15人目 高宮 真咲
埃一つない真っ白な床、繊細な装飾が施されている真っ白な天上、そして触れると今にも壊れそうな真っ白な絢爛豪華な調度品。
天国ノ王女ことエルリは真っ白な王座に座る天国ノ大王と天国ノ女王の前で跪いていた。
「──以上が今回の御報告となります」
「うむ、エルリよ。御苦労だった」
「お褒めいただき光栄です」
「エルりよ、顔を上げよ」
エルリは天国ノ大王兼父親の言う通り顔を上げた。
「……上の者が地獄ノ女王に目をつけた。近いうちに上の方から監視役が派遣されるようだ。」
「エルリ、貴女も今後地獄ノ女王の監視を続けてもらいます。けど、もしなにかあったら私たちに伝えてね? あの子は私たちの親友の子なの」
「はい、わかっています。私はここで失礼させて頂きます」
エルリは両親に一礼をし、自室に戻った。
エルリが自室に戻る途端、屋根付きの真っ白なベットにダイブした。
「お疲れのようですね、エルリ様」
「……アウルス」
銀髪のキレイな髪で真っ白な執事服を着ているアウルス=ヴィトンはエルリの執事だ。
「私も地獄に付いて行かなくてよろしかったのですか?」
アウルスがエルリに話しかけるとエルリは真剣な目つきでアウルスと目を合わせた。
「一人でできることは、なるべく一人でやりたいの。天国ノ王女だから何もできないなんて嫌じゃない? 私にはまだ天国ノ大王……お父様が居るからいいけど、いざ居なくなると困るのは自分と天国の住人だわ。それに比べてミヤちゃんはすごいわ。私より小さいのに地獄を治める地獄ノ女王様だもの。いろいろと見習わなければいけないことがあるわ」
「そうですね、確かに地獄ノ女王様はすごい方でございます。だけど上から目を付けられてしまいました……今後どう対処するんでしょうかね」
アウルスの言葉に対しエルリは目線を下に下げた。
「わからないわ、それになぜ“犠牲者”というものを集めているのかもわからないわ」
「“犠牲者”ですか……」
「ええ、上の者からの結果を下される前に地獄に堕としている……いろいろとおかしいわ。」
エルリは、ふと窓を見た。
「今日もミヤちゃんは犠牲者を集めているのかしら?」
◆ ◆ ◆
「か、かっこいい〜!」
エルリの心配をよそに地獄ノ女王ことミヤは屋根付きのベッドの真ん中で寝転がりながらパソコンをいじっていた。
そして、ある画像を見ていた。
「お嬢様、何を見ているんですか?」
執事の問にミヤは目を光らせ、執事の目の前にパソコンを持ってきた。
「男の子みたいでしょ? でも実は女の子なの! かっこいいよねー」
ミヤが見ていた画面は、男の子に見えるが実は女の子......いわゆるカッコイイ系女子だ。
(確かにかっこいいですね、けどこれって、アニメの画像なんですよね......果たして現実にこんなカッコイイ人が居るんでしょうかね)
「水晶で本当にこんな人がいるのか見てみよ! 執事行くよ!」
ミヤの目はキラキラ光っていた。
◆ ◆ ◆
小さい頃から男の子に間違われていた。
そのせいか自分が女らしく生きるのはどこかで諦めていた。
でもそれでいいと思っていた。自分は180センチ近くある身長で女の子に優しくしていたから、その結果“女の子からモテるように”なった。
「真咲さん、これ食べてください!」
「私たち、真咲さんのファンなんです! これからも応援してます!」
「あ、ありがとう」
女の子二人は「キャー」と言いながら走っていった。
手作りクッキーなんか作って可愛い子達だ。
(これぞ、女子力というものなのか……しかもあの子達は一年生だよね? よく三年の私の顔をしてるな。なんの部活にも所属してないのに。)
「あ〜、手作りクッキーなんかもらってるー!」
「萌奈」
私の一番の友達の照河 萌奈が一生懸命、手作りクッキーを取ろうと背伸びをし、手を上げていた。
「ダメだよ、これは私が食べる」
