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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
12/47

つい出来心で

前半が言い訳タイムで半分埋まるっていう悲しい事件……orz




「一応報告しておいたぞ」

「何がー?」

「あんの、ボケツ青騎士(・・・・・・)見習いの事だ」

 夕方、少し遅くなると言い残してふらっと消えたお父さんが自室に戻って来た。

 ……つまり『あのボケの、盛大に墓穴を掘った、お尻の青い、魔法騎士予備軍』って事?

 一応あの人、お貴族様の息子さんなんだけど。そんな言い方して大丈夫?

 まあ、学外……というか塔の中だからいいのか、しら?

「それってヴィクトールの事よね?言ったって誰に?王子様たち?」

「ああ。それと一応、本ッ当に、念の為……陛下にもな」

 それと後……と、さらにいくつか名前を挙げ連ねていく。

 ってちょっと。国王陛下に報告ですって!?

 それに追加のサンジェルマン様の名前はともかく、他にも魔法省の上の方にお勤めされてるお役人さまの名前まで入っているんだけど!?

 まさか大事にする気!?

「学園内の揉め事(トラブル)は学園内で収めるべき、じゃなかったの?」

 貴族が多く通う学園で、生徒同士のいさかいに親や兄弟あるいは親族たちが貴族として介入するのは望ましくない、との意見からだそう。

 学園は自治独立を保ちたい、外部からの介入をしてほしくないという思惑からでしょうね。

 だってそれやっちゃったら、ぶっちゃけた話キリないもの。

 

 自分たちでまいた種は、自分たちで責任持って処分させる。

 それは、身分や経済環境などを原因とする問題にわずらわされる事無く、学業のみ専念してほしいという学園の理念であり希望。

 そして、学園に通う生徒たちの精神面での成長を促す為の方針でもある……らしいわ。

 学園(ここ)はあくまで魔法研究と、その普及のための教育機関だものね。

 貴族の中には懸念を示す人も当然いるみたいだけど、実績で黙らせているのが現状のよう。

 実際に授業を受けている身としては、課程(カリキュラム)進行予定(スケジュール)がきつすぎて、そこまで構ってる余裕なんてないから最低限のマナーで勘弁してほしいって言いたくもなるわ。


 召喚学科の友人たちでもある中堅貴族のお嬢さん方の中には、入学直後のきらびやかで余裕ある態度だった人が、もう最近では言葉も態度もつくろってるところなんて見た事無い、お嬢様なのに廊下を全力疾走して怒られているのを見るのが茶飯事、なんて人もいるくらいだもの。

 しかも、問題行動を起こす人にはみんな付き合ってられなくてガン無視だから、そうなると自分の勉強がはかどらなくって後で泣く羽目になったりするのよね。

 どこぞの貴族のお坊ちゃんが召喚学科棟の廊下で土下座しているのを見たときには、ああもうここまでなりふり構ってらんなくなったのね、と遠い目になったものよ。


 自己の目標に向かってまい進する事、その為には手段を選ばない事。

 それがこの学園に入学して一番はじめに実地で体に叩き込まれる学習内容……っていうのも、どうなのかしらと思わなくもないけど。

 召喚学科は特にそれが顕著らしいけど、きっと他学科でも、多かれ少なかれ同じような感じになってるんじゃないかしら。

 だからそう問えば、お父さんもそこは頷いて同意する。

「ああ。その基本理念は変わってない。だが今回はちょっとな……厄介な事になってなきゃあいいんだが」

 それって、お父さんがあの雷っぽいのに撃たれたのと関係があるのかしら?


「あと、殿下方が申し訳ないと言っていたぞ。しかし完全に収拾をつけるには、まだ条件が足りないとも言っていたな。どうやら何か考えているらしいが……『上』の介入もあってな、これも魔法学の一環と判断して全面的に任せることになった。それと、召喚学に対する偏見の話も報告しておいたからな。で、あいつは当分召喚学科棟へは出入り禁止だそうだ」

「ふーん。じゃあ私は、食堂にさえ足を運ばなければいいのね」

「そういう事になるな、当面は、だが。あいつだって仮想敵が身近にいなければ騒がんだろうし、しばらくはこれで様子見って事になる」

「んー、わかったー」

「……我慢ばっかさせてすまんな」

「いいよー、そんな、何言ってんのお父さんったら。お父さんが私のために色々と掛け合ってくれたんでしょ?それだけでも嬉しいし、ありがたいもん」

「そうかー?まあ、これくらいはなー……って、おい、それ」

「え?これ?」

 ソファでくつろいでいたお父さんが振り向き、台所からリビングに移動した私と―――否、私が両手で大事に抱えていた『ソレ』と目が合う。そして低い声。

 私は気にせず、すっとぼけた表情で紹介した。

「ポーちゃん」

「……」

「……」(くいっと首をかしげる)

