CHAPTER.6
「えーと、高園雪乃です!よろしくお願いしまーす!」
雪乃の大きな声がクラスに響く。そこまで声を出さなくても、とも思う。きっと彼女はうちのクラスのマスコッ…紅一点になるだろう。
そんな事を考えている間に、雪乃は小さなリスの霊獣を召喚していた。
「私、どっちかっていうと後方支援の方が得意なんだ〜。この子はリス子っていうんだよー」
どうなんだその名前は…ネーミングセンス危なくないだろうか。
「次、榊星夜。早くしろ。」
「あ、はい。」
どうやらこのクラスの席順は出席番号順ではないらしい。
自己紹介か…憂鬱だ…
「えー、榊星夜だ。…三年間、よろしく。」
おそらく、苗字より先は皆聞いていないだろう。教室がざわついている。
「あの…質問いいですか?」
周囲と小声で話していた女の子がおずおずと手を挙げて質問してきた。このシステムはマリアからずっと続いている。
「榊っていうのは…あの『榊』の事ですか?」
ああ、またか。
世界中の聖魔法使いの中で最強と言われている榊一族。俺はその現当主、榊劉歳の次男だ。
「…ああ、その通りだ。」
今度は教室がざわめいた。それ程までに『榊』の名はこの世界の中で有名なのだ。
聞かれるだろうとは思っていたが、やはり聞かれて愉快ではない。俺にとって実家は余り居心地の良い場所ではない。
半ばヤケクソ気味に召喚を始めると、ふたたび教室はしずまりかえった。
魔力を放出し自己空間を開く。その中から俺の相棒とも言うべき霊獣を呼び出す。
「ーーー呼びましたか、星夜。」
今度こそクラス中が湧き上がった。
夜の闇よりも深く神秘てキアな黒髪に見つめられれば吸い込まれてしまいそうになる闇色の瞳。そして、それらに対象的で雪のような白い肌。
そんな少女ーーいや、霊獣がそこにいた。
「…?どうして呼んだんですか?星夜。実技授業じゃないですよね?」
困ったようにきょろきょろと辺りを見回す少女。その愛らしい仕草にクラス中の視線が釘付けになっていた。
マリアのときもこんな感じだったが、このような霊獣を見たことはないのだろうか。その分余計に視線を集めていた
「あ、ああ。お前の事をクラスの皆に紹介しようと思ってな…」
「はい、わかりました。」
真横にいた俺から少女は視線を正面に動かした。
「始めまして、皆さん。星夜の妻のスレイです。よろしくお願いしますね。」
「ちょいまてお前」
思わず突っ込んでしまった。ま、まずい…!一族のことでただでさえ注目を浴びているのに、これ以上目立つと俺の平和な学園生活が…!
「つ、妻ですって…!」「霊獣と結婚なんて出来るのか!?」「そういえば、入学式の前に女の子を手篭めにしようとしたそうよ…!」
手遅れらしかった。
「星夜…?手篭めにしたとは一体...!?」
冷たい笑顔を浮かべるスレイ。あ。ヤバイときの顔だこれ。
「…悪りぃ、後でな、スレイ。」
「ちょ、まだ話はー」
全てを聞き終える前に強制送還。そして俺自身もそそくさと席に戻った。
「まー、お疲れ。」
「ふふふー。星夜くん、モテますな〜」
「…何が手篭めよ…」
将毅と雪乃とマリアの労いとからかいと何故か顔を紅くしながらの呪詛の言葉を聞くことになってしまったが。
その後も俺への興味と妬みの入り混じった視線をHR終了まで浴び続ける羽目になり、クラスメイトの名前どころか顔すらも覚えられないのだった。