12話 死闘
書類の確保、被検体として拘束されていた被害者の解放、そしてそれらのライブが完了した。
既にいくつかの放送は止められ、恐らく異能者による記憶操作と報道やインターネット上での情報規制を合わせた対応が行われているだろう。
だが、それが完了する前に一つ大きな仕事を果たす。
これで俺は明確に犯罪者だな……
「全員研究所から退避したか?――大勇は?」
「大勇さんは……いない!まだ巡さんと戦ってるんでしょうか……」
黄瀬が声を震わせる。
俺はすぐに索敵魔法を使う……ん?
「黄瀬、大勇は無事そうだ。……多分な。」
「え!?……多分?ですか??」
索敵魔法に検知された反応。
そこには2人が抱き合うような姿勢でいた。
関節技……ではなさそうだが……
……本当に何をやってるんだ?
「とにかく、位置は把握した。ならいける。」
俺は異能を使おうとする。
『久しいな、悪魔。』
「!?」
現れたのは、鬼神スヴァル。
あの研究者か!
怪物をリスク承知で解放した!?
先程まで鎮静剤を投与され、ポッドに閉じ込められていたとは思えないほど血色のいい肌だ。
筋骨隆々の彫刻のような体に、カーテンのような布を雑に腰巻きにした姿。
野蛮だが彼の戦士としての矜持が折れていないのは瞳で感じた。
すぐに身体強化魔法と防護魔法を重ね掛けする。
直後俺は吹き飛ばされていた。
『この戦いを待っていたぞ!どれだけの時が過ぎたか分からんがなぁ!』
「――っ!クソ!」
敵は視認できないほど高速で移動している。
轟音。
俺が吹き飛ばされた風切り音だけじゃない。
移動するだけでソニックブームが発生しているのか!?
周囲の仲間達も状況に対応できていない。
フォルトナだけは瞬時に回復魔法を行使してくれたようだが……
それより先に次が来る。
『調子がいいぞ。長い眠りで疲れが取れたようだなぁ!!』
背中に衝撃が走る。
防護魔法を貫通して曲がってはいけない方向に体が曲がる。
背骨が折れた!!
俺は全身から雷を放出する。
ソニックブームと強い衝撃の影響で五感が麻痺している。
索敵魔法によって五感を代用するしかない!
スヴァルは雷を回避し、既に離脱していることがわかった。
「がっ!ゴフッ!」
おびただしい量の血が口から吐き出される。
折れた骨が肺を傷つけているのだろう。
俺は雷を常に放出し、時間を稼ぐ。
冷静になれ!
意識を、奪う!!
昏倒魔法だ。
俺は昏倒魔法を使用するが……
『っ!なにかしたな?だが2度目はないぞ!』
耐えられた!?
前に雷を当てたときもそうだが、こいつに生半可な技は通じないのか!?
『クソがぁぁぁぁあああああああ!!』
守っていては駄目だ!
俺は治療を後回しに攻撃に転じる。
敵の行動を予測し、俺との進路上に重力魔法を放つ。
『クッ!重いなっ!本当になんでもできる奴だ……!』
50Gだぞ!?
創作でしか聞かないような馬鹿みたいな威力だってのに!
でもここだ!
俺は震える手で光線を放つ。
『俺に2度目はないと何度言わせる!それは既に見た技だ!』
奴はそれをあっさりとかわした。
……次……次は……
『はいはい、やっと捕らえられる速度になったな。』
『近づくだけで一苦労とはね!』
バルトロメオとエトナが奴に近づき魔法を放つ。
『危険だ!』
『上等!』
『血まみれの馬鹿は引っ込んでて!!』
2人が爆炎と毒霧を放った瞬間、スヴァルに吹き飛ばされる。
『――っ!殺すっ!!』
俺は全身に異能を使用する。
俺という存在自体が、3次元を支配するナニカになった。
無数の光がスヴァルを襲う。
『クッ!』
異変を感じたスヴァルは素早く回避するが、俺という存在の変異に対応できていない。
どこにでもいて、どこにもいない。
スヴァルの周囲を囲うように光線が重なる。
円になり、球体になり、まるでワイヤーボールのように包み込む。
徐々にそれは縮小し、スヴァルをズタズタに切り裂いた。
スヴァルだったものが地面に落ちる。
俺は激しい痛みに光が霧散し、倒れる。
打撃のダメージを無視して無茶をしたのもそうだが、異能を使いすぎたのか……
『コウ!?大丈夫!必ず治すから!!』
フォルトナが俺に駆け寄る。
音が分からない……なんて言ったんだ……
『ふっ、グゥ、まだだ、まだこの戦争は終わっていないぞ……』
信じられない。
だが、スヴァルは無数の光線に貫かれ、細切れにされても再生した。
そして立ち上がろうと手と脚を震わせている。
俺も、フォルトナの治癒もそこそこに立ち上がる。
お互い、余力はない。
いや、相手はみるみる治っている。
1分もすれば完治するように見えた。
『我が国を脅かす悪魔。俺を封じ込め、おぞましい実験を繰り返した民族の仲間……ここで殺す。』
『それでも俺は、俺と俺の仲間のためなら全て破壊する……!』
『ならば……!』
『勝負……!』
拳を握った。
殴る。
異能はさっきの無茶のせいか機能しない。
やれるのは最低限の身体強化魔法程度。
奴の異能も回復に集中しているのか先程までの強さは発揮できていないようだ。
『鍛えた者の拳だ。センドール人にするには惜しいな!』
『魔法も体も道具だ。使えるものは使う!』
『奴ららしくない考えだ。』
『人間はそんな風に簡単に表現できるものじゃない!』
『だろうな。だがお前は悪魔だ!!』
『お前は鬼神だよ!!』
拳が交わる。
頭痛がどんどん酷くなる。
負けない……負けたくない!
