召喚魔法のお話
どのみち説明回でした、というオチ。
「爆弾生物!?なんだそれ、物騒だな!」
アンタだけにゃ言われたくないわよ?召喚学科一の暴走破壊召喚士さん。
反省文、入学してからどんだけ書かされたか思い出してから、そういうセリフを吐いてもらおうじゃないの。
「こんなに可愛いのに、爆弾……?」
「信じられないなあ。ねえ、撫でてみてもいい?」
「どうぞ?」
どっかの誰かと違って変な対抗意識とか害意もなさそうだったから、素直に相手に渡して抱っこさせてあげる。
けど。
「おやめなさいなっ!!いつ暴発するか知れなくてよ!」
金切り声をあげる令嬢さま。
あのねえ、ほんとにそんな物騒なナマモノ、この私が、しかも学園や塔で召喚する訳ないじゃない。
「大丈夫大丈夫。衝撃受けたら爆発する機能なんてつけてないから。愛玩用愛玩用」
「持ち技は?」
「はがねのしっぽ、まるくなる、すてみたいあたり……そしてじばく!」
「わかってるな、オマエ!」
「ありがとうっ!」
するっと割り込まれたラビの質問に、これまたさらっと答え、よし!と2人して分かり合う。
しかしこのロマンを解さない令嬢さまが、キレて叫んだ。
「全然わかってませんわっ!!明らかに危険じゃありませんの!」
「だからその危険に、ヒヤヒヤドキドキするのがいいんじゃないか!」
「そうそう。絶対命令なんてしないけど、常時危険物を持ち歩いてる状態っていうのがいいんじゃない」
「だよなー」
「ねー」
いうなれば、列車の緊急停止ボタンをじっと見つめているようなものよ。
怪しげなボタンってあれ、押しちゃいけないのわかってて、どうして毎度毎度押したくなるのかしらね。
「理解不能ですわ!この2人!!」
再び叫んだクルエラ嬢は、まーまー、どーどー、とよく分かってなさそうなセイラさんとルーエさんに抑えられていたけど。
……なんだかその抑える役、手慣れてない?
実のところ爆弾生物と呼ばれる召喚獣は、他にもいくつか種類が存在したりする。
彼らは主に南部の露天掘り鉱山やサザンバークロイツにある砂漠の採掘場などで活躍し、北の鉱山坑道で働く鳥人の『カナリア少年』たちとともに、その名を広く知られていたりするのだ。
もっともそこでの活動に、今私が抱いているもっふもふで可憐な生物の形をしているようなものの配属はほとんどなく、生物とは名ばかりの半ゴーレム体がほとんどだ。
有名どころでは、丸い体に導火線のついた2足歩行の(文字通り)『爆弾兵』に、ヘルメットのような甲羅をしょったカメみたいな『メッティ』などがいて、これらは遊園地『風雲!天空の魔王城エメラルドラド!』のお邪魔キャラとしても名高い。
一方で今回召喚したみたいな可愛い系の召喚獣は、自爆機能を除外し、一般向けに―――それでも出回る数が限られているのでかなり高価らしいが、売られる事もあるのだそう。
類型は、今抱いている『ポーちゃん』をはじめ、球技の球代わりに吹っ飛ばされる罰ゲームでおなじみの『ペンたくん』がいたりする。
……で、本題はここから。
ポーちゃんには実は、うっかり口に出せない類の元ネタがあるのだ。
……前世で読んだらしいコミックスの登場キャラクターという『元』が。
あやしい。
爆弾生物の元ネタ自体、訪問者たちが元いた世界からの知識って可能性ももちろんあるけど、今のセリフからすると……。
彼女自身転生者の可能性がまた高まったわけだけど……下手につつけばヤブヘビになりそうだしなあ。
どうしてそれを!とかこっちに向かって振られたら、今度はこっちが「実は転生で」って言わなきゃならなくなるし。
まあ、この世界では転生自体は珍しくないみたいだから、カミングアウトで済むんだったら言ってもいいんだろうと思うけど。
……ただでさえ睨まれてるのに、本気で排除しにかかられたらたまったもんじゃない。
せめてどこら辺を狙ってるのが分かれば、落とし所もわかるんでしょうけど……。
……よし、これは仮定の話として想定しておくとして、本人には黙っていようっと。
ビビっているクルエラ嬢をよそに、きゃあきゃあ言いながら撫でまくってる女子2人。
どうでもいいけど、貴女たちゴンちゃん見に来たんじゃなかったの?
