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02.別名、M族の逆襲



――あーあ、だから言ったじゃないっすか。



 あんまり向こうの怒りを煽るとロクなことがないし、絶対に呼び出されるって。そう俺が呼び出されるんっすよ鈴理先輩。この俺が。


 帰りのSHRを終えた俺は、廊下で仁王立ちしている親衛隊に深々と溜息をついて頬を掻いた。今か今かと待っていた親衛隊の長、副長は俺の姿を捉えるや否や、ちょっと来いとばかりに唸って迫って来る。

 その形相とオーラから、見るからにヤーな予感しかしない俺は、


「いや今日はちょっと用事が」


 なんて言葉を濁して愛想笑い。

 戦闘が始まる前にエスケープしようと試みる。



 だけど彼等は有無言わせず、さっさ両脇に立って腕を取り、そのままズルズルと俺を引き摺った。

 頓狂な声を上げる俺を余所に、親衛隊が連れ込んだ場所は校舎外の体育館裏。正しくは体育館裏付近の古びた用具倉庫。


 あらかじめ錠を解除していたらしく、倉庫は開いていた。

 まさしくリンチの場所にうってつけの場所に連れ込まれた俺は、中に押し込まれてドッと冷汗を流す。親衛隊隊長と副隊長からヒシヒシと感じる怒りも怖いんだけど、倉庫内にいる他の親衛隊の方々もチョー怖い。俺をギンギンに睨んでウェルカムしてくれる。


 マジっすか。本気っすか。俺対親衛隊、リベンジ編っすか。

 しかも今度は鈴理先輩抜きとか、どういうシナリオを描きたいのか容易に想像付いちまうんだけど!


 恐れおののきながらも親衛隊の皆さんに、どうもっと取り敢えずご挨拶。

 一身に嫉妬の眼を浴びながら、ささっと後ずさって踵返すんだけど、柳先輩の手によって無常にも扉は閉められた。薄暗くなる倉庫内を満たすのは殺気のみ。


 こぇえええよ、そんじょそこらのB級ホラーよりも怖いこの状況! 展開が見越せる分、恐怖心が余計煽られるというか。


 ……ははっ、俺ってば超人気者! こんなにも沢山の方々から(男ばっかだけど)、ある意味お熱い視線を送られるなんて(殺意ガンガンだぜ!)、俺、シアセモノ! もう、ポジティブにならないとやってらんねぇ! 泣きたい半歩手前だ!


 ゴクリと生唾を飲む俺は、「なんか用っすか」努めて愛想良く質問。

 一応、俺達と親衛隊の間には契約が交わされている筈。そう、俺達の関係に口を出さないっていう契約が。

 それを忘れちゃないっすよね、親衛隊の皆様。


「なんの用だぁ?」


 地を這うような声を出したのは副隊長の高間先輩。

 ガンッとバスケットボールの入ったカゴを蹴って俺に吠えてくる。


「1年C組豊福空っ! もはや我慢の限界だ、お前って男は生かしちゃおけないっ。男の敵、滅べ――!」


「えぇええっ、ちょ、ノッケからその台詞きちゃいますか! 俺はまだまだ長く生きるっすよ!」 


「うるさいうるさうるさーい!」


 地団太を踏む高間先輩はバスケットボールを引っ掴むと俺に投げ付けてきた。

 勢いのあるバスケットボールを避けて(背後に立つ親衛隊に当たったらしい。軽く声が聞こえてきた)、ちょっと落ち着いて下さいよっと声を掛ける。

 気が治まらないのか、高間先輩が次々にバスケットボールを投げ付けてくる。


 アブナ、ちょ、キャッチはできるけど、バスケットボールは大きいから二個が限界っ、アブナ!


