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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
6/47

イレギュラー

「それにしても、なんだかとっても意外だわ!まさか王子様たちが普通の人と同じものを食べてるなんて!」

 はしゃいだ声を上げたのは、ヒロインであるはずの少女、セイラさん。

 『さん』……っていうよりはもっとこう、かわいらしい感じに『ちゃん』とかの方が似合いそうだけど。

 彼女の無邪気な意見に、王子さま方は顔を見合わせて苦笑する。

 グーリンディ君だけが、何故か「ごほ、ごほっ」とむせていた。

「これでも実家では、一般の人たちとさほど変わらない生活をしているつもりだ。何でも1人で出来るようになりなさいと、よく言われてもいるしな。こうして市井の人々と同じものを食べたり、学園で庶民に交じり勉学に励むのも、親や官職の方々に言わせれば世を知るための一環なのだそうだ」

「まあそうは言っても、衣食については相応に手が掛かってはいるんだけどね」

 アルフレア殿下が食事の手を止めてほほ笑むと、その隣でシャリラン様が楽しそうに茶化す。

 その様子にセイラさんとクルエラさん……様?が「まあっ」とか言いながらくすくす笑った。

 うーん、完全に物語というかドラマを見ているような気分だわ。

「……そういえば、貴女にも登城経験があると言っていたな。今の話については特に何も言っていなかったが、城については詳しいのか?どれほど知っている?」

 そんな風に和やかに見えたのは向こう側だけで、こちらはどうやら警戒続行中だったみたい。

 ちょっと……しつこくない?

 そう思ったのは私だけではなかったらしく、王子さま方も眉をひそめられた。

「待て待てヴィクトール。それよりもだな、これほどの人数が集まったのだ。まずは改めての自己紹介が先ではないか?」

「アルフレア様……しかし」

「もー、ヴィーはもう少し信用しろってばよ!オレの親友だってさっきから何度も言っているだろ!?いい加減失礼だ!」

「ラビ、どうどう。ヴィッキー、尋問は後にね。大体君は、疑わしきをすべて罰する気かい?そんな事をしていたら、我々だって新たに友誼を結ぶどころではなくなってしまうだろう?……そういうのは、困るんだがね」

「あ、あのっ、ボクはそれ、いいと思いますっ!いいですよね!自己紹介!」

 シャリラン様の雰囲気がガラリと変わりかけたのを察したのか、グーリンディ君が慌てて賛同する。

 ……さっきから思うんだけど、ちょっと怯えてない?君。

 半分くらいは緊張だと思ってたけど、違うの?


「まあ、尋問ですって。穏やかではありませんわね。……アナタいったい何をなさったの?」

 グーリンディ君の必死の空気作りをぶち壊しにするように、くすりと笑ったのはクルエラさん。……さん、っていう雰囲気でもないから、王子さま方にならって嬢にしとく?

 どこか毒々しい笑いだなと思ったのは、彼女の言葉に揶揄するような響きを感じたからかしら。

 でもすぐに、シャリラン様から「そういうのはいいから」とたしなめられていたけど。

 そのやりとりの、慣れた感漂う彼らに驚く。

 以前から交友があったのは本当みたいね。

 ゲームにはそんな描写はなかったと思うけど、考えてみたら同年代で似たような立場なんだし、王宮で知り合った幼馴染だったとしてもおかしくはないのかしら……。

「ではまずは、私から行こう」

 こほん、と場を整えたアルフレア様が、微妙に意味があるのかわからない……いや、私含む庶民組こそに意義があるっぽい自己紹介の先陣を切った。


「そうか、君は孤児院出身なのか―――」

「珍しいね」

「なんだかお恥ずかしいです」

「いえいえそんなっ、恥ずかしがる事なんて何にもないですよ!一般公募の試験はすごく難しいと聞きます。それを突破しただけでもすごい事なんですから、胸を張ればいいんですよっ!」

