20人目 矢内 絵空
真っ白なキャンバス。
そこに鉛筆で真っ白なキャンバスに黒い線が一本、また一本書き込まれ、線画が完成してくる。
そして、鉛筆で書き終わった後は絵の具で色を作る。
元々の絵の具の原色を使うんではなく、一つの色を作るのにも試行錯誤を重ね、より良い色を作り、真っ白だったキャンバスに塗っていく。
時間をかけて絵は完成していく。
完成した時の達成感は一番嬉しい時だ。
◆ ◆ ◆
地獄ノ女王ことミヤは寝っ転がりながら、パソコンの画面横目に見て、スケッチブックに鉛筆で絵を描いていた。
パソコンの画面にはヨーロッパにある、おとぎ話の世界に出てくるようなお城が映し出されていた。
ミヤは、そのお城を描いていた。
一寸の迷いも無しに次から次へと手が動く。
そのミヤの姿を見ている人物が声をかけた。
「ミヤちゃん、絵が上手いわね~」
「……エルリ!?」
ミヤは声の聞こえる方へ、目線を向けた。ミヤの足元に立っていたのはエルリだった。
「そろそろお暇しようと思って、声をかけようとしたのよ。でもミヤちゃんが夢中に絵を描いてたから、声をかけるタイミング失っちゃって♪」
「あー、はいはい。ばいばーい」
「ひどいわね。……まぁ、いいわ。双子ちゃんたちと仲良くね」
「わかったわかったー」
ミヤはまたパソコンの画面を見始め、絵を描くのを再開した。
◆ ◆ ◆
美術専門の大学に入り、半年が過ぎた頃。
私の通う美術専門の大学のビックイベントが待っていた。
「全学年対象の美術祭典?」
「そう」
お昼ご飯を共にしている高校からの友達の横間久美が私のタコさんウィンナーを横取りしながら、話題を出してきた。
「一人一作品出さなきゃいけないの。そんで、美術関係のお偉いさんや美術の先生達がそれを見に来て、評価はランキング形式で発表されるの。うちの美術大学って結構有名じゃん。結構な人数来るんだって。まぁ、生徒数もすごいけどね」
「そんなのあるんだ。知らなかった」
「だから、先輩達は今から準備してる人もいるらしいよ。まぁ、二ヶ月後からだからそろそろ始めないとね」
久美は「頑張るぞー!」と言い、私の卵焼きを横取りした。
「久美、タコさんウィンナーと卵焼き返して」
「え、無理」
◆ ◆ ◆
エルリは地獄から帰ったきて、天国ノ大王様に地獄ノ女王の様子を報告した後、自室に居た。
「お疲れのようですね」
エルリの執事のアウルスがベットに座っているエルリに声を掛けた。
「疲れたわ……ミヤちゃんは何を考えているかわからないし、双子ちゃんたちも……」
エルリはなにか言おうとしたが、あえて言わなかった。
そんなエルリを察したアウルスは「たまには息抜きをしてはどうですか?」と声をかけた。
アウルスの言葉にエルリはミヤが絵を描いていたのをふと思い出した。
「気晴らしに絵を描こうかしら」
「そうですね。それも息抜きの一つです」
「そうと決まれば、キャンバスや絵の具を用意してくるわ。久しぶりに油絵にしましょう」
アウルスは「ご用意しましょうか?」と聞いたがエルリは「自分で用意するわ」と言い、自室を後にした。
◆ ◆ ◆
私と久美は次の授業の教室に移動していた。
私と話していると久美は急に目をキラキラと輝かせ、ある一定の場所に目が止まっていた。
「色末先輩だ~!」
「色末先輩?」
私が「誰?」と聞くと久美はびっくりした顔になり「え!?」と言ってきた。
「この学校の有名人だよ!」
「そうなの?」
久美が言うには色末先輩……本名は色末彩葉先輩と言うらしい。
全学年対象美術祭典で一年生から三年生まで三年連続一位に輝いているらしい。
「それに美人で羨ましいよねぇ~」
「本当、美人だね」
久美の言う通り、色末先輩は美人だ。しかも周りとオーラが違う。住む世界が違う。
「今年も一位になったら四年連続だよ! すごいよねー」
「そうだね」
正直、私はそういうのに興味がなかった。
ただ絵を描くだけで幸せだったから。
◆ ◆ ◆
ミヤの完成した絵を見て、執事はまじまじと見ていた。
(お嬢様、絵だけ上手いですよね……)
「執事、なんか失礼なこと思ってない?」
隣にいたミヤは執事に声をかけた。
「いえ、何も思ってませんよ?」
執事は、何のことでしょうか? という顔をしていた。
ミヤはそれが気に食わない様子だったが「まぁ、いいや」と言い、次の絵に取り掛かっていた。
