表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/200

19.男勝りでも女性




――ガチャ。



 向こうの鉄扉の鍵が解除され、ドアノブが重く回る。

 先輩と身を強張らせて視線を投げれば、イカついオッサンを始め、犯人さんらしき人物が四人。ガタイがよく、みんないかにもって顔。つまりワルそうな人相をしている。

 俺が目覚めたことに気付いたスキンヘッドオッサンは、「丁度いい」なんて口端を歪めて歩んできた。


 なあにが丁度いいのか分からないけど、く、来るんじゃない! 貧乏人を苛めたってびた一文でないんだからな。

 うをおいい! 何するんだよっ!


 胸倉を掴まれて、無理やり立たされた俺はへたれなことにドッと冷汗。


「空!」


 先輩が動こうとすれば、スキンヘッドオッサンが容赦なく女性に向かっておとなしくしろとばかりに張り手を食らわせた。

 「先輩!」倒れる彼女を気遣う間もなく、俺は引き摺られて例のイカついオッサンの下に引き摺られた。


 取り敢えず抵抗の意を示すためにギッと相手を睨めば、俺にも容赦ないビンタが飛んできた。痛っ、生意気な目はいらないってか? そりゃスンマソっすね。

 ついでに口の中が切れたみたいなんっすけど。鉄のお味がする。痛いっつーの。


 所詮子供の抵抗だ。

 リーダーさんらしきスキンヘッドオッサンは、「構うな」命令を下して、イカついおっさんにさっさと出せと促す。


 何を出すか、疑問を抱く前に携帯電話を鼻先に突きつけられた。

 これは俺のガラケー、正しくは先輩に借りた携帯電話だ。ディスプレイには『通話中』と『非通知』いう二単語が表記されている。すこぶる嫌な予感がしてきた。

 

「今、お前の親に繋がっている。声を聞かせて欲しいそうだ。向こうの女は、さっき聞かせてやったからな」


 スキンヘッドオッサンが声を聞かせてやれ、俺に命令を下してくる。

 声を両親に聞かせて、早く身代金を用意させる魂胆か畜生。


 どこから出てくるか分からない反骨精神が、誰が言うことなんて聞くもんかと本体に命令。俺は携帯から顔を背けた。

 なんでワケも分からず誘拐されて、あんた等の言うことを聞かないといけないんだ。


「ほぉ。抵抗するか」


 スキンヘッドオッサンが面白そうに笑って仲間にアイコンタクト。

 刹那、待機していた仲間の一人、眼鏡オッサンとでも名付けようか、キャツが脇腹を横蹴り。靴先が腹部に入って俺は情けなく転倒。

 「空!」先輩の悲痛な叫びが聞こえるけど、嗚呼、応えられる余裕はない。


 今のは効いた。マジ効いた。効果バツグン。

 咳き込んで痛みに悶えている俺を足で引っくり返す眼鏡オッサンは、人質をうつ伏せにさせると背中に膝小僧を乗せて、体重を掛ける。痛みプラス重みに思わず呻き声を漏らす俺の首筋にダガーナイフを突きつけてきた。

 グッとナイフの刃先が肉に食い込み、鋭い痛みと一緒にツーッと血が伝う。


「人質らしくしておくことが最善だがな。じゃないとこのナイフ、今度はあの女に向けちまうぜ」


 眼鏡オッサンの脅しに俺は一変。青褪めて身を震わした。


 そうだ、俺だけじゃないんだ人質は。大人しくしないと今度は彼女が。彼女が。

 先輩が傷付くのだけは絶対に許せない。この誘拐だって、俺ひとりが目的だったのに先輩まで巻き込んじまって。間接的に先輩の家の名のせいだとしても、彼女のせいじゃない。


 くそっ、彼女まで誘拐して欲しくなかった。


 諦めに顔を歪めながら、俺は抵抗の一切をやめた。

 それでいいのだとせせら笑うスキンヘッドオッサンがイカついオッサンから携帯を取って、俺に歩んでくる。

 片膝をつき、「今息子の声を聞かせてやる」と言うや、俺の顔に携帯を近付けた。コンマ単位で背中に激痛が走った。

 加減なしの膝落としが背中に炸裂したんだ。


 頭が真っ白になって大きく悲鳴を上げる俺に、「や……やめっ」声にならない声で先輩が懇願を訴える。

 何度も暴行を食らう俺に、彼女はガクガクと震えている。そんな彼女を視界の端で捉えて、俺は苦し紛れに笑ってみせた。大丈夫の意味を込めて。


『そ、空さんっ……!』


 携帯から聞こえてくるのは母さんの声。

 パニックになった金切り声が小さな機具から絶え間なく漏れている。母さんにも大丈夫って言わないと、言わないと……嗚呼、だけど声にならない。

 暴行のせいで俺の口から出るのは悲鳴バッカだ。大丈夫と言いたいのに。


 ふっと痛みが消えて俺は肩で息をする。

 荒呼吸を繰り返す俺の傍で、スキンヘッドオッサンが「どうだった?」鬼畜な問いかけをしやがった。


 性悪め。同じ人間として、その人格を疑うぞ。


 ユカイそうに笑うスキンヘッドオッサンは、もう一度息子の声が聞きたいだろ? 今度は普通に聞かせてやるよ、と携帯を俺の耳に押し付けてきた。

 聞こえてきたのは父さんの声。代わったんだろう、向こうで母さんのパニクッた声が聞こえる。ああ、二人とも、本当はまだ仕事だろうに。ごめん。 


『空、聞こえるか! 空!』


「とー……さん。ん、聞こえる……俺、大丈夫だから。母さんにもそう伝えて」


『っ、空。すぐに『裕作さんっ、代わって下さい! 空さん、聞こえますか?! ご無事なんですね?!』


「大丈夫」


 俺は精一杯の強がりと一笑を零してみせた。これ以上、父さん、母さんの悲痛な声を聞きたくない。


「ということだ。無事は確認したな?」


 スキンヘッドオッサンは上体を起こして立ち上がると、さっさと金を用意するよう催促する。


 おバカ、我が家にはな一千万どころか、百万も厳しいんだからな。

 心中でツッコむ俺を余所に、「あまり遅いようだと」スキンヘッドオッサンがジャケットの懐に手を入れる。

 先輩の悲鳴と、オッサンの行動、どっちがはやかっただろう。



 ガウン―!



