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地獄ノ女王  作者: 夜魅
14/35

13人目 月空 輝星


「執事ー! 執事ー!」

 先程まで屋根付きのベットでパソコンをいじっていた、地獄ノ女王ことミヤはいきなり大声で執事を呼び始めた。

「なんですか? そんな大声出さなくても聞こえてますが……」

「私、メイドが欲しい!!」

 ………………また変なことを言い始めた、と執事は思ったが「なぜですか?」と一応理由を聞くことにした。

「だって、私もお年頃の女の子だよ? “お年頃”の!」

「はぁ……?」

「そんなお年頃の女の子の世話を普通、男の執事がやる!?」

 確かにそうかもしれない、と執事は思った。

「メイドですか……」

「うん!」

「では、“お年頃”のお嬢様に一つ……パソコンの画面を見せてください」

「えっ?」

 ミヤの顔から冷や汗が出始めた。

「えっ、や、お、お年頃の女の子のパソコンの画面を見ちゃダメ!」

「見せちゃいけないようなのを見ていたんですか?」

「うっ……」

「見せちゃいけないようなのを見てないなら、見てもいいですよね?」

 執事はミヤからパソコンを取り上げた。

「あー!」

「……お嬢様、この影響でメイドが欲しいと言ったんですね」

 執事は、ため息をついた。

 パソコンの画面には『メイド喫茶』と書かれている可愛らしいサイトが映し出されていた。




   ◆ ◆ ◆




 いつものようにメイクに気合いを入れる。濃すぎず薄すぎず。

 いつものようにワンピースを着る。ほつれてないかを確認しながら。

 いつものようにフリルのエプロンを付ける。シミ一つないか確かめながら。

 いつものようにニーハイを履く。左右のバランスは大丈夫か。

 いつものようにフリルのカチューシャを付ける。ずれてないか。

 そして、いつものように──


「おかえりなさいませ! ご主人様!」

 

 明るい声で接客をする。

 私の仕事は『メイド』だ。

 私の働くメイド喫茶の『めるてぃ』は一番人気のお店と言っても過言ではない。開店時間から満席になり、雑誌やメディアに取り上げられるほどの人気さだ。

「きららちゃん、指名入ったよ。14番テーブルお願い」

「わっかりましたー」

 そんな『めるてぃ』の一番人気のメイドは“きらら”である。

「ご指名ありがとうございます! ご主人様。」

「いいやー、きららたんは今日も可愛いなー」

「ありがとうございます!」

 メイド喫茶『めるてぃ』の一番メイド、つまりメイドの頂点は、この私、月空(つきぞら)輝星(きら)こと、きららである。

 そんな輝星は今日も笑顔で接客をしていた。




   ◆ ◆ ◆



「ねぇー、執事〜。メイドはー?」

「またその話ですか、ダメです」

「こんな有能なメイド欲しくない? 執事の負担も減ると思うよ!」

 ミヤと執事は大きな水晶のある部屋にいた。水晶にはメイドの頂点のきららが映っていた。

「私の負担を減らすためと考えるなら、まずお嬢様が自分の事は自分でした方がよろしいかと」

「ぐっ......」

 言い返せない、という顔をしてるミヤを見て執事は、やっぱり子供だな、なんて思った。

「次の犠牲者どうしようかな、目ぼしい人がいないな」

 ミヤはポツリと呟いた。




   ◆ ◆ ◆




「取材ですか!?」

「はい、めるてぃの一番人気のメイドのきららさんのインタビューを載せたいのです」

 初回のお客様の接客をしていたら、まさかの雑誌の編集者だった。

 毎月発売している『メイド氏』のインタビューの依頼が輝星に来たのだ。

「どうですか?」

「ぜひ、お願いします!」

 これを機にお店の宣伝にもなるし、輝星の知名度もさらに上がる......!