「一個くらいいいじゃん!」
ダメ?、と首を傾げている萌奈は可愛かった。でも私はそれを我慢し「だめ」と答えた。
「萌奈も身長高くなりたい! だからちょうだい!」
「そんなに欲しいなら、あげたいくらいだよ」
萌奈は身長が低くて可愛くて少し子供っぽいところがあるから、男子にはモテモテだ。ほとんどの女子からは少し距離を置かれている部分はあるが萌奈は悪気はない。これが萌奈の素だから私は距離を置かない。
「真咲はかっこいいもんねー。さっすが萌奈の自慢の友達だよ!」
萌奈の子供っぽい笑顔が大好きだ。
「ありがとう」
◆ ◆ ◆
「居た! 居たよ、執事! かっこいい系女子!」
ミヤが興奮気味に執事に話しかけていた。大きな水晶には高宮真咲と照河萌奈が映し出されていた。
「本当に居るんですね、私でさえ負けそうです。いろんな面で」
「もう容姿で負けてるんじゃない? だって身長も負けてると思うよ」
「失礼ですね」
ミヤと執事は大きな水晶をもう一度見た。
そして不意に執事はミヤの方を見ると、ミヤは口角が上がっていた。
「見つけたんですか?」
「うん、見つけた」
次に大きな水晶を見ると、制服を着たたくさんの女子が映し出されていた。
「……次の犠牲者は、この人かな」
ミヤは子供っぽい笑顔が笑った。
◆ ◆ ◆
今日は日直で放課後、残らなくいけなくなってしまった。うちの担任は人使いが荒いから、教室の掲示物を貼り変えとけと雑用を頼まれた。萌奈は用事があると先に帰った。
「ぐっ……なんで画鋲がこんなに食い込まれてるの……取れない」
きっと相撲部の叉山が、ふんっ、とか言いながら一発ぶちかましたのだろう。
「ぐっ……ダメだ。違うところから取ろう」
私が独り言を呟くと、隣から大きな手が出てきた。
「うわっ!」
「あ、ごめん。驚かせた?」
私が珍しく顔を少し見上げて話す相手だった。
「びっくりしたー、北瀬か」
「高宮、さっきから独り言ばっか言ってて俺に気づいてなかったもんな」
北瀬は笑いながら私が先程まで苦戦していた画鋲を軽々と取った。
「ほい」
「あ、ありがとう」
「全く、うちの担任は人使い荒いよな、手伝うよ」
「え、いいの?」
「どうせ、もう部活引退して家帰っても暇だし」
「バスケ部だったよね?」
「そう! まぁ、弱小だったけどな」
北瀬はクラスの人気者でもある。うちのクラスで身長も高い方である。
「っにしても、女子って大変だよな」
「なんで?」
「男子みたいに力ないじゃん。さっきの高宮みたいにさ。それに身長だって男子より伸びないもんな」
北瀬は笑いながら掲示物を貼り変えてくれていた。
「……でも私は他の女子より身長あるから男の方が良かったな」
「女子の中の身長なんて関係ねぇーよ。高かろうが低かろうが女子は女子だろう。高宮だって、かっこいいだのなんだの言われてるけど女子じゃん。それに身長高い女子なんて滅多に居ねぇぞ? 自信を持て!」
初めて女子として見てくれたかもしれない。
いや初めてではない。萌奈を合わせて二人目だ。
「ありがとう北瀬。なんか元気出たわ!」
「おう!」
「残りの掲示物を早く片付けないとね」
「マッハスピードで頑張るぜ!」
その日を境に北瀬と話すことが多くなった。
意外に趣味も一緒で話す話題が日に日に増えていった。
北瀬と話していると、時が早くて、このまま時が止まってしまえばいいなんて思った。
その日も萌奈と私は二人で帰っていた。
「──でね、その時に北瀬がね」
「真咲」
「ん、なに? 萌奈」
「最近、北瀬の話ばっかだね」
「あ、ごめん。なんか不快な思いさせちゃった?」
「ううん、いいの! あのね萌奈、真咲に大切な話があるの!」
「なに?」
萌奈は私の前に来て頬赤らめた。
「なになに?」
「萌奈ね、北瀬くんのこと好きなの」
──ドクンッ。
「へ、へぇそうなんだ」