「お嬢様、次は何をお書きになって?」
「馬車。お姫様や王子様が乗るような立派なヤツ」
ミヤは、さらさらと一寸の迷いもなしにまた描いていく。
ミヤの絵に描かれている馬二頭の毛並みなんか、すごく綺麗だ。
「あ、そうだ! 執事も描いてよ!」
ミヤの言葉に執事は「え"!?」と声を上げた。
「執事の絵見たことないし! そうだなぁ……お姫様描いてよ!」
「お、お姫様ですか!?」
「うん!」
執事は断ろうとした……が。
「描いてくれたら、ちゃんと仕事やるから~」
「描きましょう」
ミヤに仕事をやらせるためなら、なんだってやる執事であった。
◆ ◆ ◆
納得する良い絵が描けなかった。
自分の納得する良い絵を全学年対象美術祭典に出したかったが、取り掛かったのも遅かったせいか時間が無く、結局あまり納得する良い絵は描けなかった。
「えー、充分すごいよぉ」
久美は褒めてくれたが、私は納得していなかった。
「もう少し、色に気を配ったりしたかったのに……」
「大丈夫だって! どうせ私たち一年は来年もあるんだし。上位に入るのも先輩達なんだし」
「私は順位なんて、どうでもいいけどね」
こうして、たくさんの絵が学校に貼り出された。全学年対象美術祭典が始まった。
私は久美に誘われて、色末先輩の絵を見に行った。
色末先輩の絵を見たいと、たくさんの人が集まっていた。
人と人の間を縫って、色末先輩の絵の前に立った。
「すごい……」
細かいが一つ一つ丁寧に描かれている。一つ一つの色も生き生きとしていて、いつでも飛び出してきそうな絵だった。
「絵空すごいね!」
「うん……」
私は、まるで時が止まったような感覚を味わったみたいだった。
それほどすごかったのだ。
数日に渡る、全学年対象美術祭典も終わりを迎えた数日後。
玄関には全学年対象美術祭典の順位が名前と絵の題名と共に貼り出されていた。
上位三十名の名前がズラリと並んでいた。
「やっぱり三年生と四年生が多いよね~」
私と並んで順位見ている久美が言ってきた。
「そうだね」
そして、一番上に堂々と書かれている名前を見て、私と久美は目を丸くした。
「色末先輩が二位……?」
久美は呟いた。
「一位……矢内絵空!? 絵空、一位だよ!! 色末先輩を抜かしたよ!」
「うそ……」
久美は自分のように「やったぁー!」と喜んでいた。
私は納得する絵を描けなかったのに、なぜ? と思った。
「絵空、嬉しくないの?」
呆然としている私に久美は声をかけた。
「な、何か実感? なくて……」
久美が私に冗談で「ビンタしてあげようか?」と聞いてきた時だった。
「あなたが矢内絵空さん?」
ショートカットで赤いピアスをしている美人な人が声をかけてきた。色末彩葉先輩だ。
「そ、そうですけど……」
横にいる久美は目をキラキラ輝かせていた。
「すごいわね。一年生で一位だなんて」
「い、いえ。むしろ何かすみません……」
「いいのよ。アタシの実力が足りなかっただけ。ねぇ絵空って呼び捨てにしてもいいかしら? アタシ矢内さんと仲良くなりたいわ」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ、また会いましょう。絵空」
色末先輩は、その場を去っていた。
その一部始終を見ていた久美は私に抱きついてきた。
「すごい、すごいよ! あの色末先輩に話しかけられるなんて! しかも呼び捨てにされるなんて……絵空幸せ者だよぉ!」
「そ、そうかな?」
「そうだよー!」
実際、私も話しかけられて嬉しかった。
全学年対象美術祭典の日に見た色末先輩の絵を見て、感動と同時に憧れを抱いからだ。
そんな憧れな色末先輩に声をかけられたという嬉しさが込み上げてきたのだ。
◆ ◆ ◆
「こんなものかしらね……」
エルリは忙しい中、暇な時間や息抜きを見つけては油絵を描いていた。
それが今日完成したのだ。
「エルリ様、完成したのですね」
エルリの隣にいたアウルスが声をかけた。
「えぇ、完成したわ……でもミヤちゃんの方が上手いわね」
「そうなのですか? 私は地獄ノ女王様の絵を見たことないので……」
「本当にすごいのよ」
「地獄ノ女王様は先代地獄ノ女王様に絵が上手いところが似たのですね」
「先代地獄ノ女王様も絵が上手だったの?」
「はい。天国ノ女王様も先代地獄ノ女王様の絵が好きでした」
