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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
14/47

予期せぬ訪問者

「じゃあねー」

「また後で」

「うんー。今度は絶対付き合ってよ?」

「あははー……まあ、都合がよければ」

 割にたった今授業が休講になったので、一度塔に戻る事にした。

 友達はカフェとかに行くらしいけど、私の場合行き先が他学科との共有スペースだと……どこで誰に会うか分からないし。


 友人になりたいと言っていた彼女―――セイラ(本人の申告があったので、敬語は無しにする事にした)たちとは、あれからまともに会ってない。

 相変わらずラビは誘ってくるけれど以前よりは熱心ではなく、一応声をかけてみるって感じなのが丸わかりだし、ちょうど時期的に前期の期末試験に向けて準備しなきゃいけないという事もあって、それを断る理由にすればあまり強く言ってこないから、正直助かってるかもしれないわ。

 遠慮なく言い訳に使っているとはいえ、実際ちゃんと準備しないと後が怖いのは本当だし。

 それに試験というよりは、その前に提出しなければいけないレポートがまず大変。

 何しろ要求されるものが細かくて、かつ量が多いのだ。

 けど……今はせっかく空いた時間なので、息抜きがてら本を読みつつ過ごそうか、などと考えながら部屋に戻る。

 予習?復習?毎晩の夕食後にやるからいいのよ!

 それに、そんなに詰め込んだって、体や心に負担がかかるだけだもの!

 こういうのは効率よ、効率!……なんて、それこそ言い訳よね。

 ……まあ、今休みたいって思うのは、体が休憩を欲しているという事だもの。

 お休みお休み、休憩休憩。

「ただいまー」

 鍵を開けて声をかけるけど、返ってくる返事はない。

 お父さんも今頃、講義中なのだろう。

 1人は寂しいのでジンを召喚し、存分にモフモフ成分を堪能すると、他に誰もいない部屋のソファにだらしない姿勢で腰を下ろして鞄から教本を取り出す。

 ジンにはそのまま足もとで丸くなっててもらうことにして、私は熱のこもらない視線を向けたまま試験範囲のページをぱらぱらとめくり始めた。

 ……まあ一応、念の為よ、念の為。


 ふと、足もとのジンがピクリと頭を上げた。

 その直後、ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッと鳴り響く緊急警戒警報エマージェンシーコール……って、え!?

「!?」

 あわててがばっと跳ね起きる。

 完全に油断していたわけだけど、塔の警報が鳴る事自体そう何度もあるわけじゃない。

 塔の誰かのところにお客さんが来る時には、いわゆるインターフォンとオートロックに近い機能でもって、住人以外は関係ない場所に立ち入らないようになっているのだから。

 ああもう、動物の方が先に気付くってどういう事なの!警報仕事ー!

 塔の住人はちょっと……訂正するわ、かなりの変人が多いから、余計な騒ぎになる前に私が対応しなきゃ!(使命感)

 そんな訳で、急いで地上を映す定点カメラを起動し半透明な魔法モニタウィンドウを出すと……「ハアッ!?」

 映し出されたのは、不審な動作を繰り返すセイラとそれを宥めてるらしき様子のアルフレア王子殿下。

 えーっ!?なんでここに来てんのよーーー!!


 何があったか知らないけれど、ああもう、余計な事を……!とか頭の中で八つ当たりしつつ、塔の研究者として必須の灰色ローブをひっつかみ、乱暴に頭から被る。

 気づけば足もとのジンが、しっぽを振りながらこっちを見ていた。

 ごめんねジン、散歩じゃないんだ。

 セイラは大きいジンしか見てないけど、王子も彼女もラビから何をどう聞いてるのか分からないもの。

 そう思って、騒ぎの種になりそうなジンは送還する。

 ごめんね、後でまた遊ぼうね!

 自宅の扉を少々乱暴に開けて回廊を駆け抜け、昇降機に飛び込んでたどり着いたのは、地上階の大広間。

 守護像ガーディアン・ガーゴイルの立ち並ぶそのど真ん中を突っ走り、外に出る大扉をスペアキーで開錠した。

 そのとたん―――

「っあ!あのっ、たすけてください!!」

 必死な様子のセイラが、体当たりしてきた。

 ちょ、お腹今、ぶち当たったんだけど。


「……ただの生徒だけならまだしも、王子殿下まで巻き込むとは……。まったく、なにをやっているんですか、あなたは」

「あっ、あの、ごめんなさい」

「いえ、貴女にではなく……そこの『カエル』に言ったんですよ」

「……げこぉ」

 ちょっとぐったりしているみたいなのは、さっき全力で体当たりされた影響かしら?

