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地獄ノ女王  作者: 夜魅
24/35

22人目 野神 苑香



 地獄ノ女王ことミヤは大きな水晶である映像を見ていた。

「⋯⋯他人の不幸は蜜の味、か」

 そう小さくつぶやいたが、その後は一言も発することなく大きな水晶を見ていた。




   ◆ ◆ ◆




 私たち四人グループは最高で最強の仲間だ。

 美人で読モもしている、小愛(こあい)美月(みつき)

 学校一の秀才、一栄(いちえい)頼子(よりこ)

 地元の権力者、本宮(もとみや)寧々(ねね)

 そして私、野神(のがみ)苑香(そのか)は学校で注目される四人組だ。

 皆から見たら私たち四人は高嶺の華なのである。

 この四人のグループに入りたいと思っている人も沢山いるらしい、が絶対に他の人を入れることはない。

 私たち四人は、あるものが好きなのである。

 それは──

「他人の不幸は蜜の味って本当だわ」

 マイクを持ちながら、学校一秀才の頼子が言った。

「ほんと〜。みーちゃん笑いこらえるの必死だったも〜ん」

 手のネイルもマジマジと見ている読モの美月がその後に続いた。

「ま、調子乗ってるからだろ」

 リモコンで曲を探している地元の権利者の寧々も続いた。

「ねぇ、次のターゲットどうする?」

 私の問に三人は頭を捻った。

 そして美月が「はいはーい!」と手を高く挙げた。

「みーちゃん達と同じクラスの田戸(たど)さんは〜? 地味なクセして最近調子乗っててうざ〜い」

「あぁ、彼氏出来たからだろ?」

「あらあら、それはいいわ。幸せから落とされる⋯⋯素敵なことだわ」

「まったく三人は」

 私は大げさにため息をつくと「一番えげつないのは苑香だろ」と寧々が笑ってきた。

「まぁ、そうかもしれないけど、みんなもそうじゃん? 共同犯だよ、私らは」

「でもどうやって落とすの〜?」

「そこを考えるのが頼子の出番だろ」

「あら、じゃあ腕によりをかけようかしら?」

「料理じゃあるまいし」

 私のツッコミに頼子は「腕によりをかけた方が楽しいわよ、あの絶望的な顔を見るのは」と笑った。

 他人の不幸は蜜の味という(ことわざ)は誰が考えたのだろうか。考えた人はきっと天才であろう。この世の中は善と悪である。全ての人達がいい人ではない。悪い人たちもいるから、この世は成り立っている。

