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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
2/47

始まりの日

自分からは積極的にかかわらない。

基本的に遠巻き。

そんな傍観物が書きたかったのです。




巻き込まれは、する。



「すん、すん」

「……“今回もまた間に合わなかった”か」

「すん、くすん」

「オマエ……オマエは『人狼』だな。ここで何があった。何を見たんだ」

「わかんない。きゅうに、『ばーん』って、おっきいおとがして、それで」

「……『狩人』に撃たれた、か。……やはり」

「ど、して?ぱぱもままも、わるいことしたの?どうして、おこられなきゃいけないの?どうして、こんなにまっかなの?どうして、2人ともうごかなくなっちゃったの……?」

「それはな、お前のお父さんが『悪い狼』だったからだよ」

「うそだもん!ぱぱ、やさしいもん!」

「……周りからそう見えたんなら、それが正しくなっちまうのさ、この世の中ってやつはな」

「……むつかしくて、よく、わかんない」

「お前のお父さんはな、お前のお母さんを勝手に自分の嫁にしちまったんだよ。だから怒られたんだ」

「そう、なの?」

「もっとも、周りからすりゃ、絶対に許されるべきじゃない結婚だったろうから、こうするしかないってのも分かるが……」

「……」

「……ま、小さい子にはそんな大人の理屈や思い込みなんてのは分からんよな。……それはともかく、オマエさん、これからどうするんだ?当てなんて、無いだろうなあ……」

「……行くとこ?どこ?帰るの、ここ」

「……帰りたいってんなら『還る』って手もあるが……」

「……」

「行き場が無いんなら、オレと一緒に来るか?」

「え?」

「どうせオレも居候みたいなもんなんだし、1人くらいおまけが増えても今さら変わらないさ。……なあ?『泣き虫レディ』」



 こうして私は、父の―――義理の父親の義理の娘になった。

 あの日からもう、10年近くなる。

 かつての両親との記憶は年々薄れてゆくけど、あまり悲しいと思わないのは私が薄情なのか、それとも『ここ』の生活が刺激に充ち溢れすぎて(・・・)いるからなのか……。

 あるいは、義父の『実験』につき合っているうちに思い出した『もう1人の自分の記憶』のせい、なんてもののせいもあるのかもしれない。

 ただ『もう1人の自分』なんて言ったところで、その『記憶』自体ににうっすら感情が交じる事はあっても、個人を特定できるような―――例えばどこに住んでいたとか家族は誰がいたのかとか―――そんなものは思い出せなかったので、正直イマイチ自信がなかったんだけど。

 けど当時、他に聞く人もいなかった自分が義父―――父に聞いたところ、あっさり「オマエ前世持ちなのか」といわれたから、きっと多分そうなんだろうと思う。

 聞けば、父自身いわゆる『過去生』の記憶があるそうで、しかもこの世界中に、そんな人たちは何人もいるらしい。

 そういう人たちは『役目』を持っていることも多く、父もその1人なんだとか。

 ここへ来たばかりで色々と聞きたがりだった自分はさらに「役目って何」と聞いたけど、その時父に「オマエさんは知らなくていい」と困った顔して頭を撫でられたので、それはそれっきりになってしまっている。


