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考える

 僕は、自分の部屋で音楽を聴きながらテレビを見つつ漫画を読むマルチタスクなことをやっていると、携帯の着信音が鳴った。そして、確認してみると、それはノリコからのメールであった。


『話がしたい。明日、小学校の裏の空き地に来てくれないか』


 なんとも、短い文章である。もう少し、顔文字やら絵文字の一つもいれても良いのではないかといつも思う。さらに、最近では流行りのメッセージアプリや、SNSを彼女は好まない。理由を一度だけ聞いたことがあるが、彼女曰く「どうして、そんなに人の行動が気になるのか私にはよくわからない」と言っていた。


 僕は、彼女に『わかった』と短い返事を送ると、返信から一分もしないうちに返事が帰ってきた。彼女のことはよくわからない。『明日の15時に空き地の入り口で』




「ノリコちゃんは、どうしてそんなに暗いの」

「暗くはない。きみの方こそ、どうしてそんなに明るいの」

「いや、私はそんなに明るくなんか……」




 次の日。僕は、空き地に向かって歩いていた。その道中、あのことばかり考えていた。

『きみが食べたアメーバを……』

 僕が、アメーバを食べたことだ。しかし、僕は食べていない。アメーバというのはあの無限に分裂する生命体のことをいうのだろうか。そもそも、アメーバというのは肉眼では確認できないレベルのものなのではないか。そうだとしたら、いつ食べたかなんかわかるはずがない。でも、彼女は僕が食べたと言い張る。



 小学生の頃、僕は男の子ではあったが、おままごとをするのが大好きであった。

「ノリコちゃんおかえり!」

 私は、元気に彼女を迎えた。設定としては、私が主夫であり、ノリコちゃんが仕事から帰ってくるという役である。現代社会を強く意識したおままごとであった。

「ただいま」

「ごはんにする?お風呂にする?それともわたしにする?」

「ごはんがいい」

 こどもというのは怖いもので、当時やっていた夜のドラマのセリフをそのまま私は引用していた。この歳になって思うが、よくこんなセリフを脚本家は思いついたものである。恐ろしい。

「ごはんね。わかった。じゃあ、座ってテレビでも見てるといいよ」

 私は、そういってノリコちゃんをリビング(という設定の場所)に座らせて、ごはんを作ることにした。今日のごはんは、泥だんごのおにぎりと、葉っぱのサラダに、公園の水と、バッタの煮付けと、蟻の姿煮と贅沢な献立を予定していた。なぜならば、ノリコちゃんが重要なアンケンをまとめて、新規顧客をカイタクしたことによってショウシンが決定したからだ(これも、その当時のドラマの設定だった)。

 私は、丹念に泥だんごを握った。ゴールデン泥だんごというものを作れるのは、近所では私だけだった。




 ふと気がつくと、僕は空き地の前に立っていた。

 なんだか、懐かしいことを思い出していた。ゴールデン泥だんご。ちょっとやそっとじゃ壊れなくて、石のように固く、光り輝いていることからそのような名前がついていたような気がする。

 今でも、僕はそれを作れるのだろうか。いや、もう泥を手にいっぱい付けて遊ぶのはご免だ。爪の間に泥が入るのが耐えられない。


「遅かったじゃない」

 空き地の入り口の金網に背に寄りかかっているノリコが言った。

「遅くないよ。5分前」

 空き地の近くにあった公衆時計を指差して僕は言った。

「その時計壊れてるわよ。もう15分も過ぎてる」

 そんなことはない、と言い返そうと思ったが、携帯の時間は確かに15分過ぎていた。

「ごめん」




  


 

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