11人目 鶴見 比奈
地獄ノ女王ことミヤは、パソコンである動画を見ていた。
「珍しいですね、お嬢様がそんな動画を見るだなんて」
ミヤが見ていたのは、足の不自由な女の子の動画だ。
「頑張れ……頑張れ…」
動画の中の足の不自由な女の子は立つ練習していた。
何度も何度も失敗し、倒れては起き上がり、また倒れては起き上がり、というのを繰り返す。
ミヤの様子を見ていた執事は、時々こんな事を思っていた。
お嬢様は本当は優しい方はではないのか、と。
◆ ◆ ◆
高校生に新体操の天才がいた。将来、日本代表の候補に選ばれるではないかと注目されていた。
その矢先だった。新体操の天才、鶴見比奈が足を怪我したのは。
車椅子の生活にも少しずつ慣れてきた。自分の足で歩けなくなって一ヶ月過ぎようとしていた。
比奈は一ヶ月くらい前に、学校の階段から落ちた。
落ちた衝撃で壁に足を強打し、足が麻痺した。
比奈が入院すると同時に沢山の人がお見舞いに来てくれた。
二日に一回は必ず二人の先輩がお見舞いに来てくれていた。
「今日も来てくれたんですね、りりか先輩、やよい先輩」
「当たり前でしょ! 可愛い後輩のためよ!」
「比奈、早く元気になってね!」
安城りりか先輩、土浦やよい先輩は私の所属している新体操部の先輩だ。
「先輩方、部活の方は大丈夫なんですか?」
「心配いらないよ。でもみんな比奈が戻ってくるの待ってるよ!」
「でも、私……こんな足になっちゃいましたから……」
私は動けなくなった足を見た。
小学校からやっている新体操をもう出来ないからだ。
今すぐ、体を動かしたい。
レオタードを着て、眩しいスポットの中、歓声を浴びて演じたい。
表彰台の上に立って、メダルやトロフィーをもらいたい。
今となっては、もう無理だ。
「比奈……?」
「あ、す、すみません! 少し考え事していて……」
「謝らなくてもいいよ~」
病院生活は暇だけど、こうやって話している時が一番好き。
いい友達やいい先輩に恵まれて、心から、よかった、って思う。
◆ ◆ ◆
ミヤの大きな瞳には水晶と水晶に映っている映像が映っていた。
「お嬢様……?」
執事は横目からミヤのことを見た。
「許さない……」
「え?」
「絶対に許さない……」
ミヤは怒りに満ちていた。
◆ ◆ ◆
(今日は先輩たちが来る日だ)
昨日は友達が来てくれた。新体操部の友達だ。
昨日話した事は楽しかった。
けど、部活の話は一切してくれなかった。部活の話を聞こうとしても、流されて終わりだった。
しつこく聞くのもいけないと思ったので、仕方なく部活の話を聞くのは諦めた。
(部活の話も聞きたかったな……先輩たちに聞こうかな)
車椅子で病院の売店に向かっていた時だった。
「本当に平和だよねー!」
聞き覚えのある声がした。
「そうだね! あいつが居なくなって、部活に平和が訪れたよね」
りりか先輩とやよい先輩の声だ……。
話の内容は、あまりいい話ではなさそうだ。
(なんか、話しかけない方がいいかも)
私は陰から、こっそりと聞く事にした。
聞く耳を立てるのは、いいことではないが、気になってしまう。
「本当に、比奈が居なくなって平和になったよね~」
──え?
「本当! だって、あいつがいたら、先輩っていう立場無くなっちゃうし、顧問が、もっと見習え、なんて言うしさ」
「天才は、きっと特別扱いされるんだよ」
「それなら足動けなくなっても、どうって事無いよね!」
──先輩たちは私のこと、そんな風に思ってたの?
「だってさー、まさか背中を押して、あんな綺麗に落ちるとは思わなかったよー」
「りりか怖い~! でも本当に上手くいくとはね! りりかの考え方怖いわ~」
「でしょ! って、やよいもグルじゃん!」
「そうだったわ~」
──先輩たちのせいで私は怪我をしたの?