 災難ね、『カエル』さん。

「しかし、呪い、ですか……」

「はい……」

「メフィ先生は、こちらに運ぶようにと」

「なるほど。……まあ、あのまま学園にいたら、何をどう間違えて踏まれてしまったり実験に使われたりするか分かりませんからね」

「じ、実験……!?そんな……ひどい……」

「だが実際、薬錬科の調合実験にヤモリやカエルを使う話は有名だからな」 

 セイラと殿下の2人に対し、私は少しだけ低い声を作って敬語で話す。

 正体がバレるわけにはいかないだけに、内心結構必死。

 2人は私に学園の魔法学科の生徒だと名乗り、私は殿下が王子様であることを確認した上で『研究助手』とだけ言っておいた。

 一応、身分としては間違ってないものね。


 それにしても、なんだって今なのよ。

 おかしいわね、巻き込まれる要素も必然も無かった筈じゃないの。

 それなのに……。

 ああダメね、思考が暗くなってるわ。

 まだ何も解決していないというのに。

 セイラが後生大事に両手で持っているのは、手のひらいっぱいサイズの少々大きなカエル。

 彼女や王子殿下曰く……『コレ』は『メフィ先生』らしいという事だ。

 さらに詳しく事情を聞けば、魔法学科の実習の際セイラの魔法が失敗して、メフィ先生がカエルになったのだとか!……なんてベタな失敗をしてくれたの、彼女は。

 ちなみに彼女がカエルを堂々と持てるのは、孤児院時代に鍛えられたから、らしい。

 ああ、小さい子とか、よく小動物で遊ぶって聞くものね。

 私の周囲はイイ年したオジサンだらけだったけど、嬉々として色々言葉に出せないようなブツを持ってくるものだから、状況はよくわかるわ。

 カエルになってしまった『メフィ先生』をそっと握っている彼女の表情はこわばっていて、酷く動揺しているのが見て取れた。

 そのせいか、説明してくれる話の内容が時々飛んだりするのが見ていて少し痛ましい。

 けれどその分はアルフレア殿下が補足してくれたから、うん、何となく状況が掴めてきたわ。

 ちなみにその場にはクルエラ嬢もいたらしいのだけど……お父さんがカエルになったのを見たクルエラ嬢は、なんと「キャーッ」と叫んだ直後、ふっと気を失ってしまったそうよ。……近くにいたシャリラン様の服をつかんだまま、ね。

 強く握って離さないものだから、仕方なくクルエラ嬢はシャリラン様が医務室へと運んだそう。

 やはり一緒にいたルーエさんは、付き添いと荷物運びで今はクルエラ嬢のそばにいるそうよ。

 最悪は実家に帰るかも、ですって。

 ……軟弱な、と言いたくもあり、どこまで本当かしら、とも疑いたくもあり。

 どうも否定的に見てしまうのは、私が彼女にあまりいい感情を抱いていないから、なのかもしれないけど。

 それでも……もしかしたらセイラがこれほどまでに動揺しているのは、もしかしたら目の前で人が……友人が倒れたからかもしれないわね。


 で、その話を聞いて私が思ったのは2つ。

 『なにやってんの、お父さん』という呆れと……またイベントか!という全力のツッコミだったわ。

 本当、これだけ防衛策とっていて、何でこんなに良く巻き込まれるのかしら。


 ええと、それで……。

「お話は、分かりました。それで、あなた方はなぜここに来ようと思ったのですか?」

「メフィ先生が、一生懸命ペンを抱えながら紙に書いて教えてくれたんです!」

「先ほども言った通り、塔に連れて行けとの指示が出たのです。紙には、連れてってくれたらどうにかなる、とも書かれていましたが」

 ……多分だけど、かなりテンパってた様ね、お父さんたら。

 ちゃんと理性が働いていたら、ここに来ようなんて思わないはずだもの。

 ちょっと冷たい目で見たら、お父さんカエルは気まずそうに顔をそらした。

 思い出してね、ここがどんな魔窟かって事を。

 そして生命の危機におののいててちょうだい。

 とりあえず、私は彼らを帰すから。――――――絶対に。


 もし……もしもこれが『実験が失敗してメフィお父さんにかかってしまった呪いを解く』イベントなら、今この場に一緒にいるアルフレア王子の役割とは何であるのか、という事だけれど。

 それには、これが大本のゲームであるならば、今回のイベントが好感度2位キャラクターと『先生』を天秤にかけるイベントだから、という理由がつく。

 だけどこの場合、単に事故にあった時一緒にいたから、ってこともありうるかしら?

