9人目 姫坂 唄
【歌姫降臨!!シングル二ヶ月連続一位!】
地獄ノ女王ことミヤはパソコンの画面に写っているニュースの見出しを見ていた。
そしてそのページを後にし無料で動画を見られるサイトに飛び『ウタ』と検索し、歌姫の歌声を聴いていた。
「綺麗な声だね、執事」
「そうでございますね、人間でもこんな綺麗な声を出せる方がいるんですね」
「…なんか嫌な人思い出した。」
「あぁ…、お嬢様は“あの方”がお嫌いですけど歌が上手いのは認めるんですね」
「歌が上手いのだけは認める」
ミヤの顔はムスッーとしていた。執事はそれを横目で見ているだけだった。
そして近いうちにミヤの嫌いな“あの方”に会うのは、まだ知らなかった。
──────────…
私の名前は母親に付けられた。父親は売れないミュージシャンで母親は音楽の先生。両親が音楽に関係している仕事をしているということで『唄』という名前が付けられた。
高校を卒業して、すぐにデビューをした私は初登場のCDで一位を取った。名も知られていない私が一位を取ったことでたくさんの仕事が来るようになった。独自のラジオも持つようになり、慌ただしい生活を送っていた。でもそれなりに楽しい生活を送っている。
今日は二枚目のシングルを録リにスタジオに来ていた。
「二枚目のは少しシリアスな感じね…」
一緒に来ているマネージャーの岩崎さんがつぶやいた。
「大丈夫です、私練習もたくさんしましたし、歌で表現するのは得意なんです!」
「そう、期待してるわよ。ウタ」
「はい!」
マネージャーと会話をしているとスタッフに呼ばれ、録り始める。
レコーディング用のマイクはなんとなく好き。ここに歌えばみんなに私の歌が届くから──。
さぁ、みんなに届けよう。
──────────…
「水晶の特権だよね~」
ミヤは水晶を見て、そう言った。
「どういうことですか?」
「まだメディアに発表されてない歌を聴けるんだよ? ラッキーでしょ♪」
「そうだね♪ 私もラッキーだわ♪ ミヤちゃんに会えるなんて♪」
透き通るような可愛らしい声を聞いた瞬間、ミヤの顔は血を引いたように真っ青になった。
「エルリ=ユイリア=エンゼル。なんでここに…」
「あらー♪ たまには可愛らしいミヤちゃんの顔を見に来ようと、わざわざ天国から来たのよ?」
エルリ=ユイリア=エンゼルと呼ばれている者は天使である。そして天国ノ王女である。人間で言うと見た目は14歳だが胸がふくよかなせいか、そこらへんの大人には負けないスタイルの持ち主だ。
「よく地獄には入れましたね、エルリ様」
「あら、執事さんお久しぶり。地獄と天国って出入りは可能ですもの♪ むしろ地獄ノ女王様とお話があります、なんて言ったら簡単よ♪」
地獄と天国の仲は悪くない。何年か前…と言っても300年くらいまでは仲が悪かった。
しかし仲が悪いといろいろ厄介で人間界に居る人達にも被害が出ると思い、当時の地獄ノ大王と天国ノ大王はある契約を結んだ。
───『天界獄誓約』
それは地獄と天国の法律みたいなものだ。地獄の住人と天国の住人は争いなどせずに仕事をこなせ、だの書かれている。実際、地獄の住人が天国の住人を嫌ったり、あるいは天国の住人が地獄の住人を嫌ってる人もいる。
だが、争いはしない。争いなどしたら、さらに上のもの…つまり全てを支配している神から罰が下るのだ。
「それに争いなど天使には似合わないわよねー。私は別に地獄の住人も嫌いじゃないけどなー。」
「…そんなことはどうでもいい。なんでここに来たの? なにかしら用事があるから地獄に来たんじゃない?」
「やっぱりミヤちゃんは勘が鋭いね♪」
エルリは真剣な表情になった。
「…ミヤちゃん、いえ地獄ノ女王様。最近仕事を増やしているようですね」
「……どういうこと?」
「犠牲者……とか呼んで、たくさんの人を地獄に堕としているとか」
「……確かに地獄に堕としているけど、その人達は必ず地獄に堕ちる人達と決まっている人だよ」
「上からの指示も出てない人達をですか?」
上から…つまり全てを支配している神たちのことだ。全てを支配している神から地獄も天国も成り立っている。地獄に堕ちる人間、天国に行く人間は全てを支配している神達が決めてから、どちらに行くか判断する。
───が、ミヤの場合は指示をもらう前に地獄に堕としているのだ。
「いくら地獄に堕ちる人間がわかっていても、上からの指示がなければ動いてはいけませんよ? 今は皆さん、目を瞑っております。地獄ノ女王様が幼いというのもあって、……ですがそろそろ上の方達も黙ってはおりませんよ」
「……わざわざそれを言うために天国から来たの?」
「ええ、可愛い妹のためです♪」
ミヤは、妹じゃないんだけど、と思ったが口にはしなかった。
「上の方にも話は今度付けとく」
「ミヤちゃん、もう少しいろんな人の力を借りたら?」
エルリはまっすぐミヤの瞳を見つめた。
「ミヤちゃんの両親…先代の地獄ノ大王様、地獄ノ女王様はすごかったわ。地獄の歴史に残るような2人…その子供がミヤちゃんでいろんな方達がミヤちゃんに期待してるわ。けどね、もう少し周りの方の力も必要だと思う。私の両親…天国ノ大王様も天国ノ女王様も心配なさってたわ」
エルリの表情は妹を溺愛をする心配そうな姉の顔だった。
「…大丈夫。いざとなったら借りるから。」
──────────…
二枚目のシングルも成功に収めた。一枚目とは雰囲気が違う歌声ということもあり、沢山の人の心を掴んだ。