「ってか、なんでそんなお見舞いに来なきゃいけないの?」
「え? そんなの決まってるじゃん……あいつがもう新体操を出来ない体を見ると、どれほど嬉しいか!」
「嬉しさに浸るためにお見舞いに来てるのー? うわー、悲惨!」
──私は先輩たちのせいで歩くことも出来なくなったの?
「ねぇ、そろそろ行かないの? あいつを見に!」
「行く行く! 嬉しさに浸るためにねー!」
──先輩たちは私の大好きなのものを奪ったの?
──許せない……許せない……!
──【そうだよね、許せないよね】
幼く可愛らしい声が聞こえた。
「お姉さん!」
私の目の前には真っ黒なワンピースのようなのを着た女の子が立っていた。
先程まで私の周りには、誰も居なかったのに……。
「私、ミヤって言うの! ねぇ、お姉さん。足動かないの?」
「え?」
ミヤは私の足をジッと見ていた。
「……うん、そうなの」
「ふーん、なんで?」
今度は私の目をジッと見てきた。
「か、階段から落ちて……当たりどころが悪かったみたいなの……」
「へぇー、……嘘でしょ? 階段から落ちたなんて」
「え?」
ミヤは私の目を、さらにジッと見てくる。今すぐ目を逸らしたいけど、逸らしてはいけないような気がした。
「階段から落ちたんじゃない、“落とされた”んだよね?」
ミヤの目は、何もかも見透かしているように見えた。
──逆らえない。
直感的にそう思った。
「お姉さん、足動かなくなって大好きなことも出来なくなっちゃったんだもんね……」
ミヤは悲しそうに言った。そしてすぐ笑顔になり。
「大丈夫! お姉さんは、また足を動かすことが出来ないかもしれないけど、大好きなことに関わる仕事なら、大人になってもできるよ!」
「え? あ、ありがとう」
「じゃあね!」
ミヤは走って、どこかに行ってしまった。ミヤは私を励ましに来た、天使なのだろうか……けど、服装から見て、違うように見えた。天使ではない天使。そう私は思ったんだ。
それから数日後の出来事だった。
りりか先輩とやよい先輩が亡くなったのは。
友達の話によると、二人は学校の屋上で倒れていたらしく、死因は不明。
でも二人が亡くなって、部活の雰囲気が良くなったらしい。
私が怪我した後は部活には不穏な空気が流れていたらしい。私が落とされたところを目撃した同じ部活の人が居たらしく、みんな私の怪我はりりか先輩とやよい先輩のせいだ、と知っていたらしい。それと、りりか先輩とやよい先輩は、いつも後輩たちに罵声を浴びていたらしい。
おまけに私のお見舞いと言いながら、部活をサボっていたことも多々あったそうだ。
でも私には、もう関係のない二人だ。
二人が亡くなったのは私の足を奪った罰だと思う。
そして、私は今、一つの夢を見つけた。
それはレオタードのデザインをする事だ。
ミヤに言われた、大好きなものに関わる仕事、というのをきっかけに少しずつデザインを考え、将来は日本代表のレオタードのデザインをしてみたい。
私の足は失ってしまったけれど、大好きなものに関われるなら、それだけでいい。
あの日、出会ったミヤに感謝しながら、私は今日も歩いていく。
◆ ◆ ◆
「感謝されちゃった♪」
ミヤの目には大きな水晶に映る、比奈の姿が映っていた。
「あ〜、いいことした! 犠牲者も二人増えたし! 一石二鳥だね!」
ミヤの笑顔を横目で執事は見ていた。
「お嬢様、そろそろ定例会が始まりますよ?」
「もうそんな時間? めんどくさいなー」
「仕方ないですよ、これも地獄ノ女王の務めなんですから」
「ちぇー、わかったよ」
執事は渋々と定例会の会場に行くミヤを見て、お嬢様の本性がわかりません、なんて思いながらミヤの後をついて行った。
なぜ、新体操を選んだか、それは……
作者が小さい頃に習いたかったことだからです!!
また作者の欲望から、この作品は生まれました。
ちなみに作者は新体操か体操を習いたかった……。
※新体操と体操の違いは新体操は道具で体操は器具を使います。間違ってたらごめんなさい。
天才は憎まれる役に最適ですよね←
比奈は純粋に新体操が好きな子にしました。それがこんな結果になってしまいました……ごめんよ、比奈