番外編 休日
※注意事項
本編とはあまり関係ありません。
本編の世界観を壊したくない方は閲覧を控えることをオススメします。
キャラ崩壊、世界観崩壊ありかも?
地獄宮殿の中はとても静かだった。
今日は人間界で言う地獄の住人は“休日”だ。
だからといって、すべての住人が休みではない。
地獄ノ女王ことミヤもその一人だ。
「なんで資料に目を通さないと、いけないのー」
「お嬢様は日頃からサボリ過ぎです。それに私もたまには“休日”が欲しいのです。ご自分で資料を片付けてください」
「ぶー!」
ミヤは頬膨らまし、グダクダとしながら資料に目を通していた。
──が、それも一時間も経たずに。
「よし、やめよう!」
ミヤは資料を置いた。
「ダメです」
執事の言葉にミヤは不満の言葉をたくさんぶつける。
「ケチ! ノッポ! 真っ黒! ロリコン!」
「真っ黒は、お嬢様もです。それにロリコンってどこで覚えたのですか......」
ミヤは、やばっ、と顔に出ていた。
「ふ、ふん! もう知らない!」
ミヤは屋根付きのベッドの真ん中に寝っ転がり始めパソコンを起動し始めた。
「お嬢様、資料を片付けてください」
「ふーんだ」
──カタカタ。と音が響き渡る。
「......ねぇ、執事。さっき“休日”が欲しいって言ってたよね?」
「言いましたけど、それがなにか?」
「よし、今日は執事も“休日”にしよう!」
「はい?」
「ってなわけで......カラオケに行こー!」
執事は、チラッとパソコンの画面を見た。
そこには【若者の休日の過ごし方】と見出しが書かれており。一位には『カラオケ』がランクインされていた。
(これの仕業ですか......お嬢様が行きたいだけですね。私の言っていた休日は、お嬢様の世話をしないことなんですけどね)
執事の心の声はミヤに届かなかった。
◆ ◆ ◆
ミヤと執事はクロアの仕事部屋の扉の前に居た。
「お嬢様、本当に誘うんですか?」
「うん! クロア居た方がカラオケも楽しいと思うよ!」
二人の会話は小声であった。
「ですが、いま声をかけるのですか?」
「だって、時間なくなっちゃうよ?」
「ですが......」
ミヤと執事はクロアの仕事部屋の扉に耳を当てた。
「あ〜! 可愛いなウッサーは! 蕎麦も可愛いな〜!」
クロアの仕事部屋からは、いつもとは違うクロアの甘い声が聞こえる。
「お取り込み中だと思いますよ?」
「んー、もう! それはいいから、ノックして!」
二人は耳を離し、執事がコンコンっと二回ノックする。
「どうぞ」
いつも通りの凛とした声のクロアだった。
がちゃ、と扉を開けてミヤはクロアの顔を見るなり「カラオケに行こー!」と言った。
当然、クロアは「は?」と声を上げる。
「だから、カラオケ!」
「いや、なんでですか」
「執事に休日をプレゼントするため!」
「ますます意味がわかりません」
ミヤだと説明不足だと思い、執事はここまでの経緯を話した。
「そうなんですか、丁重にお断りさせていただきます」
「なんでー!」
「私もまだやることがありますので」
「ふーん、せっかくカラオケ行った後、可愛いぬいぐるみの売ってるお店行こうと思ったのにな」
クロアの耳がピクっと動いた。
執事は、そんなの初耳だ、と思いミヤとクロアのやりとりを見ている。
「あ〜、残念」
ミヤは“わざと”悲しそうな顔をする。
「......あー、もうわかりました。私も行きます。二人だけでは心配ですから」
「やった♪ じゃあ、行く時に声かけるね」
ミヤと執事は、クロアの仕事部屋を後にした。
◆ ◆ ◆
ミヤは自室に着くなり死んだような目をした。
「なんでここにいるんだ......」
「あら、遊びに来たのよ♪」
クロアの仕事部屋から戻ってきたら、エルリがちゃっかりとミヤの部屋に居た。しかも、ミヤがいつも愛用している屋根付きベットの脇に座っていた。
「ところで今日は何をするの?」
エルリの問にミヤの肩がビクッと上がる。
「べ、別に何も」
ミヤの行動を見た執事は、意地でもエルリをカラオケに連れて行きたくない、というのを察した。
「あ、わかったわ! カラオケに行くのね!」
「なんで、それを……あ!」
「ふふ、図星ね! だって、こんな所にパソコンを開きっぱなしにしてると、誰だって見ちゃうものよ?」
ミヤはクロアの仕事部屋に行くまで、ベットでパソコンをいじっていた。そして、クロアの仕事部屋に行く時にパソコンを開きっぱなしにして行ってしまったのだ。
「しまった……」
「私も一緒に行くわ♪ カラオケって一度だけ行ってみたかったのよね」
「……はぁ。好きにしろ」
「えぇ、そのつもりよ♪」
あぁ、やっちまった、というミヤの顔を見ていた執事はミヤに一言かけた。
「お嬢様って、マヌケですよね」
「誰がマヌケよ!」
◆ ◆ ◆
「クーローアー!」
ミヤと執事、そしてエルリは、クロアの仕事部屋のドアの前に立っていた。そして、がチャリ、と音と共にクロアが出てきた。
「そんな大声出さなくても、行きますから…………って、天国ノ王女様!?」
「はじめまして、クロアさん」
「エルリも行くんだってさ」
「え!?」
「あら、私もダメかしら?」
「いいえ、そうではないんですが!」
「ふふ、今日は、よろしくね。クロアさん」