 飛んでくるバスケットボールを避けていると、柳先輩が大荒れの高間先輩をどうどうと宥め始める。


 よって攻撃の手は止んだけど(なんで最初から宥めてくれなかったんだよ)、高間先輩は「たいちょぉおおお!」僕はもう駄目だと嘆いて、隊長の胸へ。


「強くなれ!」


 かたく副隊長と抱擁する柳先輩は男泣きをしてオイオイオイオイグスン。

 どうでもいいけど、むさ苦しい光景だな。宇津木先輩はああいうのにキュンなんだろうか? いやでも彼女は親衛隊の事は口走っていない。

 ということは、彼女もむさ苦しいとドン引いているのかもな。今度、好みを聞いてみよう。


 グズグズグスンと涙ぐんでいる高間先輩は、「あいつなんて塵になればいんです」と指差してくる。


「そうだなそうだな。塵になればいいな」


 相槌を打つ柳先輩。

 同調してもらってちょっと気が楽になったのか、「お前なんて!」高間先輩がまたもや俺にバスケットボールを投げ付けてくる。しかも渾身の力を込めて。


 受けたら絶対に痛いと分かっているから、俺は紙一重に避けた。

 親衛隊の皆さんも避けないと怪我することを察したらしく、勢いづいたボールから逃げる。受け手がいなくなったボールは壁にバウンドして、そのまま投げた主へ。


「た、高間ぁああ!」


 柳先輩が焦る中、物の見事に顔面で受け止めた高間先輩はぐらっとその場に転倒。軽く目を回していた。

 今のは自業自得だろ。


「よ、よくもイタイケな副隊長をっ……君は悪の中の悪だな!」


 そうだそうだ、お前はワルだ! 他の親衛隊さん方が声を揃えた。

 ……今のやり取りのどこに非があるんっすか。30文字以内で説明して欲しい。とにかく、用がないなら俺は帰りますよ。


 相手に物を申せば、柳先輩は我慢の限界だと言っただろう? と、俺に向かって鼻を鳴らした。

 そう言われても、鈴理先輩と俺の仲には口は出せない筈なんっすけど。


「水面下で二人の仲を裂こうとしていたのはさておいて」


 なにか目論んでいたんっすか。知らぬが仏ってまさしくそのとおりっすね。


「豊福空、我々は見守り隊として二人の仲を微笑ましく見守っていた。

ああ、歯痒い気持ちを噛み締めながら見守っていたとも。毎度キスシーンを目の当たりにする度に涙を流し、押し倒される場面を視界に入れる度に畜生と壁を叩き、恋人らしいムードを肌で感じる度に呪いというもので世の中を動かせないかと考えたが、見守ってやっていた!」


 限りない上から目線っすね。感謝すべきところなんっすか? そこ。

 てか、見てくれていたんっすね……俺等の日常のやり取り。


 引き攣り笑いを浮かべている俺の一方で、柳先輩は苦情を吐き捨てる。


「学校は公共の場だというのに、白昼堂々イチャイチャラブラブ。毎日のように攻められ、キスされ、痕をつけられ、なんて羨ましいことをされ、ゴッホン。

 それに君は彼女という女神がいながら、他の女と噂になった。とんでもない不謹慎行為! なんてことをしているんだ君は?! 此方はまったくもってけしからん奴だと思うね」


「あー……否定できない箇所もあるんで、強くは反論できないっすけど。でも、俺、どちらかというと襲われている側なんっすけど。噂も不本意です」


「やっかましい! 今日の昼休みなど、自分からキスをしたではないか! 身の程を知れっ!」


「彼氏だから、それくらい許されると思いますけど?」


「ぐっ、た、確かにそうだが」


「そーんなに嫌なら、鈴理先輩に言ってみてもいいですけど。多分、不利になるのはそっちじゃないっすかねぇあははは」


 ついつい意地悪いことを言ってしまうけれど、向こうが仕掛けてきたんだ。これくらい許されるだろう。


「……ええい、キスしようがなんだろうが、これじゃ納得いかん! 見守り隊はそんな不謹慎な君を正そうと思う。我がアイドルのためにね。そう、これは君達の仲への口出しではない。道徳指導だ」


 呼び出した理由はそこにあるんだよ、そこに。


 ニッコリと柳先輩が握り拳を作る。薄っすらと浮き出ている血管が怒りの度合いを示していた。


「遠慮するっす」


 やんわりお気持ちをお返しするんだけど、出入り口は塞がれているから逃げられない。


 さあ、どうする俺。

 人数的にも向こうの方が多い。見積もって10人くらい。対して俺は1人か。

 ちくしょう、相変わらず卑怯な親衛隊! 道徳指導と言いつつ、結局リンチまがいなことするんじゃないかよ! 袋叩きなんて絶対にごめっ、うわっち!


 指を鳴らした柳先輩の合図で、背後にいた親衛隊のひとりが羽交い絞めにしてきた。柳先輩に気を取られていた俺はあっという間に捕まってしまう。


「ぼ、暴力は駄目ですよ! 暴力は何も生まない、ここは平和を尊重してお話し合いで解決しましょう!」


 あたふた向こうに訴えてみるけど、指導するだけだぞっと微笑まれるだけ。

 うわぁああ、なに、その鬼畜じみた微笑! あんた等M族でしょーよ! もしかして男にSっすか?! それもタチが悪い!