『何やってんの!?やめなさい!!』
『グッ!?』
フォルトナが槍をスヴァルに振り下ろす。
ぐらりと体が倒れる。
『何を意地になってるか知らないけど、こんなところで貴方達が戦う必要ないでしょ!!』
『貴様は……確かセンドールの……』
『いい?私とコウはもうセンドール軍じゃないの!ノストの戦士は民間人をいじめて楽しいの!?』
『何!?私たちの誇りを穢すか!!』
『貴方が穢してるって言ってるの!!』
……なんだ?
フォルトナとスヴァルが言い争ってる……?
急な展開に混乱する。
だが、彼女が現れただけで、緊迫する戦いが、止まった……
『とにかく!アンタはコウが国に返してあげるわ!』
『悪魔を信じられるか!』
『信じなさいよ!馬鹿!』
『な!?この女!!』
そうか……もう戦う必要なかったな。
奇襲に動転してた……落ち着け、俺。
『スヴァル、俺達の戦いは否定しない。でもそれは戻ってからだ。そうだろ?』
『お前にそれができると?』
『ここに来たのは俺に斬られたからだろ?今度は斬らないで送るよ。信じろ。』
『そのような安い言葉でどうなる。』
『なら……戦士として誓うよ。』
『なっ!それは……!?』
俺は懐から戦士の証を取り出す。
『俺の育ての親はノスト人だ。俺のもう一人の父、ギィに誓ってお前を送り届ける。』
『……そうか。』
長い、沈黙があった。
一瞬時間稼ぎという言葉が浮かんだ。
だがそれを振り払う。
信じてもらうなら、まずはこちらから信じないでどうする。
『信じよう。俺を送り届けてくれ。』
『……いいのか?』
『私もだったんだ。』
『え?』
『ジャイアント・ブルだろう?……極寒のノストでは珍しいそれが、俺の初めての獲物だった。』
スヴァルは長く拘束され、研究されていた。
どこかで奪われたのだろうそれをなぞるように胸元に手を当てる。
彼ほどの戦士が証を持たないのは、俺にはありえないと思えた。
『探しておくよ。』
『ん?』
『なくしたのは俺のせいだ。だからアンタの証は俺が探しておく。それまではこれで我慢してくれ。俺の父の形見だ。』
俺は自分の証を差し出す。
それは彼にとっては驚きだったようで、少し笑ってしまった。
『……わかった。ならば俺の魂を託す。それまでは預かっておいてやる。』
『ああ。』
『……一度だけだ。』
『ん?』
『一度だけ、私のもとに証が戻った時、見逃そう。』
『ああ、助かるよ。渡して即死闘は、俺も困る。』
『だが、その次にあった時は全力で死合おう。……戦士としてな。』
『――っ!!ああ!!』
俺達は拳を突き合わせる。
俺の光線によって、彼はノストへと帰っていった。
……それから少し経って。
傷が癒えた。
異能も十分に使えそうだ。
俺は異能を使い、カメラを再接続する。
そしてライブが再開された瞬間、俺の転移の光線が研究所そのものを貫いた。
すると、ゲームのオブジェクトを消したかのように建物が忽然と消える。
「なぁ、このライブを観てるお偉い方に言っておくぞ。俺はいつでもどこでも現れ、すべてを消せる。」
俺は語気を強める。
「次はスカイツリーか?エンパイア・ステート・ビルか?俺は別になんだってかまわないんだぜ?」