 グーリンディ君が一生懸命にフォローしてるのが、またほほえましい。

 ヒロイン……セイラさんは、幼いころにご両親を亡くし孤児院で育った後、学園の一般入試の試験を受けたらしい。

 こちらは“設定通り”ね。

「私は……親が魔法省の役人をしているので、その伝手で推薦を頂く事ができて……」

「ほう?ならばご両親も推薦人も、私が知っている人かもしれないな」

「……」

 ルーエさんの方も、出自については“設定通り”か。 


「それにしても『光』に『闇』かー。2人ともすっげーのな!」

「クルエラ嬢が、わざわざ彼女らを紹介するだけはある」

「アル、どうやら今年の新入生は粒ぞろいらしいぞ?」

「先生方は大変だろうがな」

 含み笑いをする王子さま方。

 趣味悪いですよ?

「―――光といえば、炎とは近しいな。熱を生む光は炎と相性がいいと決まっている」

「そうかい?それを言うなら水もだろう?」

「え、えっと?」

 と、セイラさんを見ながら唐突に言い出すアルフレア様に、シャリラン様が乗っかった。

 慌てたのはグーリンディ君。

「そっ、それなら断然ボクですよっ!ボクは緑です。光との相性ならボクが一番ですってば!」

「なんだかよくわからんが、輝きならオレも負けてないぜっ!」

「う、うん?」

 キンキラさんは、よくわからないなら黙ってなさい。

 でも、それにしてもおかしいわね。

 好感度も上げてない内からなんなの?この状況。

 改めて自己紹介しただけなのに、何この騒ぎ。

 さすがヒロインだって、言えばいいの?

 一応、最初のイベントだとは思うけど、本来なら友人に連れられて食堂に来たヒロインが遠目から彼らを見て知って、後々個別に出会うイベントが発生する流れの筈なのに……のっけからこんな盛大に壊れてていいのかしら?

 けど……話を聞く限り、ヒロインも友人も設定どおりのキャラ……人物だというのはほぼ間違いがなさそうね。

 ……問題は、ライバルキャラと攻略キャラたちだけかー……。

 ……って、ちょっと待って。

 この考え、危険じゃない?


 確かにゲームをなぞるような、恐らく同一人物であろう人たちは今目の前にいるけれども、そのせいで『キャラ』というくくりで見てしまいそうになるけども……それって本当にいいのかしら?

 だって私は、ここが『自分の生まれ育った世界』で『現在(いま)』まさに『ありとあらゆるものが生きて動いている世界』である事を知っているはずでしょう?

 過去があって、たぶん恐らく未来もある『現実』。

 なら、彼らだって架空のキャラクターではなく、れっきとしたいち個人の筈で――――――

 だってほら、誰かの何かの気まぐれで、ライバルはヒロインの事を友人だと紹介しているし、ヒロインもライバルと親友どうしになったのだと嬉しそうに言っていて―――

 ……そうよね、現実だもの。

 人間関係を結ぶのに、ゲームとかきっと、関係ないのよね。

 私とラビが友達になったみたいに。

 だったら……私も……彼らや彼女らと、友人関係になれる未来があるのかしら?

 そこまで、考えたところだった。

「どうした?次は貴女の番だが」

 やけに冷え切った声に『現実』へと引き戻されたのは。


「すみません、ぼーっとして。……召喚学科1年のリグレッドです」

「あらあら、先が思いやられますこと」

 ……どうしてかトゲのある言い方に聞こえるのは、やっぱり私の思い込みのせいなのかしら?

 ダメね、気をつけないと。

「そういえば貴女、お城に行ったことがあるんですって?それってどうせ地方の離宮でしょう?そんなんで登城経験があるだなんて、言ってしまってはダメですわよ」

 ころころと笑うその顔は……ええと、それってお貴族様特有の上から目線というやつかしら?

