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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
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トラブル続出

「『最小化』って何だよ」

 結果引きずり出されて今壊れた教壇の前に……正確には立ったままのゴンザレス君とラビ君の前にいます。

 今度は何だって感じで、講義室中から超・注・目!されてます……。

 嫌だなあと思いながらも受講席を見渡すと、さっと視線がそらされました。

 ……友人フラグなんて無かった。

「だから召喚の際、最初から魔法陣に『最小化』と『復元』の魔法を組み込んでおけば、こんな風に教壇壊したりしなくて済んだ訳。具体例を示すと……」

 こうなったらヤケよ!

「出てきて!ジンっ!!」

 私にとっては慣れたもの。媒体すら必要無い。

 素手を前方に振るうと足元が輝き、目の前の床にも魔法陣が輝き出す。

 講義室中がどよめいた。あーあ。

「おん!」

「よしよし、いい子ね、おとなしくしててね?」

「くーん?」

 しゃがみ込んで抱き上げる。見やすいように抱っこしてラビ君に見せると……「すっげー!!魔獣!?それ魔獣じゃん!?」分かりやすくテンションが上がった。わあ。

「で、今のこれは『最小化』の魔法がかかった状態。で」

 行くわよ、と言葉には出さず視線だけで魔狼の子(あいぼう)に伝える。

 床に下ろすと、彼の眼は仔狼らしからぬ鋭い光を発していた。

「これがその魔法を解除した状態。―――“原初の存在に、戻れ”!」

 入学初日には必ず持参するようにと通達されていた、私にとっては使い慣れた媒体(つえ)を振りかざし、ジンの頭上目がけて振り下ろす。

 ジンの姿は真っ白な光に包まれ、そしてその光の塊は大きくなっていく。

「オオオオオオン……」

 光の中から現れたのは、1頭の精悍な青い狼。

 その姿は、人の腰ほどもある大きなもので。

 きろりと周囲を睨みつけるその瞳は、危険で不吉をもたらすかのような、剣呑な光を宿している。


 私自身が人狼ハーフだって事もあって、狼系魔獣との相性は悪くない。

 だからこそ、最初の召喚魔獣に『彼』を選んだっていうのもある。

 ここまで長い付き合いになるとは、自分自身思っていなかったけど。


 完了の合図のように一度吠えた後は特に無駄吠えもせず、おとなしく私のそばに寄り添い立っている。

 まあ当然、私が黙っててほしいからジンがそうしているだけなんだけど。

 今度はさっきよりもよっぽど分かりやすく、教室中がざわめいた。

「……これが『復元』よ。ジンの本来の姿はこっちの方なの」

「すっげー!!すっげすっげすっげーーー!!!」

 ラビ君、只今絶賛興奮中。

 落ち着くまでしばらくお待ちください……って?

 何でもいいけど、ゴンザレス君どうにかしたいから早く戻って欲しいなあ。


「これ、どうやってやったんだ?」

「だから、召喚の陣に組み込んで……あー、魔法式(コード)、出せる?」

「おう!」

 ……そんなあっさり……。

 あー、絶対また引かれてる……。

 そんなだから『残念』とか『紙一重』とか『ゴーレム馬鹿』とか言われちゃうのよ……。


 『コード』には世界法則による一定部分規制の意味と、魔法行使における指示の2つの意味がある。

 そしてこっちの魔法式(コード)は、基本的に門外不出の事が多い。

 これを実行させれば、魔力ある人ならば誰でも同じ魔法が使えるからだ。

 もちろん、実行する為には他に必要な事もたくさんあるけど、召喚する対象の設計図ともいえる『コード』は魔法使いにとって……特に召喚魔法士にとっては自分の財産ともいえる。

 それを、目的の為ならよく知りもしない同級生にさらっと見せちゃうなんて。

 『塔』のお兄ちゃんやおっちゃん達が聞いたら、絶対目を回すと思うわ。

 と……。

 目の前に浮かぶのは、複数の光り輝く魔法陣。

 これを統合して1つの召喚陣にする訳だけど……。

「ふうん?ゴーレム召喚用の魔法陣なんて初めて見たけど、案外単純なもんねえ」

「そうか?」

「そうよ。臓器無い分、省略箇所が多くて済むのかも」

「えっ?臓器?オマエ、この犬内臓から創り出しているのか!?」

「ええ、当然でしょ?だって長い間顕現させるのに、ずっと私の魔力を消費させてたら燃費悪すぎて無駄じゃない。だから周囲から魔力(マナ)を取り込ませるために……そうね、見せるのが一番早そうね」

