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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
17/47

VS




バトルシーンBGMに『地球少女アルジュナ』のサントラから『地球共鳴』を聴きつつ。






 王宮から帰って少し。

 いつも元気いっぱいのラビが、珍しく言いにくそうな顔で切り出した。

「あのさ……会いたいって今来てるんだ。だから、ちょっと今いいかな」

 え、今?

 会いたいって、誰?


 呼ばれた先にいたのは……例の3人娘でした。

 なんで、わざわざ、来たの!


「だって!こうでもしないと会えないんだもの!わたしたち、友達なのに!」

 あー、はいはい、そういう理由なのねー……。

 正直ちょっと、遠くを見てしまったわ。

「最近ずっと用事あるって言ってただろ?もしかして避けられてんのかなーと思ったんだけどよ」

 そんなラビの言葉にルーエもこくこく頷いているあたり、んー、やっぱちょっと罪悪感湧くわね……。

 悪い事したなあとは思うけれど……その最後の1人が、どうしても気になってしまうのよ。

 黙って腕組んだままそっぽ向いてるのは、クルエラ嬢。

 彼女がここにいるって事は……セイラの天然な強引さに負けたって事なのかもしれないわね。なんて傍迷惑な。

 お互い災難ね、って少しだけ同情してしまうわ。

「会いに来てくれたのは分かったわ。でも忙しかったのも本当なの。ゴメンね?」

「いい。……無理を言っているのは、こちら。それは十分に、わかってる……」

「そう言ってもらえると助かるわ」

「で?これからどうするんだ?」

「それはもちろんっ、みんなで一緒にあそびに―――」

「こんなところにいたのですか、セイラ」

 駆け寄ってくる足音と、少し焦ったような低い声。

 しばらく聞きたくないと思った声。

 ……っ、だから、何で。


「また貴様か」

「「ヴィー!」くん!」「「ヴィクトールさま」」

 ……何となく、人間関係が察される声かけだわね。

 ふうん?セイラさんは逆ハーレムでも狙っているのかしら?

 ……いえ、そうよね……そんな意図的にやらかす子ではないはずよね。

 ……天然ハーレムと見たわ。

 …………どちらにしろ、厄介な。

「セイラまでも仲間に引き入れようというのか」

「だからその、いきなり妙な断定は止してくれない?」

「事実だろうが」

「全然っ違う!」

「ちがくなんてないもの!わたしたち、友達でしょう!?」

「オマエッ、まだ変な勘違いしてんのか!?いい加減にしろよ!」

 あ゛ーっ、もう!!ややこしくなるから2人は黙ってて!!

 口に出せずに“にっごり”する。


「というか、王子殿下方の護衛はいいの?放っておくとか、職務怠慢もいいところじゃないの」

「彼女らは殿下方にとっても大変重要な方だ。守るのもまた、自分の役目と心得ている。……誰かと違ってな」

 ふーん、近くにいる彼がそう思うってことは、殿下方はかなりこの3人と仲良くしていると見ていいって事かしらね。

 それはいいけど何、私が誰かを傷つける事しか考えてないっていうの?

 傷つけているのはどっちよ!

「へえ、自己判断で動いているってわけ?それってまずいんじゃないのかしらあ?」

「……貴様に言われる筋合いではない。今なら見逃してやる、さっさと消えろ」

「あら図星?もしかして殿下方に何か言われたとか……?」

「黙れッ!!」

「レディちゃんッ!?」

「……!!」

「ヴィー!もういい加減にしろってば!レディも!こんなところでいきなりケンカすんなよ、2人とも!」

 乱暴に怒鳴られて、私より先に周囲の方が驚いたみたい。

 というか、まさかラビに怒られる日が来るとはね。

 女子たちはビビってるけど、ヴィクトールに対してだから。私じゃないから。

 それにしても……腹が立ったから嫌みの1つでも、のノリで深く考えずに言ったセリフだったけど……アラヤダ、これって本当に何かあったの?


「言われなくても、ここまで言われて居残るほど、人が出来てるわけじゃないんで!……ああそうそう、今は人がいないからいいけど、いつどこで知れるか分かんないんだし、アンタみたいな高圧的な人物は、そばにいるって知られただけでも両殿下方の評判落とすって事、早めに気付いた方がいいわよ」