「お母様が……」
「先代地獄ノ女王様の絵は美術室にあると思いますよ。よく貰ってましたし……」
「じゃあ、今度時間を見つけたら探してみましょう」
◆ ◆ ◆
授業中、外で久美とスケッチしている時に色末先輩に声をかけられた。
「絵空」
「色末先輩!? どうしてここに……」
久美の目はキラキラと輝いていた。私が色末先輩に話しかけられた時のように。
「アタシの授業も今日は外でスケッチなの。隣いいかしら」
「あ、はい。どうぞ」
私の隣に色末先輩が座ってきた。
「絵空やっぱりすごいわね」
色末先輩は私のスケッチブックを覗いてきた。
「色末先輩に比べたらまだまだですよ」
「そんなことないわよ。アタシが一年の時はここまで描けなかったよ。あ、そういえば、絵空は彩り美術展参加するの?」
「彩り美術展……?」
私が「なんですか、それ?」 と聞くと久美は驚いた顔をして「えー!? 知らないの?」と言ってきた。
「この地域の有名の美術展だよ! この学校からも多くの人が参加するよ!」
「へぇ……久美ってそういう情報よく知ってるね」
「知ってるも何も、この学校の常識範囲じゃ……」
「私、絵を描けるだけで幸せだから」
「とりあえず絵空はどうする? 彩り美術展」
「テーマとかあるんですか?」
「テーマはないよ。水彩画、油絵、デッサンのどれかじゃないといけないけどね」
彩り美術展か……。
「アタシは彩り美術展に出るわ。毎年出してるの」
「き、去年は最優秀賞取ってましたよね!」
「あら、横間さんよく知ってるわね」
「色末先輩のことは高校の時から知ってました……! 絵に一目惚れして……」
「嬉しいわ。ありがとう」
色末先輩はニコッと笑った。久美は色末先輩の笑顔に顔を真っ赤にさせ「いえいえ」と言った。
「……参加してみようかなぁ」
「それがいいわ!」
「絵空が参加するなら私も参加してみる!」
こうして、私と久美は彩り美術展に参加することにした。
◆ ◆ ◆
ミヤは執事の描いた、お姫様の絵を見ていた。
「執事、これはなに?」
「それは王冠です」
「これは?」
「それは髪の毛です」
「これは?」
「それはドレスです」
ミヤは硬直した。
そして、肩をわなわなとし始めた。
「なにこれ!? 王冠じゃなくて、ただの三角形じゃん!! しかも髪の毛じゃなくてただの線だし!? しかもこれドレスじゃない! ただの長方形だよ!?」
一言で言うと執事の絵は幻滅的だった。
「私がいつ絵が得意だと言いましたか?」
「言い方腹立つ!!」
ミヤは、がくり、と肩を落とした。
「……もうなんか、いろんな意味でやる気無くした……大きな水晶見てこよう……」
「ま、待ってくださいお嬢様!」
「なに?」
「私は絵を描きました。絵を描いたら仕事をする約束でした。さぁ、お嬢様仕事をしてください!」
執事の笑みにミヤの中の何かが切れた音がした。
「こんな絵で誰が仕事するかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
地獄宮殿にミヤの声が響き渡った。
◆ ◆ ◆
彩り美術展も近くなってきたこの頃。私は、とても悩まされていた。
「まただ……」
「本当だ……なんでいつも絵空のだけ……」
彩り美術展に出そうと思った作品が、壊されているのだ。
それも一度や二度ではなかった。
「なんでいつも絵空のだけ!? 置く場所変えてるのになんで……」
「……やっぱり先生に言った方がいいかな」
「絵空……」
「と、とりあえず直さなきゃね。最初から描いてる時間もないし」
「そ、そうだね! 色を塗り変えれば修正できるくらいだもんね!」
最初に壊された時は後は細かいところを塗れば絵が完成する段階のところで白い絵の具がまき散らされていた。
最初は誰かがドジをしてしまいかかったのかな? なんて呑気に考えていた。が、その数日後にまた白い絵の具がまき散らされていた。それも最初の時より面積が大きく。
さすがに私と久美は絵を置く場所を変えた。
その数日後には、また白い絵の具がまき散らされていた。それも真ん中に大きく。
最初から描き直そうか考えたが、時間が無いので、どうにか修正した。
そして今日は細かく描いた部分だけが白い絵の具でまき散らされていた。
(なんでだろう……)
全学年対象美術祭典で私が一位を取ったから嫉妬している人がいるのか?
