14人目 深﨑 朋香
頭よし、顔よし、スタイルよし、性格もよしの私は幼い頃から、それはそれはモテていた。
一度に彼氏が四人いた事だってある。
そんな私は教師になって男子校に来た。赴任してから一年過ぎようとしていた。
「安住はA、鵜野はS、永川はD……」
クラス名簿を見て、生徒たちの成績を確認していた。S、A、B、C、Dの五段階評価である。
「永川尚貴……いらないな、私のクラスには」
永川尚貴は成績も悪いし取り柄もなし。人生つまらなさそうだ。
教師の私が永川尚貴に一番似合いそうな人生の歩み方を教えてあげようではないの。
◆ ◆ ◆
地獄ノ女王ことミヤは大きな水晶を見ていた。
「……あの先生、嫌いだな。」
「水晶に映っている女性の方ですか?」
「そうそう、まずスタイルからしてムカつく」
皮肉ですね、と執事は思った。
「ムカつくけど、犠牲者としては最適」
ミヤの口角が上がった。
◆ ◆ ◆
永川尚貴はいじめられるようになった。それもそのはずだ。この私が、永川尚貴に好意を寄せたように見えたからだ。
私はこの学校の中で、一番人気の先生である。顔よし、スタイルよし且つ性格もいい。私は永川尚貴に人一倍話しかけた。お弁当にも誘った。特別にワンツーマンで授業もしてあげた。そして周りの男子は嫉妬して、永川尚貴をいじめ始めた。
私は影から永川尚貴がイジメられてるのを見てる。助けたりなんかしない。
あーあ、男の癖に泣いてる本当に男って単純。
後は学校やめてくれれば、こっちのもんだ。
◆ ◆ ◆
「あーあ、あの男の子学校やめちゃった。」
ミヤは水晶の前でつぶやいた。
「もうそろそろ、犠牲者にするんですか?」
執事の問にミヤは首を横に振った。
「ううん、まだだよ。もう少し様子見なきゃ楽しくないよ」
ミヤの言葉に「さようでございますか」と執事は答えた。
◆ ◆ ◆
「次は、川柳かな。」
川柳幸祐は見た目はいいが勉強は普通で少しだけ運動神経がいい。
けど、俗に言う不良である。
このままでは出席日数が足りなくて留年……私のクラスにそんな奴いらない。
。不良だから教師に反抗して、すぐに学校をやめるでしょう。
次の日、タイミング良く川柳幸祐は学校に来た。相変わらずみんなを睨んで机の上に足を上げているせいか誰も近づこうともしない。
「川柳くん、ちょっといいかな?」
「あ?」
案の定、川柳幸祐は私を睨んでくる。
でも私は怖らがない。昔の話で自慢話ではないけど当時住んでいた場所の一番強い不良の彼女になったことだってある。
実はマザコンだったから私からフッた気がする。
「あのね、このままじゃ出席日数が足りなくて留年になる可能性があるの。だから、ちゃんと学校来てね?」
川柳幸祐は私をさらに睨む。
さぁ、辞める、と言いなさい!
「……ちっ。わかったよ」
予想外の答えが返ってきた。
「わ、わかればいいよ」
私は笑顔を絶やさない。
(なんで、やめる、て言わないのよ!)
