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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
10/47

堂々巡り

 図書館での出来事があってしばらく。

 私はといえば順調に、学園生活を満喫していた。

 苦手に思えた毎日の勉強習慣も慣れてしまえば日常となり、何人かの女子生徒とも親しく声を掛け合える間柄になった。

 相変わらず同学科のラビは賑やかで、たまに食事に誘われたりもしたけれど、2回ほど行ってからは他の子とご飯に行く約束を先にしたり、何かしらの用事があると言ってお断りするようにしている。

 だってあの席、情報収集にはもってこいなんだけど、何しろ空気悪すぎ!

 両殿下は何かと人の事について聞きたがるし(それはあの情報提供担当のご友人もそうなのだけど)そうなると騎士見習いの陰険坊ちゃんはガンつけてくるし、ライバル令嬢役のあの子が食事後にわざわざ人気のない場所でちくちくと嫌味を言ってきたりして。

 はいはいー、王子さま方の防御は完璧で鉄壁なんですねー。もう分かりましたからー。付け込もうとか一切考えてませんからー(棒)

 ラビにヒロイン……セイラさんやグーリンディ君なんかは賑やかし要員でこちらにも話題を振ってくれるいい子たちなんだけど……相乗効果なのかしら?

 騒がしすぎて、もう食事を味わうどころじゃなかったりするのよね。

 ルーエさんも、私ほどじゃないにしろ空気の悪さを感じ取ってるみたいだし。

 クルエラ嬢、ルーエさんにも、思い出したみたいにたまにお小言言ったりするから……。

 なまじっか正論だったりするから、他の人もそうだよねって言い出したりして、結局場を仕切る王子さま方に強引に話題変換させられたりとか。

 事情知っている人間からすれば、それは……って思ってしまう。

 で、毎回そんな流れになるんだったら、嫌気のひとつも差すってものでしょ。

 あとあそこの利用料金、案外馬鹿にならないから。切実なのよ?色々と。


 ……そうしてゆっくり季節は変わり行き、春の月も折り返しを過ぎる頃。

 生徒たちの現在の身体能力を測る、測定の日がやってきた。


 学年ごとに行われるそれは、まず上級生らから始まり、新入生が一番最後の実施となる。

 多分だけど……ある程度学園内に慣れてから、という配慮があるんじゃないかしら?

 上の方の考えなんて、私にも分かんないけどね。


 さっそく身長と体重など、各部位の測定に視力聴力などの能力測定を地道にこなす。

 この辺は健康診断もかねているようね。

 私の場合は人狼ハーフのせいか、体の大きさが平均な割に各能力で良い数値を残せたんではないかと思う。

 それから、やたらだだっ広いだけが取り柄の運動場に出て、まずは投擲と跳躍についての測定。

 こちらもいい数字を……って言いたいところだけど、投擲はともかく跳躍はちょっとやりすぎちゃって、担当の先生にびっくりされてしまった。

 人狼ハーフだって言ったら納得してくれたみたいだったけど。

 かといって手を抜く訳にはいかないから、こればっかりはしょうがないわね。

 投擲もねえ、飛距離より命中精度に注目してもらえると良い数値残せるんだけど。


 なんて、順番待ちの間ぼんやり考えながら周囲を見回してみれば、いくつかのグループが別の種目で測定をしていた。

 みんな頑張ってるわねー、なんてのんびり見ていたんだけど、その中に1人測定に参加せず、何やらふらふらと不審な行動をしている人物を見かけた。

 ……あれは、ルーエさん?


「どうかした?もしかして、誰か探してるの?」

 まだ次まで間があったので声をかけてみたら、彼女はちょっとホッとしたような、でもまだ不安そうに少しだけ視線をさまよわせた後、戸惑い気味ながらも返事を返してくれた。

「あの、どうも……リグレッドさん」

「うん。それで?何かあった?先生必要?」

 トラブルが起こっているのなら、とりあえず上に報告するのは当たり前だろうと思う。

 この場合の上っていうのはつまり、この場を仕切ってる担当の先生の誰か、になるんだけど。

 でもルーエさんは少しだけうつむいて、それからほとほと困ったような表情と声で「どうしよう」って言った。

「あの、それが、気づいたらセイラとクルエラ様がいなくなっていて……」

 は?

 行方不明、なの?


「とりあえず、心当たりは?」

「先生は!……ちょっと待って」

 駆け出そうとした私を止めたルーエさん。

 何か、あるのかしら?

「あの、その、多分きっと……馬場に行ったんじゃないかな……って。でもすぐ帰ると思うから……」

「は!?」

 今、このタイミングで馬場!?


