不自然な言動と不自然な妨害
分割しました。
セイラさんとクルエラ嬢は、それぞれに「悪かったから」「もうしない」「2人ともけんかはやめて」なんて言っているけど……クルエラ嬢の口もとは、よく見ると歪な弧を描いていた。
……こいつ。
「止められもしないやつが友人を名乗るな。……おこがましい」
「おこがましいのはどっちかしらね。少なくとも私は、彼女らと友だちになった覚えは無いんだけど?」
「そんなっ!?」
セイラさんが悲鳴を上げる。けど……ちょっと黙っててくれるかな?(にっこり)
「ふん……それならそれで、最初から1人寂しくいつまでも獣や無機物と戯れていれば良いのだ。アルフレア様やシャリラン殿下はお前の事をずいぶんと買っているようだが、所詮貴様も才能に胡坐をかき、ままごとのような召喚魔法で満足しているのだろう?実力がともなわなければ到底認めることなど出来ん。ましてや両殿下方と親しくなろうなどとは、つくづく身の程を知らんようだ。これを機にわきまえて欲しいものだがな」
「なっ!?」
ちょっと!?聞き捨てならないわよ!
誰が何ですって!?いつ彼らと仲良くなりたいって言ったの!
って言うかコイツ、今馬鹿にしてっ!!
「ままごとかどうか、その見で確かめてみればいいじゃないの!ジンッ!!」
ここがどこか、今がどういう状況なのか、ぶっ飛んだ状態でジン(大)を召喚する。
最初っから臨戦態勢、チャージ完了状態だ!
雷光をまとって「グルル」と低いうなり声を出すジンに、不法侵入かました2人が「きゃー」とか言ってる。
そんな場合じゃないでしょうに。……いちいちイラつかせてくれるわね。
ジンの属性は、『浅葱』の『風』。
周囲を風と、ぱちぱちいう小さな雷が取り囲む。
しかしヴィクトールはそれを見て、鼻で笑った。
「自分の力だけで魔法を行使する“正統な”魔法使いや、優れた頭脳で新しい魔道具を作る錬金魔法士とは違い、そうやって他者の存在の力を借りてしか自らの力を誇示する事が出来ない召喚魔法士は、やはり存在そのものが卑怯に過ぎる。たまには自らの力で先を切り開こうとは思わんのか?」
「……っ!!アンタ今、召喚魔法士とそれを目指す人間だけじゃなく、ラビも馬鹿にしたのよ!?あんたの友達を!分かってんの!?」
「あいつは自分で組み上げた玩具で、いつまでも子供のように遊んでいるだけだ。だが大人になれば、そのうち目が覚める。……いや、俺が覚まして見せる」
何なのその思い込み!目を覚ますべきはアンタじゃないの!
なおも言い募ろうとしたその時――――――
「何をやっている!」
視界の端から突如飛び込んで来たのは銀の髪。
「!!……おと……っ」
「これは、メフィ先生」
現れたのは、お父さん――――――メフィ先生だった。
どうやら、ルーエさんの『影』に呼ばれて来たのはお父さんだったらしい。
状況について『誰かと違って』『全員に』軽く聞きとりを行い、友人のせいだと言い募るクルエラ嬢を完全スルーした後、侵入者の2人には「もう二度と勝手に入るな」と宣告した。
それに対してクルエラ嬢は、意見を聞いてもらえなかった割には余裕の笑みまで浮かべたままで。
速やかに解散を宣言したお父さんに従い、落ち込むセイラさんを慰めながらその場を後にした。
ヴィクトールは終始私を犯人にしたがったが、お父さん―――メフィ先生が「それだけの根拠では薄いし、証拠もない」と首を縦に振らなかった為、また私を攻撃し始めた。
「どうやら、先生はそこのお嬢さんを庇われておられるようですが、いったいどのような手管を使われたのか、ぜひお聞きしたいものですね。どうせその色香にでも惑わされているのでしょう?女のとる手段など、たかが知れている。これだから下々の者はやっかいなのだ。手段を選ばんというのはこの事だな」
後半の言葉は、ゲスを見るような目を向けながら私に言ったのだけど、お前の目は節穴どころか大穴だ……と切り返すまでもなく。
「テメェ……いくら何でも言っていい事と悪い事ってのがあんだろうが。ああん?それともそんな事も分からないくらいおこちゃまなんでちゅかねええ?ああ、お坊ちゃんでいらしたんでしたっけええ。……後でちょっと職員室来いや。テメエのその頭ん中、キレイさっぱり掃除しておかしなこと考えられなく……」
ちょーっ!?ちょっ、ちょっ、本性出ちゃってるーーー!!!
ぶっキレたお父さんが、突然の豹変にビビってるバカの胸ぐらつかんだその時―――
バチイッッ!!
突然発生した雷の魔法のような“ナニカ”に、その場にいた全員が思わず沈黙する。
―――今のはジンの雷光じゃなかった。
―――いったいどこから―――?