その日から境に川柳幸祐はちゃんと学校に来るようになった。
◆ ◆ ◆
ミヤは不機嫌であった。
「そんな顔をしていたら、可愛いお顔が台無しよ?」
「誰のせいで不機嫌になってるって思ってるんだ」
ミヤの前には笑顔のエルリが立っていた。執事は仕事があるからと一人で自室に戻って来たらエルリが部屋のど真ん中に立っていたのだ。
「あら、私はてっきり“犠牲者が見つかっていない”から不機嫌だと思ったわ」
「嫌な言い方だな」
ミヤはエルリを睨む。
「監視役を任されている身ですもの♪」
「……生憎、犠牲者はもう見つけてる」
「へぇー、じゃあ、もう一つ質問するわ。なぜ、犠牲者を集めてるのかしら?」
「……話す必要がない 」
「……地獄ノ女王様、前も言ったはずですよ? 上がいつまで目を瞑ってくれるか、て」
「知ってる」
「そんなに犠牲者を集めて、どうするんですか?」
「エルリには関係ない」
執事早く戻ってきて、とミヤは心の中で思っていた。
◆ ◆ ◆
川柳幸祐は学校に来るようにはなったが周りのみんなと溶け込まずにいた。
まるで一匹狼の様だ。それにまだ先生達に歯向かう様なので、やはり私のクラス入らないと改めて再確認をした。
「楊柳くん、お弁当一緒に食べない?」
「食べねぇよ」
楊柳幸祐は一人でどこかに行ってしまった。
「ふ、深﨑先生こっちでみんなで食べませんか?」
あ〜、私って人気者。
「ありがと! でもやっぱり仕事あるから職員室で食べるね!」
私は教室を後にした。これでみんな、なんで楊柳だけお弁当に誘われてるんだよ、なんて思ってるんだろうな。
そして私が職員室で食べるってのも実は嘘。
向かうところは屋上だ。
屋上はうちの学校ではあまり人気のスポットではない。
風が強いし、アスファルトなどはもう汚れて、柵なんか錆びて茶色くなっている。そんな汚い場所に足を運ぶなんて一人しかいない。
「川柳くん」
川柳幸祐は私の顔を見るなり、目を見開く。そして手には食べかけのお弁当があった。
「隣いいかな?」
「……また留年の話とかだったら、あっち行ってくんない?」
「違うよ、ただ川柳くんと一緒にご飯が食べたいだけ」
「あっそ。好きにしたら?」
私は川柳幸祐の隣に座り、お弁当を食べ始めた。
その日を境に毎日屋上で川柳幸祐とお弁当を一緒に食べるようになった。
◆ ◆ ◆
ミヤの大きな瞳には大きな水晶に映し出されている深﨑朋香が映っていた。
「この生徒さん、最近きちんと学校に来るようになりましたね」
執事の言った生徒さんとは川柳幸祐だ。
「そうだね」
「犠牲者を変えるんですか?」
執事の言葉にミヤは顔色一つ変えずに「変えないよ」と答えた。
そしてそれを遠くから見守っているエルリは真剣な目つきで二人のやりとりを見ていた。
◆ ◆ ◆
──なんかうざくなってきた。
川柳幸祐は学校に来るようになったのはいいものの私を見かけるなり話しかけてくるし、二人でいる時なんか甘えてくるし……めんどくさい奴。
(学校やめさせたいのに、なんでこんなことに)
学校に来るようになり周りの先生たちから褒められては嬉しいものの本来の目的とは違う。
(でも最近傷がないような気がする。外で喧嘩もしてないんだろうな……でもめんどくさい奴は私のクラスにいらない。早くやめさせないと)
そうこう考えているうちに昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴った。
私はまたいつもどおり屋上に行く。
屋上に着くと、川柳幸祐はいつもの定位置に座っていた。
「あ、先生」
「川柳くん待った?」
「いえ」
私もいつもの定位置……川柳幸祐の隣に座った。
「先生、今日は隣の奴と少し話したんだ」
「本当!? すごいね!」
川柳幸祐は友達を作ろうと頑張っているらしい。本当に馬鹿みたい。
「あ、あと先生に話があって……」
「ん? なに?」
川柳幸祐は軽く深呼吸をした。
「好きです、深﨑朋香さん。一人の女性として」
……コイツは本当に馬鹿なのかな?
私がなんでこんなに接してる理由もわからないなんて!
そうだわ、夢を見させてあげようではないか!
そしてどん底に突き落としてやって学校を辞めさせるの!
ああ、なんていい考えなの!