「だから、応援してくれる?」
「う、うん」
「ありがとー!」
萌奈は満面の笑みで私の手を握った。
なせだろう。萌奈の嬉しいことは私も嬉しい筈なのに胸がしめつけられているような、この気持ちは──。
次の日から萌奈は北瀬にアピールを始めた。私も出来る限りのことをしている。それに少し疲れたせいか、家に着き、部屋に行くと、制服のままベッドにダイブした。
今日なんか萌奈は北瀬を誘って一緒に帰ってしまった。
私は二人が帰った後に一人で帰ろうとしたらクラスメイトの女子たちに、一緒に帰ろう、と言われ一人で帰る事はなかった。でもその女子たちの言葉がどうにも私の胸の中で引っかかっていた。
「ねぇ、真咲。照河と仲良くするのやめた方がいいよ?」
「え、なんで?」
「いろんなところで男に貢がしてるらしいし、友達の好きな人取るって噂もあるからね」
「実際、あたしは照河と中学一緒だったけど、友達の好きな人取って大変だったんだよー?」
「へ、へぇーそうなんだ」
萌奈はそんな悪い子ではないと信じたい。萌奈の幸せを願いたい。
(これでいいんだよね……?)
──【本当にそれでいいの?】
小さな女の子のような声が聞こえた。この家に居るのは私だけだ。
(まさか幽霊!?)
「お姉さん起きてー。それに私は幽霊じゃないよ?」
(私の心を読んだ!? まさか本当に──)
「幽霊じゃなーい!!」
「うわぁ!」
私は小さな女の子の声にびっくりした衝撃で思わず起き上がってしまった。
「本当だ……足がある」
「だから私は、幽霊じゃない! 私の名前はミヤ!」
「ミヤ……ちゃん」
ミヤと名乗る女の子はゴスロリを着ていた。一言で言うと真っ黒だ。
「ってか、どこから入ってきたの?」
「それは気にしないで! それよりも私はお姉さんが気になる!」
気になるもんは気になる、と思ったがあえて声には出さなかった。
「ねぇ、お姉さん今悩んでるでしょ? 人の言ってることを、どこまで信じればいいかわからなくて」
「え、なんで知ってるの……?」
「まぁ、それも気にしないで! でもね私は萌奈ってお姉さんを信じない方がいいよ!」
「え?」
「だって、あの人は本当にひどい人だよ。お姉さんが可哀想になってくるよ」
この子は萌奈の何を知っているの?
萌奈のことを何も知らないくせに……!
「な、なにも知らないくせに萌奈の悪口言わないでよ!」
「ふーん? お姉さんがそれならそれで私は止めないよ! 私が報告したいのはそれだけ! じゃあね!」
私の部屋は光に包まれた。
そこには、もうミヤという少女はいなくなっていた。
◆ ◆ ◆
ミヤという少女が私の前に現れて数日が経ったある日だった。
「萌奈、北瀬くんに告白する!」
朝のHRが始まる前に萌奈は私に宣言した。
「そ、そう。頑張ってね」
これでいいんだよね? ミヤという少女の報告は聞かなかった事にしよう。だって、萌奈は、こんなに可愛くて、とてもいい子だもん。萌奈には幸せになって欲しいよ。
「だから今日の帰りも……」
「うん、わかってる。なにかわかったらすぐに連絡頂戴よ?」
「真咲、ありがとう!」
萌奈は私に抱きついてきた。
周りの男子からは「さっすが王子と姫!」などと煽られたが気にしないでおこう。
◆ ◆ ◆
昼休み、私は一人で屋上に来た。萌奈は先生に呼ばれているらしく職員室に行ってしまった。教室にいても良かったが、なんとなく一人になりたかった。
「空……青いなー」
空には綺麗な飛行機雲が描かれていた。
──キィ。
屋上のドアが開く音がした。私が今いる場所からは屋上のドアが見えないし、屋上のドアにいる人も私が見えない。特に気にしなかったが私は次の瞬間、思わず、屋上に来た人が気になった。
「そうそう、本当にねー!」
いつもより低い声の萌奈の声だった。どうやら電話中らしい。
「萌奈ね、やっぱり人の好きな奴取るの好きだわ〜」
──え?
