目を見張る実証
連れてこられたのは何もない平野だった。何もないというのは、命斗からみて建築物的ななにかや、生物的ななにか、であって、もちろん踏みしめる地面には雑草が鬱蒼と茂っているし、はるかな視線の先には森林も伺うことができる。しかし木々は空間を縫うように林立しているためか、陽の光など些細なもので、避暑としては使いやすいかもしれないが、多分誰も近づかないだろう。
「驚いたでしょう? 城下町から少し離れると、未開拓の土地は結構あるのよ。私たちのいる世界の都会と雰囲気は違うけれど、似ているところもあるのよね」
「ここを耕して何かしようって思わないのか」
「そうしてもいいと思うのだけれど、ほらみて」
となりに立つ來葉が森林の方へと指をさし、命斗の視線を誘導する。何かと思い視線はそちらへ。
木々のあいだの日の当たらぬ影の合間から、赤い眼光が見えた気がした。命斗の背筋に冷たい何かが這い上がる。
「なんだ、あれ」
「野生の動物よ」
「動物?」
「補足しておくと、人なんかもちゃんと食べるし、眼球とか一つから百あるのもいるし、土人形みたいなのもいるし、私たちの世界では魔物っていう類のものよ」
「それは動物っていう概念に一括りにしていいのか?」
「こっちの世界では常識みたいなものよ」
「じゃあ俺の知ってる知識も役に立つのか?」
「そうね、黒歴史も役に立つと思うわよ」
「俺の知識を黒歴史にするな」
「違うの?」
命斗は一拍十分な間をあけると、うつむいた。
「違わない」
「素直ないい子」
「うるさい……でも襲ってこないんだな、ってかよく聞くと唸ってないか?」
遠くからでも聞こえる、おそらく命斗が聞いたことのある【唸る】という感覚が、まるで猫の鳴き声に思える程の凶暴性を孕んだ獣音、それが微かにだが確実に、命斗の鼓膜を震わせる。
「人間が研磨を怠った本能ってやつかしらね。襲う相手は選べるくらいには賢いのよ」
命斗は隣にいる來葉の表情を伺おうと視線を移し、すぐに戻す。
「どうしたの?」
「い、いや、人間の本能ってやつも馬鹿にはならないんじゃないか?」
「? まぁいいわ、これから実験を始めます」
周りの威嚇もどこ吹く風の様相で、來葉が手のひらを上にして、胸の前に掲げた。次いでその手のひらの上が光ったかと思うと、手に握られていたのは懐中電灯。
「どっから出したんだ」
「能力でちょちょいっとよ」
「便利だな」
「さて、ここにあるのは均一安値で買える懐中電灯、この便利機器のスイッチを入れて……命斗くん、伏せて!」
「は?」
來葉は懐中電灯を斜め四十五度で前方に放り投げた。次いで命斗の頭を押さえつけ、しゃがませる。
「な、にするん――」
命斗の口から発せられる空気の振動は、上空で起こった現象により上書きされ上塗りされた。上空で響くのは轟音。次いで全身を打つような衝撃と熱波、最後に鼻に漂う火薬のような焦げ付いた匂いだった。
「いま、のは?」
耳の奥に残音が響く。來葉の手が離れ、命斗は來葉が懐中電灯を投げた方向へ素早く視界を持っていく。快晴の青いはずの空には、煙が漂ってそれを汚していた。
「拒否力っていう言葉は聞いたことがある?」
「……いや、ない」
「でしょうね、今作ったから」
「……まぁいい、何か言うのは後だ、それで」
「言葉そのままなのだけれど、この世界があの懐中電灯という機器が起こした現象の過程を拒否したのよ。この世界では魔法という一つの法則が出来上がっている。それ以上に法則は必要がない。法則という玉座は一つしかなくて、そこに座れるのは一つだけ」
