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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
15/47

塔の中の変人たち

「あなた方にはまだ授業があるのでしょう?長居するのは『先生』も望まないと思いますが?」

 ここではカエルになったメフィ先生を塔の門番に渡し、2番目に好感度高いキャラと引き返す選択をすると2番目(王子殿下)の好感度が上がる仕様となっていた。

 そして―――別の手段を探すため、カエルさんを持ったまま学園中を徘徊すると最後の最後で呪いが解け、一生懸命頑張ったヒロインに対し、先生の好感度が上がるシナリオだった……と思ったけど。

 流れを確認しつつ、帰ってもらう方向に持っていこうとする私に、アルフレア王子殿下も賛同してくれる。

「そうだな、助手殿の言うとおりだ。それに、今後の授業や図書館の資料などあたる事で、先生の呪いに関する手掛かりが何かつかめるかもしれない」

「……そう、ですね」

 そうそう、その調子よ。

 何事もなく無事に帰れる今の内に、お願いだから早く連れて行ってちょうだい。


 しかし、その願いは虚しくも潰えてしまったらしい。

 ぐずぐずと玄関の前で押し問答していたら厄介な人たちに気付かれたらしく……私の背後の大扉が開いたかと思ったら、背後からぞろぞろとやってきた。

 私の背中から覗き込み、セイラの手の上にいるカエルを見て最初に目を輝かせたのは―――

「コーホー(カエル?生贄か!)」

「あのジェイソンさん、それは……っ!?って、そッ(その黒光りするメットは!?)……いッ(いつもの魔法チェーンソーはどうしたの!?その長い爪は何!?)」

 ああもうっ、どこから突っ込んだらいいのか分からない!!(泣き笑い)

 言い終わらない内に脇から。

「カエルだと!?生体改造なら任せろ!」

「そういうのは望んでませんから、ドクター・フランケン!」

 さらに畳みかける様に。

「改造ならパーツが必要だろう。何がいいか?ここまで小さいと開発には少々時間がかかりそうだが……」

「だから改造なんかしませんってば!テスラ教授!」

 止めは。

「呪い、だと?呪いの解呪といえば古式ゆかしい方法がひとつ!それは乙女の熱ーいベーzぐぼしゃっ」

「いい加減にしないと、裏拳だけではすまなくなりますよ、フレディさん」

 鼻を押さえるフレディさんに、拳をお見舞いした姿勢のまま低い声で容赦なく凄む。

 べーぜ?ちっす?冗談ではない。


「キス……あ、あのっ、わ、わたしのでよければ……」

「げこっ!?」

 セイラも、そこは頑張らなくていいの!

 ほら、お父さんもびっくりしちゃってるじゃないの!

「待ちたまえ、セイラ。彼らの様子をよく見たまえ、とても本気とは思えない」

「そうですとも。乙女の初キスを、そんな事の為に使うなどとんでもない!」

 殿下とともに必死で止めたわよ。

 けれどセイラは、彼らの意見にがっつりと釣り上げられてしまったようで。

「そんな事は問題じゃありませんっ!だって、先生の将来がかかってるんですよ!?わ、わたしのキスひとつで済むんだったら……」

「あなた方は、年端もいかぬ少女に対してなんという事を……」

「げーこぉ」

 それしか方法がない、とまで思いつめ始めてしまったセイラを抑えながら、王子殿下とお父さんが非難の声を上げる。

 ……いっとくけど、この件に関してはフォローしないわよ、おじさんたち。

 そっぽを向くな。反省して!