──が、批判の声も飛ぶようになってきた。
『裏では違う人が歌ってるのではないか』『売れたからって調子のんな』『顔はあんまり可愛くないよね、整形したら?』
ネットの中ではあまり評判が良くないようだった。
「気にすることないわ、ウタ。誰もが一度は通る道よ。これに負けないくらい、みんなを振り向かせるような歌を歌えばいい…。あなたはその力を持っているのだから」
「はい、私もあまり気にしないようにします」
歌をとったら、私から何もかもなくなるような気がした。
歌えばいい。歌って振り向かせればいい──。
けど、現実は甘くなかった。
どんどん私に対する批判が増えていった。
『 社長など偉い人に体を売っている』『事務所の先輩の歌を批判しまくって自分の歌を主張している』『その声が悪魔を呼ぶ』
なんで、こんな批判を受けなきゃいけないのか…。
私は、ただみんなに歌を届けたいだけなのに…。
──【そんな批判に負けてたら、いけないよ】
どこからか声が聞こえた。幼い女の子の声が。
「お姉さん!」
今度は後ろから聞こえた。
振り向くとそこには小さな女の子が立っていた。
「…誰?」
「私、お姉さんのファンなの!」
小さな女の子は笑顔で私に言った。
「お姉さんの歌声綺麗だもん!」
私の歌声が綺麗か…。
「ありがとう、なんか元気が出たよ。えっと…お名前は?」
「ミヤ!」
ミヤという女の子は私の手を握ってきた。
「ねぇ、お姉さん。頑張ってね!」
「うん、ありがとう」
握られた手が暖かった。
──────────…
それから三枚、四枚とシングルを出した。相変わらず批判はひどかったが、その分ファンが増えていった。
──カタカタカタカタ。
「…私みたいに綺麗な声出せないくせに、よく批判なんか言えるな。嫉妬も大概にして欲しい」
私はこんな事で、もう心など折れてはいなかった。
──────────…
「ねぇ、執事。次の犠牲者は綺麗な歌声の持ち主にしようと思うの」
ミヤは水晶に映っている、姫坂 唄を見ながら言った。
「お嬢様、それでもし犠牲者にしてしまったら、歌声を聴くことができませんよ?」
「確かにそうかもしれないけど、でもそれは少しの辛抱…。もし犠牲者がある人数に達したら、永遠に歌声を聴くことができる。それにあのお姉さんは前よりはるかに犠牲者に向いている人物になっているからね」
ミヤは水晶に向かい、ニコッと笑った。
──────────…
ウタは音楽番組の収録のためにスタジオに来ていた。
「ちょっと! 照明もっと明るくして! それから音楽流すタイミングがズレてる! それから──」
「ちょっとウタ! いくらなんでも言い過ぎよ!」
「岩崎さんは黙っててください。ただのマネージャーなんですから」
「なっ…!」
ウタはどんどんワガママになっていった。
けど、皆目を瞑っていた。
ウタが出ると高視聴率になるのは確かだったからだ。
「もう、今日は歌う気になれない。帰る」
「ウタ、いいかげんに──」
「私、この歌番組今回降りますね」
「なに言ってるの!?」
「では、また機会があればお願いしますね」
ウタのわがままにスタッフ達は唖然としていた。
──【お仕置きが必要みたいだね】
ウタがスタジオを出ようとした時だった──。
「あ、危ない!」
ウタに向かい機具がスローモーションのように倒れてきた。
鈍い音がスタジオに響き渡り、赤いなにかが床に広がっていった。
──────────…
【地獄ノ女王所有物部屋】のプレートが大きく揺れた。
「これで綺麗な歌声を手に入れた♪」
ミヤは鼻歌交じりで廊下を歩いていく。
「あらあら、ミヤちゃんご機嫌ね♪」
「…まだ帰ってなかったのか」
「ええ、天国に居なくてもお父様とお母様が全て仕事をやってくださるもの♪ それに私の執事も代わりに仕事をやってくださるわ♪」
「私より年上なのに親ねだりか」
「いいえ、これもちゃんとした仕事よ? 地獄ノ女王様の監視役もね?」
「……上が目を瞑っているのは嘘だったの?」
「さっきも言ったわよ? 今は目を瞑っている。つまりひどくなったら、上も黙っていない…。私はひどくなるのを止めに来たのよ?」
「ひどくはならない」
「本当に?」
「本当だ」
エルリがジッとミヤの瞳を見た。
「まぁ、私も今日はお暇致しましょう。でもまた近いうちに様子を見に来ますね?」
「…執事。エルリを送って」
「かしこまりました」
───────────…
「執事さんも大変ですね。地獄ノ女王様のお世話」
「確かにそうかもしれませんが、見てて飽きませんよ」
「ふふ、天国にミヤちゃんを連れていきたいくらいだわ」
エルリは振り返り先ほどまでいた、地獄宮殿を見た。
「…このままだと本当に地獄ノ女王様は上から目をつけられてしまいますよ、執事さん」
「ええ、わかっております」
「わかるなら、なぜ止めないの?」
「契約だからです」
「そう。…ここからは一人で大丈夫。執事さんはミヤちゃんのところに戻ってあげて?」
「ですが──」
「お父様とお母様にはいいように報告しておきます。なにかあったら、すぐにご連絡をください」
エルリの目は真剣そのものだった。
芸能人のわがままを少し書いてみたかったw
実はあまりこの話しっくり来てません(;゜∇゜)
そこはおいといて…
エルリが出てきました!
天国と地獄を仲悪くしとくのは色々めんどいと作者のわがままにより、上辺上仲のいい設定にしました
ちなみにミヤはエルリがあまり好きではなさそうなのは後ほどわかります