 ぶあっ。

 ジンの前方に、いくつもの……それこそラビ君のゴンザレスのやつより、もっとたくさんの魔法陣が展開される。

 それらのひとつひとつは小さいけれど複雑に噛み合っていて、音こそしないものの、まるで歯車時計のようにカタカタと回っている。

「この動きが心臓の鼓動を意味していて、それから繋がっているのが魔力(マナ)吸収の為の呼吸式、循環させる為の体液管理に、変換と貯蓄の為の消化器官。こっちが危険探知の為の感覚神経網で、それとつながっているこれが、私との接続(リンク)部分。そして、そこから得た情報と自分自身で得た情報を踏まえた上で判断を下す思考中枢。後、神経につながっているあっち側が、変形に対応できる丈夫な骨格と筋肉。『最小化』と『復元』はここ。ほら」

 陣の一部を指し示す。

 ラビ君はもう、目の前に展開されている魔法陣を見ながら、ぽかんと口を開けているだけだった。

「ゴーレムはその点、(コア)1個で対応できるから楽よね。これ、中身やっぱり宝石なの?」

「お……おうっ!!効率のいい紅石(ルビー)で作ったんだ!げんこつくらいある大きい奴!」

 やっぱり。大好きなゴーレムの事になると戻ってくるの早いのね。

 それと後、さり気に実家の財力自慢するのやめてくださる?

 どうせこっちは『塔』に所属しているだけが自慢の貧乏父子家庭よ。


「ゴンザレスの陣だと……この辺りが駆動系かしら?」

「いや、そっちじゃなくてこっちだ」

「じゃあこの辺に複製して貼り付ければいいんじゃない?臓器系じゃないから、ゴンザレスでもそのまま使えると思うし」

「複製……」

 ごくりとラビ君の喉が鳴る。

 仕方ないわね。

「……本来ならせめてお金出してって言いたいとこだけど……まあいいわ。そのかわり、一度きりだから!」

「おう!『友情価格』ってやつだな!」

 いつのまに友人関係に格上げされたの……。

 この子、私の名前聞いてすらいないんだけど。それでも友人なんだ……?

 というか、そもそも知ってんのかしら?

「それにしてもすっげーな、オマエ!」

「そう……?私じゃなくて、多分父のおかげだと思うけど」

 最初に(きっかけ)を与えてくれたのも、召喚魔法の基礎やりかたを教えてくれたのも、全部義父(おとうさん)だもの。

「そうなのかー?んー、じゃあさ!」

 思い返していれば、ラビ君がその瞳を輝かせた。

「『最小化』って事は『最大化』もできるって事だろ!?オレのゴンザレスとオマエのソレ、いつかガチンコで勝負してみてえな!」

 ……ジンにかかっている魔法はあくまで『復元』であって『大きくさせる魔法』では無いけれど……。

 でも。

 考えて、口の端に笑みを乗せる。

「それは考えてなかった。けど……面白いかもね、怪獣大決戦」

「だろ!?」

 そこは否定しないんだ。

 私は今度こそ笑った。


 学園なんて、ってさっきまで思ってた。

 でも、なんだか面白いなあって思ってしまったから。

 切磋琢磨してお互いに高めあうのが『学園』の本質なら。

「とことんまで、やってやろうじゃないの」

 目標は高く。

 さて、どこを目指すべきかしら?



