CHAPTER.1
「ここだな。間に合ったか。」
「間にあってよかったですね、星夜!ぎりぎりせーふ!」
「他人事みたいに言うな!スレイが朝飯はパンじゃなくてご飯がいいって駄々こねるからこんな時間になったんだろうが!」
むー、とスレイが頬を膨らませる。言い返せなくなるといつもこうなるのだ。
俺、榊 星夜と俺の隣にいる黒髪の少女、スレイは現代の日本に数校しかない軍属の専門的な魔法と戦闘技術の授業のある高校、軍立東郷学園高等学校の正門の前にいる。
俺たちは今日からこの東郷学園の生徒になる。正確には『俺たち』ではなく『俺は』だが。
「スレイ、こっからだ。これでようやく、親父にも一族にも縛られず自由に生きていく事ができる。」
まだむくれているスレイに真顔でそう告げる。それにスレイも、いつもからは想像出来ない真面目な顔で返事をする。
「はい…星夜はこのときまでずっと頑張ってきたのを、スレイは知っています。だから」
真面目な顔が徐々に紅潮していき、一呼吸おいた後スレイはこう言い放った。
「だから…今日は日課の寝る前に100回すりすりを倍の200回に増やしてあげます!出血大サービスです!なんなら今からでもいいですよ!さあ、どうぞ!」
「するか!てか、したことねえよ!既成事実を捏造するんじゃねえ!」
こいつの真面目顏を信じた俺がバカだったか。不満げなスレイに向かって手をかざす。
「立ち話はお終いだ。もう入るからお前は戻ってろ。」
「ゔー、星夜、覚えてろ!ですよ!」
まるで悪役のような捨て台詞とともにスレイは光の粒子となって消えた。ふう。やっと静かになった。
「よし、いくか。」
俺は東郷学園への第一歩を踏み出した。これから、俺の高校生活が始まる。