 ともあれ、私は今日も父とともに『魔法の森』にある『灰の塔』、その奥深くで研究に没頭している。

 父は基本的にひきこもりで、普段はあまり外に出ない。

 だから自然と自分が、周りの事をあれこれやるようになった。

 家事はもちろんのこと、今では父の研究の助手めいた事までしてるわ。

 父に言わせれば、何でも父親の人狼の血と母親の血筋から受け継いだ魔法の才能が見事に開花しているとのこと。

 チートって何よ、教えたの自分じゃないの。

 言いたい事は分かるけど……。


『~~~というわけで、魔法少女✞ホリックの新曲『残酷な天使のアンチテーゼ』でした。時刻は間もなく3時をお知らせ……』

「あらもうこんな時間。お父さん、そろそろ一度休憩しない?お茶でいいかしら」

「ぶしゃー!」

 魔法ラジオを聴きながらのながら作業だけど、それでもものすごい速度で魔法陣組んでいくって、さすがお父さん。

「……オマエさあ、……さっきから視界をちらつく、その変なナマモノは何」

 なんて。

 視界に入れないよう、触れないよう、父がさっきからさりげなく動いていたのは知ってる。

 けど、ついに我慢の限界になっちゃったのね。

「○なっしー」

「しいいいいいいいいい!!」

「『還して』らっしゃい!!」

 間髪いれずに怒られた。

 普段はだるだるしいのにー……。もー、こういう時だけー……。

「お前のその『青わんこ』だけでもびっくりなのに、これ以上変なの増やすな!」

「『ジン』は変なのじゃないわよ!失礼ね!」

 怒鳴り返して子犬を撫でる。

 子犬、なんて言ったけど、本当は狼だ。

 狼っぽい、ナニカ。

 見た目変わらないから、対外的には子犬で通す事も多いんだけど。

「百歩譲ってそのわんこのふりした“ナニカ”はまだいい。けど『ふ○っしー』テメエはダメだ!!」

「なっしてー!?」

「えー」

「えー、じゃない。とっとと還せ」

 もったいない。

 せっかく召喚したのに。


 召喚魔法。

 この国……いや、この世界の魔法の中でも特殊な部類に位置する魔法。

 人間、獣人、妖精、悪魔をはじめとする様々な種族が闊歩し、武技(スキル)魔法道具(マジックアイテム)、その他あらゆる分野の技術が発達しているこの世界であってさえ『何かを呼ぶ』魔法は難しい。

 場を整え、魔力で満たし、形を与えて定着させる。

 いわゆる魔法生物―――魔物。

 私のそばにずっと付いている、青い子犬―――仔狼の姿をした生き物も魔法生物だ。

 大人しくて鳴かないのは『私がそうして欲しい』と思っているから。

 そういう風に『創った』し、『創られた』から。

 『ジン』は、私がこの『塔』に来て2年か3年くらいの時に、父の実験を見て自分もやりたいと思って、見よう見まねで魔法陣を組んだのがきっかけ。

 父も正直成功するとは思わなかったらしく、あの時もひどく驚いていたっけ。

 それから、折に触れ魔法陣は改造してる。

 せっかく創ったんだもの。目指すところは最強……とまではいかなくとも、やっぱり強くかっこ良くしたいじゃない!

 私とこの子は、魔力で常に繋がっている。

 物理的にも魔力的にも、その繋がりが断たれる事は無い。

 断たれた時、すなわちそれは『彼』の死を意味するのだ。


 正直『ふな○しー』は思いつきでシャレのつもりだったんだけど、父はお気に召さなかったよう。

 せっかく『コード』に抵触しないよう、鳴き声?まで変えたのに。


 この世界は案外緩い。

 本来なら出来ない事は無いのだ、とか『塔』の誰かが言ってたのんを覚えてる。

 けれどもそのせいで大きな争いがおこり、今の世の中になったんだとか。

 『コード』もその時にできた制約の1つ。

 何か『元』がある時には、そのままそのものの複製(コピー)はダメなんだって。

 ……誰が決めたのかしら……?


 閑話休題。(それはともかく)


 結局『○なっしー』は帰還させた。

 助手、もう1人くらいいてもいいのにと思ったんだけど。

 選定を間違えたかしらね。

「それで?お父さん、話って?」

「……『お兄様』と呼べ」

「いいえ『お父様』」

 しばしのにらみ合い。

 まあ確かにウチの義父は、父というより歳の離れた兄といっても違和感無いくらいの年齢だ。見た目は。

 よく見れば若い顔は、義理とはいえ娘の私から見てもかっこいい部類だと思うけど、きちんとすれば綺麗な銀髪は実験と研究の繰り返しでよくお風呂もさぼっちゃうから、そのせいでくすんでる。

 人のマナーと身だしなみにはすっごく気を使うクセに、自分は時々妙なところでずぼらだったりして。

 残念な美形って、この人の事言うんじゃないかしら。

 ……でもどっちみちそれ、外見だけだし。

 今さらよね。

「メフィ父さん」

「くっそー」

 みなまで言わずに首を横に振る。

 父はそれでも「精神年齢はまだまだ若いんだぞー」とか言っているけど、それって悪魔基準でしょ?