いつの間にか周りにいた獣の唸り声は無くなっていた。広大な空間に恐ろしい静寂が帳をおろし、それを破るのは來葉だけだった。
「だから、それ以外の法則をこちらに持ち込んで使おうとすると、世界自体がそれを拒否する方向へと働くの。その法則と、それを使った人物をこの世から抹消するためにね」
「じゃあ柳宮さんが言ってた、この世界に機械の類を持ち込むなっていったのは、さっきのような爆発が起こるからか?」
「そうよ。もちろん、命斗くんの世界で魔法を使おうと思ったら、わかってるわよね?」
あの時電源を入れようとした自分をなぜ必死で止めたのか、命斗はその時理解する。全身が寒くなる。
「わかったよ」
命斗はそう答える、そしてその説明を聞いて浮かび上がった、ある一つの疑問を口にした。
「でも、俺と柳宮さんが持ってるのは魔法じゃないんだよな」
それを聞いた來葉は、出来のいい生徒を見るように微笑んだ。
「よく気がついたわね、その通りよ。私と命斗くんが使っているのは能力、魔法とはまた別の概念なの、だから向こうの世界で使っても問題はないわ、人前で能力を使ったあとどうなるかは、わからないけれど」
「向こうの世界での平穏はぶち壊したくないな」
「なら安心だわ。でもこの世界にも道具はある、魔法を媒介にして生活の水準を高める物がね。それを持ち込まないよう十分に気をつけること。私の講義はここまでよ、さぁ戻りましょうか」
來葉が振り返る、しかしその動きがぴたりと止まった。
「あら?」
何があったのかと命斗も振り返った。みると、兵の姿が見えた。おおよそ先程の爆音が城にまで伝わったのだろう。
「何か言い訳は考えてあるのか?」
「いえ、多分違うわ、一人だけしかいないとなると、伝令かなにかかしら?」
兵士が到着する、しかし装備は一般兵士のような重厚なものではなく革張りで、確かに起動面には優れているように見える。その兵が息を弾ませながら、來葉の元に辿り着く。
「どうしたの? そんなに急いで」
伝令兵は息を落ち着かせながらも報告をする。
「も、申し上げます! この城の東の先の森から大量の魔物の群れが……来ていると報告が上がりました、王が不在な今、拠点の兵だけでは対処が追いつかないとのことで」
「それで私に応援が来たわけね、数は? ここの兵士たちは無能ではないはずよ?」
「か、数は五百から六百と、報告が」
來葉の声が低く堅いものに変わる。
「一大隊ほどの魔物が? 偵察は居眠りでもしていたの?」
「わかりません! ですがこの数が急に現れたとは」
「とすると、報告前にやられたかしらね……すぐ向かうわ、あなたは戻って」
「ハッ! 失礼します!」
そう言うと兵は踵を返し城の方へと戻っていく。
「命斗君、こっちに来て、一度城まで飛ぶわ」
地面に白の紋様が現れた。前に見た魔法陣、おそらくあの時と同じだろう。
「大事なのか? 俺にはまだわからないんだけど」
「そうね、楽しく会話している時間はあまりないかもしれないわ」
命斗はそれを聞くと黙って円の中に入る。バチリと視界が明滅する感覚とともに、景色が様変わりする。
「うわ! ってクルハ様、にメイト!」
「あら、ちょうどいいところにいてくれたわねローナ、この子を頼めるかしら?」
どうやら適当に城の内部に飛んだらしい。加えちょうど奇跡的に目の前にローナがつっ立っていた。仕事が一段落したところなのか、頭につけていたカチューシャを外し、髪をおろしている。
「え? あ、わかりました」
なんのことだかわからないが、一応承諾しておく、ローナの受け答えはそんな風に聞こえた。
「じゃあお願いね」
そう言って優雅に微笑むと、再び光る円に入り姿を消す。