「わーったよ、わかりましたよ。……何もすんなってんだろ?」
ややあった後、ぽりぽり頭をかきながら父がつぶやくように言った。
それから目の前にいていまだに目を白黒させてるヴィクトールに向って「行っていいぞ」って言った。
「つうかな、とっとと目の前から消えやがらねえと、今度こそ何すっか(ぱちぱちっ)……っち。……いいから行け」
とん、と軽く突き飛ばすと、ヴィクトールは気おされた様にその場から2、3歩後ずさる。
やがて自分を取り戻したのか、納得がいかなそうに「何なんだいったい……」とつぶやいた後、最後にちらりと私の方を見て。
「面倒な女しかおらんのか、この学園には」
……って!
失礼な!よりによって不法侵入者と同じ扱いされたですって!?
KYたちと一緒にされるのは心外よ!
「はいはい、どうどう」
憤る私に、お父さんが宥めに入る。
「……今の、何?」
ジンのじゃなかった。
かといって、今この場に雷属性の魔法を使える人はいない。
立ち去ったヴィクトールもそう。
セイラさんもクルエラ嬢も、隠し持った素質でもない限りは同じだろう。
ならあれは、いったいどこから―――?
「……気にすんな」
お父さんが言ったのは、そんな誤魔化すようなセリフで。
「でも」
「あれは……『学園の防衛機能みたいなもん』だ。お前さんが気にする事じゃない」
「……」
「……知らない」
「え?」
黙り込んだ私とは対照的に、今度はルーエさんが口を開く。
「この学園の事はずいぶんと調べた。それだけの時間が、あったから。でも……そんな“モノ”があるなんて話は、聞いてない……知らない」
少しだけの沈黙。
やがて。
「聞いた事無くてもあるんだよ。……この話はもういいだろ」
お父さんはそう言って話題を変える。
これは聞いても返ってこないだろうな、と思う。
……もしかしたら『上』がらみなのかもしれない。
たまにあるのだ、こういう事は。
こういう時のお父さんは、最後までのらりくらりとかわし続けて、絶対に教えてくれないから。
「大体何だって、こうなるまでつっかかってったんだ?人目の無い所だからまだここだけで済ませられるがな、そうじゃなかったら大ごとになっていたぞ。わざわざ相手の土俵に上がる事も無いだろうが。関わり合いにならないって、言ってたんじゃなかったのか?」
「けど……彼女のせいばっかり言われっぱなしなの、嫌だったもの。それにアイツ、私まで原因みたいに決めつけたし、何より召喚学科の友達や、先生や、召喚魔獣たちの事、全部全部否定して馬鹿にしたもん」
少し子供っぽい言い方になってしまったけど、それだけ悔しかったのだ。
完全に言い負かせなかったのも、要因の1つかもしれない。
そこへ。
「……先生とリグレッドさんって、仲、いいの?」
「「……」」
KY?K……いや、この子は元からこういうとこあったわ。ゲームの時の話だけど。
……けど、何でかしらねー。
恩をあだで返された……いや、勝手に助けた気になっているこっちが悪いのだけど。
でも今の論点、そこじゃないし。
「とにかく!まだ測定終わって無いから、私もう行くわ。先生、彼女の事よろしく!」
「丸投げかッ!?あー、わーったよ、へいへい」
「…………あの、ありがとう?」
先生?素が出てますよ、素が。
隣の子がどうしていいのかわからなそうにしてるから、誤魔化せる役には立ったのかもだけど。
心の中で突っ込みつつ、臨戦態勢を解いていたジンを戻す。
「……もふもふ」
少し残念そう?
もしかして:ケモナー?
……それはともかく。
ともかくとして!
2人の脇を足早に抜けて運動場へ向かう。
背後から今度こそはっきりと「ありがとう!それとごめんなさい!」という“彼女”にしては大きな声のお礼と謝罪の言葉を聞きながら。
しかし今回、あの言い合いでヴィクトールの奴、ヒロイン―――セイラさんからしたら、あの人おっかない人、とか性格悪そう、とか思われてい……ないか。天然前向きヒロインちゃんだものね。
どう見たらそうなるのか、という理論で好意的に解釈するに違いないわ。
じゃなかったら、クルエラ嬢と今もまだ友達づきあいなんてできないでしょ。
それにしても魔法騎士見習いの青年、あんな酷い性格だったかしら?
ゲーム知識によれば実直で真面目な性格……だったと思ったけど。
少なくとも、あんな風に人を落とすような事を言った覚えが無い、のよね。
これはもしかして私という主観で見ているからで、ヒロインとしての視点じゃないって事での見え方の違いか……それとも何かが原因でゲームの性格とは変わったとか?
首をひねりつつ、しばし悩んだ。
ちなみに体力測定の残り種目は、そっちのけで悩んでた割に結構な数値が出て、それを知った騎士科のアホにまた「裏工作だ」と睨まれる事に……なんて。
ほんとアイツ、本気でウザい。