7話 異室
その場には俺、神代、赤須、青藤、黄瀬。
そして木戸と見知らぬ少女がいた。
「まずはようこそ、異能対策室。通称、異室へ。」
「驚きました。いえ、納得しましたといえばいいのでしょうか。」
「そうだね。今朝は君に接触するためにランニングコースと時間を変えたんだ。習慣なのは事実だけどね。」
「ではあれは事前に私を見極めるために?」
「いいや、どちらかというと時間稼ぎだよ。」
異能者とはその特性から、周囲に何かしら影響を与えることが多い。
全国成績トップとか、喧嘩が強いとか、異様な焦げ跡が見つかるとかだ。
だから俺がこの世界に帰還した1ヶ月前から調査は始まっていた。
消えたはずの男がどこにいたかもわからず、10年ぶりに帰ってくるのだから不思議だろう。
遺伝子情報や身辺捜査が終わり、最後に神代が俺の両親に直接対話する時間を作った。
そのために直接俺と対話することで俺の意識を逸らし、引き止めていた。
「俺の異能は異能の無効化なんです。精神操作系の異能は危険ですから、俺が光さんのご両親に異能がかけられていないか最終確認を任されていたんです。」
「異能の無効化?」
「はい!だから俺は無能力者みたいなものなんですけど……」
「極めて強力で特異な異能だ。我々の知りうる限りでも、異能を無効化する能力の存在は例を見ない。」
「確かに、確実にどんな異能にも対抗手段になれる異能ですね。」
「へへ、ありがとうございます。」
「まあ経緯はそんな感じ。俺が出向いたのは、君と話してみたかったっていう我儘だけどね。」
異能者とは昔から存在し、妖術師や巫女として一部の人間にのみ知られていたらしい。
異能は遺伝しやすいため、昔からの力ある名家や武家には異能の血が受け継がれていた。
それが明治頃の人口増加で、一般人の異能事件が多発するようになった。
対策として生まれたのが国営で異能を管理する機関。
現在の異能対策室は、覚醒した異能者の保護と外国勢力からの防衛などを一手に引き受ける組織だ。
木戸才人、彼はこの異室を束ねる室長であり、この組織唯一の異能を持たない無能者なのだ。
本人は左遷だなどと言っていたが。
「まあそういうわけだから、君にはこの国の治安維持に協力してほしい。」
「了解しました。」
「面倒な資料は後日にしよう。都合のいい日を教えてくれ。」
少し話して……
一礼し、俺は部屋を後にした。
「で、どうかな?彼は。」
「……問題ありません。」
少女は無表情で答えた。
***
正式に異室の一員となった。
書類上、俺は警察の巡査だ。
異能対策室です、なんて人には説明できないし、異能者の情報は極力隠さなくてはならない。
両親にもそう説明した。
学歴もない息子が就職するといいだし、しかも危険を伴う警察だ。
困惑した両親には木戸さんから直接の説明が行われた。
心配させてしまうだろうか。
「ここがトレーニングルームです。」
「へぇ。」
「その、色々あっておすすめしないんですけど……」
神代が扉を開くと、広い空間があった。
テレビで見た武道館のような大きさの地下室だ。
トレーニング機器に射撃場などがあるが、それらは端に追いやられ、そのほとんどは広大な広場だ。
確かにここなら能力を試すには十分かもしれない。
「あぁ、やっぱりいた……」
「ん?……女性か。」
妙齢の女性。
ただなんと言えばいいか。
大きい。
豊満な胸やお尻も目を惹きつけるが、何より大きいのはその身長。
183cmはある俺でも見上げる彼女は2メートルはありそうに見えた。
露出の多いトレーニングウェアから覗く背中と脚にはくっきりと筋肉が浮かび、強靭さを感じさせる。
彼女が振り向く。
「来たな。新人が入ったからそろそろだと思った。」
「えっと……紹介します。」
「いい、私がやる。」
ずんずんと近寄ってくる彼女はやはり大きい。
「私は大塚巡。異室最強の異能者とは私のことさ。」
「新人の空野光です。」
「じゃあ手合わせしようか。あ、異能なしだから安心していいよ。」
俺は神代を見た。
彼は首を振る。
……なるほど、それでトレーニングルームに行きたくなかったのか。
どうやら個性的な女性のようだ。
「その、すいません。新人が入るとこうなるんです。」
「構わないよ。手合わせは嫌いじゃない。」
「……結構光さんも戦闘狂ですよね。」
「否定はしない。……彼女、最強だと言っていたが、本当なのか?」
「はい、時間を操作するような異能だと聞いてます。彼女は異室の秘密兵器ですから、下手に動かせなくて普段はトレーニングルームにいるんです。」
「そういうこともあるのか……」
ストレッチをする彼女を見やる。
最強、巨体、暇人とは大した属性の宝庫だ。
俺は静かに構えを取った。
終わった。
彼女は強かった。
強靭でしなやかな筋肉、大柄な体から繰り出される攻撃は当たればブロックごと吹き飛ばす。
俺の一か八かのカウンターが刺さらなければ負けていただろう。
「アンタ強いね、気に入った!」
「それは……光栄です?」
「彼女はいる?」
「は?いえ……」
「私としない?」
俺はもう一度神代を見た。
彼は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。




