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【親衛隊会議】


【某空き教室にて】



 勝手ながらも、放課後の某空き教室はとある集会場として使っている。


 どのような集会が行われているかと問われれば、長くて短い、まあ、つまりは簡略的説明になるが『同志集会』だ。

 同志集会とは何ぞやもし? そう思われた方も多いだろうが、まあまずは同志集会の様子を見てもらいたい。今日も集会が行われているのだから。


 しかし今日の集会はいつもよりも空気が重く、全体的に濁り気味、淀んでいた。


「隊長。全員集まりました」


 副隊長の掛け声により席に着いていた“隊長”と呼ばれている男子生徒は、すくりと立ち上がる。そのままグルッと全員を一見。集会に集まった者達の表情は皆、浮かないものだった。気持ちは分かる。

 自身も気持ちが沈んでいる。あまりにも沈んでいるため、気持ちが地面にめり込んでしまいそうだ。できることなら泣いて、泣いて、泣いて、今回の一件を無かったことにしたい。

 ゴホン。“隊長”と呼ばれている男子生徒はひとつ咳払い。


「今日は悲しい話し合いをしなければいけない。おっと、泣くには早いぞ。私だって泣きたいのだ。ここは我慢をしてくれ」


と語る隊長の目にも既に涙。


 それを見た一同もうわぁあああっ! と泣き出す始末。一同揃って野郎なため、男泣きの喧しさは半端なものではない。教室が太い男の泣きの声で満たされる。


「静粛に!」


 隊長の声により、泣声はややボリュームが下げられるが、やはりまだシクシクシクと男泣きが教室を満たす。ハンカチで目元を拭う隊長は、それをポケットに捻り込むとキリッと表情を引き締めた。


「君達も知ってのとおり、2年F組の竹之内鈴理さんが1年C組の豊福空という少年に前々からアタックをしていた。可憐で淑やか、我等がアイドルの鈴理さんが何故に平々凡々の少年にアタックをしていたのかは謎だが、不思議ミステリーなのだが、我々は大きな危機感を抱いていた。彼女がアタックすることにより少年が靡くのではないかと」


 竹之内鈴理さんの美貌は勿論、体躯、性格、すべてにおいてパーフェクトなのだ。靡かない男はいないのだ。

 鈴理さんのアタックの仕方はまったくもってこちらが仰天するような、そして羨ましい限りのアタック法。あの少年にキスをしたと情報を入手した日にはあまりのショックに暗転してしまったものだ。


 毎日のように追い駆け回されている少年の代わりになれたら、と指を銜えたものだ。なあ、同志達よ……。


 とにもかくにも鈴理さんのアタック法に我々は焦っていた。いつあの少年が靡いてしまうのか、アタックを受け入れてしまうのかと、肝を冷や冷やさせていた。


 そしてついに、恐れていたことが起こってしまった!


「あろうことか二人が付き合い始めてしまったのだ! 嗚呼、なんたることだ! 最初はまたでたらめな噂だと高を括っていたが……副隊長が確証してしまう情報を入手してきた。そうだろ? 高間」


「イエス、隊長。僕は見てしまいました。先程、二人が意識をし合ってキスをしていたところを。あれほど嫌がる素振りを見せていた少年が受け入れていたのですよ! うわああぁあ隊長ぉおおおお」


 高間と呼ばれた男子生徒は椅子を倒し、両手を広げて隊長に飛びつく。隊長はそれを受け止め、号泣。


「泣くな、高間。お前の気持ち、痛いほど分かる。分かるぞ!」


 隊長と副隊長の熱い抱擁。見ていてむさ苦しいことこの上ないが、教室にいる者達はそれを見て感涙しているため、誰も止める者などいなかった。


 ここにいる集団は皆、むさ苦しいのかもしれない。


 グッスンと涙ぐみ、高間副隊長を解放すると隊長は「こうしてはいられない!」と声音を張った。



「我等『鈴理さまお守り隊』はこの状況を見過ごすわけにはいかない。『鈴理さまお守り隊』は全力で竹之内鈴理さまを守ることに存在意義がある! 今、彼女は危機に曝されている。ひとりの少年に毒されているのだ。これは一大事、お守り隊の出動だ!」


「というと隊長、早速二人の仲を引き裂くのですね!」


 興奮気味に尋ねる高間副隊長に、「まあ待て」隊長は彼の気を落ち着かせた。


「仲を引き裂くためにはまず下調べがいる。この意味、分かるな? 我々のターゲットは一年C組豊福空だ! 奴を徹底的に調べ上げろ!」


 二人の仲、断固として認めてはならない。ああ、断固として認めてはならないのだ!


 燃える隊長の闘志に一同も立ち上がって同調、共に闘志を燃やしていた。


 私立エレガンス学院某空き教室は異様、そして暑苦しいくもむさ苦しい熱気に包まれるのであった。




 

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