 力で地面に捻じ伏せられる。


「アイデッ!」


 呻くうつ伏せ状態の俺に、コノヤロウ、羨ましいことされているんじゃないぞと数人からバシバシと叩かれた。足蹴りも少々。


 アイテッ、アイテッ!

 痛いですから……そんな卑怯な手で暴力行為とか最低っすよ! 陰湿陰険暴力禁止、無防備な相手にそんなことしてもいいと思っているんですか。


 タンマを掛ける俺に、「これも君のためだと」柳先輩。

 自分のベルトをズボンから引き抜くと、まるで鞭のように振舞って地面にそれを叩きつける。


 ゾッとした。

 ま、まさかそれで俺を引っ叩くなんて非道なことはしませんよね?

 鞭で叩く、確かにそれは典型的なSMプレイではありますけど、いやでも、俺は男にされようが女にされようが彼女にされようが、鞭はごめんっすよ。

 鈴理先輩が仮にしたいと言っても、受け入れられない自信がある。


「よし、指導と並行して我々が君を『M』に仕立ててやろう。君がMになれば此方も、同士が鈴理くんとお付き合いしているな、と幾分現実を受け入れられそうだしな」


「そ……そうだ。豊福空、お前、Mになれ!」


 復活した高間先輩が起き上がって、鼻柱を擦りながら立派なMにしてやるとシニカルに笑う。


 む、無茶苦茶なことを仰るんっすね!

 嫌ですよ! 俺はNを貫き通したいイタイケボーイ。死んでもMになんてなりたくない。

 『Mにする』は口実で、日頃の恨みつらみ鬱憤嫉妬を晴らす気だろう。目が物語っているんだけど。


「嫌ですからぁあ!」


 勘弁してくれと俺は嘆き、喚き、大暴れした。

 バチンとベルトが地面で唸り声を上げる。つい動きを止めて顔を強張らせる俺に、「Mの鉄則」まずはこれからする行為に対してありがとうございますと言うだぞ、柳先輩がご指導してくれる。


 なるほどなるほど、じゃあ俺はMになれませんね。ゼンゼン有り難いなんて思っていませんもん!


「罵声も痛みも快感だと思い、甘受するべし。そうすることで君はスバラシイMの一歩を踏み出す」


「じゃあ俺は全力で後ずさります! こんなご指導いりませんっ! アイテテテッ、ちょ、そこ、手を緩めて下さいよ。痛いです」


 俺を押さえ込む手に異議申し立てするけど、「痛みはありがとうございますだって」と指摘される。

 だーかーら、俺はMじゃないっすから有り難いなんて思いませんよ! はーなーせーっす!


「あまり暴れるようだと、高所に連れて行くぞ。豊福空」


 高間先輩が暴れる俺に脅しを掛けてきた。


 うぐっと言葉を詰まらせる。

 俺の一番の弱点を……卑怯も卑怯だ。高所に連れて行かれるなんて真っ平ごめんだし、ああもう俺の選択肢は一つしかないじゃないですか。

 本気で高所に連れて行かれそうだったから、俺は大人しくした。一人対大勢なんて高が知れている。


 ………大人しくしていられたのは三秒でした。


 やっぱり暴れます! 俺は痛いのも高い所も嫌です!


 バチンッ、ベルトが肌を叩いた。

 でも痛みはこない。何故なら俺の肌が叩かれたわけじゃないから。どうやら俺を押さえ込んでいる親衛隊の誰かに当たったらしい。


「隊長。今のはないですって」


 非難の声を上げている。

 「ごめんごめん」微苦笑を零している柳先輩は、今度こそ当てるからと俺を見据えた。


「おっとブレザーは脱いでもらおうか。痛み……じゃない、快感が半減するから」


 ちょぉおお、どっちがワルっすか! あんた等の方が数百倍ワルっす! この悪党っ、悪党!


 抵抗するものの、何本もの手は俺を押さえ込んだままブレザーを脱がした。

 カッターシャツ姿になった俺は、「陰湿な嫌がらせっす!」もはや半狂乱。痛いの嫌だ、死にたくない、Mは無理と叫びまくった。

 あんまりにもギャンギャン叫ぶもんだから、「これでは苛めているようではないか」どうどうと柳先輩が落ち着くよう促してくる。


 これをイジメと名目せずに、なんと称すんですか! 落ち着けるわけないじゃないっすか!


