24人目 天城 綾美
地獄ノ女王ことミヤはパソコンである動画を見ていた。ミヤの隣でリルキとリミカもパソコンである動画を見ていた。
「すごく感動しましたねー!」
リルキは動画を見て、率直に感想を述べた。
「泣けるって有名なアニメだもん!」
ミヤは鼻を高くして言った。ドヤ顔をして。
「リミカも感動したよねー? ……って、リミカ!?」
リルキとミヤはリミカの顔を見るなり、驚いた表情を浮かべた。
「なっ……、グスッ……なんですかぁ……グスッ」
リミカはアニメを見て、号泣していたのだ。
「リミカ、そんなに感動したんだね……最初はイヤイヤで見てたのに!」
「うるしゃいです……グスッ」
ミヤが「一緒にアニメを見よう!」とリルキとリミカの部屋に訪問してきた時、リミカは「仕事があるので……」と断ろうとしたがリルキが「言いですねー! 三人で見ましょう!」と言い、結局見るハメになった。リミカはチラチラとアニメを見ていたが、いつの間にか熱中するくらい見ていて、最終的には号泣したのだ。
「それにしても声優ってすごいよねー!」
「声優?」
リルキの言葉にミヤは首を傾げた。
「一つ一つのキャラクターに声をあてる人たちを言います……グスッ……キャラクターの感情を全て声だけで表現するんですよ……グスッ」
リミカは鼻声で鼻をすすりながら声優の説明をした。
「他にもキャラクターの声と名前で歌を出したり、ナレーターしたり……あと最近は自分の声優の名前を使ってバンドを組んだりしてますよ!」
「ふーん」
ミヤは曖昧な返事をした後、もう一度パソコンに映っている動画をチラリと見た。
◆ ◆ ◆
“声”って、すごいと思う。
自分の口は一つしかないけど、いろんな声が出たり、感情を表現することだって出来る。目には見えないものだけど、声は聞くだけで、いろんな想像ができる。
そんな“声”を自分の仕事にしたい私は今日も勉強をしていた。
高校を卒業し、声優養成所に通っていた。
バイトと親の仕送りでの毎日のやりくりの生活は厳しいけれども、夢に向かっていく日々は楽しい。
「綾美、今回の舞台オーディション受けるでしょ? さゆみは受けるよ!」
声優養成所で仲良くなった瀬野さゆみが話しかけてきた。
「もちろん! 今回の舞台の脚本って、あの有名アニメの監督が手掛けたやつでしょ? 役は何になるかわからないけど舞台には立ちたいよ!」
仮にオーディションに受かったとしても何の役になるかは自分で決められない。将来、急に役を与えられても対応できるようになるために、役はランダムで決まるらしい。
声優は声で表現しなきゃいけない。だからこそ、表舞台に立つ演技力も必要となる。
「でも今回のオーディション倍率高いなぁ、ウチも燃えてきたわぁ」
私とさゆみといつも一緒にいる、内海来名も話に加わった。
「来名も受けるの? さゆみと綾美も受ける!」
「もちろん! ウチの本気を見せてやるで!」
私たち三人はお互い違う地域から、この声優養成所に来た。
同じ夢を追う仲間との毎日は楽しい。時にライバルになり、時に励まし合う。叶えるのは簡単ではないが、仲間と一緒なら夢もそんな遠くない気がした。
◆ ◆ ◆
ミヤは大きな水晶を見ていた。
「へぇ、養成所みたいな所通うんだ~」
この前の一件で声優に興味を持ったミヤはパソコンで調べたり、水晶で声優に関する映像(?)を見ていた。
「ふーん……あ、……あの人いいかも」
ミヤはそう小さくつぶやくと、獲物を狩るような目付きをした。
ちなみに獲物を狩るような目付きをするようになったのはアニメの影響だ。
◆ ◆ ◆
オーディション当日になった。
私は気合いを入れて準備バッチリのままオーディションに臨んだ。
自分でも少し自信がある感じだった。
「綾美お疲れ~」
「さゆみ、来名お疲れ!」
「どうやった?」
「実は自信ある」
「すごっ」
どうやら、さゆみと来名はあまり自信がないらしい。
来名は昨日から緊張のあまり、たこ焼きをヤケ食いしたと言った。
「関西人って、本当にそんなにたこ焼き食べるんだね。私びっくりした」
「いやいや、食べる量は人それぞれよ?」
「じゃあ、来名は化け物だね!」
「さ~ゆ~み~?」
その後、さゆみは来名から頭グリグリの刑が処されていた。
さゆみが「許して~」と言っても来名はやめる様子がなかった。
その数日後、オーディションの結果発表の日だった。
「この前のオーディションの結果発表をする」
オーディション発表はオーディションの受けた番号で言われる。
一応落ちた人が誰かわからないようにするためらしいが、みんなの表情とか、友達とかの話し合いでわかっちゃうものだから、表向きわからない感じにしているらしい。
そして私の番号は56番。ちなみにさゆみは37番で来名は42番だ。
「では発表する」
百人以上受けた中たったの十五人しか受からない。自信はあるが、やっぱり不安だ。私は目をギュッと瞑り、手を固く握った。
「18番。23番。37番」
三番目にさゆみの名前が呼ばれた。隣にいるさゆみを見ると嬉しそうな顔して小さなガッツポーズをしていた。
「42番」
次に呼ばれたのは来名だった。隣にいる来名を見ると「ほんま……?」とつぶやき、信じられないという顔をしていた。
「48番。55番」
次で……次で呼ばれないと私は受かってない……!
