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16.ケータイ小説お勉強なり



 かくして先輩のヒッジョーにありがた迷惑なプレゼントを貰った俺は、取り敢えずそれを家に持って帰ることにした。


 捨てることはできない。

 それは先輩の気持ちを捨てる行為と一緒だし勿体無い。

 だからって返しますとか言った日には先輩、どんな仕置きをしてくるか……俺に残された選択肢はこれを家に持ち帰って、根気強く読破することだ。


 感想文うんぬんかんぬんはまあ、一先ず置いといて、読破しないと感想も書けないしな。嘘は書けないもんなぁ、先輩熟読しているみたいだし。


 家に帰ると早速俺は家着に着替え、ケータイ小説文庫と十分程度睨めっこした後、どれから読もうかとタイトルを見比べ、一番マシそうなタイトルを選んで読書を始める。


 タイトルは『星の王子さまならぬ、意地の悪い王子さま』



 五分後。


「なんでこいつ、こんなに意地悪く女の子に命令できるんだ? 同じ男として意味分かんないんだけど。好きな子を苛めたいってのにもほどがあるだろ!」



 十分後。


「ふ、普通放課後の教室でお触りするかっ?! 制服に手を突っ込んで、お、おにゃのこの、ぶ、ブラのホックを外すとかっ、うわぁああああああ!」



 三十分後。


「うーん、そこで別れちまうか。うーん……いやでも、うーん、うーん」



 一時間後。


「……こいつ等、学生でヤっちまった」



 どうにか一冊を一時間と十分で読破した俺は、遠目を作り、「もっと感想が書きやすそうな本ないかな」紙袋に手を突っ込んでガサゴソ漁る。

 知っているんだからな。本屋でちょい勉強したんだからな。フツーに青春ものの小説とか、泣ける小説とかあるのを知っているんだからな。もっとこう、青春くささを感じられるようなものは……タイトルを見る限りなさそうだ。


 くそう、さっきの内容を思い出すとさ、めっちゃ身の危険を感じるんだよ。


 だって先輩、男ポジションに憧れを抱いているから。

 この本に出てくるめっちゃ意地悪な王子があっらぁやだなことをしたいと……ううっ、無理ムリムリムリ! 俺はあんな意地悪されたくない!

 赤面しまくるような意地悪されたくっ、ああああっ、思い出しただけでも辛い、ほんと辛い!


「次、どれ読もう」


 なるべく早く読んでしまって、感想対策を考えないと追々酷い目に遭うのは目に見えている。

 色んな意味で泣きそうになりながら文庫を手に取っていると、母さんが仕事から帰宅してきた。


 あ、もうそんな時間か。

 なんて思いつつ、俺は文庫を片付けて机に置くと、「おかえり」母さんの方を見ずに挨拶。もうちょい普通な態度を取れよ俺、なんか超素っ気無いぞ。

 軽く吐息が出る一方、母さんはいつもどおりただいまって言葉を返してくれる。


 この申し訳なさといったら、マジごめん母さん。


 反省はしているんだ、反省は! ただっ、どう接していいか分からなくて。

 心の中で弁解する俺を余所に、母さんは今から夕飯の仕度をするからと話題を切り出した。


「あ、え、うん」


 どぎまぎ返答の後、俺も手伝うと机から離れた。

 ジャガイモを洗い始める母さんは、洗ったジャガイモの皮を剥くよう指示。俺は包丁を片手に早速、皮剥き開始。黙々とジャガイモの皮を剥く。


「空さん、最近はどうです? 学校楽しい?」

 

 振られた話題に、「うん」俺は小さく返事をする。

 楽しいよ、皆、面白い人達ばかりだし、努めて会話を繋げようとするんだけど出てくる単語が短いのばっか。

 なんでこうなっちまうのかな、普通に接しているつもりなのに、どことなく素っ気無く感じる。


「そう。それは良かった」


 母さんは笑声を漏らして洗ったジャガイモをボウルに入れた。

 