 鼓膜が破れるんじゃないかというほどの爆音に、漂う硝煙。

 俺の顔横数十cm先に弾丸が飛んでさすがに絶句せざるを得ない。

 に、ににに日本は銃刀法違反っつーのがあってだな、銃の所持・使用は法律上禁じられているんじゃっ……一部の人しか所持っ、それこそ警察とかしか持っちゃいけないんじゃ。

 こ、ここここ怖いんだけどっ、どっから手に入れたんだよそれ!


「ベレッタだ」


 わざわざ銃の名前を教えてくれるスキンヘッドオッサンは「早く金を用意するこったな」、携帯の向こうにいる両親に高飛車口調で命令していた。胸糞悪いな。


「ん? 息子か? さあな、撃っちまったかもしんねぇし、助かってるかもしんねぇ」


 意地悪い笑みを浮かべ、スキンヘッドオッサンは部屋を退室。

 倣ってお仲間も退室していく。体重を掛けていた眼鏡オッサンも、俺の上から退いてくれた。


 重かった。容赦ない攻撃だった。子供に大人気ない応対だな阿呆め。


 立ち去って行く誘拐犯達の背中を睨みつける。

 無情に鍵を閉められ、俺達はまた一室に閉じ込められる形になった。


 どうにか体を起こす俺は痛む体を無視して、蒼白し切っている先輩に視線を流す。

 腰が抜けているのか、ショックが大きかったのか、微動だにしない。色の悪い唇は戦慄いている。俺は笑っている膝に喝を入れて、ゆっくりと立ち上がり、鈴理先輩の下に歩んだ。

 

 彼女の前で腰を下ろす。


「先輩、大丈夫っすか? 頬、赤くなっているすね」


 さっき引っ叩かれた右頬が、りんごみたいに赤く染まっている。女の子の顔を殴るなんて、あいつ、マジ最悪だろ。

 放心状態になっていた先輩は我に返ると、クシャクシャに顔を顰めて「あたしはどうでもいいだろう」自分の心配をしろと、声音を振るわせた。


 心配をさせてしまったようだ。

 俺はごめんなさい、真摯に詫びを口にする。唇を噛み締める彼女は、「空っ!」俺の肩口に顔を埋めてきた。震えている小さな体躯を抱き締めたい。

 けど、今の状態じゃ無理だ。彼女だって俺を抱き締めたいだろうけど、今の状態じゃ……。

 

 だから俺は彼女の顔に頬を寄せた。

 もう大丈夫ですよ、あいつ等は向こうに行きましたよ、俺は此処にいますよ、の意味を込めて。


 ふと首筋に落ちてきた雫。

 切りつけられた傷と交じってちょい沁みた。泣いているんだって気付いたけど、それを口には出さない。先輩はプライドが高そうだからな。何も言わず、ただ頬を寄せた。

 頬を寄せれば寄せるほど、先輩の匂いが、甘い匂いが鼻腔を擽ってくる。良い匂いで安心する香りだと思う。


 そっと顔を上げてくる鈴理先輩は、「心配を掛けさせるな」目を潤ませながら罵って、俺の切れた口端を舐めてきた。

 行為を受け止めて好きにさせる。これが俺なりの詫びで慰めの在り方だ。


 興奮状態がちょっと落ち着いたのか、先輩はまたひとつ透明な真珠を零して、体は大丈夫かと気丈に笑みを浮かべてくる。


 その涙を目にした俺は胸を鷲掴みにされた気分になった。

 初めて見る彼女の涙は、ただただ綺麗だった。守りたい儚さを宿していた。凛とした空気を取り巻いていた。


 嗚呼、思う。

 彼女はどんなにあたし様で雄々しく、男勝りでも女性なんだ、と。



――女性を守りたいって思うのは男の本能の一部かもしれない。



 ダンマリになっている俺に、「痛いところでもあるのか?」先輩が顔を覗き込んできた。

 息を吹き返した俺は微笑を浮かべて、首を横に振る。

 言えるわけ無いよな。泣いている貴方に見惚れていました、だなんて。ましてや全力で守りたいとか思っていたなんて。


 先輩、超嫌がりそうだもん。

 守るとは何事か、それはあたしの役目だ! なーんて毒づいてくるに違いない。


 それでもいい。後でどう攻められてもいい。

 俺は今、貴方を守りたいと思っている。一端の男として。


「ロープが邪魔っすね。ヒロインな俺は今、ヒーロー様に抱き締められたいですよ」


 受け男らしい台詞を吐いてみる。

 ヒヨコのように唇を尖らせて、「それで苛々しているんだ」先輩はやっといつもの調子で返事した。それが嬉しくて俺は同調してみせる。

 緊迫な空気に包まれているからこそ、いつもどおりの空気が荒んだ心を癒してくれた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