 そんなことを思いながら、インタビューを受けた。




   ◆ ◆ ◆




「やっぱり、メイドいいなー」

 ミヤは、また『メイド喫茶』と書かれている可愛らしいサイトを見ていた。

「お嬢様、なんでそんなにメイドにこだわるんですか......」

「だって、話す相手が欲しいんだもん」

 ミヤは寂しそうな顔をした。

「いっつも一人か執事だし、たまにクロアとか......エルリも来てくれるけど、毎日ではないし、それにメイドなら相談事だって出来ると思うの、執事は男だから女にしかできない相談とかはできないでしょ?」

 ミヤの寂しそうな顔に執事は自分の意見を述べた。

「お嬢様、カンペが見えておりますけど」

「............あー! もうっ! なんでカンペ見えてるの!?」

「パソコンの画面の右上の方に出ているカンペが少々見えてしまいまして」

 執事は、勝った、という顔をしていた。

「お嬢様、先程のことが本当なら私も少し考えますが、カンペを見るような理由なら謹んでお断りいたします」

 執事の満面の笑みにミヤは敗北を覚えた。




   ◆ ◆ ◆




 今日『めるてぃ』に新人のメイドさんが入ってきた。

「え!? 私に憧れて『めるてぃ』に?」

「はい! 私、『メイド氏』のインタビューに載っていた、きららさんに憧れて『めるてぃ』に来たんです!」

「あ、ありがとう」

 素直に嬉しかった。私に憧れて、この世界に入ってくれるなんて。

「改めまして、いちごこと木野(きの)苺花(いちか)です! よろしくお願いします」

 こうして、いちごが仲間入りして、さらに『めるてぃ』は人気のメイド喫茶になった。



 いちごはすぐに人気メイドになった。今では私と一位、二位を争うくらいの人気さだ。



 ──負けてられない。



 そう思ったと同時に一位の座は譲らない、という目標が見つかったので仕事がさらに楽しくなっていた。

「きららさん!」

 帰り際に、いちご......苺花が話しかけてきた。

「ん? なに?」

「どうやったら、そんなに接客が上手くなるんですか!?」

「そんなのないよー、それに苺花だって接客上手いよ? みんな褒めてるよ」

 苺花の飲み込みの早さにサイショハみんな驚いていた。お客様(ご主人様)に対する優しさで丁寧に接客をし、且つ仕事を素早くこなしていた。これといった大失敗もしていない。

「どこかで接客業していたの?」

「いえ、初めてですよ! 働くこと自体初めてなので」

「本当にすごいね、苺花は」

「そ、そんなことないですよ!」

 手を前に出し、ブンブンと効果音が付くほど手を振った。それが可愛らしかった。

 そんな苺花を上辺だけしか見ていなかったので本性をまだ知らなかった。



 ──カタカタ。

『めるてぃのメイド可愛くない。あ、でもいちごたんは可愛い』『きららって奴、キモっ』『メイドがキモい。でもそれに行く客もキモい。』

「また悪口増えてる。」

 私は仕事が終わったあとに必ず『めるてぃ』に関するページを見ている。最近は『めるてぃ』への悪口が多くなっている気がする。確かにメイドを馬鹿にする人だっている。けど、前に比べて悪口がひどくなった。しかもそのほとんどが──。

『めるてぃは、いちごたんだけで十分』『いちごたんの愛情だけでいい』『いちごたん愛してる』

 いちごを棚上げにし、他のみんなを侮辱する様な書き込みが多いのだ。

(いちごのファンが書いてるのかな)

 そんなことを思いながらパソコンを閉じた。



 次の日、私はいつもどおり出勤のために人通りの少ない裏路地を通っていた。

 前は人通りの多いところを通って出勤してたが、私のファンに見つかり少々厄介なことになってしまったことがあった為、それ以来は人通りの少ない裏路地を通っていた。

「ぎゃははー! まじ? やばくね?」

 人通りの少ない裏路地に甲高い女の人の声が響いた。電話中だろうか......でもどこかで聞いたことのあるような声だ。

 私は気になり声の聞こえる方へ歩いてみる。どんどん声は近くなる。

「えー? 今日休みー! そうそう、キモオタに会わなくて済む!」

 私は目を疑った。甲高い声で話しているのは化粧が濃くて、露出たっぷりの服を着て、アクセサリーなんかジャラジャラにつけて、ヒールの高い靴を履いて、タバコを吸っている“いちご”が居たからだ。