「鈴理さんとは上手くいっています? ちゃんと女の子に気遣わないと、すぐ見切られてしまいますよ」


 うっ。母さん、それ辛辣。

 確かに、気遣われっぱなしで申し訳なく思っている今日この頃だ。

 ちょっと言葉を詰まらせる俺に、「ふふっ」母さんは可笑しそうに笑ってくる。一の字に口を結ぶ俺はチラッと相手を流し目。


 ばしゃばしゃ豪快にジャガイモの泥を落とす母さんの横顔を見て、ふと思った。


 俺と母さんは似ていないな、と。


 父さんと俺は血縁がないわけじゃない……だって父さんは信義父さんと兄弟だから。

 似ているかどうかと聞かれたら、あんまり似ていないんだろう。


 対して母さんとはまったく血縁がない。それが哀しいというわけじゃないんだけど、今はとても複雑。由梨絵母さんよりも、久仁子母さんの方が一緒にいる時間は長いのに、なんてことを思って、あ、アブネ!


 危うく自分の指を切りそうになって、反射的に俺はジャガイモを落とした。


「空さん大丈夫?」


 びっくらこいている母さんに、「だ、大丈夫」俺は笑みを返してジャガイモを拾った。包丁を置いて軽くジャガイモを水で洗う。

 あーあ、なにやっているんだか。


「空さん、ぼーっとしていますけど、何か嫌な事でもあったんですか?」


「え、何も無いよ母さん」 


 ニコッと笑う俺は、さあジャガイモを剥くぞっと空元気で包丁を手にする。

 グサグサ母さんの視線が俺を貫いてきたけど、無視することにした。今はまだ、何も言えないんだ母さん。ごめん。


 今日は父さんの帰りが遅いみたいで、九時になっても父さんは帰って来なかった。

 しょーがないから母さんと二人で夕飯を取った。積極的に話し掛けてくる母さんと、頑張って会話しようとするんだけど、なんか続かない。

 どうしても途中で途切れちまう。それは十時に帰宅してきた父さんの場合も一緒。


 帰ってきた父さんが俺に話し掛けてくるんだけど、どう接していいか分かんなくて、途中で会話がプッツリ。


 どうして俺ってこう、自分で自分の首を締めちまう態度を取っちまうんだよ。


 そんな中、夜分遅くにも関わらず先輩が携帯に電話を掛けてきて、大声で、大切な事だから二回言うけど、近くにいた父さん、母さんに聞こえるくらいの大声で、言ってきやがりましたよ。


 おかげさまで俺、この場から消えたい思いを噛み締める羽目になった。


『空、喜べ! 今さっき、アリスの服が届いたぞ! 以前話していたあのアリス服だ! 現物を目の当たりにして、とても良い買い物をしたと思うほど、クオリティが高いんだ! このロングスカートはあんたにとても似合いそうだ!』


 家内は一瞬にして凍りついたね!

 父さん母さんが、いやまさか息子がそんな趣味を……困惑した目で俺を見てきたし。俺は俺で、「俺は男っす!」絶対に着ないことを先輩に直談判し、「ち、違うんだよ。これは先輩の悪ふざけで」大慌てで両親に説明。


『リボンもあるんだぞ。後で画像にして送ってやる』


 携帯向こうではしゃぐ先輩の声で、俺と両親の間で長い沈黙が流れた。

 先輩、俺と両親の仲を応援してくれているんっすよね? ちょっと疑っちまったんっすけど。

 


 閑話休題。

 こんなハプニングはあったものの、俺は結局前のように両親と接することができず、居間で晩酌している父さんと母さんに挨拶して、逃げるように床に就いた。

 悪いとは思ったけど、今の俺にはこれ以上、両親と上手く会話を広げられる自信がなかったんだ。

 居間に背を向けて眠気を待つこと一時間と数余十分。


 ふと両親の会話が耳に飛び込んできた。俺が寝た前提での会話だろう。話題は息子の話題だった。


「空にも反抗期が来たのかもしれないな、久仁子。あの口数の少なさには驚くよ」


「男の子ですから。反抗期という反抗期が来てませんものね。いつも聞き分けが良かったですから」


 違う、俺は……反抗したいわけじゃないんだ。


 ただ。

 


「もう、空を引き取って11年か。立派に成長してくれたよ。少しケチなところもあるけど、努力家だしな。死んだ兄さんにも顔合わせできる」


「ええ、本当に」



 俺は布団を深く被った。

 今は二人の親馬鹿話でさえ、辛く胸に沁みる。ごめん、父さん、母さん。俺は二人が自慢してくれるほどの息子じゃない。ないんだ。



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