8話 激動
異室に所属してから1ヶ月。
「……ねぇ、貴方はどうしてそんなに強いの?」
「強い?」
話しかけてくるのは少女……
ああ、そういえば初めて異室に来た日、木戸さんの隣にいた少女だ。
「貴方は自分が積み上げてきたものを2度失った。それでもこうして戦い続けてる。」
「……知っていたのか?」
「全部は知らない。でも私は思考が読めるから、少し分かる。」
そうか、そういえば巡がそんなことを言っていた。
国が管理する異能者の組織には必ず精神操作能力を持つ者がいる。
異能の存在を隠すためだ。
異室には思考を読み取り、誘導できる異能者がいると言っていた。
しかし、俺の秘密を知る者が現れるとは……
いや、構わないのか。
俺は元々信じてもらえないだろうと話さなかっただけなのだから。
「大勇のほうが強いんじゃないか?」
「彼は、少し違う。彼は今も囚われている。そういう意味では、私と近いのかもしれない……」
「……俺は今も悩んでいるぞ?」
「私にはそれも眩しい。諦めた人間からすると。」
「……」
彼女は6歳の頃からここにいたらしい。
自身の異能によって両親の精神をぐちゃぐちゃにしてしまった。
それも子供のわがままで。
自身の行動は災いを招く。
それが幼い彼女が出した結論だった。
だから異室に管理されている今は最も良い状態だと思っていると。
彼女は自身に付けられた首輪を撫でる。
異能者は皆酷い過去を持つと聞くが、それは群を抜いて酷いと感じた。
なるほど……
そう言われると俺と彼女は近い境遇に思えた。
8歳の頃、異世界へ飛ばされ、10年間散々迷惑をかけ、突然帰ってきた。
そう思ったら今度は秘密でこんなところで働いているなんてな。
「俺はお前ほど酷くないし、お前の気持ちも分からない。だから、気の利いた言葉は言えないが……」
俺は言葉を探した。
「俺に話しかけてくれた。それはきっと良いことだと思う。もっと色んな奴と話をしてみたらどうだ?」
「……」
「……すまない、答えになっていなかったか。」
「みこと。」
「?」
「名前。」
「ああ、空野光だ。よろしく、みこと。」
俺はまた会おうと去った。
「凄い……言葉以上に、温かかった……」
***
異室に所属してから4ヶ月。
「あー、すっかり勝てなくなってきたなー。」
「お前は顔に出しすぎだ。」
「いいなぁ、やっぱりしない?」
「するか、馬鹿。」
あれから長い間、俺は巡とトレーニングをしていた。
まだ18歳という若さや、新人という立場もあり、大した仕事は任されない。
俺より年下の大勇たちは異室が管理する学園で勉学に励んでいる。
だから普段は異室にはいないのだ。
自然と俺は暇人同士でトレーニングをしていた。
「なぁ、お前の異能のこと、詳しく教えろよ。」
「ん?前に話しただろ?指先から光線を出して……」
「んーにゃ、それがピンとこないんだよなー。」
巡は寝転んだ姿勢からくるりと立ち上がる。
「これは私の考えだけどさ。異能っていうのは、そいつの願望が形になるんだ。」
「願望?」
「異能は人の脳から生み出される力らしいし、案外ありそうだろ?」
「まぁ、そうかもな。異能を持ったせいでそういう性格になったとも考えられるが。」
「だからお前が子供っぽくて正義の味方!みたいな考えなら、ビームってのは分かる。でもアンタは真面目で不器用だ。」
「つまり?」
「そういう奴はもっと捻くれた異能を持ってんだよ。幻術見せるとか。毒吐くとかな。」
「流石に偏見だ。」
随分と酷い評価だ。
4ヶ月間一緒にいたトレーニング仲間にこの言いようとは。
いや、俺も彼女を野蛮な獣と思っているから同罪か。
「とにかく、お前の根底にある思いを探ってみろよ。私が思うに、アンタの異世界転移の話も無関係じゃない。」