「メイト、クルハ様なんか急いでたみたいだけど、何かあったの?」
どうやらまだ城の全部に情報が届いているわけではないらしい。だが、これほどの規模なのだからしょうがないといえばしょうがない。命斗はあの兵が言っていたことをそのまま伝える。
「そ、れはちょっと笑ってられないけど、クルハ様が増援として向かったなら大丈夫かな? 多分城の兵たちにも情報はすぐ回るから、今やることと言ったら……」
「いったら?」
「雑談、ねー今私暇なんだよ、ひ・ま・な・の!」
まるで遊び道具が目の前にぶら下げられたかのように、瞳をキラキラさせながらローナは言った。
「おいおい、お前今自分で笑えないって言ったばかりじゃないのか?」
「言ったけど、わかってないね命斗は」
やれやれと呆れたようにローナは首を左右にふってみせる。命斗は不服そうに眉を寄せる。
「なにがだよ」
「クルハ様ってすっごく強いんだよ? 私が五人でかかって手も足も出ないくらい」
「まぁ、ローナが五人いても喧しいしな」
「なんだとー! 聞き捨てならーん!」
ポコポコと命斗の腕をローナは叩く。
「痛いって、わかったわかった、來葉様は強いんだな、だから心配はしなくてもいいと」
「そう! ってそうだ、クルハ様で思い出した」
「ん?」
「メイトってさ、クルハ様と二人で話してる時って、敬語もなにも使ってないよね?」
急なことに命斗は数秒ポカンとローナの顔を凝視する。空白の思考が埋められると、命斗は口を開いた。
「……バレてたの?」
「気づかないと思ってたの?」
「いや、はっきり言ってローナの洞察力は低いと見積もってたからな……これは気をつけないといけなくなった」
「ねぇ、最近私への言葉責めが命斗の中で流行ってるのかな? こう見えてもメンタル弱いんだよ私?」
「それは置いといてだ」「置いといちゃうんだ」
「別に俺が……柳宮さんにどう接してもいいだろ?」
「いや、良いんだけどさ……この前クルハ様と話す機会があったとき、冗談めかして言ってたんだよ『彼が敬意をもって接してきたら、可愛いと思わない?』って」
「どんな会話だったかはこの際聞かない、というかまぁ……柳宮さんは俺より年上だから敬語を使うべきではあると思うんだが」
気恥かしそうに、そして言いあぐねるかのように、命斗は頬をかく。その表情がローナにとって珍しかったのか、おぉと迫ってくる。
「だが?」
「お前、イヤに食いついてくるな……ほら、俺とローナが初めてあった時自己紹介しただろ?」
「うん、したね。でも今の話と関係あるの?」
「最後までまぁ聞け。俺はその時まで柳宮さんの名前も何もかも、というよりまったく知らなかったんだ。でも柳宮さんは俺の名前を知ってた」
「ほうほう、つまり?」
「見てたってことだろ、どっかで、俺とローナのやり取りを。証拠としちゃ、俺が自分の名前を口にしたのは、ローナとの自己紹介が始めただったってこと。ということはだ、俺がアリムに糾弾されたのも見ていた。それが、俺にとっちゃ少し気に食わなかったってだけだ。もう少し早く救いの手を差し伸べてくれても良かったんじゃないかってな。だからそのあとは少し反抗的になってたんだよ、だから敢えて普通に話したってこと」
小さい男だろ、命斗は自嘲気味に笑ってみせる。
「ふーん、で、今はどうも思ってないけど、結構な時間を普通に話していたから今更敬語を使うのは気が引ける、と」
「……その通りだよ」
命斗はうつむきながら肯定する。顔に熱が昇ってくるのがわかる、今になって自分の態度の愚かさと、心のジレンマを口に出すのと出されるのが、これほど恥ずかしいとは思わなかった。と、そんな命斗をのき込むようにしているローナの顔が、妙に赤いのが命斗の目に入る。
