を指さした。
「え!? って、武黒さんじゃなぁい! なんでダーリンにお金貸してあげないのォ!?」
は? なんで貸さなきゃいけないんだ?
「この男は二人にカツアゲしていたんだ。確かに背負い投げは、やりすぎたかもしれないが、見ず知らずの人に借りるのは、どうかと思うぞ」
「はぁ!? あたしのダーリンがカツアゲなんかしないわよ! 少しお金貸してって!」
「それをカツアゲというんだ」
「⋯⋯うっざぁ〜! もういいわよ! 行きましょ、ダーリン」
根津架純は男の手を取り、その場をあとにした。
そして、根津架純は気づいていない。冷たい視線があったことを。
◆ ◆ ◆
ミヤは、むすーっ、としていた。
「どうしたのですか? 大きな水晶見ながら、そんな顔をして」
「あの化粧濃いババア腹立つ!」
「あぁ、自分の彼氏を『ダーリン』と呼んでいた」
執事の言葉にミヤは、目をぱちくりした。
「どうしました?」
「ねぇ、執事⋯⋯もう一回甲高い声で『ダーリン』って言って」
「嫌です。自分でも今引きましたから」
「えー」
◆ ◆ ◆
次の日、学校に行き、教室のドアを開けた瞬間、みんなの視線がいつもと違った。
一言で言うと『陰湿』だ。
ヒソヒソと私を見て、話している。
そんな中、私の顔を見るなり「あ〜、武黒さんおはようございます〜!」と話しかけてきた。三人組。根津架純と箕野来羽と野松奈代だ。三人は一つの机に集まっており机の上には化粧道具が転がっている。そして、ニヤニヤとした表情。
この三人の仕業か、と悠里は直感した。
「あぁ、おはよう」
悠里が挨拶するなり、三人は近づいてきた。
「ねぇ武黒さん。架純の彼氏に背負い投げしたんだって〜?」
「あぁ、カツアゲしてたからな」
香水の匂いがきつい。
「ダーリンはカツアゲじゃなくて、道を聞いてただけだよ!」
嘘つけ。
「それに武黒さんがカツアゲしてたんでしょ?」
「は?」
思わず、マヌケな声が出てしまった。
「だって、架純が武黒さんがいろんな人にカツアゲしてるの見たって〜」
根津架純の顔を見ると、にやっと笑った。⋯⋯やはり、こいつらのせいか。
「私は、そんなことしていない。第一証拠などどこにある?」
「えー、証拠はないわねぇ〜。でも証人ならいるよぉ?」
そう言って、三人が突き出したのは私とショッピングモールに行った三人だった。三人は怯えた表情をしている。
根津架純達に脅されたのか。この三人に逆らったらクラスから追放されるのと同じようなものだからな。
「ねぇ、見たんでしょぉ?」
「え、あ⋯⋯」
「見たんでしょぉ? カツアゲしてるとこぉ」
「あ⋯⋯」
涙目になっている。この子達には、そんな顔をさせたくない。
「⋯⋯わかった。証人がいるなら、私はなにも言わない。私のこと好きにして構わない」
「え⋯⋯あ、やっと認めたのねぇ〜」
「あぁ、証人がいるからな」
◆ ◆ ◆
「うっざぁぁぁ!」
「お嬢様落ち着いてください」
「だって、お姉さん悪くないじゃん!」
「それはそうですが⋯⋯」
「もーう!」
ミヤは、ドンドン、と大きな水晶叩き始めた。
「お嬢様、やめてください!? 腹立つからと言って、叩くのは!」
執事の言葉にミヤは叩くのをやめた。でも顔は俯いたままだ。
「お嬢様⋯⋯?」
「執事⋯⋯」
「はい」
「手が⋯⋯痛い⋯⋯」
バカだな、と思ったが口に出さない執事であった。
◆ ◆ ◆
いじめなどはなかった。けれど、陰湿な嫌がらせや変な噂が絶えなかった。
そんなのお構い無しに私は毎日休まず登校していた。
私が嫌な顔を一つしないので、根津架純達も、そろそろ痺れを切らすだろうと思っていた、この頃に下駄箱に一つのメモ帳が入っていた。
『お昼休みに体育館裏に来てください』
それしか書いておらず、差出人は不明であった。
昼休みになり、体育館裏に来た。