「!……俺の異能のせいだって言いたいのか?」
声に怒気が混じる。
流石に看過できない。
それが本当なら、俺は自分の力で苦しんで、自分の力で愛する人を傷つけたということになる。
そんなことが……
「ありうるだろ?世の中そんなもんだ。」
「……」
俺は言い返すことができなかった。
少し、考えてみるべきだろうか。
***
異室に所属してから8ヶ月。
俺と大勇は異室の自販機の横で座り込んでいた。
窓の外は灰青色の空が広がり、もうすぐ夜明けだと教えている。
「俺達、これで良かったんですかね……」
「異能者を止めた、それだけだ。」
「っ!でも!彼女は被害者でっ!!」
「あのまま放っておくわけにはいかなかっただろ。」
「それでも……百合は本当はこんなことしたくなんてなかったんだ……なのにこんなのって……」
岩澤百合という少女は大勇と知り合いだったらしい。
彼女は異形化の異能だった。
中国の異能組織、中央監視局の手先と思われる相手に彼女は異能を暴走させられた。
異能を増幅させ、精神を破壊する薬によって。
様々な伝説上の生物の特性を発現させた彼女はまさに怪物で、即座に対処しなければならなかった。
俺は殺そうとしたが、大勇は自身の異能でなんとかしてみせると言った。
大勇は死に物狂いで彼女に触れ、暴走を止めた。
それでも、壊れた心までは助けられなかったが……
「彼女は再暴走の恐れがあった。お前が常に触れて異能を抑えるわけにはいかない。」
「だからって!拘束して昏睡させるなんて!人間の扱いじゃありませんよ!!」
「ああ、だがこうしなければまた彼女は暴れ、人を傷つけるぞ?」
「そんなの!そんなのって……」
彼は震える体を抱く。
「人を救わないとダメなんです。俺は皆に幸せになってほしい……」
「誰かを救うというのは誰かを救わないってことだ。」
「そんなの……!」
「悪を砕く!光あれ!!」
「……え?」
俺は突然立ち上がり、ポーズを取った。
驚いた表情の大勇に向き直る。
「昔、テンカイジャーが好きだったんだ。知ってるか?」
「……ええ、俺も好き、でした。」
「ああ、でもあれは子供のヒーローだ。」
「子供のヒーロー?」
「誰かを救うヒーローってのはそれぞれ守る相手がいる。実際の世の中じゃヒーローの言葉なんて綺麗事でしかない。」
「……」
「お前が本当にすべてを救いたいなら、分かりやすい正義のヒーローじゃ駄目だ。皆を幸せにするんだろ?」
「はい、俺は皆を……全部を救いたいです。」
「やってみろよ。異能なんてありえない力があるんだ。ありえないことはないさ。」
大勇が初めて、俺の目をしっかりと見た。
「……出来ますかね?」
「無理だろ。」
「ええ!?」
「だから諦めるな。出来ないから諦める、そういうもんじゃないだろ?」
「っ!……はい!俺、百合を助けます!そして、いつか皆を救えるようなヒーローになります!!」
「そうか、頑張れよ。」
正直、応援したかったんだろう。
俺には前を向く大勇がヒーローに見えた。
********
異室に所属してから9ヶ月。
この9ヶ月間は、長く、あまりに濃い時間だった。
神代……大勇のせいだろうか……?
アイツの周囲ではいつも何か起こるから。
だが、これは間違いなく俺のせいだ。
有耶無耶にした戦いが帰ってきた。
今日がその日だったんだ。
「君は異世界に渡り、帰ってきた。」
「それは君自身の異能の力だったんだ。」
「力を貸して欲しい。日本の未来のためだ。」
「我々のプロジェクト6(シックス)にね。」
研究者が俺に告げる。
その後ろには無数の配線が這うポッドがあり、覗き窓の向こうには男の顔があった。
「生きていたのか……スヴァル……」