 それにこれは私達からのプレゼントでもあるのだ。

 辛い時こそ乗り越えて、人は成長する。私たち四人に少しでも近づけれるように試練を与えているのだ。

 他人の不幸は蜜の味であるのは事実だがそこから這い上がってこられなければこの世でなんか生きていけない。こう考えると私たち四人はいい人になる。

 ほら、よくアニメや漫画にあるでしょ? 悪人だと思ったら実は味方だったとか最初は敵だったのに今は味方とか、そんな感じだと思う。




   ◆ ◆ ◆




「他人の不幸ー?」

「うん。リルキはどう思う?」

 ミヤはリルキとリミカの部屋に来ていたが、リミカは不在していた。

「他人の不幸は蜜の味って言うでしょ?」

「あぁ、地獄ノ女王様の好きな」

 リルキがそう言うと、ミヤはプクッと頬をふくらませた。

「私は他人の不幸は蜜の味なんて思ってませーん。味しないもん」

「そういう事じゃないと思いますけどね〜」




   ◆ ◆ ◆




 放課後、誰もいない教室に私たち四人は集まっていた。

「出来たわよ」

 頼子は、ある一枚の写真を出した。

「わぁ〜、合成写真?」

「そうよ」

 頼子の出した合成写真には田戸さんの彼氏と近所のお嬢さま名門校に通っている女子が腕を組んでいる合成写真だった。

「よく出来てるな」

「顔と体の光の影、色調のズレ、明度の細かいところまで、ちゃーんと合わせるの大変だったのよ」

「頼子、どんだけ気合入れたの」

 私の問に頼子は「ふふふ」と笑った。

「さて、これを田戸の机の中に入れるか」

「そんなことだけで田戸が写真を信じるのかなぁ〜?」

「信じるよ」

「人間観察の得意な苑香が言うなら本当ね」

「だって、自分の思ってることは全て正しいって思う奴だもん。写真を見たら、すぐに信じて、きっと彼氏に問いただして、嘘だって言われ、喧嘩するに違いない」

「最悪の場合は別れるな」

「わぁ、こわ〜いっ」

 美月は、怖い、と言いながら満面の笑みだった。





   ◆ ◆ ◆





「わぁ、こわ〜いっ」

 ミヤは大きな水晶に映っている、小愛美月のマネをした。

「ねぇ、執事。今のマネ似てた?」

「似てませんね。特に体型が」

「そういう問題じゃなくて!」

「本音を言うと、本当に似てませんでしたよ」

 執事の言葉にミヤは「うーっ」と唸った。

 大きな水晶に映っている四人は、早速作戦を実行していた。

 田戸という女子生徒の机の中に合成写真を入れて、すぐに帰ってしまった。

「ねぇ、執事。あの作戦うまくいくと思う?」

「どうでしょうね」

「私はうまくいくと思うよ。野神苑香って人は本当にいろんな人間を観察している⋯⋯ある意味、怖いよ。下手したら嘘ついたらバレる並だよ、あの観察力は」

「読モに秀才、土地の権力者、そして観察力⋯⋯あの四人には違うところで知恵を働かせて欲しいですね」

「でも見てる分には、とても楽しいよ」

 ミヤは満面の笑みを浮かべた。





   ◆ ◆ ◆




 次の日の朝。田戸とその彼氏は朝から大声で喧嘩していた。しかも廊下でだ。

「朝から喧嘩してたな」

「ありがた迷惑〜っ」

「上手くいったようね」

「あれで別れたら笑い話だよ」

 私たち四人は空き教室に集まっていた。

 空き教室のドアを閉めてても喧嘩する声は聞こえてきた。

「次はどうする〜?」

 美月の言葉に寧々が手を挙げた。

「隣のクラスの阿知(あち)にしないか?」

「寧々、なんかあったの?」

「最近、地元で力をつけてきたらしくてな。地元権力者のアタシを見下してくるんだよ」

「まぁ、それはおこがましい」

「もう方法は考えてある」

「はやっ」

 寧々の考えは単純に阿知を万引き犯にする事だった。

「上手くいくのぉー?」

「アタシら、何人も万引き犯に仕立てあげただろ。上手くいく。実行は今日だ」

「あら、でも阿知は今日お店に行くとは限らないわ」

 頼子の言い分に寧々は「大丈夫だ」と答えた。

「最近、阿知に好きな人が出来たらしくてな。それが雑貨屋さんの店員らしいんだ」

 寧々の話によると阿知は最近バイトで入ってきた、男子大学生の店員に恋をしているらしい。なので、毎日学校帰りに必ずと言ってもいいほど、そのお店に行ってるらしい。

「よく見てるねぇ〜。苑香並だよ〜」

「苑香には及ばない。ただ単純に弱み握りたかったんだよ、この為に」

「じゃあ、実行は寧々一人で充分だね」

「ああ」

「じゃあ私は証拠写真を一応撮っとくわ。それを学校で広めたら、さらに楽しくなるわ〜」

「頼子怖いよ」

「苑香もよ?」

 私は頼子と目を合わすと、クスッ、と二人で笑った。

 その日の放課後、寧々は阿知を万引き犯に仕立てあげ、阿知は停学になった。最近、地元で力を上げてきた阿知の家は、すぐに娘が万引きをしたと地元の中で広まった。恐らく、これを機に力を付けるのは難しくなるであろう。