「なんでローナまで赤くなってんだ、さらに恥ずかしいだろ、やめてくれ」
「うぇ!? あ、いや……クルハ様が素直なメイトが可愛いって言ってた事が少しわかった気がする」
ローナがぼそりと呟いた。
「何か言ったか?」
「ううん! な、なんでもない」
ブンブンと両手を振りながら、ひたすらにノーの合図をローナは送る。怪訝そうに目を細めて眉根を寄せるも、命斗はそれ以上追求してこなかった。
「まぁ、これでこの話はおしまいだ。こんな話ししてたから緊張感がなくなったよ。そういやローナはもう仕事はないのか」
「今日は切り上げていいってメイド長が、だからさっき暇って言った」
「なら――」
何かが過ぎ去った。言葉としては単純だが、それは大きな意味を持つ。例えば命斗のそばを何かが過ぎ去ったのならば、それは大体この城のメイドか執事、または兵などの予想がつく。しかしだ、それが窓の外であり、複数の窓に同時に影が刺すほど巨大すぎる何かだとしたらどうだろう。
その何かの風圧だろうか、窓ガラスが恐怖で震えるようにガタガタと音を立てる。一つではなくこの廊下のすべてのガラスが、共鳴でもしたかのようにだ。
「な、なに?」
ローナが窓の外を確認しようと視線を移し、命斗も習う。そこで赤い何かを見た。窓の外、地面から遠く離れた所に位置しているこの場所で、巨大な何かはその場で姿勢を保つように羽ばたいている。一度羽ばたくたび、窓ガラスは震え。ビュオッという背筋が寒くなるような風音がガラス越しに伺える。
山脈を思わせるようなゴツゴツとした赤い鱗、夕焼けを背にしているため影になっているものの、黄金色に輝く爬虫類独特の双眸。手は羽ばたく翼と一体になっているのか、その翼の先にチョコンと四つ鋭い鉤爪が見える。ワニのように長い口からは、綺麗に並んだ鋭く光る牙。空飛ぶ蜥蜴、そんな形容が侮辱に値するほど、巨大で凶悪なそれは目の前に現れた。なんの脈絡も兆候もなく、ただそこにいるのが当たり前のように、そこで羽ばたいている。
「ドラ、ゴン?」
命斗はそう呟いた。そのドラゴンのような何かは、息を吸い込むかのように長い首を弓なりに反らせた。こちらに何かを吐きつけるように。
「メイト!」
突き飛ばされるような衝撃と共に、命斗は我に返る。いや、正確にはローナが命斗にタックルをかまし、その衝撃で放心状態から抜け出した、といった感じだろう。
焼け付くような熱波と爆音が響いたのはそのすぐあとだった。命斗とローナが立っていたはずのその場所は、まるで抉り取られたかのように、瓦解し融解してしまっている。ローナがいなければ今頃消し炭どころか灰一つ残らなかっただろう。
「メイト! 無事!?」
「お前のおかげでな!」
「なら逃げるから立って!」
男の性か運命かたまたまか、倒れ込む前に命斗はローナを抱きしめていた。密着していた状態からローナは体を離す。
「ローナの体を堪能できなかったのは残念だな!」
「こんな時に何言ってんのヘンタイ! ほら早く!」
ローナに窘められながらも素早く命斗は立ち上がると、ローナの背後を追う。後ろは振り返らなかった。またあの光景を見たら足が竦んでしまいそうだったからだ。後ろから追って来る。気配が迫る。
「ドラゴンってのはこう簡単に現れるもんなのか!」
「ドラゴンじゃない! 飛龍、ワイバーン! 普通は山脈にいて滅多に降りてこないって聞いたけど、わかんない!」
飛龍、ワイバーンと呼ばれたそれは軽々と命斗達に追いついてみせる、しかしそれどころか、ワイバーンは彼らを追い抜き、そして。
