CHAPTER.5
「まさか、同じクラスとはなー」
「とんだ冗談ね。こんな変態となんて。」
ひどい言われようだ。
しかし、何かにつけてマリアとは縁があるな…
と、そのとき。
「きゃっ」
小さな声が俺とマリアの後ろで発せられた。2人して思わず後ろを振り向くと、女の子が転んで床に這いつくばっていた。
「ちょっと、大丈夫?」
先に声をかけたのはマリアだった。女の子もすぐに立ち上がり、言葉を返した。
「はい!大丈夫です!ありがとうございます!」
その天真爛漫な口調に思わず微笑ましくなる。マリアも同じだったようで、自己紹介を始めた。
「初めまして。マリア・アーシュダットよ。タメ口で構わないわ。よろしくね。」
「俺は榊星夜だ。よろしく頼む。」
マリアに便乗して自己紹介を繰り出す。横から鋭い視線が飛んできたが、黙殺。
「私は高園雪乃だよ!よろしく!」
「よろしくね、高園さん。」
「よろしく、高園。」
「雪乃で大丈夫だよ〜」
「ここは賑やかだな。」
3人で話していると、1人の男子生徒が話しかけてきた。
身長は星夜よりも5cmほど高く、ガタイがいい。この体型なら戦闘では力押しが真骨頂のスタイルだろうか。
「悪いな、うるさかったか?」
「いや、大丈夫だ。それより、俺も仲間にいれてくれないか?」
「ああ、もちろん。」
俺に続きマリアと雪乃も頷く。なかなかの強面だが、割と社交的なようだ。
「自己紹介がまだだったな。俺はー」
そのとき、教室の扉が開けられる音がすると同時に、女性が入ってきた。
「全員席につけ!HRを始めるぞ!」
自己紹介は後だな、と目線を交わし、俺たちはそれぞれの席につく。
「さて…まずは名乗っておこう。私の名前は如月間宮だ。きみたちの担任を勤める事になった。生徒諸君。よろしく頼む。」
その冷たく氷のような美しさに教室が静まり変える。その様子を一通り見回した後、再び顔をあげた。
「ふむ。それでは1人ずつ自己紹介をしてもらおうか。出席番号順でいいだろう。」
そのセリフを受けて出席番号1番の生徒が前に出て自己紹介をする。そうして次々と順番は回っていき、先程話しかけてきたあの男子生徒の番になった。
「誠剛将毅だ。趣味は武器の手入れをする事。よろしく頼む。」
そうして順番はまた回り始め、やがてマリアの番になった。
「…マリア・アーシュダットよ。よろしくお願いするわ。」
どうやら少し緊張しているようだ。そんな様子を尻目にクラスのあちこちからおおっ、という声が聞こえる。
当然といえば当然だ。どう見ても日本人では無い金髪に青いサファイアの瞳。おまけに見た目は超絶美人だ。騒ぐなと言う方が無理かもしれない。
「あのー、質問いいですか?」
男子生徒から声が上がる。これまでそんな事はなかった。マリアの美貌がなす技か。本人は困惑してるけど。
「アーシュダットさんはどんな武器を使っているんですかっ?」
初対面からどんなこと聞いてんだ。
魔法騎士の中にはスリーサイズを聞かれるよりも嫌がる人もいる。おそらく、質問の中身は考えていなかったのだろう。
「えっと…じゃあ、この子達を紹介するわ!」
だが、マリアは気にしなかったようだ。右手が空中で魔力を放つ。刹那、空間に収縮した光が教卓の上で形となり、そこに子狐が現れた。
「狐の≪霊獣≫か。始めて見るタイプだな。」
ーーー霊獣。それは魔法騎士の持つ武器に宿るいわば使い魔のような存在だ。
霊獣の姿は様々で、この狐のように動物の姿から物に宿った九十九神のようなタイプまで様々な形態を取る。
生徒の中から疑問の声が上がる。
教師ー如月先生は苦笑いしながら答えた。
「…霊獣との関係は良好のようだな。」
如月先生が感心したように呟く。それもそうだろう。
現代における魔法騎士の要素とはなにか。
勿論、魔力や武術も重要だ。そして、それらと並ぶ重要な要素として、霊獣との信頼関係がある。
魔法騎士は魔法を使用するとき、多くの場合は霊獣の力を借りて発動している。
その際に行う霊獣との魔力の受け渡しの際に互いに信頼しているのとしていないのでは圧倒的に前者のほうが効率がいい。そのため霊獣との関係構築能力は魔法騎士の重要な資質と言えるだろう。
「そうだな…折角の機会だ。この際に自己紹介だけでなく、霊獣紹介もしておくといいだろう。強制はしないがな。」
そう言って先生は教壇の上に上がる。いつの間にかマリアは席へ戻ってきていた。
「ところで皆…この世界で最も使われている魔法とはなんだと思う?」
唐突な問いに面を食らう。さっきまでの話となんの関係があるのだろう。
だが、言われてみれば考えたことがなかった。水魔法?いや、光魔法だろうか。
「マリア、分かるか?」
ほとんどの生徒が疑問符を浮かべている時、指名された雪乃はさらっと回答した。
「自己空間魔法、です。」
流石にいきなり話を振られたからだろう。雪乃の声は少し硬かった。しかし、その答えは如月先生を満足させたようだった。
「うむ。その通りだ。ここにいるほとんどの者はその名前を知らなかっただろうが、無理もない。余りにも基本的だからな。だか、君たちはその魔法をしょっちゅう使っているはずだぞ。」
一体どういうことだろう。そんな魔法を使っていただろうか。
「君たちは普段、武器をどこから取り出している?」
あっ、と声をあげそうになる。そんな星夜の様子に気づく訳もなく、先生の解説は続く。
「ここにいる私たちのように、実戦レベルの魔力を持つものは皆、規模は違えど≪自己空間≫を持っている。」
静まり返った教室を如月先生は見回し、話し続けた。
「人の内にある魔力が時空をわずかに歪め、異空間を作る…その空間に干渉するには歪めたものと同質の魔力を持つもの…つまり自分自身しか干渉することがてきない。これが≪自己空間≫の正体だ。」
ここまでくれば俺にも分かってきた。他にも分かってきた奴もいるようだ。
「では、この空間の使い道は何か?それが自己空間魔法だ。自己空間内部には、生命体で無ければどんな物でも収容できる。無論、霊獣もな。」
これでもう、全ての生徒が理解しただろう。如月先生は、ただし、と前置きして話を続けた。
「無制限に収容できるわけでは無い。個人差はあるが、質量が大きな武器では1つが限度だろうな。」
ちなみに、先程マリアはどんな武器を使っているかと聞かれて霊獣を召喚したが、あながち的外れではない。霊獣はその性質が武器の特性を表している事が多いのだ。
「霊獣には独自の名前をつける者も多いが…その狐には名前を付けているのか?」
「はい、コンスケです。」
コンスケか。いかにも狐、といった感じでベタではあるがあのマリアがそんな可愛らしい名前をつけるとは…意外だ…
「なるほどな。思ったより時間をとってしまった。もう一匹の方は後日でいいだろう」
「えっ…な、なん…」
マリアが驚いた顔をしている。気にはなったが、再開された他の生徒の自己紹介を聞いているうちに忘れてしまった。