ゴンちゃん意志無い筈なのに、ちょっと背中がすすけてるように見えるんだけど。
しかたないなあ、私が代わりに抱っこしてあげよう。
「召喚魔法ってすごいのね!ゴンちゃんみたいなおっきいのから、この子みたいな可愛い子まで呼べちゃうなんて!きっとすっごく魔力使うんだろうねえ。ねえねえ、召喚魔法って『世界の向こう側』から魔物を呼ぶんでしょ?それって、向こう側にはこんなかわいい子たちがいーっぱいいるってことなのかなっ」
うきうきした様子で、撫でているポーちゃんから視線をこちらに合せてくるセイラさん。
そばかすの散った顔も、こうしてみると愛嬌があって可愛らしく見えるから不思議ね。
「な、何を言っているのかしら、この子は。以前の授業で習いましたでしょう?ただの魔物を召喚するのではなく、この世界の魔力から召喚士が形作り現界させたのが『召喚魔獣』なのですわ」
あ、復活した。
彼女の言うとおり、この世界における召喚魔法とは、よくあるRPGのように既存の物体や生物を召喚するのではなく、この世界を取り巻く魔力の塊から召喚主が望むものを取り出す魔法の事をさしている。
物を生み出すという点で『創造の魔法』ではないかとも言われたが、召喚主や指定された対象者、あるいは世界そのものと繋がりが出来、定着する事が出来ればそれ以降も指定された同一個体を召喚する事が出来るところから『召喚』の名がついたとも言われているわね。
召喚獣の素となる魔力の塊は、そこらの空間に漂っている魔力から遡って行った先にある、いわば魔力の源泉のようなもの。
そこから汲み取った魔力の塊に形を与え望みの行動をとるよう、指示書であり設計図となる魔法陣を組み、その魔法陣に自身の魔力で色付け……属性を与え、実際に具現化するのが召喚魔獣を手に入れるまでの手順になる。
色をつけるのは、魔力そのものに色が無い為、召喚主にとって扱いやすくする為のもの。
用途によっても当然、付与する属性は変わってくる。
ついでに、今回の子みたいな一時的お試し召喚の場合とジンのような恒久召喚だと、圧倒的に情報量が違うから魔法陣も複雑化するし、魔法陣が複雑になればなるほど注ぎ込む自身の魔力も膨大になるという訳。
ただ、1人でどんな属性でも自由に召喚できるかっていうと、私みたいな混沌でもない限りそれは無理なんだけど。
で、その源泉たる魔力溜まりから、何らかの理由で魔力が切り離されて地上に勝手に出てきてしまったものが―――一般的によく言われる『魔物』という存在。
何の意志も持たず、指向性も持たず、属性も無い源泉魔力だけど、それに唯一影響を及ぼすのが―――意志ある者の感情、らしい。
古代では存在していなかった魔物がある日突然この世界に現れたのは、この世界の辿った歴史のせい。
かつてのこの世界には、属性だの色だのという『制約』が存在しておらず、好きなように好きなだけ魔法が使えたらしい。
……それこそ、奇跡のような出来事でさえも起こせたとか。
しかし、何でもできるという事は、そこに規則も法則もないという事で。
無理や無茶がまかり通った結果いくつもの大きな悲劇がこの世界を襲い、憂いた古代人たちは一度魔法を捨てたという。
そのせいで魔力の循環が滞り、人々の負の感情を吸収した魔力の塊から自然発生したのが『魔物』なんだとか。
そうね、根本は同じ魔物なんだけど、召喚魔獣は人為的に作られた家畜に近い存在。
そしてただの魔物は、自然発生した害獣で災害……って事でいいんじゃないかしら?
魔物が発生したのと同時期に起こった『大戦』を経て、私たちの世界は魔法を取り戻した。
だから今こうして私たちが『学科試験』に頭を悩ませる羽目になっていたりするのよね。
そう考えると、複雑だって言う人もいるかもしれない。
私としては、断然魔法があった方が面白いと思うんだけど……なにぶん召喚の分野は創造にして想像の分野でもあるわけで……。
「で、ここからどう発展させようかなーって悩んでるとこ。レディは翼があったらいいんじゃないかって言ってくれててさ」
「そうなんだー。おっきい方のゴンちゃんが空を飛んだら、すっごいだろうねー!あっ、じゃあさ、私たちも少し考えてみない?」
「手助けくらいには、なるかも?」
「そうですわね……やはりラビは属性『金属』の『黄金』ですもの、幸い単純な力でしたら十分あるようですし、ここは魔力を通しやすい宝石や貴金属をふんだんに使って、そちらを高めるようにしてはいかがかしら。空を飛ぶにも魔力は必要でしょう?」
「なるほど!そっか、そうだよな!」
「動物の、顔とかあると、可愛い……かも」
「そうかあ?んー、よくわかんねーけどじゃあ、一応考えておくかー」
「ポーちゃんもそうだけど、おしゃべり出来たらいいなあって思うよ。ねえ、もしゴンちゃんと話せたら、どんな事話したい?」
「そうだなー。やっぱ、どんなふうに強くなりたいか、希望を聞くと思うぜ!」
ラビ君や、君はいったいどこを目指すんだい?
……と、人によってはそう問いかけたくなる事態になったりする訳。
あ、話し込んでる内に逃げる隙無くした。
まあこれだけ長居してれば、帰るの一言で解放されそうな気もするし。
……それにしても、そばで聞いてるだけでも、どう組んだところでイロモノにしかならなそうな取り合わせの気がするわ。
不安しかないけど、本当に大丈夫?