「だって、萌奈って可愛いしさ〜。でも一番は、おじさんだよ! だって、なんでも買ってくれるし! え、今日? うん、大丈夫だよ!」
萌奈って、そんな悪い子なの?
「うん、ばいばーい!」
私は、ずっと騙されていたの?
「さて、北瀬を取りに行きますかー♪」
萌奈のあれは全部演技だったの?
「あんな男みたいなノッポ女は男出来るわけないけどねー。つか、馬鹿だよなー。自分が北瀬を好きだって気づかないで……私が好きだって嘘ついた時の顔面白かったなー」
萌奈は私の気持ちを気づいてて、告白しようとしたの?
「ねぇ、いいかげん出てきたら真咲?」
──ドクン。
「隠れてても無駄だよ? 電話中に真咲が居るの気付いてたから」
萌奈はゆっくり近づいてきた。
私は萌奈が怖くて振り返ることすら出来ない。
「大きくて男みたいなくせに震えてるなんて、馬鹿みたい。可愛くないよ?」
私の前に萌奈が立っていた。
「真咲、萌奈が北瀬を貰うね♪」
「ぜ、全部ウソだったの?」
「……なにが?」
「仲良くしててくれたのも、無邪気な笑顔も──」
「嘘に決まってるじゃん。萌奈は皆から愛されている高宮真咲がどん底に落ちる姿を一番近くで見たかっただけ」
「……っ」
私は、その場から、とうとう逃げ出してしまった。涙を堪えながら。
「あーあ、逃げ出しちゃった。」
萌奈は屋上に一人で立っていた。先程まで目の前に真咲が居たが逃げ出してしまった。
「本当におもしろいなー、どん底に落とすのは♪」
──【私も、どん底に落とすのは好きだよ♪】
「は? 誰の声?──って、ちょっ! なんで体が勝手に動くの!? やめて、やめてよ! なんで体が言うこと聞かないの!? 止まって! 止まってよ! 嫌だ! それ以上進んだら萌奈落ちて死んじゃうよ! 嫌、嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
照河萌奈は屋上から真っ逆さまに落ちた。
──ぐしゃり。と鈍い音がし照河萌奈は真っ赤に染まった。
◆ ◆ ◆
「んー、この犠牲者も最高!」
ミヤは【地獄ノ女王所有物部屋】で喜びの声を上げた。
「随分揃いましたね」
「うん、でもまだまだなんだよね。頑張らなきゃ!」
ミヤは無邪気な笑顔で笑った。
◆ ◆ ◆
真っ白な屋根付きベットの端に座りエルリは、ある資料に目を通していた。
「エルリ様、何を見ているのですか?」
エルリのために持ってきた紅茶を差し出しながらアウルスは問いかけた。
「神界からの地獄ノ女王様の監視役が決まったらしいわ。私も、この二人と監視するから目を通せと天国ノ大王様に言われたの」
エルリはアウルスが持ってきてくれた紅茶を一口飲んだ。
「とんでもなく厄介な二人だわ。」
エルリの表情は、いつにましても明るい笑顔ではなかった。
真咲みたいな女の子が羨ましいと思う作者です。
萌奈みたいな計算のある女子はあまり好きではありません。