「……本当? 嬉しい!」
川柳幸祐は頬を赤らめて、俯いてしまった。きっと嬉しいのだろう。
その日から私と川柳幸祐の恋人ごっこが始まった。
学校では極力話さないようにしているが昼休みには屋上へ、夜になったら二人でどこかで会うか、メールのやりとりをするようになった。
「……うわ、まだメールのやりとりするのか、めんどくさい奴。」
お風呂入る前にメールを終わらせたのかと勘違いしていた。本当にめんどくさい奴。
──【お姉さんダメだよー?】
どこからか幼い少女の声が私の部屋に響きわたった。
「お姉さん、前!」
「う、ぇえ!?」
私の目の前には真っ黒で気味の悪い少女が目の前に立っていた。
「ふ、不法侵入……!」
「お姉さん、ひどいなー? 不法侵入じゃないよ!」
真っ黒で気味の悪い少女は子供らしい無邪気な笑みを浮かべた。
「私ね、ミヤって言うの! ずっとお姉さんのこと見てたんだ!」
「へ、へぇ」
ミヤと名乗る少女は笑顔を絶やさない。
「でもね、お姉さん……そろそろいい人ぶるのはやめようか!」
「……は?」
「だって、お姉さんが一番バカだよ? 人を蹴落とすのは楽しいのはわかるよ? けどお姉さんの脳内はおめでたすぎてバカみたい! 人生そんな上手くいくわけ無いでしょ?」
何言ってるのこの子? 頭おかしいのかな?
「……三日。後三日で死ぬよ?」
「は?」
「お姉さんの寿命だよ」
そう言ってミヤと名乗る少女は光に包まれた。
目を開けると、そこには誰もいなかった。
「疲れてんのかな、もう寝よ」
次の日、また次の日となんの代わり映えのない一日を過ごした。
(ミヤとか言った、あの少女は私が明日で死ぬとか言ってたけ? 馬鹿馬鹿しい)
私は、お風呂上がりにいつも飲むビールを冷蔵庫から出し、そのまま一気に飲んだ。
「なんで、こんな私が明日死ぬとか言われなきゃいけないのよ」
イライラが止まらなかった。
次の日、帰りが少し遅くなってしまった。
「夜の十一時か……流石に暗いな」
私はいつもと同じ道を通って帰宅する。街頭の少ない道を通って。
「……先生。」
後ろから懐かしい声が聞こえた。
「え、永川くん!?」
後ろを振り向くと永川尚貴が立っていた。
「ど、どうしたの?」
私が尋ねると永川尚貴は口角を上げた。
その表情に怖くて、足がすくんで動かない。
「先生……」
永川尚貴は一歩一歩ゆっくりと私に近づいてくる。
「あっ……。あぁ」
私はとうとう尻餅をついてしまった。そして私の目の前には不気味に笑う永川尚貴とキラリと光る何かが月に照らされていた。
「先生、一緒に地獄に行きましょう?」
私が最後に見た光景は永川尚貴が光る何かを私に向かって振り落としてくるのが最後だった。
◆ ◆ ◆
「あ〜あ、あの男の子すっごい泣いちゃってるよ」
ミヤは大きな水晶に写っている川柳幸祐の姿を見ていた。
「本当ね、“犠牲者”のこと、すっごく好きだったものね」
エルリは笑顔で言った。
「憎たらしい言い方だな」
「ねぇミヤちゃん、私あの部屋を見たいわ」
「あの部屋?」
「えぇ、【地獄ノ女王所有物部屋】を」
「……見せるわけないだろ」
「やっぱり、あの部屋には何かあるのね?」
「そんな質問に答える暇はない」
「あら、じゃあいいわ。でも、もう少ししたら上の方からなにか来るかもしれないわよ?」
エルリの笑顔は天使の笑顔ではなかった。
今回はいつもの犠牲者より老けて……少し年上です。
年齢で言うと23か24くらいです。
教師のこういう黒い部分を書いてみたかった作者です。
最近更新ができなくてごめんなさい(=ω=;)
少しずつペース上げれるように頑張りますο(`^´*)
感想など待ってまーすw