 ……まあ、隣りの猛吹雪な視線がさっきからものすごいし、この辺で1つ身の証でも立てておくことにしましょうか。

「父が魔法士として王宮に出入りすることがあったので、それについて何度か。一応、魔法士管理局長のサンジェルマン様とも面識はあります」

 メフィ父さんが塔の代表として出ている、国の魔法使いたちによる定例会議の手伝いとかもやってたから。

 本当は国王様ともお会いしたことがあるけど……この場で言うにしては、さすがに嘘臭いかもしれないわね。

「ふうん?」

「ほう?」

「へえ」

「「「……」」」

「ほえー」

「ふわあ」

 各々反応が返ってくるけど、無言組の内2人の視線が怖い。

 残り1人はヒロインの友人……のはずのルーエさんで、この人は元々口数少ない人だから除外。

 うん、表情もあまり変わってないし。

 もしかしたら、探りを入れる算段くらいはしてるかもしれないけど。


「それで?属性は?まさか、言えないなんておっしゃいませんわよね?」

 だからなんで詰問口調なんだろう、この人……。

 ああでも、だからこそあまり言いたくない感じが。

「……言えないのか」

「もー!だからなんで突っかかるんだよ!彼女たちにはそんな風じゃないだろ?」

 ラビが頑張ってかばってくれるのがすっごく嬉しい。

 まあ言っても、彼1人が勝手に疑ってるみたいだから、そんなにこっちは気にしてないんだけれど。

 ……あー、もしかしたら桃色髪の彼女も、になるのかしら。

 そうね、確かにヴィクトールは、ヒロインたちと私で態度が違うわね。

 ちょっと嫌な感じだなと思っていたら、ヴィクトールは呆れた顔をしてラビに説教し始めた。

「女性が女性を紹介するのと、男性が女性を紹介するのでは意味が違ってくるだろうが。それにクルエラ嬢の紹介ならば、これほど信頼できる筋もあるまい。ラビ、お前と違ってな」

「なんだよそれー!」

「お前のようなそそっかしくて簡単に信用できる奴は、丸め込むのも付け込むのも容易い。もっと自覚し警戒心を持てといつも」

 あっそ。つまりクルエラ嬢とラビの信用の差って訳。

 2人の掛け合いを、王子さま方はにやにや笑って見てる。

 つまりこれくらいの言い合いは、止めるまでもないいつもの事ってわけね。

 おろおろしているのは、グーリンディ君とセイラさんくらいか。

 私?ふてくされてますが何か?


「ふふふっ、そうですとも。わたくしにとっては、皆様のお役に立つことこそが至上命題なのですわ。……それで?お話が途中になってしまいましたけれども、貴女、属性は。色は」

 なんてこと。

 もはやこの令嬢、詰問口調を隠そうともしていないわ。

 まあ、それがこの人のいつもなのか、あるいはヴィクトールの尻馬なのか、それとも私が懸念している事態ゆえなのかはまだわからないけれども。

「……属性は『混沌』色は『白』……です」

 余裕たっぷりに見守っていた王子さま方も含め、一同全員絶句した。

 ……まあ普通、そういう反応よねー。

 あ、事前に知ってるラビが胸張った。

 

「白?聞いたことありませんわ、そんな色」

「まさか、本当に存在するなんて……」

「これは……」

「『光』と『闇』でさえも希少なのに、さらに『混沌』までもか……」

「まさか、謀っているのではあるまいな」

「嘘は言ってねーよ、ヴィー。だってオレもそばで聞いてたもん」

 困惑の仕方が、ご令嬢とその他の皆さま方とで微妙に違うのは気のせいかな?