私はさらに目をギュッと瞑り、祈る手に力を込めた。
お願い受かってて──
「58番。63番……」
ダメだった……。
私の番号は呼ばれなかった。
三人の中で落ちたのは私だけだった。
◆ ◆ ◆
「あ〜、残念」
ミヤは大きな水晶に写っている天城綾美を見て、つぶやいた。
「声優って本当に厳しそう……新しいアニメでも見ようかなぁ」
ミヤは大きな水晶のある部屋を後にした。
そして自室に戻り、パソコンを開き、アニメが見られる無料サイトを見ていた。
「たくさんアニメあるなぁ……何見ようかなぁ」
「これなんかよろしいのでは?」
「うわっ! 執事いつから……」
「お嬢様が自室に入ってきた時にここにいましたけど」
「え、影薄いね」
「失礼ですね」
「執事がおすすめしたやつ、対象年齢が幼稚園児になってるんだけど」
「いいじゃないですか。精神は幼稚園児ですから」
「ひどっ、それが地獄ノ女王様に言うことですか?」
「もう少し一人前になってから言ってください」
執事の言葉にミヤの頬は膨れた。
◆ ◆ ◆
二人が受かったことにより、私は一人で行動することが多くなった。別に仲が悪くなったからとか仲間外れとかではなく、二人は普通の授業とさらに舞台の練習があるからだ。
だから必然的に私は一人で行動することが多くなったってことだ。仕方ないことだ。それに三人でいる時は前とは変わらない。
ただ変わってると言ったら二人で舞台の話をする事だけだろう。私は落ちて悔しいけど、それが自分の結果だ。むしろ、その友達が厳しいオーディションに合格したことを誇りに思いたい。
「ねぇ、二人共。次は私このオーディションに受けようと思うの」
それは学生用に見せる舞台のオーディションだった。これはいろんな学校に周り、舞台をする。前より受ける人は少ないと思うが、合格するのも難しいと思う。
「いいんじゃないかな?」
「ええと思うよ!」
「じゃあ、私頑張ってみるね」
一度、オーディションに落ちたからってへこたれている暇はない。
が、このオーディションも落ちてしまった。
その後も何度も何度もオーディションを受けたが、全て落ちてしまった。
練習だって人一倍しているのに。
「綾美大丈夫だよ」
「せやで、成長に繋がるしな」
「ありがとう、二人共」
正直、この二人から励まされても何も嬉しくなかった。倍率が高いオーディションを勝ち抜けた二人に何度もオーディションに落ちている私の気持ちなんかわかるはずない。
才能がないのだろうか。
家に帰ると、私はまた次のオーディションに向けて練習をしていた。
「もう少し感情を込めて役に入り込まないと……」
──【だったら私の出番だね!】
「え?」
小さな女の子のような声が聞こえた。
「お姉さん! はじめまして!」
「へ? うわあぁぁっ」
何この子!? ゴスロリ着てる!? こんな小さい子が!? 何かのアニメ!? それとも──
「ここは二次元……!?」
「お姉さん落ち着いて」
「あ、ごめんなさい……」
なんで私敬語使ってるんだろ。
「お姉さん声優目指してるんでしょ?」
「あ、うん……そうだけど」
「私が手伝ってあげる!」
なにを!? ってか、展開が早過ぎて訳分からない……。
「私ね、声優ってすごいと思うんだ~。だからお姉さんには声優になってほしい!」
「あ、ありがとう」
そういえば、なんで声優になりたいの知ってるの?
「たとえ運命の波が襲ったとしても耐えてね?」
「え?」
私が「なにが?」と声をかけようとした時には、もう姿はなかった。
さらに何ヶ月かの月日が流れた。さゆみと来名も違うオーディションを受け二回目の合格を貰っていたが私は一つも合格を貰えなかった。
「な、なぁ綾美。き、今日の放課後、美味しいもの食べに行かへん?」
「そ、そうだね! さ、さゆみたち奢るから……」
二人は合格を貰えない私に気を遣うようになっていた。
「……なんでよ」
「え?」
「綾美?」
「なんで私だけ毎回毎回!! 頑張って練習してるのに!! 二人共、裏で手を組んでるんじゃないの!?」
「……はぁ!? なんやそれ!」
「私だけ落ちるように手を組んで、自分たちが受かるようにしてるんじゃないの!?」
「ウチらだって、練習しているんや!! その頑張りが認められたから合格をもらって……」
「じゃあ私は頑張ってないってこと!?」
「ち、ちょ、二人共~……」
「そんな事言ってないやろ!?」
「遠回しにそういうこと言ってるよ!!」
「け、喧嘩はやめて……」
「じゃあ、言うけどな! 綾美のあの声の出し方じゃ、絶対受からへんよ!?」
「え⋯⋯」
どういうこと?
