18人目 曽野 明奈
ここは何処だろうか……。
目の前には大きな水晶がある、部屋は大きな水晶が放つ光しかない。
周りをぐるりと見渡すとゴスロリを着ている一人の女の子が水晶を見ていた。
「あの……」
「あ、やっと起きた?」
「えっと……ここは」
「ここは地獄だよ」
「え……」
私、死んじゃったの?
「……覚えてないんだね」
「す、すみません」
「謝らなくていいんだよ。けど、思い出して欲しいから、私とこの水晶を一緒に見ていて」
「あ、はい……」
私は女の子と一緒に水晶を見る。
大きな水晶がなにを映し出すのか、私は不安でたまらなかった。
◆ ◆ ◆
地獄ノ女王ことミヤは大きな水晶を見ている。
そして、その隣で大きな水晶を見ているのは曽野明奈だ。
彼女は、どうして自分が亡くなったのか覚えていない。
そして生前より控え目な性格になっている。
実はミヤは曽野明奈の生前から目をつけていた。
……が、ミヤの予想より早めに地獄に来たのだ。
けど、曽野明奈本人はなぜ自分が亡くなったのか覚えていない。
そして、ミヤは、ある事を思いついたのだ。
曽野明奈になぜ自分が地獄に来たかを思い出させようと言うのだ。
大きな水晶だけを見て、思い出すかはわからないが、やってみる価値はあるかと思った。
◆ ◆ ◆
「これは……学校ですかね」
「そうだね、お姉さん通ってたんだよ?」
「なんか見覚えがあります」
なんとなくだけど、水晶に映っている学校に見覚えがあった。それに私が今着ている服は、この学校の制服だ。
そして大きな水晶は一年D組と壁に書かれている教室に入っていった。
「あ……」
「机の上に花が置かれているね、恐らくお姉さんの席だったんだね」
(私の席……。もう私はあそこに座れない……。)
そう思うと胸がチクッとした。
「音声も聞いてみよっか」
そう女の子が呟くと、私と女の子の声しか響かなかった部屋に、いろんな人の声が響いた。甲高い女の人の声や低い男の人の声など、たくさんの声が部屋に響き渡っている。
私が今聞いている音声は、一年D組に居る生徒達の声だ。
(楽しそうな声……)
みんな、青春というのを満喫している様だった。馬鹿な事をしては笑っていた。
そして一人の女子生徒が入ってきた。
見覚えのある女子生徒だった。
「お姉さん、この人に見覚えあるでしょ?」
「え……なんでわかったの?」
「…………なんとなくだよ」
あれ? 見覚えはあるけど、名前はなんだっけ……。確か……。
(あぁ、そうだ。この人の名前は……)
『すみれ!』
──ズキンっ。
この人の名前を聞いた瞬間、頭に衝撃が走った。
なんで? どうして……?
私と関わりがあった人?
でも見覚えがあるってことは、そうかもしれない。
すみれという女子生徒は、みんなと普通に話していて笑っていた。
そして、次の会話で私は衝撃を受けた。
『あー、良かったよね。すみれ!』
『なにが?』
『明奈が居なくなって!』
え?
『私もそう思う! だって……ねー?』
『正直、嫌いだったし。私ら』
すみれと女子生徒二人の会話に耳を疑った。
「な、何……この人達……!」
私は拳を握りしめていた。
◆ ◆ ◆
どうやら、自分の名前は覚えているみたい。
水晶に映っている女子生徒達の会話を聞いてる時に曽野明奈が拳を強く握りしめていたのをミヤは見逃さなかった。
そしてもう一つミヤは見逃さなかった部分がある。
それは、“すみれ”と名前を聞いた瞬間に曽野明奈は頭を痛そうにしていた。頭に衝撃が走ったためか、片手で頭を押さえていた。
(んー、今後、曽野明奈と花北すみれの展開が楽しみ♪)
ミヤの口角は上がった。
そして、曽野明奈は憎しみの目を水晶に向けていた。
◆ ◆ ◆
「……ねぇ、お姉さん。びっくりした?」
女の子が私に話しかけてきた。
「お姉さんって、嫌われてたんだね。」
(そんなはっきり言わなくても……)
でも事実だ。
「あのー……なんで私は死んだの?」
「それは自分で確かめたらいいよ」
女の子は笑った。ニコッと。
「で、でも……このまま思い出さそうにないの……」
「なんで?」
「わ、わからない……」
「でも自分の目で確かめる必要もあるよ」
女の子はそう言って、水晶に映っているすみれを指さした。
「鍵はこの人だよ」
すみれが鍵を持っている? 私の死因がわかるの?