「可愛いでしょ」

「どう見ても爆弾生物じゃねえか捨ててこいっ!!!」

 えー。


 どうやらまた、助手計画は失敗のようです。


「捨ててこいなんて、あんまりよねえ」

「~~~?」

「送還しろって意味なのは大丈夫、もちろんわかってるわ。でもそんな怯えなくたってねえ」

「~~~♪」

 ちょっと大きな―――大きすぎるかな?な卵でも抱えているような、首の見えない丸っこい体。

 体全体を覆う、毛足の長いふわっふわな白い体毛。

 ジグザグに走る黒い短毛に覆われた尻尾の先には、丸いポンポンが体毛と同じく真っ白な毛で形作られている。

 小さな手足と可愛い肉球に、毛でおおわれていて見えないけど意外におっきな口と、体の半分くらいはありそうなほど大きくてつぶらな瞳。

 ……これを見て「か~わ~い~い~」と悶絶しない女子はいなかろう。

 お父さんに却下を食らったものの、だからといってすぐに送還するのももったいない気がして、私はオレンジに染まる学園の校舎内を召喚学科目指して歩いた。

 この時間なら、まだ「報告論文(レポート)終わらないよう」とデスマにあえぐ同士たちが残っているだろうと思いながら。

 気合い入れるのと自慢と、半々くらいかしらね。

 動物好き(ケモナー)も多いから、ひと通り大騒ぎして、それから死んでたのがウソみたいに猛然と書き始めるでしょうよ。

 目に浮かぶわ。


「あら」

 それに気づいたのは偶然。

 中庭を経由(ショートカット)しようと思って回廊の脇を抜けたら、そこに見知った顔を見つけた。

「あ!レディ!」

「えっ、あっ!リグレッドさん!?」

「―――……どうも」

「……っ、なんですって?」

「(……うげ)」

 そこにいたのはラビとセイラさん……に、ラビの相棒のゴンちゃんとルーエさん。

 それから……クルエラ嬢。

 最後の1人を見て眉にしわが寄ったのはもう、条件反射っていうか。

 実際に言葉に出して言わないだけ、精神鍛錬が出来ている自分エライ、と思っていいわよね?

 ……お互いだと思うわよ、という気持ちを込めて「ごきげんよう」とイヤミったらしく“にっごり”笑う。

 残念な感じがするのは何故かしら。

 美しい庭園でヒロインとラビが2人きり、だったら絵になったんだろうけど。

 それとラビの愛称呼びは……もう今さらよね。


「何してたの?」

 気にしないフリ、気にしないフリ。

 反転ダッシュも態度悪いし、それで変なコト言われるのも嫌だったから、あえて軽い調子で声をかけてみた。

 スキ見て逃げ出そ。

「ああ、コイツらが見たいって言うから、ゴンを見せてたんだ」

 ふーん?お披露目ってわけ。

 ……あ、そういえばそんなイベントも、あったような?

 この時期にそのイベントって事は、少しは仲良くなったって事なのかしら。

 私と違って、しょっちゅう食堂で会っているみたいだし。

 そういえば、あの食堂勤務の隠しの人、どうしているかしら。

 多分元気にやってると思うけど。

 ……彼女―――どうやら攻略対象に限らず面食い嗜好(イケメン好き)っぽいクルエラ嬢もいるし、案外まめに顔を出していそう……というか呼びつけられていそうだわ。……って偏見かしら?

「今日は大きいのね」

「とりあえず最初はな!」

 とりあえず?

 疑問符を浮かべた私の前で、ラビはゴンちゃん目がけて自分の杖を勢い良く振り下ろした。

最小化(ミニマム)!」

 しゅるしゅると見る間に小さくなっていくゴン。

「ふわあ!」

「まあ!」

「すごい。あっという間に小さく」

「こうなっちゃうと、ゴーレムも可愛いよねえ!」

「だろ?」

 自慢げに胸をそらすラビ。

 ああ、どっちかというと、この変化の方が本題だったわけね。

「最小化の魔法は、ちゃんと機能しているようね」

「おう!おかげさんでな!」

「……どういう事ですの?」

 他学科の女子たちを置き去りに、軽い世間話になりそうだった雰囲気に堅い声で割り込んできたのはクルエラ嬢。

「どういうもなにも、この最小化の魔法はレディに教えてもらったんだ」

「教えたっていうか……複製して貼り付け(コピー&ペーストし)ただけよ」

「それって、自分で魔法陣を組んだって、こと?」

「すごいすごーい!自分で魔法作っちゃうなんて!」

「そう?まあ家庭教師(カテキョ)してくれた“ご近所さん”たちが、魔法については基礎から応用までノリノリで教えてくれたし。それに(うち)、狭いから。必要は成功の母っていうじゃない?」

「ほえー」

 ヒロイン、いえセイラさん。

 そのぽけっと口あけてるの、主役(ヒロイン)としてどうなの?

「……必要は、成功の母」

 クルエラ嬢はクルエラ嬢で、なんだか難しい顔してつぶやいた後、そのまま黙り込んじゃうし。

 かわいー、なんてはしゃぎながら小さくなったゴンを撫でてるセイラさんを見て、こんなイベントだったかしら?と私も首を傾げる羽目になった。

 大きいの召喚して、ヒロインの度肝抜くイベントなだけだった気がするけど。


「……その子」

 ふと、ルーエさんが私に声をかける。

 その視線は、私の腕の中に注がれていた。

 あら、今なの。

 目の前に大きいのがいたら、小さいのは中々気づかれないかもしれないわね。

 それにこの子、鳴かない―――ように設定してるし。

 ……それにしても、なんだか目、輝いてない?

「ああ、これはさっき私が実験的に召喚した子で―――」

「ぽ――――――ごほんっ、それ、そっ……爆弾生物じゃありませんのーーー!!!」

 お父さんと同じリアクションだわ。

 っていうかクルエラ嬢。

 ……貴女今言いかけたのって……つまり『元ネタ』知ってるって事?

 意外に庶民な趣味してるのね。

 いえ『してた』かしら?


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