「来名! それは言わない約束って⋯⋯」
「ダメや、さゆみ。この場で言う。綾美のやり方は、ただの自己満足や! ただ、いい声を出しているだけで役の心に入りきってへん! 綾美はいい声を出せば役に入りきってるって思っとる! でもそれは違うんや! 役の心にならないと、その役に合う声も出ない⋯⋯。だから綾美にはもっと役に入る心を持って欲しいんや⋯⋯」
つまり下手だと? 下手だと言いたいんだ。
確かに私は未熟なところも、まだあるかもしれない。
でも声には自信がある。少なくとも来名とさゆみよりは。
「もういい、今日は帰るわ⋯⋯」
「え、けど⋯⋯」
「じゃあね」
私は学校を後にした。
自宅のベッドに服を着たまま、仰向けになった。白い天井しか、私の目には映っていない。それでも脳内に流れて、出てくる映像は来名と喧嘩している時。
「ちっ⋯⋯」
小さい頃から声には自信があった。
普通に話したら、何の特徴的のない声だけど、よく声を作って遊んでいた。
そのうち、たくさんのアニメを見るようになり、その声も真似し、一人でいろんな声を出せるようになった。
けれど、あの声じゃ受からない?
あの二人に何がわかるの⋯⋯?
私の良さがわからないの⋯⋯?
「潰しちゃおうかな⋯⋯」
◆ ◆ ◆
「わぁーお」
ミヤは大きな水晶を見て、そう呟いた。
◆ ◆ ◆
「この前はごめんね⋯⋯二人共」
「ええよ、ウチも言い過ぎた」
「大丈夫だよー」
私は二人を喫茶店に呼び出していた。この喫茶店は私たちの穴場で、お客さんが入ってるところは、ほとんど見たことないが、コーヒーやケーキなどが美味しいのだ。マスターもお客さんが来る時か注文を取りに来る時しか、出てこない。大事な話する時はいつもここでしていた。
「本当に⋯⋯ごめんね」
私は、“ある物”を取り出した。
「綾美、それ何ー?」
“ある物”を見て、さゆみは私に問いかけた。
「ああ、これ?」
私は“ある物”の蓋を、キュポ、と外した。
「ねぇ、二人共、ごめんね」
「もういいんや」
「違うの⋯⋯」
「え?」
「私のために、声優目指すのやめて!!!!」
私はある物を二人に向かってかけた。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
それも喉をめがけて。
「⋯⋯ごめんね~、私の良さがわからない奴らは生きてる資格ないと思うの~、だから私からのプレゼント!」
「あ、綾美⋯⋯なんや、これ!!!!」
「硫酸だよ? だんだーん痛くなってくるよ?」
私がクスクス笑っていると、マスターが「どうかしましたか!?」と慌てて出てきた。
「と、友達がぁ⋯⋯硫酸を⋯⋯」
「硫酸!?」
私は、ヤバイ、と思い。カバンを持って、急いで喫茶店を出ていた。
マスターは追いかけようとしてきたが、苦しんでいる二人を優先した。それでも追ってきたら困るから私は走った。走って。走って。走って。いつの間にか、古びたシャッターが閉め切っている元商店街に来ていた。
「はぁはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
私は一度立ち止まり辺りを見渡す。
元々、活気があったと思われる商店街は、全てシャッターが降りてある。ほとんどのシャッターに『売家』と貼られている。
いくつか、看板も付けっぱなしであった。その看板も寂れて、薄く文字が残っていて、風が吹く度に今でも剥がれ落ちてきそうだった。
「気味悪っ⋯⋯」
早く違うところへ行こう、そう思った時だった。
突如、──ビュゥ! と突風が吹いた。
私は急な突風に思わず、目を瞑った。
そして目を開けて、上を見上げると──寂れた看板が私の頭上目がけて落ちてきた。
◆ ◆ ◆
「ふふん♪」
ミヤは機嫌が良かった。【地獄ノ女王所有物部屋】を見回した。
「もう少し、ここまで来たんだもん♪」
ミヤの声に反応するかのように、【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートは揺れた。
『一週間連続毎日更新!』二つ目!
今回は声優を目指す人を書いてみました!
主人公の名前の由来は実は私の好きなキャラクターの声優の名前を一つずつ取らせていただきました!