「命が宿りしモノ」付喪神×死神
前に活動報告に載せていたやつです
私は歩道橋の上で流れゆく車を見つめていた。ただ何も考えずに下を見つめる。
しばらく見つめた後にふぅと息を吐き、歩道橋から降りてどこかに向かう。
どこに向かうかなんて知らない。どこでもいい。ただ、どこかに向かわなければということだけが分かる。
その向かう先はもうすぐ寿命を終えるモノのところだ。
私は死神だ。だが、一般の方が思っているような人の命を奪うということはしない。
なにせ、私が奪う命は物に宿った命なのだから。物には生まれた時から命が宿っている。その命を刈るのが私の役目だ。
長年使っていた物には付喪神が憑くというが、さっきも言ったことだが長年使わずとも物には命が宿っているのだ。一つ一つに命は宿る。それを人は知らないだけ。
今日も平凡な家庭で一つの小さなコップが割れた。
それは私が寿命がきた命を刈ったから。パリーンという割れる音がしてコップが壊れる。それと同時に私は小さな命を一つ奪う。
私が奪う命あるモノはいろんな形をしている。人の形をしているがそれが指ぐらい小さなモノだったり、人とは全く異なる形をしているモノもある。
そして、今目の前にいる私が命を奪うモノは外見は人の十代後半から二十代前半の青年みたいだ。身長も小さい訳でも大きい訳でもない。その年齢の平均的な高さだと思う。
彼はさっき奪ってきたコップの小さな命とは全く違った。なんと言えばいいのだろう。彼は神聖な空気を醸し出している。
なにせ、彼は大昔に使われていたであろう日本刀なのだから。
「えっと、貴女は俺を殺しに来た者だよね?」
漆黒の綺麗な髪を靡かせながら、彼は問う。それに頷き、私はどこからか自身の武器である大鎌を取り出した。
大鎌を見た彼は「あれ?」と首を傾げた。その反応で私は「やっぱり」と心の中で呟く。
「その大鎌には命が宿ってないんだね」
彼の反応は正解だ。物には命が宿る。それはどんなモノにでもだ。
私のような死神の武器にも命が宿る。その武器に宿った命は永遠と死神と共に生きる。
だけど、私の武器である大鎌には命が宿ってなかった。それが死神の中で異例で私は孤立していた。支えてくれる命もなく、一人で生きてきたんだ。
「あなたに……あなたに何がわかるの。私がどんなに大鎌に命が宿ってないってだけで辛い目にあったっていうのに!」
彼に怒っても仕方がないと分かっていても、私は彼の言葉で傷付いてしまった。どんなに悲しんだことか、どんなに願ったことか。
どんなに待ち遠しく想ったことか。
「そう、貴女は待っていたんだね。ずっと、その大鎌に命が宿るのを」
「当たり前じゃない!死神にとって武器は一番大切なモノなの。心の支えなのに……」
死神と武器は常に一緒にいる。将来の伴侶と言っていいだろう。
死神にとっての心の支えの武器に命が宿ってない。それがどんなに苦しかったのか、きっと私にしか分からないこと。
「なら、俺が貴女と共にいてあげようか?」
「えっ?」
「モノは壊れても、命は刈られても、俺達は死ぬわけではない。新しいモノの命に宿って、そのモノの寿命を全うするまでそこで生きるんだ」
それは聞いたことがある。だけど、本当にこの大鎌に彼は宿るというのか。
「無理よ」
「無理じゃないよ。貴女が願ったから必ず、その大鎌に宿ろう」
だから早く、俺の命を刈ってくれないか?
早くというわりには彼は私を引き寄せ、強引に唇を奪った。強引だったのにそれが嫌だとは思わなかった。
「契約の印だよ。俺はもう貴女のモノだ」
そう耳元で囁く彼に大鎌を振り下ろした。
美しかった日本刀は真っ二つに折れても、その輝きが色褪せることはなかった。でも、何かが足りない。日本刀に宿っていた彼がいない。
大鎌を見ても彼の命が宿った気配がしない。
「あぁ、嘘吐かれちゃったみたい。あはは、今まで一番辛いよ」
気丈に振舞おうとするが、瞳から雫がこぼれ落ちる。
初めて「共にいてあげる」と言われたのに、私は馬鹿だったんだ。私はずっと一人で生きていかないといけないんだ。
「なんで泣いてるの。俺は貴女の側にいるって言ったのに」
ふわりと後ろから声の主に抱き締められる。
それと同時に大鎌が光を放つ。それは命が宿った証拠。
彼だ、彼が約束通りに来てくれたのだ。私のもとに。
「俺は貴女のモノで、貴女は俺だけの者だよ」
今度は後ろからではなく、前から私を抱き締め、唇を寄せた。
それは契約の印。ずっとあなただけだという証だ。