「あのですね、今ここで貴女がキスなんてしたら、先生には永久にロリコンのレッテルが貼られる事になるんですよ?将来がかかってると言うのなら、そっちの方が問題になりませんか?」

「なんてひどい!そんな人がいるなんて信じられません!だってこれは、ある意味人命救助でしょう!?」

 まー、間違っては無いんだけどねー。

 そろそろ気力が尽きてきたかもしれないわー。

 けど……お父さんの……メフィ先生の為だものね。

「……貴女にとって、初めての口付けというものはそんなに安いものですか?まあ、貴女にとっての価値が安かろうと高かろうと、その辺はさして問題ではありませんが。問題は、それをされた本人……メフィ先生がきっと、この先ずっと気に病むだろうという事です」

「先生が気にする事なんてないですっ!だって、元はと言えばわたしがっ……!!」

「だから、そこからして違うのだ、セイラ。君がどんなに気にしなくてもいいと思っていても、この先気にするのは君ではない、先生の方だろう?先生の気持ちを変えられるのは、先生しかいない。君に先生の心は変えられない……そうだな?」

 その後「もっとも、何にしろ例外は付き物だが」と小声でぼそっと呟くアルフレア殿下。

 確かに、時間をかければ人の心は変えられるかもしれない。

 けれどきっと……これは、あの子の事なのでしょうね。


「……だけど、もう、それしか方法が」

 うつむき、泣きそうだと思える様な微かに震える声音でなおも訴えようとする彼女に、私は酷くあっさりと告げた。

「いえ、ありますよ」

「えっ!?」

「げこっ!?」

「なんだと!?」

 はあ。最初からこうしていればよかった。

 メフィお父さんもこっちじゃなく、向こうを頼ればよかったのにね。

 まだ思い出さない?この件に関しては先達者がいたでしょう?


「お2人にお願いがあります。魔法薬学の、昔カエル化の呪いを自力で解いた実績と経験のある『マジョリカ』先生に、カエルになってしまったこちらのメフィ先生と、その解呪を頼みたいと思うので―――」

 事情を説明して、一度本人交えて話がしたいとお伝えしてほしい。

 その言葉を言う前に横から手が伸びてきて、あっという間にメフィお父さんがかっさらわれた。

「いや、ここはやはり我々塔のメンバーで解決しなければならん!あの神経質で口うるさい婆なんぞに、大事なメフィを預けられるか!」

 って、テスラ教授!?

「「「ひゃっふー!実験だー!」」」

 ああっ、本音だだ漏れ!最悪の展開!

 ジェイソンさんのマスク、いつの間にか緑のぶよっとしたやつに変わってるし!

 ……こうなっては誰も止められない。

 腹をくくろう。そう決意する。

「あっ、あのっ!?」

 焦った様子でおたおたと殿下と私の顔を交互に見るセイラに向かい、出来るだけ穏やかに話しかけた。

「……とりあえずこちらの事はおいといて、貴方がたは学科棟へ戻ってください。大丈夫です。彼らも魔法のプロですから(方法はともかくとして)確実に呪いは解けるでしょう」

 若干、沈痛な面持ちになった気がするけど、多分見えないわよね。

 声には……出てたかもしれないわ。

 状況と私に圧倒されたのか、無言で口をあけっぱなしのセイラの背中をアルフレア殿下が軽く押し、それでやっと2人とも踵を返して今度こそ塔から離れて行った。

 なんだか納得がいかないような、不思議そうな顔をしながら。

 東方で言う『キツネにつままれた顔』って、ああいう顔の事言うんじゃないかしら。

 彼らが遠くまで行って戻ってこない事を確認した私は、そろっと後ろにそびえ立つ塔を見て……。

「(なんだかどっと疲れたし……めんどくさいから放置したいわー。最終的にどうにかなれば勝ち、って事で)」

 ぼそっと呟く。

 気を取り直してさり気に締め出された扉を開けば、目の前には無言の匠さんがたたずんでいた。

 大丈夫、大丈夫よ?今のはリフォーム希望者じゃないから、おとなしく持ち場に戻っててね?