「すごい、の?」

「確かに、他より一線を画していそうでは、ありますわね」

 ルーエさんの疑問に、ご令嬢はなぜか含みを持たせた返答。

 その含みに気付いたのか、それとも単に変な空気だと思ったのか、セイラさんとグーリンディクンが慌てたように言った。

「でっ、でもっ、ほらっ『白』と『光』って近くない?さっきの言い方で言えばさ!」

「そ、そうですよ!『単色』ですし、きっとすごく強い魔力の方なんですね!ど、どんな魔法が使えるんでしょうか、その『混沌』の属性って。想像がつかないや!」

「……強い?そんなバカな。色が無いってことは最弱ってことじゃないの」

 盛り上がる2人の声に混じって、クルエラ嬢の侮蔑に満ちたつぶやきが聞こえてきて驚く。

 多分、本人は聞こえてないと思ってるんだろうし、実際それくらい小さなつぶやきだったけど。

 それにしても……彼女、もしかして知らないのかしら?


 確かに、色の薄さは魔力が弱い事を示す。

 けれど、何にも染まらない白は薄いんじゃなくて、どんな色にも染まらない、何より強い『はじまりの色』。

 そしてそれは、どんな色にも変われる色でもあるって事で。

 札遊戯(トランプ)で言うジョーカーみたいなものなのだ。

 ……場合によっては、ババってこともあるけれど。

 しかしそれゆえ、絶対にA(切り札)にはなりえない。―――そんな色なのだ。


 ふと気が付けば、さっきまでにやにやとクルエラ嬢を見ていたアルフレア様とシャリラン様が狩人の目でこっち見てる……!!特に青い方!

 令嬢様の事、疑心の目で見ている場合じゃなかった……っ!!

「あ、あのっ、それで、自己紹介も済んだことですし、気になった事があるのですが、いいですか!?」

 あわてて話題変更の申請をしたわよ。

 いけない、これ以上この話題のままだと危険だと、内なる危険察知スキルがうなりを上げている!!

 実父譲りのこの技能(スキル)、何気に重宝してます。 


「質問?どうぞ?」

「何を聞かれるのか、興味あるね」

 その興味は無くしてください、是非にでも。

「あの、学年末試験の課題についてなんです」

 当然ながら、学科ごとに試験内容は違う。

 ゲームの話になるけれど、ヒロインは攻略ルートに乗っかった対象と一緒の課題で試験を受けることになる。

 魔法学科以外だと、魔法薬学―――ああもう、薬学錬金なら魔法道具(マジックアイテム)の開発を合同でやるとか、魔法騎士科のアイツなら合体魔剣の開発とかそういう形で。

 向けた話に興味が移ったのか、それとも見逃してもらえたのかそれはともかく、彼らは各々の試験についてああでもないこうでもないと意見を交わし始めた。

 中でもひときわ熱のこもった弁舌をふるったのが、我らが召喚学科期待の星(たぶん)だったのは言わずもがな、なのかしらね。

 食堂に来る直前に話していたことを、さも自分の手柄のように……って、それはまあいいんだけど。

 ……と、解放感から他人事のように見ていたら、後ろからあきれた声が聞こえた。

「ずいぶん面白い話をしているようだが、試験課題をあまり趣味まみれにしていると減点を食らうから、そこは留意するように」

 よく知った声に、ぱっと振り向き……って、誰。

「えーっ!?」

「当然だろう。試験とは神聖なものであり、諸君の遊戯に使うものではないからな」

「ぶーぶー」

 文句垂れるのはいいけどラビ、それ誰だかわかってる?

 毛先まできれいに整えられた逆立った銀髪オールバックの、清潔そうなシャツとベストを着た長身男性……ってお父さん!?

 ちょっ……まっ……詐欺!!

 別人28号じゃないの!

 身ぎれいな格好してたから、一瞬わかんなかったわよ!

 あー、ええと、こういう場合どうすべき?

 私とお父さんは確かに似た髪色だけど、顔はぜんぜん違うんだし……聞かれたら答えるでいいのかしら、この場合。

 それともお父さんに任せるべき?

 考え込んでいたら近場から、ころころした笑い声が聞こえた。


「ごきげんよう、はじめまして『メフィ先生』?」


 ……はて、うちの父は今、自己紹介してたかしら?

 




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