現れる
僕の目の前に筋肉にピンクのブーメランを履いた男がうつぶせの状態で倒れていた。
僕は、手に持っていたパイプ椅子を床に放り投げた。パイプ椅子を放り投げた衝撃とその音が、校舎の廊下に鳴り響いた。
「だから、言ったろ?ここにくれば良いって」
僕は、ノリコに言ったが、ノリコはなにも返事をしなかった。ノリコもパイプ椅子を持っていたが、放り投げることなく、足下にそっと置いた。
僕は、興奮状態がしばらく収まらなかった。これは、良い意味ではなく「悪い意味で」、である。
やってしまった。これは、もしかしたら死んでしまったのだろうか。いや、しかし、コイツはブンタとホネを殺した奴だ。当然の報いだと心の中でつぶやいた。僕は、ふとコイツがどんな顔をしてうつぶせになっているのかが気になった。
僕は、おもむろに体を反転させようとしてその目の前にある肉体の体に触れようとした。
「待って」
ノリコが僕を止めるようにして言った。
「触ってはだめ。まだ、生きていると思うから」
ノリコは、不思議なことを言い始めた。生きている?どう見たって、コイツは死んでいる。うつぶせになってピクリとも動きやしない。僕が、放った一撃は確実に首にヒットしたのだ。渾身の一撃であったには違いない。いくら、マッチョマンだからといって、あれでは身動きもとれない。
「あなた、とてもおかしい顔をしてるわよ。なんで、笑っているの?」
ノリコは冷静に僕に言ってきた。僕は、周りを見渡した。保健室らしき場所の入り口に設置してあったガラスを見た。確かに僕は笑っていた。しかし、その笑顔は引きつっていた。
「なんでだろう。ははは」
次の瞬間だった。
僕は、ふと後ろに誰かがいるような気がした。不思議と後ろを自然と振り返った。
サングラスをかけた筋肉の固まりのような男が立っていた。ブルーのブーメランパンツを履いていた。一瞬に背筋に嫌な汗を大量にかいた。そして、拳を振り下ろして、僕の顔面をものすごい勢いで殴った。メキメキと嫌な音を立てながら、僕の体は保健室前のガラスに叩き付けられたのだった。
ノリコはその光景を呆然と見つめていた。彼女の脳内の処理速度が現実の状況に追いついていないようであった。悲鳴の一つもでなかった。
「おやおや。僕の兄弟が倒れているではないか」
そういって、ブルーのブーメラン筋肉がそのピンクのブーメラン筋肉に近づいていった。
「うむー。これは酷い」
ブルーはピンクの体をうつぶせの状態から仰向けにした。ピンクは目を閉じていた。ブルーはその閉じた目を無理矢理こじ開け、瞳孔の開き具合を確認した。
「死んでいる」
ブルーは、ピンクの体を持って、ピンクの心臓のあたりを激しく叩いたが、ピンクの意識は戻らなかった。そして、ブルーはピンクの亡骸をそっと床に置いた。
ブルーは激しく激高した。誰もいないこの小学校の廊下でブルーは咆哮し、床を叩きまくった。そして、独り言のように「遅かった、遅かった」と繰り返しつぶやいていた。
そして、ブルーは立ち上がり、僕の方を向いた。
「君も死んでくれるのか」
ゆっくりと歩いて、僕の方に向かってきたのだった。