「貴様……ッ、俺や彼女らが、殿下方にふさわしくないと愚弄する気か!召喚学科のエセ魔法士風情が!」

「2人とももう止めて!」

「ヴィー、オマエッ、何言ってるんだよ!?」

 なんだか不思議に余計な言葉が付属しているんだけど、そろそろキレてもいいかしらねー……。


「……ちょっと、頭、冷やしてさしあげましょうか」

 私は、制服の魔法ポケットから実技訓練時に使う手袋(グローブ)を取り出して、相手の顔めがけて叩きつけた。

「まあっ、貴女まさか『決闘(デュエル)』を申し込むつもり!?」

 両手を口元にあて、クルエラ嬢が驚いた顔で悲鳴を上げる。

 セイラもルーエも、びっくりしすぎて声が出てないみたい。

「……いいだろう、受けて立ってやる。その代わり俺が勝ったらもう金輪際一切我らと関わるな」

「それは一字一句間違いなくこちらのセリフよ」

「うああっ!もう、どうしてこうなっちゃうんだよ!」

 そうね、今回ばかりは全面的に同意するわ、ラビ。

 ……頭を冷やすのは、私の方だったかもしれないわねー……。


 決闘(デュエル)とは、読んで字の如く決闘の事。

 何せ年若い学生で魔法習ってて知りたがりで試したがりで遊び盛りで血の気が多い連中―――とくれば……。

 割に魔法で喧嘩する事も多かったりするのよね、これが。

 で、学園公認の模擬試合という体で、ストレス発散……違った、決着をつけさせようというのが決闘システムの始まり、らしい。

 別に何かトラブルの解決だけじゃなくて、単純に実験結果を試す目的での対戦もあるらしいわ。

 だから、1対1だけじゃなくて1対複数や複数対複数戦もアリだったりするのよね。


 決闘場は森の奥深くにあって、かつては『深淵』とか『深奥』とか呼ばれるような場所だったみたい。

 大戦の頃に恐ろしい魔物が封じられ、それが今でも夜な夜な悲しい鳴き声を上げている、なんてウワサが学園7不思議の1つに数えられていたっけ。

 ただ、まんざら嘘でもないらしく、決闘場の周囲は瓦礫の山になっていて物凄く濃度の高い魔力で満たされているから、試合直後に中毒起こして倒れる子もいるほど。

 私なんかは高濃度魔力でもある程度耐性できてるからいいけど、他の子たちはどうかしらね?

 そうそう、この決闘場、ギャラリーや観測者用の観客席もあったりするのよ。

 外周に散らばっていた瓦礫を再利用して組んだもので、決闘場は上空から見たらきっと幾重にも重なった花びらを持つ薔薇の様な形状をしているんだと思うわ。

 で、そんなギャラリー席には今、アルフレア殿下やシャリラン殿下をはじめ、ラビにグーリンディ君、それにセイラ、ルーエ、クルエラ嬢といった、いつもの面々がすでに着席していた。

 一応決闘の事はお父さんに言っておいたけど……全力でGO!というとても素晴らしい返事が来たわ。

 お父さんも、結構根に持つわよね……。

 アルフレア殿下やシャリラン殿下には、ごめんねー、でも全力でやっちゃって☆という本音が透けて見えそうな感じの激励のお言葉をもらったし。

 どうやらお2人には、これを機に1度全てを元通りにしたいという思惑があるようで(何を元通りにしたいのかは、言いたくなかったのか、上手く誤魔化されてしまったけど)その為にも、ここで私に手を抜かれては困るんだそうよ。

 ……喧嘩売った自分が言うのもなんだけど、女の子の方が弱いとか絶対負けるとか、思わないものなのかしら……。

 それはそれで、ちょっとフクザツ……。

 そういえばアルフレア殿下についての例の話、お父さんからかなりきつくかん口令出ちゃってて、ご本人目の前にしても何にも言えないのよね……。

 ちょっともやもやっとするけど……実際何か出来る事があるわけでもないし……。

 今は、見ているだけしかないのかしら……ね。


「準備はいいかい?」

「こちらは大丈夫です」

「……例の犬は出さんのか」

「ジンは狼!……こんなバカバカしい試合に、あの子を出すわけないでしょう?それこそ召喚学科の名折れだわ!」

「俺は本気で来いと言っているんだぞ。召喚学科の連中が、召喚魔獣出さんでどうするというんだ」

「あら、本気も本気よ。私はね、貴方のその油断しきって相手をなめきった態度が許せないの!思い込みだけで判断すると痛い目見るって、思い知らせてあげるから覚悟しなさい!」

「ふん、終わった後になって痛いと泣き出すのはどちらか、知れたものだがな!」

 ……絶対へし折ってやるわー。鼻どころか、心もバッキリとね。


 武舞台で向き合う、2人の人影。

 1人は、いつもの黒制服に模擬剣を構えたヴィクトール。

 そしてもう1人は私。

 上は普通に制服だけど、動きやすいようスカートを脱いでホットパンツを履き、これまたいつもの杖とは違う―――杖にしては長い銀棒を持っていて、見る人が見れば私がどれだけ本気を隠していないのか分かると思う。