 ……あー、危なかった。



 後日、無事戻ったメフィお父さんとお詫び外食する事になった。

 拉致られた後(あえてゆっくり戻ったせいで)結局助けが間に合わなかったお父さんに、どうやって呪いを解いたの?と聞いたら「最終手段使った」とだけ答えが返ってきた。

 どんな手段?と重ねて問えば……「(言いたくない)」「(察した)」と無言の会話が成立する。

 うん、お父さんの心の傷の為にも、ここは触らないであげよう。私ってば優しい娘だからー(棒)

 ……迷惑掛けられたのは確実にこっちだし、見捨てたの謝らないからね。

 甘いデザートを心おきなく堪能していたその時、不意に背後から声をかけられた。

「メフィ先生!」

 ぐっふ、げっほ。

「セイラ君と……グーリンディ君か。奇遇だな」

 入学直後の硬いモノの言い方より、少し砕けた言い方のお父さん。

 見てない所でも、少しずつ関係は変化しているってことかしらね。

「はいっ!わたしも、こんなところで先生に会うなんて思ってませんでした!あのっ、その後どうですか?痛いとことか、辛いとことか無いですか!?わたしっ、出来る事ならなんだってしますから!」

 じー……。

「あー、そういうのは別に……」

 私の疑惑の目に、お父さんが目を泳がせた。

 あの時ホント、カエルでよかったわね!

 今ならもれなく変態のレッテル貼られちゃいそうよ?


「あー、あーっと、あれだ、まあなんとか無事に済んでよかったんじゃないか?」

 お父さんは視線をそらしつつ強引に話題を変える。

 ん?微妙に変わっていないような気もするけど?

「そうですねー、わたしなんてあの時すごく慌ててて、なんだか今思うと恥ずかしいなって。でもよかった!あっ、そうそうクルエラちゃんも寮に戻って来ているんですよ!」

「そうだな。貧血自体は大した事は無かったそうだが、一応大事をとったそうだな。話を聞いて私もほっとしているところだ」

「わたしもです!もーほんと、いきなりぱたーんって倒れるからびっくりしちゃって」

「元気が戻ってきたみたいでよかったですね」

「うん!また一緒に遊ぶ約束したんだ!」

「そ、そうですか(……元気が出てよかったっていうのは、セイラさんの事なんだけど……)」

 グーリンディ君の小さな呟きに、こっそり心の中だけで賛同する。

 今の彼女の明るい笑顔には、この前の悲壮さはカケラも見当たらなかったから。

 思い詰めて良い事なんてないもの。

 心配や気がかりが無くなった事は、素直に良かったんじゃないかと思えるわ。

 私の場合は疲労……いえ、徒労感だけが残された気もするけど。

 

「それで?お前たちはなんでこんなとこにいるんだ?まさかデートじゃないだろうな」

「で、ででででーとっ!?」

「えーっ!?」

 あら。

 驚くけど否定しないって事は、やっぱり2人はデートする仲だったって事?

 彼女の交友関係も、イマイチよくわからないわね。

 お父さん……メフィ先生や王子殿下の好感度が高そうだと思えば、こうしてグーリンディ君と2人だけで出歩いていたりするみたいだし。

 やっぱりゲームの設定とか、あまり関係ないのかもしれないわ。

 そちらを重要視するのは、やはり危険ね。

「あのっ、わたしたち一緒に、呪いを解く方法について探していたんです」

「先生だけの事では無くて、他にも困っている人がいたら今度こそ力になりたいって彼女が言うから、ボクもお手伝いできるかもって言ったんです」

 きっと素質ありますよ!なんてグーリンディ君が励ましてる。

 頑張る理由が実に彼女らしいと思いながら、無言のまま聞き役に徹する。

 確かに光のセイラならその力で呪いも弾き飛ばすだろうし、場合によってはめんどくさい手順を踏まずとも力づくで浄化してしまうだろう。

 相性は悪くないだろうから、きっとモノにできるはず。

 それよりも、だ。

 図書館で見た時よりも、なんだかグーリンディ君が落ち着いた様子なのが気になった。

 ……ゲームで言うなら……いえ、きっと普通に親しくなって、それで少しは『成長』したのかもね、彼も。

 そういえばラビも、仲の良さげな男友達に囲まれ揉まれて、いつも楽しそうに笑ってるのを見かけるし。

 