確かに全学年対象美術祭典で一位を取った時は、いろんな人に声をかけられた。色末先輩もその一人だった。
「えーっぞら!」
「色末先輩……」
「どうした……って、絵空もしかして……」
「はい……また絵が……」
「ちょ、大丈夫? もう日にちもないし……ってか、やったの誰よ……」
色末先輩は怒りに満ちた顔をしていた。
「だ、大丈夫です! まだ直す分の日にちはありますし……」
「そう? なんか出来ることあったら言って! アタシ協力するから!!」
「あ、ありがとうございます」
本当は心はズタズタにされていた。
けど、色末先輩だって絵を描かなければいけない。私の為に時間を割いてもらうのは失礼だと思った。
そして、彩り美術展の作品を出す日がやって来た。
「昨日ちゃんと仕上げし、違う場所に置いといたし、今日は出すだけだね!」
「そうだね。久美なんかはりきってるね」
「絵空程じゃないけどいい作品出来た気がするんだ~」
久美は上機嫌だった。スキップをしながら私より早い足取りで私たちの作品を置いてある教師の戸を開けた。……が、久美は一気に戸を開けた瞬間に硬直した。
「久美……?」
「え、絵空…………絵が……」
久美の言葉に私は歩いている足を早め、作品を置いてある教室を見渡した。
「う、嘘……」
私の絵はカッターナイフで切られたような跡があった。何度も修正し、昨日綺麗に仕上げた絵が一夜で誰かの手によってボロボロにされてしまったのだ。
「絵空……」
「……久美、早く先生に絵を出してきたら……? 私はここで待ってるよ……絵の処理しなきゃいけないし……」
「でも……!」
「いい作品出来たんでしょ? 早く行きなよ……」
「あ、うん……わかった」
久美は自分の絵を持っていき、この場を後にした。
久美には伝わったんだ。私を一人にさせて欲しいってこと。
「……な、なんでよぉ……なんで、私だけぇ……」
自然と涙が溢れてきた。本当は、辛かった。けど、何度も修正して作品を出そうと試みた。でも、それを許してくれなかった。一生懸命直した結果、絵はカッターナイフによってボロボロにされてしまった。
「なんで、なんでぇ……!」
──【わぁ、綺麗な絵】
小さい女の子のような声が聞こえた。
「お姉さんの絵、綺麗だね!」
「ふぇ……?」
声の聞こえる方へ、顔を向けると小さな女の子が立っていた。ゴスロリを着ている小さな女の子が。
「これ、綺麗だね」
小さな女の子は私の絵をジッと見た。
私は涙と鼻水を急いで拭き「綺麗じゃいよ」と応えた。
「どうして?」
「……傷ついちゃってボロボロになっちゃったから」
「確かにボロボロだけど、絵がとても綺麗なのはわかるよ!」
「あはは、ありがとう」
「私、お姉さんの絵好きだよ! これからも描くこと止めないでね! それから……ちゃんと犯人見つけてね?」
小さな女の子は「ばいばーい!」と手を振り、教室を出ようとしたが「あ!」と言い、私の方に顔を向けた。
「言い忘れてた! 私、ミヤっていうの! お姉さんの絵のファンの一人だから覚えといてね?」
「う、うん。ミヤちゃん」
「じゃあ、ばいばーい!」
ミヤちゃんが出ていくのと入れ違いに久美が戻ってきた。
私は久美に「仕方ないけど今回は諦めるよ」と言ったら「そっか」といつも通りの笑顔になった。
昼休み、私はいつもの場所で久美とお弁当を食べていた。
「絵空~久美~。作品提出した?」
色末先輩がお弁当を持って私たちのところにやって来た。いつの間にか久美も呼び捨てにされるようになっていた。
「色末先輩、実は──」
私は色末先輩にここまでの経緯を話した。
「……まさかそんなことまでするなんて」
「はい。犯人を見つけたいと思います」
「そっか。アタシもなにか情報があったら教えるよ」
「お願いします」
私はまだ知らなかったのだ。今日中に犯人が見つかるなんて……。
私と久美は色末先輩と別れた後、次の授業のために教室に移った。