 父は、ずいぶんと長い事生きてきた高位の悪魔だ。

 『大戦』の後に生まれたらしいけど、それ200年くらい昔の話でしょう?

 しかも『前世の記憶』とやらも持っているから、精神年齢気が遠くなるんじゃないかと思ってる。……私が。

 父親どころか、おじいさんでも足りないくらいよ?

 私としては、若く見られたいならせめて少しは外に出なさい、くらい言いたい。

「そこなんだよなあ」

「え?」

「いくら外に出たくない、引きこもっていたいっつっても、限度があるって話」

「どうしたの!?急に!」

 父の能力は精神や心に干渉するものではないけれど、それでも長年生きてきたからか、良く人の心を読む。

 ……私が分かりやすいだけかもしれないけど。

 でもそれにしたって、あの出不精の父が外の話を自分からするなんて!

 驚いていたら、さらに燃料が投下されてしまった。

「オマエさん、来月から『隣の学園』行く事になったから」

「はあっ!?」


「え、隣って、隣?」

「他に何があるよ。ちなみにムカツク事にこれ、上からの命令な」

「ええええええええええ」

 上からのって、上って、『塔』の『上』って……!?

「え、でも今?今更じゃないの?だって私、もう向こうで習うような事、だいたい修めちゃってるわよ?」

 『隣の学園』は、今私が住んで所属している魔法研究機関『灰の塔』に隣接している……立地からすれば取り囲んでいるのだけど……魔法に関する技術や知識を授業する学園の事。

 その名も『王立魔法の森学園』

 大戦直後、荒廃した世界を立て直す一環として設立されたそう。

 なんと設立者は当時『異世界』から来た『訪問者(ビジター)』と呼ばれる人たちで、現在に至る様々な文化の発祥も、彼らが伝えたのが始まりなんだそう。

 その影響は魔法鉄道や各種音響特効設備の普及からはじまり、魔法ラジオや魔法照明、魔法洗濯機に魔法オーブンレンジなんかの魔法家具作りだとか、魔法少女アイドルグループや獣人達バンドによるライブやコンサートなどの文化面など多岐にわたる。

 『異世界』なんていうけど、その世界ってもしかして、私の『前世の記憶』にある世界と同じなんじゃ……。


 学園では貴賎や民族、種族さえ問わず広く門戸を開き、他国からの留学生も多く受け入れている。

 とはいえ、教える内容はあくまで一般的な教義。

 その上位機関である『灰の塔』ほど、専門的な事を教えるわけではない。

 だから、本当に今さらなのだ。


「確かに、専門的な知識や実践経験は今更教えるようなものもないだろう」

 こくこくとうなづく。

「だが、お前一般教養って分野(ジャンル)、ご存知?」

 う。

 ぎく。

 父が出不精なおかげで、私もそれなりに引きこもり(ヒッキー)だ。

 まあ、買い物くらいは外に出るけれど。

「一般常識、一般教養分野。お前にはそれが欠けている」

「そう言われれば、否定しようがないけども……」

 それでも、ここにはたくさんの本がある。

 父以外にも研究者たちがたくさんいる。

 だから、基本的な知識くらいはあると思ってるんだけど?