「さっき、測定の順番待ちをしているときに話したの。この学園には馬場があって、そこには馬だけじゃなくて、騎乗用の魔物もいるんだって」

 ……何てこと。

 そういえば確かにこの時期、馬場でイベントがあったわね。

 ……嫌な予感しかしないわ。

 もしかしてそれ狙い?それ狙いなのね?

 いやそもそも狙って行ったのかって疑問があるけど、どのみち今現在一応行事中っていうか、とにかく先生に従わなきゃいけない状況でボイコットしてるって事は、相当な理由が無いとダメよね?

 ……クルエラ嬢ならいざ知らす(見た感じ自分のやりたい好きな事を優先させそうな雰囲気だったもの)セイラさんは……これがいけない事だって分かっているのかしら?

 そもそも馬場だって、一般生徒は立ち入り禁止になっているはずなのだけど。

 あそこは学科を超えた活動集団『馬武術研究会』がほとんど専用みたいな形で使ってて、他にも一時的に来客や教職員、または研究者用の召喚騎獣がおかれていたりするから。

 ……まあ、私、その許可得てたりするんですけどね。

 塔に転送陣があるから普段あまり使わないけど。


 それはともかく。

 召喚騎獣の中には搭乗者以外なつかなかったり神経質な子もいるから、そういう理由で危険だってことで部外者立ち入り禁止になっているんだけど。

 見学だって事前の許可が必要なのは言うまでも無い。

 素人が何するか分からないっていうのは、それほどに危ない事なのだ。

「~~~~~~っ、中に入っていなきゃいいけど!」

「待って、どこへ!?」

「とりあえず馬場に行って確認だけしてくるから、ルーエさんは先生呼んできて!」

「でもっ」

「事故が起きてからじゃ遅いのよ!」

「……っ」

 ちょっと強く言いすぎたかな。

 でも、これは本当の事だし。


 たぶん彼女は、あまり大事にしたくないのだろうと思う。

 友達が間違いなく怒られると知って、それもかわいそうだし、何よりそれが周囲に広まって他者からの印象が悪くなる事が怖くて嫌なんだと思う。

 ためらっていたのも迷っていたのも、きっとそのせい。

 すぐ戻るのならおとがめなしで済むし、先生だって問題ない方がいいんだろうけど……あの2人だし、あまり期待できないどころかやっぱり先生案件だと私は判断する。

 友人思いなのも結構だけど、あそこは貴女が思うよりずっとおっかない場所。

 何せ調教されているとはいえ、魔物がいる場所なんだから。


「学園の事、よく知ってるの?」

「まあね!庭みたいなものよ!」

「寮のどこを探しても、貴女は居なかった。……何者?」

「あいにく一般人よ!ちょっと『通い』ってだけ!」

 走りながら言葉を交わす。

 っていうか、思ったよりこの子、身体能力(スペック)高い!

 人狼ハーフの私と一緒に走れて、しかも言葉を交わせるなんて!

 先生には、ルーエさんの闇魔法『影』で伝えるって。

 ……勘違いかあるいは……とにかく間に合えばいいけど!

 向かう先は、校庭から校舎をぐるっと回って裏手にある馬場。

 普段は静かな場所なんだけど……。

 そこへ、突然「きゃーっ」という甲高い女子の……間違いなくセイラさんとクルエラ嬢の悲鳴が響き渡った。


 間もなく馬場に到着した私たちが見たのは、例の2人の女子たちと仏頂面した魔法騎士科の寡黙なイケメン(設定より)……の、ヴィクトール。

 ……どうやら2人とも無事なようね。で?これはイベントなのかしらぁ?(イラぁっ)

「どういう事だ、これは」

 ドスの利いた声でこちらに向かって問うけど、それはむしろこっちが聞きたいとこだわ。

 セイラさんはおろおろとこちらと彼を交互に見ていて、クルエラ嬢はうつむいて……よく見ると、肩が震えている?

「2人には今話を聞いたが、どうやらお前たちがそそのかしたらしいな」

「は?」

 素で声が出たわよ。

「何の話?」

「とぼけるな。クルエラ嬢から話はきかせてもらった。こちらの2人が馬場に入ったのは、友人のルーエ嬢に“言われた”からだとな。話の中には名前が無かったが、今ここに居るという事はどうせお前が後ろで糸を引いていたんだろう?」

「……どういう理屈ならそういう結論に達するのか、私にはさっぱり分からないんだけど?」

「ふん、それがお前の本性か」

 頭ごなしによく分からない事を決めつけられて、敬語も丁寧語も頭からすっぽ抜けたわよ。

 でもまあ、大体のところは把握したわ。

 つまりこの2人は許可も無く体力測定を放り出して馬場に行き、ウカツにも中に入り込んだところを彼に捕えられた訳だ。

 ……っていうか、アンタが何でここに居んのよ。


「そそのかしたっていうか……そうだっけ?あの、とにかくごめんなさいっ!ただ私が馬を見たいなって思っただけで!」

「そういう風に思わせるような言い方をしたのだろう。……卑劣な」

 アンタどんだけ私の事悪く思いたいの。

「聞く気も無さそうだけど一応言っておくわ。私は無関係だから。ついでに言うと、彼女(ルーエさん)もそういう場所があるって話をしただけで、行けとまでは言っていないそうよ」