「あ、あの矢内さん……」
話しかけてきたのはあまり話した事の無い仁科さんだった。
「なに?」
「こんなこと言いづらいんだけど──」
仁科さんは私に携帯の画面を見せてきた。
「え……」
「ご、ごめんなさい……! 本当は止めようとしたの……けど怖くて……だからせめて証拠だけでもって……」
仁科さんは目に涙を浮かべていた。
きっと携帯の画面に写っている場面に遭遇して怖かったのだろう。
「ううん。むしろ証拠を撮ってくれててありがとう」
私は犯人を見つけた。
その日の放課後。私と久美がお昼をとっている、いつもの場所で犯人を呼び出した。久美にはあえて席を外してもらった。
犯人は姿を現した。私はゆっくりと口を開いた。
「あなたが……犯人だったんですね……色末先輩」
「なんのこと?」
色末先輩は首を傾げた。
「私の絵をボロボロにしたのは色末先輩だったんでしたね」
「え? ちょっと待ってよ~アタシそんなことしてないよ?」
「……私の絵を置いてある場所はコロコロと変えてました。それを知ってるのは私と久美……そして色末先輩だけです。毎回置いてある場所を変える度に聞いてきましたよね? それから証拠写真もあります」
私は先程、仁科さんに送ってもらった写真を見せた。
私の絵をカッターナイフで切っている色末先輩の写真を。
「これでも、言い逃れするんですか?」
色末先輩は下を向いた。
そして肩をわなわなとさせた。
「……そうだよ。アタシがしたんだよ……このクソガキが!!」
色末先輩は、私の髪の毛を力強く掴み引っ張った。
「いたっ……」
「なんでアンタみたいなブスが一位を取るわけ!? アタシだってね、一位にずっといるためにいろんな手段を使った……! なのに有名じゃないアンタが一位を取った!! 許さない!」
色末先輩は勢いよく、私の髪を引っ張り、私を押し倒した。
押し倒した私の手を色末先輩は足で踏んだ。
「いっ……!」
「この事言ったら、この学校に居られなくしてやるからな!!」
色末先輩はその場を後にした。
「いったぁ……」
手を見ると色末先輩の靴の跡が残っていた。
──【お姉さん良くやったね】
「え?」
どこからかミヤちゃんの声が聞こえた。
その数日後、色末先輩歯なくなった。 死因は色末先輩の社会人の彼氏が色末先輩に違法の薬をたくさん投与させたらしい。
そして私は今日も絵を描いている。楽しく、そしてとても平和に。
◆ ◆ ◆
今日も【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが揺れた。
ミヤはスキップをしながら自室に戻った。
同時刻。天国宮殿の中にあるの美術室にエルリがいた。
エルリは先代地獄ノ女王様の絵を見たくなり探しに来たのだ。
「あら、これは……?」
エルリが見つけたのは天国ノ王様と女王様の今より少し若い肖像画だった。
「私も居るわね……」
肖像画の天国ノ女王様の膝の上には、人間でいうと二歳くらいのエルリが座っていた。
そして、反対側には先代の地獄ノ王様と女王様も肖像画が描かれていた。
「これは昔に皆で揃った時に描いてもらったのかしら……?」
肖像画に描かれているのは天国ノ王様と女王様とその膝の上に座っている小さなエルリ。そして先代地獄ノ王様と女王様……。その腕に抱かれているのは小さな赤ちゃん。
「え……?」
エルリは先代地獄ノ女王様の腕に抱かれている小さな赤ちゃんが気になった。
「……おかしいわ」
エルリは頭の中を整理する。
けど、やはりこの肖像画はおかしい。だって、年齢が合わない。
「……こんなに私が小さい頃にミヤちゃんは産まれてないはずなのに……」
エルリの違和感がなにかの始まりであった。
作者は中学時代美術部でした。(多少なら美術関係がわかる)
最後のエルリの違和感をずっと書きたかった!
今回の話的にもエルリのが書きやすいなと思い書きました