第1話
ドンドンドン
「……おい、中にいる奴!」
バルガ大森林に囲まれた都市、王都ブリスゴア。その城門前。
そこで門番をしていた若者は月明かりの中、立ったままウトウトとしていた。時間は真夜中。ほとんどの人間が眠っているであろう時間だ。
「起きろ人間!」
「ん……」
門番の若者は襲ってくる眠気のなか、自分が門の外側、つまり城門の脇にある小さな扉の反対側から声をかけられているのにやっと気が付いた。
「……はい、なんでしょうか……?」
門番は寝惚けながらその声に答えた。
「やっと起きたか……門番が眠るとは……まあいい……で、人間、市街に入りたいんだが」
「あ、はいどうぞ……」
そう言いながら若者はわきの扉を寝惚けていたが開けた。普段大きい方の門は馬車などの交通などに主に用いられている。
「ああ、すまないな」
外にいたのはすらっとした感じの美人の女性だった。歳は見た目18歳位に見える。
髪は長く、顔立ちはとても整っていた。切長の目は一見鋭い印象を与えるが瞳の奥には何か別のものがみてとれる。そして女性は異国風の薄い生地で赤の目立つ優雅な服装をしていた。
若者は女性の姿を見て寝惚けていたが凄く美人だなぁと思って頬を赤く染めてしまった。
「それではな」
そう言って女性は若者のそばを通り過ぎ街の中へ消えていってしまった。若者はただただ女性の後ろ姿にみとれてしまっていた。
彼女が若者の事を人間と言ったのにも寝惚けていたため気付きもしなかった。
若者が女性を市街に入れた日の午後。
若者は門番の勤務時間が終了し門番の革鎧姿のまま街の食堂で遅い昼食をとっていた。食堂は王都ブリスゴアいちの大通に面した所にある。だが時間にしてはかなりすいていた。しかし街は人で溢れかえりとても賑やかでいる。その食堂がただ料理がまずいため人気が無いだけなのだ。まあ値段が安いというのがある。
「ここ、いいかな?」
若者はその時突然声をかけられた。
「あ、はいどうぞ」
若者はそう言いながら声をかけてきた人物を見た。そして驚いた。声をかけてきたのは真夜中に市街に入れた女性だったからだ。若者の正面に座った彼女は近付いてきたウェイターにコーヒーを注文し若者に話しかけた。
「先刻は世話になったな」
「いいえ、別にそんな……」
しばらくお互い沈黙が流れたあと彼女は突然話をきりだしてきた。
「まあここで会ったのもなにかの縁だろう。これから暇なら街を案内してくれないか?」
「え、う―ん……」
若者はあまりにも突然だったので実際迷った。
「もちろん嫌なら結構だが……」
しかしそういわれては若者は断わるわけにはいかなくなった。断わるということは彼女を案内するのが嫌だととられてもおかしくないからだ。
みずしらずの女性を案内するのは気がひけたが彼女が美人だったので、まあいいかとも若者は思ってしまった。
「……はい。いいですが、どの辺を案内すれば?」
「いやただ街全体を適当に案内してくれればいい。別に要望はない」
そして彼女はそういってから席を立ち、
「では行こうか」
そう言った。若者も急いで注文した物を口に詰め込み席を立つ。
「せっかちな人だなぁ」
若者はそう小声でつぶやくと、
「ん、なにかいったか?」
すぐに言葉が帰ってきた。
「い、いいえ!」
若者は心の中で一人彼女は地獄耳かなと毒づいたのだった。
読んで頂きありがとうございました。これからダラダラと進んでいく予定ですので、よろしくお願いします。