というかこれがイベントだとしたら、とっくに崩壊している気がするんだけど。
誰も気にする人がいないのなら、それはそれでいいのかもしれないわね。
そうよ、どの道、私には関係のない事だわ。
「あっ、なあなあ、そういえばお前の方はどうなんだ?」
「何が?」
「試験だよ、試験!まさかそれ、出すつもりじゃないだろう?」
「ああこれ?あはは、まさか」
私が本気でポーちゃん召喚したら、きっとあたり一面焦土よ?
ナイナイ。
「私の属性は……アレだけど、こう見えて得意不得意はあるの。だから、ポーちゃんは苦手属性の練習がてら、ね」
「そうなの?」
「まあ。それは知りませんでしたわ」
「……」
他2名はまあいい、けど……クルエラ嬢、その笑顔、絶対歪んでるから。
「ただまあ、家は父が魔法の研究してるから、あまり炎属性の子はまずいのかなって思いなおしているところ」
「そうなのか?」
「うん。少し前にお父さんの勧めもあったし、今日みたいにポーちゃんで驚かれるようなら、召喚試験のお題にする子は水属性の子にしてみようかなって」
論文書くだけならともかく、実験で薬物を取り扱う場合には同時に水も必要になる。
それに、苦手なうえに取り扱いが難しい炎よりは、生活に密着できる水の方が後々役立つかもしれないし。
ジンが身近にいる今、お試し召喚では試験官も納得しないだろうから、それならずっと一緒にいて困らない子の方がいいのだろう。
「どんな子にするの?」
「水ならやっぱ、魚かな?まだ、薄ぼんやりとしか想像できないけど」
「そっか。なあ、コードが完成したらまた見せてくれよ!」
「却ぁっ下。あれは1度きりだって言ったでしょ?」
「まあっ、ラビったら、彼女と魔法コードを見せ合うような仲なんですの!?」
「おう!すっげーいいやつなんだぞ、コイツ!オレ、レディと親友になれてホントによかったと思ってるんだ!」
「いいなあ……わたしなんか、この前友達じゃないって言われてとっても悲しかったんだよ?ねえ、リグレッドさん。わたし、あなたと本当の友達になりたいの。だから、私の事はこれから呼び捨てでいいからね!絶対よ!ルーエもクルエラちゃんも、それでいいでしょ!?」
ちょっとちょっとちょっと。
その真剣な目に、ちょっとグッと来ちゃったのはともかく、一体どういう流れよ、コレ。
しかも。
「私は……それで、いい」
「……節度は、守っていただきたいわ」
ルーエさんはともかく、嫌なら断っていいんだからね!?クルエラ嬢!
とか言いながら、断わりずらい雰囲気なのは分かるけどね!超分かるけどね!
ああもう、変なフラグ建っちゃうでしょうが!
「やった!みんな友達!」
「だな!」
今度はラビとセイラさんが、2人だけでわかりあってるー!?
「よかった……ね」
そうね、ルーエさんの言う通り、いい話なんじゃないの?
本人の意向を、微妙に無視してる気がしなくもないけど!
ああもう、麗しい友情に完敗!(ヤケ)
……まあ、百歩譲って、呼び捨てに関しては面倒が無くていいけども。
だからって別に彼女たちと……特にクルエラ嬢と本当に仲良くする気は、こっちには無いんだから!!
ああ、また隔離が進むのね……。
「「はあ」」
溜息がクルエラ嬢と被るとか、また微妙な……。
後日、召喚学科第2講義室にて……。
「ビームとパリーンバリア、それにロケットパンチだろ常考」
「バカ、それより一発必殺必中の超巨大主砲を搭載させる方が先だっつーの!」
「必殺技撃つ時、何か背後から魔力光出てるのってかっこよくね?」
「いっそ魔力纏ったまま突貫だ!」
「おいおい、そんだけの動作どうやって管理するんだよ」
「ゴンザレスの負担軽減のために、自立型サポート(副管理)頭脳とかあるといいのでは?」
「そもそも1つのゴーレムで、それ全部は無理だろ」
「ならばいっそ、複数同時進行で制作しましょう。ゴンはパワーファイター型なので、2号機はもっとすらっとして早さに特化したのとかどうです?それに攻防一対でビット飛ばしまくりっていうのはどうでしょう」
「ドリルはロマンだ……!!」
「合体もロマンですよね!!」
ラビ「うあー、どれも良い案すぎて絞り切れねー!!」
主「変態が編隊組みおったー!!」(がびーん)
中に1人、やたら熱心なちびっこが混ざってる気がしてならない。
なお、
悪役「金ぴかでキラキラさせてゴージャスに!」
友人「動物モチーフで」
主役「おしゃべりしよう!」
……どう見ても、勇者ロボ爆誕フラグです、本当にry