 私は知らない。

 この時、私自身も周囲の同級生たちからラビ少年と『同じ穴の(ムジナ)』だと思われ、引かれていた事に。

 けれども、そんな事はあっさりと消し飛ぶ。

 だってここは、世界でも随一の魔法学園なのだ。

 自分の手に余る事は他人の手を借りてでも成し遂げられない限り、在校生に居場所はない。

 特に召喚学科では召喚獣との関わり方や召喚対象の構成など、魔法の実践以外にも、常に前向きに研究を重ね、突き詰めていく資質や姿勢がモノをいう場所。

 おかげで私やラビは、あっという間に各種相談窓口にされてしまった。

 もっとも、ラビは「だからこうやって『ばびゅーん』って」「こう『どっかーん』な感じで」となかなかに独創的な教え方をしていた為、私の方が受け持つ人数が多かったんだけど。

 そんなこんなで、どうやら私は『学園デビュー』とやらをしたらしかった……事に気づくのは、もう少し後の話。

 今は―――


 ぱんぱんっ!

 はっと気がつくと学科主任の先生が、後ろであきれた目をしていた。

「そこまで。――――――本来ならば、ここまで詳しく見せる予定はなかったが……まあ、これで少しはイメージできたと思う。参考までに言っておくが、彼ら2人のような事が君たちにもすぐに出来るとは思ってはいけない。彼らはどうやらここに来る以前に本をしっかり読み込んで勉強したり、教師について学んだ実績があるようだ。だが諸君はこれから。焦らず急がず、しかしこの1年という期間の中、今のように召喚対象の構成について議論できるだけの地力をつけていって欲しい。君たちも、今できるからといって甘んじることなく、さらに研さんを重ね、彼らの良き手本となって欲しい。いいかね?」

「「はい、先生」」

 あら、案外素直なのね。

 少しだけびっくりすると、どういうわけか相手(ラビ君)もびっくりしているみたいだった。

 ……ちょっと、何よその表情。

 私はちゃんと大人に対して、礼儀正しい態度とれるわよ。

「では、次にお待ちかねの検査に移る。名前を呼ばれた者から―――――あー、ラビ君。自慢のゴーレムで、この辺りを少し片づけてくれないか」

「あっ――――――はいっ!よろこんで!!」

 わあ。分かりやすいわー。

 でもね、君。『火をつけた本人が自ら消火活動する』事ほど、馬鹿らしい事も無いのよ?

 

 私がジンを送還し、ラビ君がゴンザレスによる破壊活動の跡をどうにかした後、先生は別教室から机を運ばせ、その上に水晶球を乗せた。

 どうやらあれに触れると属性と色が分かるらしい。

 学科主任の先生と複数の検査官の先生で見定めるようだ。

 さっそく1番の男の子が呼び出された。

 そういえば、属性検査とは別に後日体力測定もあるんだっけ。

 こっちの検査ではそれなり叩き出す自信はあるけど、体力はどうかしら……普段父と一緒になって引きこもっているから……。

 まあ、父曰くチートと言わしめた人狼としての能力があるから、そこまでひどい数値にはならないと思うけど……。

 先の事を心配しつつも、名前を呼ばれたので壇上(だった場所)へ向かう。

「ここに手を乗せて」

「はい」

「少しだけ魔力を出して」

「少しだけ……」

 強調したのは、さっき全力全開で魔力放出しようとしたおバカさんがいたからだろう。

 言うまでもない、ラビ君(あのひと)です。

 ……自慢したがりはどうにかならないのかしらね。

 まあ、それが彼の『キャラクター』だと言ってしまえばそこまでなんだけど。

 そろそろと手のひらから魔力を流すと、いつもの通りに白い光が――――――

「こっ……これは……!!」

「先ほどのも白い光だったな。……召喚獣の忠実性からみてもやはり……」

「恐ろしい新入生もいたものだ」

「いや、考えようによっては宝の山となるやもしれん。何せこれほどに召喚魔法に適性のあるものなど、そうはおるまい」

 先生と検査官方、その不穏なセリフやめてもらえません?

 めっちゃくちゃ不安になるんですが……。

 ややあって、検査官の先生が発した言葉は……。


「……33番『リグレッド』属性は混沌。色は、白」

 またもや講義室中、騒ぎになったのは間違いない。

 混沌って、地水風火の4大属性のさらに上位じゃないの!

 しかも色が白って!

 属性混沌のクセに、何にも染まっていない『始まりの色』ってどういう事なの!?



 初日から色々あるせいでたまに忘れそうになるけれど、私『ゲーム』の背景キャラのはずなのに、こんなチートで本当にいいのかしら。




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