 私の身長とほぼ同じくらい長い、金属性の召喚杖。

 これは『塔』の研究者たちが、全力で魔改造した私専用の杖なのだ。

 杖らしい部分と言えば、相手に向ける先に半球状の飾り覆いを付けた魔玉が鎮座している事くらいかしら。

 殴って良し、薙ぎ払って好し、突いて良し、召喚によし、絡めて相手の武器を無力化するによし、という万能武器。

 もちろん、どこまでできるかは使い手にもよるけど。

「言っておくが、手加減などしない。全力で排除させてもらうからな」

「別にいいわよ。それくらいじゃないと、貴方だって納得しないでしょうしね」

「ほざけ!」

「はいはい、舌戦はその程度にね。では、はじめ!」

 シャリラン様のうんざりしたような早めの合図で、私たちは真剣に対峙した。


 最初に動いたのは、私。

 たたたっ、と軽く走って接近。そのまま銀杖を無造作に横に振るう。

 すぐに反応された。そのまま打ち込みあいになる。

 脳天、袈裟、逆袈裟、右胴。袈裟、逆袈裟、突き、反転突き。

 振るう杖はその都度払われ、私が踏み込むと同時に相手が後退する。

 そんな事を2呼吸分。

 そうしたら今度は、相手が無言のまま攻勢に出た。

 たっ、たっ、たっ、た。

 少し“触った”感じ、さすが男の子だよね、私より段違いに重い剣だったから、攻撃を受けずにステップだけで回避する。

「やるな」

「そっちこそ」

 感情のこもらない称賛の声。

 再び打ち合う。

 同じように踏み込んで、同じように杖を振るう。

 さっきより少しだけ、力を込めて。

 相手も同じくらいの強さで打ち返してくる。

 それにしてもほんっと、これ、女の子相手に出す力じゃないんじゃないの!?

 例えば見学中のセイラたちだったら、間違いなく腕痛めてるわよ!

 ……ふうん?宣言どおりってわけね。それなら、それで!


 武舞台の上を縦横に駆け抜け、お互いに打ち合う。

 少し向こうが攻勢に出たので回避に移った。

「逃げたところで無駄だ!」

「あら、戦況を見極めるのも重要だと思うわよ」

「抜かせ!」

 勢いに任せて振るうだけの剣なんて怖くないわ。

 学んだ技術ももちろん使われているのだろうけれど、そんなものだけでは私は傷つかない。

 だって、“本当の怖さ”を知っているから。

「っく、ならば、こちらから行くぞ!」

 逃げる私に業を煮やしたのか、ヴィクトールは一気にラッシュを仕掛けてきた!

 早い!

 逃げ切れなくて仕方なく受ける!

 重い!けど、裁けない訳じゃない!

 少しだけ本気出してガードする。

 足は止めない。少しでもいい位置をキープしつつ右へ、左へ、杖を振るって剣を止める。

 頭狙うとか本当に遠慮しないわね!この男!

 さすがに飛び退る。

 手加減しないとは言っていたけど、なんだか理不尽な気分よ。

 ……まあ、いいわ。

 縦横に振るわれるラッシュを、足さばきだけで回避しながら少し考える。

 剣筋は悪くない。速さも、体格からすれば十分。上半身だけじゃなくて、きちんと走り込みとかしているんだろう。


 きっと、この学園に来る前からある程度の下地はできていたんだと思うわ。

 もっとも魔法騎士科の生徒の大部分は、小さい頃から体を鍛えていた人が多いみたいだけど。

 特に魔法で強化していないみたいだから、そこは召喚しなかった私に合わせてくれたのかしら?

 自信過剰なのか変なところで優しいのか……いえ、ただ単に正々堂々にこだわっただけ、とも考えられるわね。

 そんな風な事、言っていたもの。


 でも、それだけ。

 それだけだわ。

 相手には、私を本気で傷つけようという意図が見えない。

 手足をもいで、首をへし折って、歯をつき立てるそぶりもない。

 絶望的な恐怖で縛りつける事もなく、必ず殺すという圧倒的な気概もない。

 絶対に生きのびるにはどうすればいいのか、考え抜かなきゃいけないあの熱さが、ない。

 どうしてもその命を奪わなきゃいけない時の、凍りつくような痛さもない。

 なら。

「こんなものかしらね」

 私は、終わらせることにした。


「!?」

 一気に、たたみ掛ける。“ギア”を1段階上げる、って言うのに近い。

 相手の驚愕した顔が見えた。

 横に薙ぎ払い、踏み込み、回り込んで強く背を打つ。

「ぐっ!」

 足を払い、肩を打ち、少し距離をとる。

「なっ!?」

 踏み込み、腹を打ち、銀杖を回転させて袈裟気味に払う。

「っあ!」

 下からはね上げ、吹っ飛ばして距離を詰める。

 驚いた表情のヴィクトールが顔を上げたその目前に、勢いよく杖を振り下ろした!

 がつん!

 武舞台の石畳が、少しだけ削れた。





塔の人たちと一緒にいる時点で、自然とSAN値鍛えられてますしお寿司。



ちなみに主人公新杖スペックは以下。


魔銀製 魔法発動速度+

     魔法消費量-

     魔力吸収効果(小)←対人専用に慮った結果。対魔物だと効果大


重量軽減(ただし所有者本人以外だと増量)


所有者より一定距離離れた場合 転送魔法発動 所有者の下へ全自動で戻る


所有者認識コード 付与


製作者集団的には、まだまだギミック付けたりないらしい。

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