 どうやら、いちごはこちらに気づいていなく、電話に夢中だ。

「うそ......」

 私は今にも消えそうな声でつぶやいた。

「はー、まじでバイト代いいわ、あそこ」

 いちごは口からタバコの煙を出して言った。

「だってさ、キモオタたちに笑顔を振りまいとけば、なんとなるし! たまーにイケメン来るけど冷やかしでね。本当にメイドってバカらしいって思ってたけど、お金が沢山入るならバカらしくても続けれるわ、あははー!」

 お客様にそんなことを思ってたの?

 私たちの仕事をバカだと思って続けていたの?

「本当にメイドも客もバカだよねー!」

 私はいつの間にか早足でお店に向かっていた。



 ──私に憧れて、この世界に入って来たなんて嘘だったんだ。


 

 足取りは怒りをぶつけるように速くなる一方だった。



 お店についた時、『めるてぃ』は開店していた。

 いちごのことで少し時間をかけ過ぎたみたいで早足でも間に合わなかった。

 お店のみんなには後で謝っとかなければ、と思い着替えを急ぐ。

 いつもどおりの着替えに、ただ怒りがあるだけだ。

 いつもの手順で着替え、フリルのカチューシャをつけた時だった。


 

 ──【ねぇ、私やっぱり欲しいな】 



「え?」

 小さな女の子の様な声が聞こえた。

 私以外、更衣室(ここ)にはいないはず。そう思ってた。

「おねぇさん!」

「うわっ!?」

 私の目の前には真っ黒な女の子が立っていた。

「すっごーい! 本物のメイドさんだー!」

 真っ黒な女の子は目をキラキラと輝かせて興味津々に私を見ている。

 どこからか迷い込んできたのだろうか?

「私ね、ミヤって言うの! おねぇさんみたいなメイドさんが欲しいなって思ってたんだ。でもね、執事がダメっていうの」

 ミヤと名乗る女の子は執事がいるらしい。服装からにしても、どこかのお嬢様だろうか。

「でも、おねぇさんはバカにされたんだよね?」

「え?」

 ミヤの目は先程のキラキラと輝かせてはいなく、何かを透かすようにジッと私を見る。吸い込まれそうな瞳をしていた。

「頑張ってるのに、誇りを持ってやってる仕事なのに、バカにされたんだよね? しかも、同じ職場の人に。その人は何もかもお金のために周りのみんなをバカにしながら働いてた。私も流石に黙ってられないなー」

 ミヤは「でも大丈夫!」とクルッと一回転をした。

「私が仇を打ってあげる! メイドさん達の仇!」

 ミヤは笑みを浮かべた。

「仇......?」

「そう! ......あ、そろそろ行くね! じゃあ、これからも頑張ってね!」

 ミヤという女の子は走り去って行った。

 なんだったのだろうか。急にここに来て、私の事を見透かしたと思ったら、勝手に一人で話を進めていた。

 まぁ、仇は取って欲しいものだ。



 数日後、自宅のマンションで女の人が変死したとニュースに流れていた。

 変死した女の人の名前は「木野苺花(20)」とニュースで流れていた。




   ◆ ◆ ◆




【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが大きく揺れた。

「んー、犠牲者がまた増えたね!」

「そうでございますね」

「あ、執事。やっぱり私、メイドさんなんていらないや! だって、身の回りの事をやってくれるの執事だけで十分だもん!」

「そうでございますか」

 執事から笑みがこぼれた。

 嬉しいことを言ってくださる方だ、と執事は思った。

「あ、早速なんだけど地獄ノ女王の仕事の書類は頼んだ!」

 ミヤは捨てゼリフのように「次の犠牲者待ってろよー!」と言い長い廊下を走って行った。

「......仕事を変えましょうかね」

 執事はため息をついた。

今回の話はメイドでした!

これで輝星(きら)って読めるんですね……知らなかった。

作者もメイド欲しい←

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