「それでも、だ。個人での学習ってのは限度があるだろ?どうしたって興味のあることしか調べないし覚えないしな」

「それは……」

「いずれこの『塔』を出て世の中に出るなら、そういうのも必要だ」

「……」

 まだ、自分の中ではっきり決まったわけじゃない。

 でも、それでも、この塔の中、父とずっと2人と1匹で暮らしていく、そんな閉ざされた環境が良いか悪いかで言えば、どちらかというと悪い方だというのは分かる。

 追い出されるわけじゃない。

 いつだって私の家は『ここ』だって、何度も言われてきた。

 だからそのうち、例えば私が独り立ちした後にここに帰ってきたとして、父はいつも通りの顔で、あたりまえみたいに「おかえり」って言うのだろう。

 ただ、それがいつの話になるのか、自分でもはっきり決めかねているっていうか。


「だいたいお前、同年代の友人いないだろうが」

「……気を利かせたつもりなの?それって。……別に、困ってないんだけど……」

 塔に所属する研究者たちは、ほとんどが年上の人たちだ。

 私がまだ10代そこそこでしかないというのもあるけれど、皆何がしかの研究成果を出して鳴り物入りでこちらに来たりだとか、それこそ学園の卒業生だったりするのが当たり前だから。

 だから私には、同年代の友人というものがどういうのか、知らない。

 ……けれど、それでも漠然としたイメージがあるのは、いわゆる『前世の記憶』のせいなのだろう。


「まあともかく、そういう訳だから。学園行って就職決めて、俺の事養ってよ」

「嫌」

 自力でどうにかしてよ、大悪魔。

 と、ここまではいつものやりとり。

 けれど何故か父は、にまあっと非常に悪魔っぽい悪い笑みを浮かべた。

「そう言われると思って、おとーさん就職先決めてきちゃいましたー♪ほらー?子供にはちゃんと手本見せておかないと、いかんだろー?」

「えー!?」

 父が、あの不精の父が!働くって!おんも出るって!

「何と学園の臨時講師でっす!」

 隣じゃないの!!

 しかも臨時講師って、それ唯のバイトでしょ!?就活舐めてんのかと!

 ……実際舐めてかかってそうね、この人。いえ悪魔だけど。

 あー、ある意味良かったわ。ブレないわこの人。いや悪魔だけど。

「と、いうわけで逃げられんので準備しておくように」

「はーい……」

 結局そこに落ち着くのね……。

 ため息をついて青い魔狼の仔を撫でると、ジンは慰めるように「きゅーん」と鳴いた。



 そして迎えた入学式当日。

 白くて大きな襟のある濃紺のジャケットと真っ白なプリーツスカートという真新しい制服を着て、同じ色の大きく平たく丸い帽子をかぶった私は、妙に緊張しながらお隣の学園の門をくぐった。

 ……だって裏口から、だったんだもの。

 ……多分……金銭が動くとか、そういう意味での裏口ではないと思う。うん、そう信じたい。

 思うのだけど……『上』は本当に何考えているのかしら……?

 しかもここって普通は全寮制なのだけど、あいにく実家が近所なもので、特例で通いを許してもらっているし。

 まあ向こうも、余計や無駄は省きたいわよね。

 オリエンテーリングの行われる講堂に向かう為、最短距離を突っ切ったはずなのに、何故かわざわざ正門前広場まで回り込む形になった。

 講堂が正門の真向かいにあるのだから仕方ないのだけど。

「……?」

 内側から見た校門の外側は、澄んだ水を湛えた湖が広がっており、そこから改めて中へと視線を移す。

 まるでお城だといわれても違和感無さげな校舎を見上げ、ふと感じたのは既視感。

 それは、今まで感じたことのない感情。

 不安?焦り?

 不思議な感覚に足元の青い仔狼を見ても、彼は不思議そうな顔で「なあに?」と言いたげに首を傾げるばかり。

 しかし、それもその筈。

 別に何か恐ろしい危機が迫っているのではない。

 ただ、これからきっと何かが起こるのだろうという事を、漠然と感じただけなのだから。

 ――――――講堂に入る直前、目に入ったのは、大きな集団に遠巻きにされている男子学生達。


 瞬く世界。フラッシュバック。

 一瞬の立ちくらみの後、私は今とんでもない状況に遭遇しているのだという事に気付いた。




 あ、これ『乙女ゲーム』だわ。






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