喰らう
僕は、大学受験を終え、特にやることもなく家でダラダラと過ごしていた。
浪人時代はとても辛い日々であった。周りの人間は推薦やら指定校やらで大学を簡単に決めていった。もう少し努力すれば、上のランクの大学に行けたであろう友人たちも、この時の不安に打ち勝つ努力を放棄して安易な道へと進んでいった。
その友人たちの背中を見て、僕は卒業した。しかし、僕はなんとか浪人一年目で希望の大学に合格することができた。きっと、この時の不安や苦労は将来何かに役立つだろう。そう、勝手に今は解釈している。精神力というものは意外とこういうことを乗り越えることでしか、培われないものだ。
と、一人で勝手に勝者の妄想に浸っていると、僕の携帯電話に着信が着ていた。
「……ホネか」
ホネは、どうしてか偶然にも僕と同じ高校に進学した。高校自体は進学校ではあった。しかし、ホネは元々ブンタの腰巾着である。ブンタなしでは生きていけない人間だった。ちなみに、ブンタは高校へは進学せず、実家の家業である酒蔵を継いだらしい。このご時世に、継げるものがあるのはありがたいことなのかもしれない。
そんなホネは、高校に入ったその瞬間にいじめられていた。いかに、ブンタという存在が彼の後光となって君臨していたのかがよくわかる光景であった。同情の余地は多少はあったと思う。
僕は、さすがに小学校からの幼なじみをそのままにしておくほどの勇気や、冷酷な決断をすることはできず、彼とは定期的に話したりしていたが、すっかり正確も丸くなってしまった。ホネというあだ名がつけられるくらいその細い体が、より一層細く感じたのは、たぶん僕だけだろう。
「あ、大学受かったんだって?おめでとう!」
なんだか、元気な声で話しかけてきていた。
「おーありがとうぉ。なんとか、受かったよ。今年は、周りの受験者の質が例年より低かったのか、それに加えて出願者数も少なかったしね。なにかと運に恵まれた気がする」
俺は、謙遜してみた。
「そうなんだ。それでも、よかったじゃん。ああ、大学受験の結果もそうなんだけどさ……」
「ん。なによ」
「あのさ、小学生の頃にさ、君が空き地でなんか見たっていった話あるじゃん」
そんな話あったっけかと、思った。
「それについて、ノリコちゃんが、なんか君に話したいことがあるって」
「ノリコが?ええー」
話せば長くなるのだが、ノリコとは実は喧嘩中であった。だからだろうか。ホネを媒介として僕に連絡してきたらしい。
「まぁ、聞くだけなら聞く」
「わかった。彼女からの伝言はね……」
『きみが、あの日あの場所で食べたアメーバを、他の惑星からそのアメーバ一族が巨大な宇宙船に乗ってこの地球、日本探しにやってくるから、早くなんとかその体内からアメーバを取り出して、そのアメーバ一族に返した方が良いよ。きみの命が危ない』
「という。メールがさっき着ていたから、一応伝えたよ」
はて。アメーバとはなんぞや。アメーバなんて食べた覚えは無い。そもそも、アメーバなんて食えるのか。いや、もしかりに食べていたとしたら、僕の体は今頃アメーバだらけであり、僕はアメーバにでもなってしまうのではないか。指を鳴らすことによって、目の前に無限にアメーバを作ることが出来るヒーローにでもなれてしまうのではないか。いや、アメーバを増殖させる能力の使い手は、ヒーローよりも、ヒール、悪役に向いている。
「おーい」
ホネが呼んでいた。
「おお、ごめんごめん。とりあえず、わかったよ。なんかよくわかんないけど」
「どっちだよ。まぁ、いいや。また、連絡するよ。大学合格記念祝勝会でもやろうよ」
「お、いいね。楽しみにしてる」
「じゃ」
それから、しばらくしてノリコからメールが一件届いた。