   ◆ ◆ ◆




「やっぱり、この四人見てて飽きないなぁ」

 ミヤは大きな水晶を見て、つぶやいた。

「次は誰が仕掛けるのかな?」

 ミヤの笑い声がクスクスと部屋に響いた。





   ◆ ◆ ◆




「ねぇ、私ある噂を聞いたわ」

 頼子がいつも以上に真剣な顔をしていた。

 そして私たち四人は今日も空き教室に集まっていた。

「どぉしたのぉ?」

 美月はスマホをいじりながら、問いただす。目線はもちろんスマホ画面だ。

「なんだ、誰かやらかしたとかか?」

 寧々も問いただすが漫画を読んでいた。

 今の状況は頼子は真剣な顔をしているが、美月はスマホ。寧々は漫画を読んでいるので頼子が真剣な顔をしているのに気づいていない。ちなみに私はなにもやっていない。

「阿知を万引き犯に仕立てあげたの私たち四人じゃないかって、疑惑されてるわ」

 頼子が言葉を放った直後、美月と寧々は顔を上げ、頼子の目を見た。もちろん、私も驚きを隠せない表情になり、頼子の目を見た。

「は?」

「なんで⋯⋯ぇ?」

「頼子、それ本当?」

 私たち三人の言葉に対し、頼子は「ええ」と答えた。 

「ま、まぁ証拠は無いだろ? バレる必要性は⋯⋯」

「証拠があるのよ⋯⋯」

 頼子の言葉に三人は戦慄した。

「ど、どこに?」

「⋯⋯この学年全員に寧々が阿知のバックに商品を入れてる写真が出回ってるわ。もちろん、私たち四人に回ってこないようにね。私が教室に入って、みんなの視線がおかしいと思ったのよ。私を見て笑ってくる奴が居たのよ。スマホを見ながら。そして、わざと近づいてってスマホの画面を覗いたら⋯⋯」

「その写真があったわけ、か」

「どーするの? みーちゃんバレたくないよぉ」

「私も同じよ、美月」

「やられたな」

「でも私たちに逆らうモノなんていないよ」

「でもぉ〜、みーちゃん悪者扱いされたくなぁい」

「おい、ここに来て逃げるなんて無しだぞ」

「逃げるなんて言ってないよ〜。でもバレたら〜怖いっていうかぁ〜」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」

「ち、ちょっと二人共⋯⋯」

「喧嘩はやめなさいよ」

「みーちゃんビクビクして学校生活送りたくないよぉ〜」



 ──【だったら、堂々としていたらいいんじゃない?】



 小さい女の子のような声が聞こえた。

 私以外にも、みんな聞こえたらしく、辺りをキョロキョロしてる。

「お姉さん、下だよ。下!」

「え、うぇぇ!?」

 声の主と思われる、女の子が私の目の前に立っていた。しかも女の子が私の目を見るように上を見ているから、自然と上目遣いなっている位置に立っていた。

(近っ!)

 心の中で小さなツッコミをした。

 三人は私の変な声にびっくりし、さらに私の目の前に立っている女の子を見て、驚きを隠せない表情になっていた。

「あなた、どこから来たの?」

 頼子は小さな女の子に目線を合わせるようにしゃがんだ。

「私、ミヤ! どこから来たかは内緒!」

「ねぇ〜、凄い服だね〜」

 美月の言ったとおり、ミヤちゃんはゴスロリというファションの服を着ていた。

「こんなの普通だよっ」

「ってか、なんで学校に? 姉か弟に会いに来たのか?」

「ううん、いないよ。私ね、お姉さんたちに会いに来たの!」

「私たち?」

 私の言葉にミヤちゃんは「うん!」と元気よく答えた。

「お姉さんたち、いろんな事やってるでしょ? 私、それ見ててすごーく楽しかった」

 いろんな事? 私たち四人は頭の上にはてなマークを浮かべた。それでも気にせず、ミヤちゃんは話を続けた。

「でもそれが今バレそう⋯⋯それでもお姉さんたちは堂々としてていいと思うよ」

 私たち四人は、いろんな事の意味がようやく分かったが、なぜミヤちゃんが知ってるの?

