4話 兵士
「生きていてくれたんだ、良かった。」
「私、今はセンドール王国騎士団にいるの。」
「だから、一緒にお店はできなくなっちゃった……」
「ねぇ、私ノストと戦ったんだ。」
「私、人を……」
「ごめん、またね。」
周囲には仲間の騎士や兵がいた。
フォルトナはノストとの戦いから帰ってきたところだった。
「なんだよそれ。」
少し調べれば分かった。
灰被りの戦乙女フォルトナ。
故郷を焼かれた憐れな少女が立ち上がり、ノストと戦う不撓の闘志で騎士となる。
分かりやすいプロパガンダだった。
でも、別れ際のフォルトナの顔は酷いものだった。
だから。
「悪い、俺兵士になるわ。」
「はぁ!?狩人は!私たちとはどうなるのよ!!」
「ふーん、あの女騎士様か。確かに美人だったしな?」
「バルトロメオは黙ってて!」
俺は包み隠さず話した。
彼女とは幼馴染で、自分ばかり苦しいと根暗だった俺に優しく接してくれた……
俺を認めてくれた彼女を、1人にはしておけない。
そのためなら――戦うことも厭わない。
「すまない、でも行かせてくれ。」
「……」
「……」
2人は送り出してくれた。
先の戦いが厳しかったせいで、志願兵の募集はすぐに出ていた。
俺は迷うこと無く、兵舎の門をくぐった。
「うっ……」
「おい、泣くなよ。あーあ、本気か。」
「な゛い゛て゛な゛い゛!!」
***
「で、来たぜ。」
「それじゃ分かんねーよ!」
新兵が練兵所に集められると、そこにはエトナとバルトロメオがいた。
「俺ら2年近く一緒にやってきただろ?ずっと一緒に命がけで戦って寝食を共にしたやつを1人にできるかよ?」
「私は認めないから!連れ戻しに来たの!」
「……だそうだ。」
「いや……そうか。」
そう言われれば言い返せなかった。
俺は恵まれている、本当に。
俺達は静かに笑いあった。
***
それから少しの訓練の後、すぐに実戦に駆り出された。
フォルトナの兵になりたいと志願すれば簡単になれた。
彼女の部隊は常にノストとの最前線だ。
人員不足に陥るのは当然だった。
俺達の隊は魔物との経験もあり、目覚ましい活躍を遂げた。
「それもこれもコウ様のおかげだな?まさかお前がここまで魔法の天才とは。」
「俺は逆に驚いたよ。魔法ってこんなに簡単なのか?」
「うわっ、流石にないわ。私が才能ないって?」
「ご、ごめん。」
「素直に謝んないでよ。いじってんの!」
俺は魔法が上手いらしい。
基礎訓練で魔法教育があり、俺は生まれて初めて魔法の指導を受けた。
皆は知っている内容のようだが、俺にとっては待ちに待ったイベントだ。
空から落雷を落とし、水で軍勢を押し返した。
無詠唱だろうと大規模魔法だろうと簡単にできてしまい、拍子抜けだ。
もっと早く覚えていればギィを……
俺を騎士にという打診もあった。
だが、俺はここが良かった。
フォルトナのそばで、エトナとバルトロメオがいるここが。
***
18歳になった。
「凄いね、コウくん本当に英雄になっちゃいそうだよ?」
「騎士の話は蹴ったよ。ただの一般兵の話なんて噂されないさ。」
「……でも、エトナちゃんに騎士になるように言われたって聞いたよ?」
「……バルトロメオに聞いたな?」
夜、静かな野営地の外れで俺達は話していた。
こういう時間は幸せだ。
戦場は酷いもので、何より血と脂が放つ死の臭いは俺の心を削った。
それでも、辞めるつもりはない。
エトナは……勘違いでなければ俺が好きらしい。
そして俺がフォルトナを想っていることもバレている。
だから騎士にさせたいのだろう、騎士になれば重婚が可能だ。
なんだか不埒だとは思うが、それなりの理由があるらしい。
騎士ともなれば多くの子供を養えるだけの収入がある。
それに、いつ死ぬかわからない仕事だ、そういう見返りでも無いとやってられないってことなんだろう。
悪い気はしない、でも俺は騎士ではないし、フォルトナを優先したかった。
エトナには悪いけれど。
センドールではプロポーズする時、クェトという光る木の若枝でスプーンを作り、女性にプレゼントするらしい。
実は枝は既に採取し、胸元に入れてあるのだが、思ったように彫れないでいた。
「なあフォルトナ、疲れたら逃げてもいい。その時は俺と森で隠れて暮らすなんてどうだ?」
「フフッ、そうだね。その時はきっと……」
***
「貴様が天の悪魔か?」
「なんだよそれ。」
「お前の仇名さ。雷や雨を操る天災の魔法使い。」
「確かに、この一年派手には戦ったかもな?」
その日、敵軍の将と対峙した。
フォルトナが震えるように呟く。
鬼神スヴァル。
その呟きは戦場の中でも響いて聞こえた。
緊張が走る。
奴は馬より速く走り、大岩を容易く砕いた。
俺の魔法も、多少はダメージを与えたはずだが、奴はそれを耐え忍んだようだった。
「次はその雷にも当たらんぞ!」
「バケモノが!」
後ろには壊滅しかけたセンドール軍。
その中には瀕死のエトナとバルトロメオ、そして撤退の決断をできずにいるフォルトナがいた。
「行け!早く!行ってくれえええええええ!!」
「ッ!!」
フォルトナが号令をかける。
それでいい。
良かった。
「私を前に味方の心配とはな!」
「消えろぉ!!」
この世界が嫌いだった。
必ず帰ってやると心に決めた。
それなのに俺はこの世界で必死に戦っている。
なんで?
俺は手から光線を切り裂くように放った――