二度目、爆音と衝撃。目の前の廊下が空間ごと爆撃に毟り取られた。命斗とローナは衝撃波をもろに喰らい吹き飛ばされる。幸いにも廊下は絨毯がしかれているため、全身を打つことはなかったが、全身がヒリヒリと痛むところを見ると、軽度ではあるが火傷を負ったようだ。
「ローナ!」
「だいじょぶ」
二人はすぐさま起き上がるが、はたと気づく。
「逃げ道が……」
苦々しげに命斗は言った。この廊下は一本道だ、左右を削り取られれば言わずもがな、逃げ道などはあるはずもない。あるとすれば下の階だが、非情な破壊力のおかげか、優に五階分は抜き取られている。部屋に逃げ込むという手もあるが、結果は一度凌げるかどうかの違いだろう。
「どっちをとっても結果は同じ、か?」
「うぅ、強化は苦手だけど……命斗! こっちきて!」
命斗はローナの方へと駆け寄る、ローナはあの時のように素早くスカートの裾を止め、太ももにあるレッグホルダーから試験管のような細長いガラス瓶を取り出すと、蓋を開け、躊躇いなく一気に飲み干した。
「それ飲めるのか?」
ローナは一度顔を渋めるが、次の瞬間には彼女の輪郭が青く光り始める。何をしたんだ? 命斗がそう口を開く前に、ローナはまるで俵を持つように命斗を担ぎ上げる。
「ちょ、っとまってくれ!」
「待たない! しっかり掴まっててよ!」
心の準備も何もなしに、ローナは命綱なしのバンジージャンプを強行する。情けないと命斗は思いながらも、命斗は、あぁぁと声を上げる。地面が迫る、しかし、命斗の予想とは裏腹に地面に叩きつけられることはなかった。だが、ローナの肩ごしに伝わる鈍い感触。
「う、ぐぅっ!」
悲痛なローナの呻きと共に、命斗は少し離れた場所に転がされた。見ると片足を抱いて蹲っている。
「ローナ!」
命斗は急いで駆け寄った。何かしらの魔法でも使ったのだろうが、あの高さから自分を担ぎ、無傷で着地ができるはずがない。
「足でも抉いたか? 立てるか?」
「メイト、い、いから逃げて」
「できるかんなこと! おぶってやるから、はや――」
城の風穴から夕の陽を遮るように、絶望が舞い降りた。命斗の身長の優に三倍はあろうかと言う巨躯、眼光は確実にこちらに狙いを定めていた。周に兵の姿は見当たらない、兵の寄宿舎は近場にあるとは言え、助けなど考えるだけ無駄だ。飛龍は鎌首をもたげる。
「く、そ……ローナ! しっかりつかまってろ!」
命斗はローナの腰と膝裏に腕を回すと軽々と持ち上げてみせた。一瞬へ!? と驚きとともに目を白黒させたものの、そんなことは意に解すはずもなく命斗は走った。
そして、三度目。
だが、威力範囲外に逃れるのには、あまりにも遠い。けれども、運命か命斗の強運か、はたまた神の導きか。ほんの瞬き程度の感覚で、迫る炎の球はまるで裂かれたカーテンのごとく斜めに両断された。勢いと威力をなくしたそれは、周りに煙と熱をまき散らしながら、空気の中に溶け込んだ。
「随分と無茶をしますな、メイトさん」
命斗は視線を声の方へと向ける。屹然と、悠然と、片腕を腰へと回し、もう片方は自分の胸へと当て立っている、グリムの姿がそこにあった。飛龍の前にもかかわらず、その立ち振る舞いは寸分とてくるわず、変わる様子はない。
「さて、あなたですかな? この城の働き頭に手を出したのは」
冷たいものが命斗の背に流れた。敵意がこちらにないのは分かっていた。けれど、穏やかなはずの空気の震えの中に、否応なく人を萎縮させる怒気が孕んでいる。まるで薄い布に被せられた鋭利なナイフを首筋に当てられたような、研磨された声音。
「少しお遊びが過ぎたようですな」
グリムが続ける。
「躾がなっていない」