「よーくこの人の事を観察してね」
部屋に響く声が一気に減った気がした。
「声が減った……?」
「そう、花北すみれの周りの音だけを流してるよ。もちろん、花北すみれの声も聞けるよ」
そう言うと、女の子は「ほら、見てなきゃダメだよ」と言い、私を誘導させた。
何時間もすみれの行動を見た。それといって変わっているところは何もない。
ただ、一つを除いては──。
すみれは時々、私の席の方をチラリと見るのだ。そして、笑みを浮かべているのだ。
それが気になっていたが、すでに学校ではSHR(帰りの会)が始まっていた。
教壇には私の担任だったと思われる男の人が立っていた。
『えー、少し聞きたいことがある。』
男の人が真剣な顔つきになり、教室にいる皆が静かになった。
『曽野のことだが……実は駅のホームから、うちの生徒が曽野のことを突き落としたという情報が地域の人から入ったんだ』
教室はざわめき始めた。
『先生、曽野さんは駅のホームから滑ったんじゃ……』
『先生もそうだと思ってたが見た人がいるんだ……信じたくないが、もし少しでも情報を知ってる奴がいるなら、先生に教えて欲しい』
(私って駅のホームから落ちて死んだの?)
──ズキンっ。
突如、頭に激痛が走った。と、同時になにかの映像が頭に流れてきた。
後ろから、何かに押された感覚……。そして宙に浮き、右側から強い光を放った電車が走ってきて……眩しくて目を閉じて……全身に痛みが走って……。
「私って……電車に轢かれて死んだの?」
「そうだよ。これで死因はわかったでしょ? でもね、まだ続きがあるの」
「続き?」
「そう」
水晶にはすみれと、朝にすみれと私の事が嫌いだと話していた女子生徒二人がすみれと話していた。
『ねぇ、今の話本当だと思う?』
『なにが?』
すみれは首をかしげた。
『明奈が突き落とされたかもってやつ』
『さ、さぁ?』
『でもさ、明奈なら突き落とされても仕方なくない?』
『あ〜、わかる!!』
は? 突き落とされても仕方なくない?
殺されたんだよ、私が? 人殺しがいるかもしれないのに?
『それにさぁ、誰も明奈の家にお線香あげに行ってないんでしょ?』
『らしいねぇ、みんなから嫌われてたもん』
私、みんなから嫌われてたの?
だから、突き落とされたの?
私ってもしかして……。
「みんなから、いじめられてたの?」
◆ ◆ ◆
あは、あははははははははは!
本当に人間の発想って面白いと思う……!
「ね、ねぇ!」
「なーに、お姉さん?」
「あなたは……私の生きていた頃を知ってるのよね!? さっきから私の死因も知っているような口を叩いているから知ってるのよね!? だから、私にこの映像を見せているのでしょ!? 教えて! 私、いじめられてたの!?」
「落ち着いて、お姉さん。あと私の名前はミヤ」
「落ち着いていられない!! 私殺されたのよ!? 後ろからなにかに押された感じ……まるで誰かが突き落とした感じ……もうそんなのいじめじゃなくて人殺しよ……! 」
「そうだね……人殺しだね。そして確かにいじめもダメだよね? それはお姉さんもわかるよね?」
「う、うん。いじめはダメだよ?」
「ダメだよね……?」
◆ ◆ ◆
ミヤという女の子に「とりあえず落ち着いて、まだ見てて」と言われ、水晶を見ていた。
水晶は放課後のすみれや家に帰ったすみれを映し出していた。
「え、ここも見るの?」
「そう」
すみれがお風呂に入る為、服を脱いでいた。
その時だった──。
「っ!」
「……腕にキズがあるね」
腕にはいくつものキズが付いていた。
「なんであんなに……」
「きっと辛かったことがあったんだよ」
辛かったこと? あんなに笑っているのに?
こっちはいじめられて、殺されたんだよ?
私にとっては辛そうになんて見えない。
水晶に映っている、すみれは腕のキズを見て、そっと撫でていた。
『……このキズも無くなればいいのに』
このキズ“も”?
『あいつみたいに……』
あいつみたいに……?