「私、お姉さんたち大好きだよ! だから、そのままでいてねー!」

 ミヤちゃんは、そう言うと空き教室から出ていった。

 私たち四人は、ミヤちゃんの(こと)が速すぎて、何がなんだかわからなかった。

 でも私は分かったことが二つがある。

 一つはミヤちゃんは、どこかで私たちを見ていること。

 もう一つは──ミヤちゃんが人間ではないこと。





   ◆ ◆ ◆




「お嬢様、またどちらに行かれてたのですか」

 執事は呆れながら、ミヤに問いただしていた。

「ちょっとね、犠牲者探しにかな?」

「そんなの水晶で出来るじゃないですか」

「実物見ないとわからないじゃん!」




   ◆ ◆ ◆




 噂というのは怖い。あっという間に阿知を万引き犯に仕立てあげたのが私たち四人だとバレたが、それでも私たちは堂々していた。が、次々といろんな疑惑も出てきた。例えば、過去に万引き犯扱いされた子たちも実は私たち四人のせいではないかという疑惑だ。

 まぁ、それは事実だから良いが、私たち四人が暴走族と絡んでいるとか、おじさん達にイケナイ事をしてお金貰っているとかという嘘も流れ始めた。

 そして私たち四人は今日も空き教室に集まっていた。今教室にいるのは正直心地が悪い。

「誰だよ。変な噂流した奴」

 寧々は嘘の噂にキレていた。

「あのさ、阿知を万引き犯に仕立てあげた時の写真、誰撮ったかわかった」

「苑香それは本当かしら?」

「うん。写真部の木野田(きのだ)だよ」

 写真部の木野田は愛想が良く、しかも面白いのでみんなから好かれていた。

「写真部の木野田の撮り方と寧々が阿知のカバンに商品を入れている写真がほぼ一緒だったの」

「そんなこと分かるのぉ~?」

「うん、それにピントの合わせ方見たら、写真部だって分かるよ。だってバックにピントが合ってるけど、実際遠くから写す時、ピントを合わせるのは難しいし、合わせるのにも少し時間かかると思う」

「確かにそうね。写真部の木野田だとピントを合わせるのに時間もかからない⋯⋯」

「でもぉ、あの人がなんで広めたりするの~? そういうのしなさそうに見えるよぉ?」

「一回、私たち四人で階段から突き落としたことがあったじゃん。その時だと思う」

「あぁ、確か口答えして、ウザかったからな」

「その時に、おそらく気づいてたんじゃないかな。私の考えだけど、もしかしたら他の写真も撮ってるのかも⋯⋯」

「ぇ?」

 美月が小さく呟いた。そして次の瞬間、四人のスマホが一気に鳴り始めた。

 一度や二度ではない。メールの着信音が鳴ったり、LINEの通知音が鳴ったりした。

 四人のスマホが急に鳴り始め、鳴り止まない着信音と通知音。その光景に美月が「怖い⋯⋯」と呟いた。

「気、気持ち悪ぃ!」

「四人一斉になんて⋯⋯しかもたくさん」

「な、内容を見てみよう」

 四人は一斉にスマホを見た。それでも着信音や通知音は鳴り止まない。私はLINEを開いた。

 たくさんの人⋯⋯友達追加のしていない、うちの生徒から、いくつもの通知が着ていた。それもみんな写真で。

 一番上に来ている通知を開いた。

「ひっ⋯⋯!」

 そこに写っていたのは田戸の机の中に合成写真を入れてる私たち。他にも過去に万引き犯に仕立てあげた時の写真。下駄箱の中に虫の死骸を入れてる時の写真。全部私たちが仕組んだ時の写真が送られてきていた。

「なによ、これ! 私のパソコンの中身がスクショされてるのまであるわ!」

 頼子の声に私たち四人は頼子のスマホを覗いた。その画面に写っていたのは合成写真を作った時に使ったアプリの中身などがスクショされていた。しかも作りを中断していた所も一枚一枚スクショされていた。