 ……というかお父さんがセイラについて何か言っていたのって、入学してすぐの頃と例のあの騎士見習い(ヴィクトール)の件だけだったような気もするし。

 もともとあまり受け持ち学科の話をしない人ではあったから、実際にどう思っているかは分からない、という部分も確かにある。

 けれど、これまで誰かに対して浮かれるようなそぶりも無かったし、彼女に対してどうこう、っていうのは無いんじゃないかしら?と思ってしまう。

 これに関しては、娘としての希望も多分に含まれているのは自覚済みだけど。

 ともかく、状況を基にした推測は当てになるようなならないような、そんな感じなのだ。

 まあまずさしあたっては、そこのカエル(メフィお父さん)を回収しとかなきゃね。

 フラグ?恋路?お父さんがどう思っているのかあやふやなまま、そっと背中を押す……ならまだしも、崖下に突き落とすような真似、この私が出来る筈ないでしょうが!

 それに、このままこの場にいたら、彼らだって危険な目に遭うかもしれないのよ!


「とりあえず、そのカ……方はこちらでお預かりしましょう」

 両手を差し出し、受け取ろうとする。

 彼らは事前の許可を得ていないから、この塔には入れない。

 塔にいる特定の誰かに会いに来たわけじゃなかったから、そのせいで警報が鳴る事態になったんだし。

 それに、こうなってしまったお父さんの面倒をみるのは、娘であるこの私の役目。

 だから預かると言ったんだけど……。

「いえっ、それにはおよびませんっ!!私の失敗が原因なんです、私が先生の呪いを解くまでここでつきっきりでお世話します!いえ、させてください!」

 ……きりっと引き締めた表情で、一体何を言っているのか、この子は。

 気負ったセイラがふんっ、と鼻息荒く仁王立ちするのに対し、王子殿下と私は少々呆然としてしまったわ。

「……ご心配いただきありがとうございます。しかし、そもそもこの塔は部外者の立ち入りを禁じていますので……」

「えっ、でも、この場合アルフ王子がいっしょにいるから、わたしが入っても大丈夫じゃないんですか?」

 大丈夫じゃないから言ってんの。

 小首をかしげて言われた妙に能天気なセリフに、アルフレア王子も苦笑する。

「王族であったり、国の要職に就く人間だけが立ち入りを許される場所は多い。確かに先日そのような話をしたな。例外も無くは無いが、基本的にここは、王族が立ち入るにも許可がいる、そのようなかなり特殊な場なのだ。今回は緊急事態であったのでわたしもついてきたが、ここから先は専属の研究者たちが日夜魔法技術の開発や研さんを積む為の、彼らだけの領分。君は不安に思うかもしれないが、ここはお任せするのがいいだろう」

「そんな、でも……このまま呪いが解けなくて、ずっと一生この塔から出られなかったりしたら……」

 なんという想像をするのか、この子は。

 悪魔が一生この塔に閉じ込め……?あ、いやそれはそれでのんびり研究に没頭してそう……じゃなくて!

「呪いに関して研究されている方もいますし、そんな事にはならないと思いますが……」

「じゃ、じゃあせめて生活に必要な事のお手伝いだけでも……っ!体がカエルなんじゃあ、きっとご飯を食べるのだって、服を着替えるのだって、それにっ、お手洗いに行くのだって大変ですよねっ!?」

 ちょっと待って。

 貴女の脳内の『メフィ先生』は、今どんな生活しているの。

 ……頭痛くなってきた気がするわ。

「……何のための研究助手だと思っているのです。ご厚意は大変にありがたいですが、残念ながらその気づかいも不要です」

「セイラ。彼らがここまで言っているんだ、後は、な?」

「……でも、先生が……」

「げこっ」

 アルフレア殿下が肩をやさしく抱き、大丈夫だと首肯するかのように力強くカエルは鳴く。

 それでも不安は拭えないらしいセイラ。

 心配なのは理解したけどね、長考もほどほどにしないと、本当にいい加減、気づかれるわよ?

 ……悪夢に出て来てうなされるくらいひどい人たちに。


 この塔は―――いえ、この学園の建物である湖城の全てが、かつて異世界からやってきたという『訪問者』たちの残した建造物だったといわれている。

 当時はとても重要なものを守っていたらしいけれど、それも現在は失われているのだとか。

 大戦の後、この地に学園が開かれることとなり、あちこち改修された後に現在の姿になったのだそう。

 お父さんから塔の頂上には時計台があるらしいと聞いてはいるけど、そこにはどうも限られた人しか行けないらしく、長いこと住んでいる私でさえその許可はもらえていない。

 謎が多いこの塔は、現在(いま)過去(むかし)も城―――学園やその近隣地域の動魔力管理を担っていて、その複雑な構造は素人が立ち入れば迷子確実といわれ、ひとたび防衛機能が作動すれば守護像(ガーゴイル)たちが自動出撃し、そうなれば城―――学園にまで被害が出るのは確実、とか。

 そんな事態におちいる可能性があるから、私は塔に住む者として、彼らの入塔を認めるわけにはいかなかった。

 それに何より、お父さんに変なフラグやら強制力やら付いて回られても困るもの。

 だからそうよ!ここはあえて、2番手(この場合は王子さま)をプッシュする事にするわ!



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