「あ、あの悠里さん⋯⋯」
声が聞こえる方へ向くと、あの日一緒にショッピングモールに行った三人が居た。
「ご、ごめんなさい!」
三人は私に向かい、頭を下げてきた。
「⋯⋯脅されていたのだろう?」
私が声をかけると、一人が「そ、そうです⋯⋯」と少し鼻声になっていた。
「なら、大丈夫だ。私の味方なんかしていたら、クラスから追放されるぞ?」
「⋯⋯本当のことを全て言います」
「できるのか?」
「⋯⋯信じてもらえないかも知れませんが、頑張ります」
三人は顔を上げ、私の瞳を真っ直ぐ見てきた。大丈夫だ、と私は思った。
「そうか⋯⋯なら、頼む」
「はい!」
「今、私と戻ったら怪しまれるかもしれないから、私は後から戻る」
「わかりました」
一人が「行こう」と言い、三人は走っていた。
(いい子達だな⋯⋯)
──【本当、いい子達だね】
「誰だ!?」
反射的に後ろを向いた。
小さな女の子ような声が聞こえた。
「お姉さん、前だよ!」
「え⋯⋯」
前を向くと、そこには小さな女の子が立っていた。真っ黒な服を着ていた。そして、屈託ない笑顔を浮かべているが、その瞳の奥に棘があるような気がした。
「お姉さん、勘が鋭いね⋯⋯」
逆らってはいけない、そんな気がした。
「お姉さんの日頃の行いが良いから、あの子達はきっとお姉さんに謝ったんだろうね」
「⋯⋯どこから見てたんだ?」
「全部だよ! だから、毎日欠かさず空手の稽古やってるのも知ってるし、ショッピングモールに行って、カツアゲしていた男の人を背負い投げしたのも知ってるし、陰湿な嫌がらせを受けてたの知ってる⋯⋯」
人間ではないな。
「そう、私は人間じゃない。私はミヤ、そして地獄ノ女王」
「地獄ノ女王⋯⋯?」
「そう。私は地獄の中でも一番偉いわけ。そして今日地獄に行く人がいるから、ここにいるわけ。あ、お姉さんではないよ?」
「それは誰か聞いてもいいのか?」
「聞いたら、お姉さんは止めるだろうから言わないよ。お姉さん、お人好しだからね」
「そうか」
「あ、そろそろ三人がお姉さんの誤解を解いてる頃だと思うよ。私も行くね。お姉さん元気で!」
「あぁ」
ミヤは消えた。私もそろそろ教室に戻ろう。
◆ ◆ ◆
なによ! 腹立つ!!
いつも以上に歩く足に力が入る。一歩歩く度にヒールが『カツンっ!』と大きな音を立てていた。
「架純、超おこじゃ〜ん!」
「怖いよ〜!」
「なによ、来羽、奈代。悔しくないの? あいつら逆らってきて、挙句の果てに、みんな武黒の味方してさ!!」
近くにあった飲み屋の看板を、ガン、と蹴り飛ばす。けれど、このイライラは収まんない。
「ねぇ、架純。今日、男用意できてるんでしょ?」
甘ったるい声で来羽は問いかけてきた。
「もちろん。ダーリンの大学の先輩と後輩で、たーくさんいるよ」
「うはぁ! 久しぶりに楽しめそう!」
「楽しんだ、後にまたアイツらをどうするか考えたらいいよ。今日は楽しもう」
「⋯⋯それもそうね」
そう、今日は楽しんで、また明日考えればいい。どうやって、アイツらをどん底に叩きつけようか、と。
◆ ◆ ◆
『昨夜未明。高校生三人の死体が見つかりました。三人は大学生と遊んでいた時、死亡したと考えられ、一緒に遊んでいた大学生○○人に事情聴取をしております』
『大学生は容疑を認めました。「彼女が束縛してきてウザかったから、薬漬けにし、殺害した」と証言しました。』
◆ ◆ ◆
「一気に三人♪」
ミヤは喜び、舞い上がっていた。
「今回なら一人でもよろしかったのでは?」
執事の問いにミヤは「そしたら、時間がかかるもん」と言った。
【地獄ノ女王所有者部屋】のプレートは今日も大きく揺れた。
『一週間連続毎日更新!』五つ目!
今回は空手天才少女を書いてみましたが使ってる技は柔道です←
浅い知識で書きました、すみません←