「誰よ、私のパソコンの中身見たのは⋯⋯!」

 頼子は普段あまり怒らない。その頼子を怒らすとは、相当のことだ。

「い、いやぁああああああ! なに、これぇ!? いつ撮られたの!?」

 今度は美月が叫んだ。美月は自分のスマホを見て、手を震えさせていた。

「おい、美月。大丈夫か!? 見せてみろ!」

「ダメぇ! 見ちゃだめぇえええ!」

 寧々は美月の言い分を聞かず、スマホを取った。

「⋯⋯は?」

「あ、あぁ⋯⋯」

 寧々は美月のスマホを見て、固まった。美月はこの世の終わりみたいな顔をして床に座り込んでしまった。

「ど、どうしたのよ⋯⋯」

「なにがあったの?」

 私と頼子も寧々の手にある、美月のスマホを覗いた。

「⋯⋯え?」

 その画面に写っていたのは、寧々と少し中太りのオジさんがイケナイホテルに入っていくところだった。

「み、美月⋯⋯?」

「⋯⋯その人が、みーちゃんの雑誌の社長だよ。一緒に寝たら、特集組んでくれるって⋯⋯それでぇ⋯⋯」

「な、なにしてんだよ!?」

「だってぇ⋯⋯」

「チッ、噂は本当だったってことかよ!!」

「落ち着いて、寧々。今はそれどころではないわ。⋯⋯さ、美月も立って」

「ぅん」

 床に座り込んでいた、美月は頼子の手を借りて立った瞬間だった──

 パリン──!!

 突如、窓のガラスが割れた。

「な、なんだ!?」

「野球ボールが飛んできたみたい⋯⋯美月、頼子大丈夫?」

 私と寧々は美月と頼子に視線を向けた。そして私と寧々は頼子の横たわる姿を見た。

「頼子!?」

「頼子、大丈夫!?」

「え、えぇ⋯⋯平気よ。頭にボールがぶつかっただけ⋯⋯」

「よかった、美月も大丈夫? ⋯⋯て、美月?」

 美月はワナワナと震えていた。

「見えない⋯⋯」

「え!?」

「目が痛い! 暗くて何も見えないのぉぉぉぉぉぉ! 痛い痛いよぉおおおお!」

 美月は目に窓のガラスの破片が入ってしまったらしい。

「お、おい! 落ち着け!」

「いやああああああ! みーちゃん、暗いのは苦手なのおおおおお!」

「とりあえず保健室行こう!! 美月、私の手に捕まって」



 私たち四人は保健室に行こうと階段を降りようとした。

「あ──っ」

 目が見えない美月は階段で足を滑らせた。足を滑らせた時に私の手と美月の手は離れてしまった。

「美月!」

 頼子が咄嗟に美月の手を掴んだ。が──

「うっ⋯⋯」

 頼子は呻き声を上げて、美月と一緒に落ちてしまった。

「美月! 頼子!」

 そして、二人は勢い良く階段の踊り場の壁にぶつかった。二人の頭からは血が流れていった。

「ひっ!」

「マ、マジかよ⋯⋯」

「ね、寧々⋯⋯どうしよ⋯⋯」

「とりあえず先生呼ぶしかないな⋯ここは三階だから一階にある職員室より四階にある家庭科室に行こう。家庭科室にはいつも内浦(うちうら)先生がいる。そっちの方が近いし⋯⋯それに⋯⋯」

 私と寧々は倒れている美月と頼子を見た。二人の周りは血でどんどん床が真っ赤になっていていた。

「そ、そうだね⋯⋯」

 私と寧々は四階の家庭科室に行くことにした。



「先生!」

 家庭科室のドアを開けると誰も居なかった。

「職員室か?」

 私と寧々は家庭科室に入り、所狭しと先生を探す。

「⋯⋯いない」 

「苑香なんかここ、息苦しくないか?」

「え?」

 そういえば、何か少し息苦しく感じるような⋯⋯。

 私は不意に一番近くのテーブルにある、ガスの元栓を見た。──やばい。

「ね──」

 寧々と呼びかけようとした時、なにか熱いのに覆われた。

 そこからの記憶はない。





   ◆ ◆ ◆




「ん⋯⋯」

「苑香!」

「良かった~目を覚まして~」

「あぁ」

 重たい瞼を開けると、頼子と美月、そして寧々が私の顔を覗いた。

「ここは⋯⋯?」

「あ、苑香お姉さんもやっと目覚ました?」

 陽気な声が私の耳に入ってくる。この声はどこかで聞いた⋯⋯。

「あなたは⋯⋯ミヤちゃん⋯⋯?」

「ご名答を!」 

 私が起き上がると、そこには大きな水晶があった。

「なぁ、苑香も目を覚ました。ここはどこか教えてくれ」

「みーちゃん、帰りた~い」

「落ち着いて、寧々お姉さん。美月お姉さん。順を追って話すよ。まずはこれを見て」

 ミヤちゃんは大きな水晶に指をさした。

 私たち四人は大きな水晶に映っている画面(?)を見た。

「これは私たちの学校⋯⋯? しかも家庭科室の窓から火が出てるわ!」

「この火事で二人の女子生徒が亡くなった。さらにこの火事の数分前に階段から転落死した二人の女子生徒もいる。この日だけで四人の死者が出た。その四人は仲良しでいつも四人一緒に居た⋯⋯。さて、問題です。その四人とは誰でしょうか?」