 ……私も、負けてはいられないわね。

 密かに気合を入れなおす。

 人としても魔法士としても、立派になったって言われたい。

 誰に?それはもちろん、父や周囲の大人たちに、よ。

 私を育ててくれた人の為にも、顔向けできない事にはなりたくないもの。


「それにしても、さっきどこかで聞いた事のある声がしたような……」

「あっ、リド君も!?わたしもなの!……そういえば、王子殿下がね?先生が呪いにかかっちゃった時に会った人が、やっぱりどこかで聞いたことある声……って」

「じゃあもしかしたらその人は、図書館で会った研究者さんと同じ人なのかもしれませんね!王子殿下もよく図書館をご利用なさってますし。……塔の事については詳しいんでしょうか?あまりそういう話は聞いた事がなかったですけど……それとも、お兄上様の方で何か……?」

 あわっ、王子殿下に気付かれかけてたー!?こわっ!!

 それにそういえば、この格好でグーリンディ君と会った事あったっけ!

 内心冷や汗だらだらで背中を丸めていたら、お父さんが苦笑しながら助けてくれた。

「2人とも、話はまた今度聞くから先にデート楽しんで来い。それじゃあな」

「あっ、はいっ!失礼しました!」

「で、デートって訳じゃ……あの、失礼します!」

 ……元気ねえ……。


 根は悪い子じゃないとは思う。セイラも、それにグーリンディ君も。

 今回の件だって、セイラが一生懸命どうにかしようとしていたのは分かってたわ。

 ……それで勢いあまったというか、思考が絡まっちゃってぐるぐる堂々巡りしてたんだろうというのもわかるわ。

 失敗して被害に遭ってしまった相手に、お詫びに出来るだけの事をしたいと思う、その心もね。

 ただ、どうもこう、思い込んだら一直線!なところが気にかかるのよね……。


 それにしても、グーリンディ君とセイラの2人にはこの格好でいるところを見られたし、何かの拍子にうっかり声バレ中身バレまでしたらと思うと、今着ている灰色ローブだけでは心もとない気がした。

 今回は2人ともスルーしてくれたからいいものの(相席してる人の前で話しこむのもどうかとは思うけれど)例えばもし……もしも察しのよさそうな……少なくとも今の2人よりは確実に察しのいいであろうアルフレア王子殿下や……ましてやそこから『心の魔法』を見破ったシャリラン皇太子殿下にでも話が行ったら……?


 ……。


 ………。


 …………。

「おい、大丈夫か?」

 大丈夫じゃないけど、今必死に考えてるの!


 ……………。


 ………………。


 よし、石ころローブ作ろう(決意)



その後。

主「とりあえず、作るにしてもとっかかりがないと……」

父「おとーさん手伝おうかー?」

主「ううん、いい。その道の“プロ”に頼むから」(バッサリ)

父「なッ!?」(ガーン)

主「テスラ教授ー」

父「おいいいぃぃぃ!」(よりによってソイツ!?)

テスラ教授「何だ!?どうした!?」

父「出た!?」

主「実はこれこれかくかくしかじかで」

テスラ教授「何っ!?石ころローブだと!?つまりステルスだな!?光学迷彩だなッ!?」

インビジブル「呼んだ?」

ジェイソン(黒マスク)「シュコー(解体なら任せろ!)」

ドクター・フランケン「どったの?」

フレディ「何だ何だ」

テスラ教授「おお、我が同志たちよ!ちょうどいい、顔を貸したまえ!」

父「うわあ」(顔を覆う)


――――――のちのテスラ研である。





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