「よーく考えてみてくれ。君は『M』の素晴らしさを知り、僕等はストレスが発散ができる。更に道徳指導もできる。一石三鳥だと思うんだが。君、もうMになりかけているし」


「そっちに得はあるかもしれないっすけど、ゼンッゼン俺には得がないっすよぉおお! しかも俺、Mじゃないっす! そりゃあ女の子にヤられていますけどっ、でもNと言い切ります!」


「大丈夫だ。加減はしないから!」


「尚更暴れま「バチンッ!」アイッデェエエ! やりやがりましたね! 感想を述べますけど、嬉々も快感も畜生もないっすぅう!

 あ゛ーもぉお怒った! 俺、今日は無理でも後日、絶対に仕返ししますからね! 先輩も後輩も関係ないっすからね!」


 背中に二、三回、ベルト鞭を受けた俺は理不尽な行為に怒り心頭。

 足をばたつかせながら仕返しを心に誓った。


 俺をMにする? やれるもんならやってみろ。

 簡単にMできるなら、俺はとっくに鈴理先輩の攻めを受けてMになっている。彼女に踏まれたいよん、とかキモイことを思っている。


「集団じゃないと喧嘩も売れない腰抜け親衛隊! お前達こそ女子か! 受け男よりタチ悪い。俺達の関係に文句あるなら、サシで来いよ」


 生意気に毒づいてやった。

 口汚いのは俺が怒っているからです。いや、こんなことされたら普通に怒るでしょ。怖じるを通り越して怒るでしょ。


 鈴理先輩の罵声はハァハァしても、俺の罵声にはピキッのカチンだったらしい。


「よーし。素敵なM族にしてやる」


 柳先輩が構えた。

 高間先輩が次は自分だと、ベルトを装備。鞭イコールMって思考を捨てて下さい、先輩方。


 え、上半裸にさせようか? 

 いや、それはちょっと……このままでも十二分に痛かったっす。

 これ以上のイジメはよくない、ヨクナイです。仕返しは軽くしますんで、それはご勘弁を。



 危ないことを口走り始めた親衛隊に度肝を抜いた刹那、倉庫の扉が勢いよく開いた。


 明るい日差しに思わず目を背ける。

 瞼の裏が焼けるような眩い光と一緒に、「とても頂けないな」飛び込んできた怒気を纏った声音。

 柔らかなソプラノは彼女のもじゃない。この声は。


「僕の婚約者に何をしているんだい? よもや大事な花嫁を傷物にしようとしていたんじゃないだろうな」

 

 御堂先輩、なんで他校生の貴方様が此処に。

 驚愕。瞼を持ち上げて光の向こうを見つめる息を弾ませて、ドア枠に手を添えている学ラン姿の彼女は、「その手を退けてもらおうか」息をつく間もなく地面を蹴った。


 手前にいた高間先輩なんぞ脇目も振らず、俺の上に乗っている親衛隊達に向かって飛躍。

 次に長い脚を活かして後ろ回し蹴りを隊員の横っ腹に決めると、懐に入って鳩尾を、膝裏を狙ってバランスを、下に回り上に向かって顎を突いた。


 あああ……なにもそこまでしなくても(見ているだけでも痛々しい!)、敵ながらつい同情してしまう俺は綺麗に着地する王子を見上げる。

 結った長い髪を靡かせ無駄ない動きで親衛隊の半分を伸した御堂先輩は、鋭い眼光でギッと相手を睨んでいたけれど、俺の視線に気付いて一変。


「豊福、大丈夫かい」


 手を差し出し、体を起こしてくれる。

 なんとか大丈夫だと微苦笑を返す俺のナリを見て、彼女はすまなかったと力いっぱい抱擁。


 肩口に顔を押し付けられて、「え、ちょ」驚きかえる。

 苦しい、息苦しいです。御堂先輩っ、苦しい! 大体何故貴方様が此処に?!


 必死に押し返そうとするんだけど、後頭部をガッチリホールドされているからそれが敵わない。

 動揺する俺を余所に助けに来るのが遅れてしまった、彼女は怪我は無いかと頬を包んで顔を覗き込んでくる。


「こんなに砂埃で汚れてしまって……擦り傷も見られる。怖い思いをさせてしまったな、もう大丈夫だから。僕が全力で君を守る」


「ま、守るなんて大袈裟ですよ。ちょっと親衛隊の人達にSMをされていただけで。だけど、ありがとうございます。おかげで痛い思いも軽いもので済みました」


 ががーん。

 御堂先輩は大ショックを受けたような顔を作って、「SMプレイをされたのか?!」血相を変えてしまう。


「変態集団かと思っていたが、ドドド変態集団だったのかっ! な、なのに僕を心配させまいと笑おうとするなんて……どうして君はそう人に頼ることをしない! 怖い思いをしたのに、どうして笑っていられるんだ!」


「……なんか誤解を与えたみたいっすけど、SMってそういう意味じゃないっすよ。向こうは俺をMにしようとしただけで」


「え、えむ」


「それでベルト鞭でちょっと叩こうとして」


「よくも、僕の婚約者を傷物にしようと。しようと。豊福、安心しろ。僕は何があっても君を手放さない」 


 ぎゅうっと抱き締めてくれる御堂先輩は大変な誤解をしてしまったようです。

 元凶は俺の説明ですよね! すんません、今すぐ誤解を解くんで、解放して下さい!