「⋯⋯私たち四人ってこと?」

「おお、正解! では次の問題です。なんでお姉さん達が死んだ時に一気にメールが来て写真が添付されていたでしょうか?」

「それは写真部の木野田の奴が⋯⋯」

「それも正解。じゃあ、写真撮るように指示したのは誰でしょうか?」

「そんなのわかんないよ~」

「私にもわからないわ」

「私も⋯⋯」

「正解は⋯⋯この私、地獄ノ女王です!」

 ミヤちゃんは腰に手を当て、えっへん! と胸を張っていた。

「はぁ?」

 寧々は呆れた声を出す。

「さらにもう一つ問題。ここはどこでしょうか? ヒントは私が地獄ノ女王だということ」

「⋯⋯地獄?」

「苑香お姉さん、大大大正解~!」

「ふざけんなよ!!」

 寧々がミヤちゃんに向かい、殴ろうとした。それを頼子が「寧々止めなさい」と仲裁に入った。

「寧々お姉さん暴力はいけないよ~。あ、なんで地獄に来たかわかる?」

「わからないよ~。みーちゃん行くなら天国がいいなぁ~」

「無理に決まってるじゃん。ぶりっ子」

「はぁ!?」

 美月がキレた。

「だって、お姉さん達がしてきた事はいけない事でしょ? 自ら他人を不幸に落としつけ、それを見て嘲笑う⋯⋯その代償が今、来たわけだよ」

「意味がわからないわ。他人を落としつけて何がいけないの?」

「そうだよ~」

「むしろ成長する機会を与えてやってるから感謝してほしいくらいだ」

「ミヤちゃん、悪いことは言わない⋯⋯私たちを天国に連れていって」

 ミヤは腕を組み、「うーん」と考えた。そしてなにか閃いたように「そうだ!」と笑顔になった。

「じゃあ一番悪い人だけ地獄に残って、残りの三人は天国! これならいいよ」

 ミヤはニヤリと笑った。

「一番悪い人⋯⋯寧々じゃないかしら?」

「は?」

「あ〜、確かに~。阿知を万引き犯に仕立てあげたの写真で流れちゃったし~」

「ち、ちょっと待てよ! その前にやったことも撮られてただろ!? それに頼子の方が悪いだろ!?」

「なんですって⋯⋯?」

 頼子の眉毛がピクッと上がった。

「合成写真とか作ってただろ!?」

「はぁ!? よくそんなこと言えるわね! 美月も悪いじゃない! ジジイと寝て!」

「ち、ちょっとそれは~」

「汚い。汚らわしい」

「苑香、みーちゃんに対して酷くない!? 読モなんだよ!!」

「その読モが社長と寝て、仕事もらってたなんて、ただの媚売りじゃん」

「はぁ!? うるさい! ブス!」

「あ? 汚ぇ、ぶりっ子!」

 こんなやりとりを見ていたミヤは小さく呟いた。

「そんな都合のいい話あるわけないじゃん。ばーか」

 そしてミヤの口角が上がった。




   ◆ ◆ ◆




 ミヤは上機嫌だった。その証拠に【地獄ノ女王所有物部屋】からスキップして出てきた。

「ねぇ、執事! 一気に四人もだよ! 四人!」

「そうですね」

 ミヤの隣にいる執事は、嬉しそうなミヤを横目で見ていた。

「さぁ、お嬢様。次は溜まっている仕事をしてください」

「え、やだ」

 ミヤの返答に執事は小さく溜息をついた。

作者、これ考えるの超頑張った⋯⋯!


犠牲者を四人一気に出す方法を考えた結果これでした⋯⋯!


やっと折り返し地点かな⋯⋯?

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