『あんな人混みの中で見てる人居たんだなぁ……まぁ、バレないよね』
もしかして……。
「私を殺したのは、すみれなの……?」
「ご名答♪」
ミヤという女の子の顔を見たら、笑っていた。
その笑顔を見ると体の底から怒りが込み上げてきた。
「てめぇ……何笑ってるんだよ!!」
「まぁ、お姉さん落ち着いて」
「うるせぇな!! 落ち着いてられるかよ!! こっちはいじめられて殺されたんだ!!」
「なーんか、さっきと人格が違う♪ あ、そっか! こっちの方が本当の人格だもんね♪」
「つべこべうるせぇな!!」
「うるさいのはお姉さんだよ、少し黙って」
「あ? てめぇ誰に指図してんだよ!?」
「あーあ、それお姉さんの悪い癖だよ? 人を見下すような言い方」
「こっちは人生を奪われたんだぞ!?」
「そうだね~。けど、お姉さんはそれほどいけないことをしたんだよ?」
「どういうことだよ!! 私はいじめられて殺されたんだ!!」
「……その言葉、いいかげん聞き飽きたな~自意識過剰にも程があるよ」
部屋にはミヤという女の子のどす黒い声が響いた。
さっきの明るい声とは違う……。
「ねぇ、お姉さん。私ね、水晶を見て、お姉さんがどういう生きた方をしたのかも確認して欲しかったの……けど、お姉さんは自分がいじめられていると錯覚している……もう私限界。全部見せてあげるよ、お姉さんの生前を……!」
水晶はいきなりノイズになった。
そして、水晶には違う映像が映し出された。
「っ!?」
「この映像だけじゃないよ」
水晶はいろんな場面を映し始めた。
一つの場面を映し出したら、また違う場面を映し出す。
「……すみれがいじめられてる……?」
「そうだよ。しかも、いじめている主犯のリーダーは……お姉さんだよ!!!!」
う、嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
「ねぇ、お姉さん……自分がいじめられている? 笑わせないでよ!! お姉さんはいじめられていたんじゃなくて自分がいじめてたんだよ!!」
「私が……すみれを?」
「惚けても無駄だよ……」
ミヤという女の子は人差し指を私のおデコに当てた。
映像が全部流れてくる……生きていた頃の私の映像が……。
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「お姉さんは電車に轢かれた衝撃で記憶喪失になったんだよ、病院に運ばれて、すぐに亡くなったけどね」
「う、嘘よ! こんなのデタラメ!!」
「水晶に映っている映像を見ても? 今私がお姉さんの記憶を戻させたのも嘘だというの? お姉さんは自分がいじめられていると、まだ錯覚するの?」
違う。もうわかっている。
私がすみれをいじめていたこと……。ある時はバケツの水をかけた。ある時は教科書を破り捨てた。ある時は制服を破った。ある時は恥ずかしい写真を撮った。ある時は男子を使って……。
「もしかして……すみれの腕のキズは……」
「お姉さんにいじめられて生きるのが苦しくなったんだろうね」
「そ、そんな……」
「いじめはダメだよって言ったよね。お姉さんは……自分がした事に後悔した?」
「後悔も何も……手遅れよ……私のした事はいけないこと……」
「そうだね。じゃあ、もう一つ見て欲しい映像があるの」
水晶にノイズが映し出され、次に人混みの中を映し出された。人混みの中には私服の人もいれば、スーツ着ている人や制服も着ている人がいる。
「これは駅のホーム……?」
「そうだよ」
そして水晶は制服を着た女の人を映し出した。
「これは……私?」
「そうだね」
電車を待ちながら、携帯をいじっている私が映し出された。
携帯をいじっている私が急に、びっくりした顔になり、携帯から手を離して、線路に落下した。
周りの人は悲鳴を上げたりしている。
が、落下した直後の私は水晶に映し出されていない。
水晶に映し出されているのは、手を前に突き出し、満面の笑みを浮かべているすみれである──。
「ねぇ、お姉さん。復讐したくない?」
「え?」
「お姉さんのことを殺して、こーんなに満面の笑みを浮かべているんだよ? 腹が立たない?」
確かに腹は立つ……。
「けど、どうやって?」
「簡単だよ……化けて出てやればいいんだよ。そして殺しちゃえ♪」
あぁ、そうか。私はすみれに殺されたんだもんね。だったらいいよね、私も殺しちゃって?
いじめられていたからって人を殺しはダメだよね……?
「殺してやる……!」
◆ ◆ ◆
ミヤは【地獄ノ女王所有物部屋】にいた。
「今回の犠牲者の曽野明奈は、いじめをして笑っていた。そして、もう一人の犠牲者の花北すみれは人を殺して笑っていた……どっちも残酷だなぁ。」
「一番残酷なのはお嬢様だと思いますが」
ミヤの隣にいる執事が声をかけた。
「えー? これくらい普通だよ♪」
「普通なら化けさせて人殺しなんかさせませんよ」
「だって、早く犠牲者を集めたいんだもん♪」
ミヤは満面の笑みを浮かべてた。
今回はいつもと少し違う感じで書いてみました。
記憶喪失のことも書きたかったのでちょうど良いかと思い、こういう書き方をしました。
前の更新から、すぐに更新できて良かったです
週一で更新したいのですが、それはきついですね(笑)