「ついて来なくても、いいのに」とミヤが呟いた。
そんなやりとりを見ている執事は、ふとある事を思った。
「あの私達、こんな格好で行ったら、結構目立ちませんか?」
「え、そうなの?」と世間知らずのミヤ。
「あら、私は人間界で洋服を買って、着替えるのかと」と計画性のあるエルリ。
「人間界でなら、コスプレだと思われるから心配なくないか?」と意外な発言をするクロア。
「あ、ミヤちゃん、白い洋服でも着る?」
「死んでも着ない!!」
「では、エルリ様の言う通り、人間界で服を買い、着替えてから行きましょう」
執事の言葉にミヤは元気良く「はーい」と応えた。
◆ ◆ ◆
人間界にミヤと執事、そしてクロアとエルリが降り立った。四人は、大きなショッピングモールに居る。
「流石に、この格好は目立ちますね」
行き交う人達がミヤ達を物珍しそうな目で見ていた。
「早く買いに行きましょうか」
四人は近くにある大人服から子供服まで売っている専門店に入った。
「あら、私はこれにしようかしら」
エルリが選んだのは白を強調としたワンピースだった。いつもの服とはあまり変わりはないが、人間も普通に着ているような白いワンピースだ。
「私はこれだな」
クロアが選んだのは黒のロングカーディガンに黒のブラウスにジーンズだった。
「……うーん、どうしよ」
そしてミヤは着る服を迷っていた。
「お嬢様……ここのサイズはお嬢様が着れる服のサイズはございませんよ」
「えぇ!?」
ミヤはエルリやクロアが見ていたコーナーと同じところを見ていた。
「そうね、ミヤちゃんはあっちのほうね」
エルリが指さした所には『キッズ』と書かれてる看板がぶら下がっていた。
「し、知ってたし! ってか、服多いから執事選んで! 絶対黒よ!」
「かしこまりました」
執事はミヤに真っ黒なパーカー(猫耳付き)と黒のフリルのミニスカートとニーハイを選んだ。
そして執事は血飛沫を強調したTシャツとダメージジーンズを選んだ。
「……執事さん、オシャレですね」
「そうですね。天国ノ王女様も思いましたか」
◆ ◆ ◆
「なにこれー!? 壁に電話?」
四人はそれぞれの服を買い、ショッピングモールを出て、近くのカラオケに来た。
部屋に入った途端、ミヤは興味津々に壁についてる電話を見ていた。
「それは飲食の注文の時や退出時間前になると知らせてくれる用の電話ですよ」
「すご~い! じゃあこれは!?」
ミヤが次に興味を示したのは大きなパットのようなものだった。
「これで曲を入れるんですよ」
「ほぇー。誰か入れてみてよ!」
「じゃあ、私から入れようかしら」
エルリは慣れたような手つきですぐに曲を入れた。
エルリが入れたのは大人数のアイドルグループが歌っている名曲だった。
「本当に曲が入った!」
ミヤの興奮は収まらない。
エルリが歌い終わると点数が出てきた。
画面には『95点!』と大きく表示された。
「エルリ様、お歌うまいですもんね」
「あら、ありがとう♪」
「次は私の歌だな」
クロアが入れたのは女性シンガーが歌っている恋愛曲だった。
「クロアさんって意外に乙女な曲を入れるんですね」と呟いた執事だったが歌ってる張本人には聞こえていないようだ。
クロアの点数は『87点!』だった。
クロアの次にミヤが曲を入れた。
「お嬢様……犠牲者にした人の歌を歌うんですね」
「これしか知らないもん。人間界の曲」
ミヤの点数は『77点!』だった。
「これ難しい!!」
「次は私ですね」
執事は演歌を入れた。
「渋いですね……執事さん」
執事の美声と共にこぶしがよく効いていた。三人は思わず唖然とする。
そして点数は『100点!』と表示された。
「まぁ、こんなもんですかね……。」
執事は清々しい顔をしていた。
その後も退出時間になるまで四人はいろんな曲を歌った(ミヤの場合は人間界の曲をほとんど知らなかったから、あまり歌っていなかった)。
そしてカラオケを後にすると近くにある大規模な雑貨屋さんに四人は行っていた。
中でもクロアなんか目をキラキラさせながら、すぐにぬいぐるみコーナーに行っていた。
「あぁ、可愛い可愛い!!」
クロアの心の声がダダ漏れであった。
◆ ◆ ◆
「あ〜! 楽しかった!」
地獄宮殿に戻ってくるとミヤはすぐにベッドにダイブした。
「私は疲れましたよ……」
執事はミヤが人間界で買ったものを床に置きながら言った。
「たくさん買ったね~」
「そうですね……」
「クロアの方がもっと買ってたけどね!」
ミヤは笑顔でそう言った。
ミヤからもらった休日(?)は結局ミヤのわがままに付き合っただけだった。
けど、たまにはこんな日もあっていいかな、と執事は思った。
「あ、執事! 明日までそこの資料片付けといてね」
……さっきの言葉は前言撤回だ。
たまには番外編も書きたいと思いました。
この番外編は六月くらいから書いていて一旦ストップしてました。
前の更新から二ヶ月近く過ぎてしまったので急遽ストップしていたところから書きました。
地獄ノ女王を楽しみにしてくださっている皆様本当にありがとうございます!
作者のなろうのTwitter垢です→@yaminoyomi2
リプは返しているようにしてるので気軽にしてください♪