 直で聞いた訳ではないけど、さっきの運動場でのそぶりを見るに、彼女だってこうなるとは思ってなかったはず。

 でも。

「嘘よ!私たちの興味を引くような事言っておいて、今更……ッ!それに大体、ここが立ち入り禁止だなんて貴女“たち”言っていなかったじゃないのッ!」

 オイコラ。

 声まで震えているけれど、それ本気で言った?

「……呆れた。貴女大公爵閣下の娘さんなのに、責任を彼女どころか無関係の人間にまで押し付けようっていうの?そもそも誰がどう言ったんであれ、実際に行動したのは『貴女』なんでしょうに」

 若干冷たい声だったのは、もう仕方が無いと思う。

 けれど、それよりさらに低い『本職』の人じゃないかと思うような声が、斜め前から聞こえてきた。

「確かに2人は過ちを犯した。そうだな、それは間違いではないだろう。だが誤解を招くような発言をわざとして、貶めようとするやつの方が責任が重いのは当然だ。大体友人だというのなら、何故わざと目を離す。何かあったら困るのはお前たちの方ではないのか?仮にも友人を名乗るのならば、常に行動を共にすべきだろう」

 だから、わざとなんかじゃないって言ってるのに!

 一緒にいろっていうのも、それは彼が大事な主君を守るべき立場にいるからこその考えなのだろう。

 でもそれは、果たしてこの場合当てはまるのかしら?

 大体今のアンタの状態だって、主君放り出して1人じゃないの。


「友人だからって四六時中一緒にいなきゃいけないとか、目を離さないと何しでかすか分かんないからそばにいろとか、それって対等な友人関係って言える?ここは託児所でも保育園でもないんだけど?それに、そばにいないって言うならアンタの大事な主君さまはどうしたのよ。人の事いえた義理?」

「貴様ッ、愚弄するか!」

「正論だから言い返せなくても、そうやって怒鳴れば黙ると思ってるんだ?ふーん」

「そうは言っていないだろう!それにこれは、殿下方とは何の関係もない!馬場の警報魔法が異常を知らせてきたので、一番近くにいた俺が確認しに来ただけだ!両殿下方の許可は得ている!……だいたいお前がその場にいたのなら、何故止めようとしなかった。それこそお前が何か企んでいる証拠だろうに」

「別学科の人間に何言ってんのかしら。それと、企むって言うのなら何か利益を提示してからにして欲しいわね。大公爵ご令嬢様を危機に陥れて何か利があるというのなら、私の方が教えて欲しいくらいだわ。それに私は“たまたま”見かけたルーエさんが“勝手に”いなくなった2人を探してたから、可能性のありそうなこっちまで一緒に探しに来ただけの事。出来れば止めようとして、ね。2人がいなくなる前から会っていた訳じゃないわ。それに、いなくなる前に彼女も私も一言だって断わりいれられてなかったのだから、知りようがないわよ。責任だって言うのなら、勝手にいなくなったそっちの責任じゃない」

「ふん、口では何とも言えるがな。止める気もなかったんであろうに。あわよくば傷つけばいいとでも思ったのではないのか?彼女らがいなくなれば、お前たちが殿下方の一番そばにあれるのだから」

「気持ち悪い推理してて楽しい?それに、推理するなら彼女に聞かず、そっちの言いぶんだけで決めつけるのはよくないと思うわ。大体この子たちを見失った彼女に責任があるというのなら、それこそ監督不行き届きだった先生や、アンタ自身も同罪よね?」

 警備してたわけじゃないけど、王族の護衛であることは間違いない。

 広義でいえば、危険を排除する仕事に、彼は失敗しているのだ。

「揚げ足を取るな。どちらの意見をきいたところで、結局止めようとすれば止められた事には変わらない」

「だからって、測定ほっぽってこっちに来るなんて誰も思わないわよ、普通は!だから、それだけ見ても彼女だけを責める理由にはならないでしょう?って話をしているの、私は!自分で起こした行動の先にどんな危険があるのかを考えるのは当然だし、そもそも自分の行動には自分で責任取るべきで、それが当り前の筈よ?何度も言わせないで」

 ……おかしい。なんで口論になったの。

 けど……一方的に決めつけて責め立てるのは、どう考えてもやっぱりおかしいと思うわ。



先入観+思い込み+後遺症=重症

彼がこんな性格なのには一応理由がありますが、だからって許されるかといえばそれはまた別の話で。



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