「あ――ッ! 隊長っ、やっぱり豊福空は尻軽男ですよ! あ、アイドルがいながらっ、他の女……ん? 男? と、イチャコラしてるなんて!」


「許すまじ、豊福空。やはり君はMにして道徳指導をしないといけないようだな!」


 親衛隊が火に油を注ぐようなことを発言をしてくれるものだから事態は悪化。

 わなわなと震えて、「よくもっ」御堂先輩が奥歯をギリリッと噛み締めた。


「これだから男という生き物は嫌いなんだ。ああ大嫌いだ。滅べばいいんだ」


 ゆっくりと俺を解放した御堂先輩は自分の着ていた学ランを俺の肩に掛けると、指の関節を鳴らして、すくりと立ち上がる。

 あわわ、や、やばい。御堂先輩も鈴理先輩のように、護身術系の習い事はやっているから、このままいけば。


「汚い、本当に汚いね、君達。ひとり相手に大勢で(けしか)けるなんて」


 傍らで目を回している親衛隊のベルトのバックルに手を掛け、御堂先輩がそれを引き抜く。

 柔和に綻ぶその顔も、醸し出すオーラも、禍々しい。

 ばねのように手首を素早く振り、長いベルトの先端を後方へ。四つん這いで逃げようとしていた親衛隊の顔面すれすれを通り、逃亡は失敗に終わる。

 悲鳴なき悲鳴を上げる親衛隊に情けないと冷笑し、王子は口角をぺろっと一舐めする。


「集団戦、君達は得意なんだろう? じゃあ、僕が相手をしてあげるよ。ああ、いいよ。女だからって遠慮しなくても。僕は相手が男だろうがなんだろうが、勝つ自信があるから」


 いや、男だからこそ、かな。

 御堂先輩はくつりと喉を鳴らすように笑う。

 その姿を見た高間先輩は「あ、悪魔」、柳先輩は「大魔王ですよあれ」半べそを掻いていた。

 目を細め、王子が真顔を作る。


「お前達は、最も愚かな方法で僕を怒らせた。思い知らせてあげる。ヒトの婚約者を傷付けたら、どうなるかを」


 まさしくドSのお顔をしている御堂先輩に、誰もが固唾を呑んだ。

 か、勝てる気がしない。勝負する前から完全無双状態だ。



「空―――ッ!」



 グッドでバッドタイミング、我が彼女の登場だ。

 全力疾走で駆けつけてきてくれた鈴理先輩は、「あんたの友人に親衛隊に拉致られたことを聞いて飛んできたっ」と声音を張る。


 ということはフライト兄弟が鈴理先輩を呼んだのかな。


 一学年の廊下で拉致られたしな。

 それを目撃して、何かあるんじゃないかとSOSを先輩に要請したに違いない。

 その証拠にフライト兄弟も後から用具倉庫に飛び込んでくる。新たな登場人物が増えたおかげで、倉庫内は修羅場と化した。


「玲。なんであんたが此処に」


 表情を険しくする鈴理先輩。


「そんなことはどうでもいいよ。僕は今、とても怒っているんだ」


 細い笑みを零す御堂先輩は、片付けるとベルトを握りなおす。


「汚い手で豊福に触り、力でねじ伏せ、集団で甚振る。そんな外道を生かしちゃおけない」


「あ、あぁああ御堂先輩っ、あの!」


「豊福にSMプレイをした挙句、Mにしようと鞭で調教。これを許せるかい? 鈴理。僕なら許せない。この落とし前はきっちり付けさせてもらうよ」


 嗚呼っ、誤解を解かなければいけない人物が増えるんっすね。

 こめかみに手を添える俺を余所に、怒気を纏った某あたし様。


 「ほぉ」不敵に笑って、空気を絶対零度にする。


「誰の許可を得てSMプレイを……あんた達に今一度、身の程知らずという言葉を教えてやろうか」


 あたし様とプリンセスの怒気にその他諸々のギャラリーは顔面蒼白。直後、用具倉庫がカオスと化したのは言うまでもないだろう。



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