9話 逃走
俺と木戸さん、周囲には大勇を初めとした異室の仲間たちが集まっていた。
思い沈黙の中で木戸さんが告げる。
「空野光。君には異能開発機構から協力要請がでている。」
「……」
俺が異世界にいたことを知られた。
それも考えうる限り最悪の形で。
俺の異能は転移だったのだ。
光線は謂わば空間に穴を開けるための光だったんだ。
俺は……
……全部俺のせいだった。
母さんと父さんは俺がいない間ずっと捜索していた。
異世界では生死を共にしてくれた仲間を置き去りにした。
そして俺がこの世界に帰る時にこの世界に持ってきたものがある。
スヴァルだ。
俺はスヴァルとの戦いでここから消すとばかり考えていた。
死を前に故郷を、家族のことを考えた。
それが混じり、スヴァルごと日本に帰還したんだ。
俺とは異なる地点に転移したスヴァルは俺との戦いで意識を失っていた。
そこを確保したのが異能開発機構だ。
異能開発機構。
彼らは最新鋭の機器で異能を解析する日本の研究機関だ。
しかしその出資元はアメリカだ。
つまり実質アメリカの支配下にある組織だってこと。
彼らはスヴァルに非人道的な研究を行った。
肉体を隅々まで解剖し、致死量の薬物を投与する。
彼が生きていたのは一重に身体強化の異能を持っていたためだった。
そして見つかった。
クェトの花粉。
異世界に存在する光の粉を纏っていた木。
俺がプロポーズのために採取した木だ。
あの花粉が人間の脳に作用し、魔法を発現させることが研究で分かったのだ。
いつかエトナが精霊のことを語っていたが、その正体が花粉とはな……
アメリカからの圧力がかかっている。
そのことから彼らがその力を欲していることが分かる。
アメリカと日本共同での異世界との交流。
そのためには、俺の転移を研究する必要がある。
俺にも察することができる。
おそらく異世界の人々は無茶苦茶にされる。
保護と称した不条理な条約と資源の搾取。
後進国の末路ってやつだ。
「……すまない。彼らが本気なら私達は従わざるを得ない。」
「……そう、ですよね。国家間の問題とたった一人の人間……ですもんね……」
「君のご両親は既に保護したと通達があった。つまり……」
「――っ!」
「待ってくださいよ!そんなの理不尽すぎます!研究させろとか、家族を人質にとか!」
大勇が声を上げる。
俺は……
「少し、時間をください。」
***
俺はここから今すぐにでも逃げてしまいたかった
案外脆いものだな。
俺が今までやってこれたのは所詮なんとかする力があって、致命的な事態にならなかっただけ。
成長も何も意味なんてない。
お前は弱いままだ。
そう言われた気分だった。
家は暗く、2人が何処かに連れ去られたことが分かる。
俺の異能が転移であるなら、逃げるのは容易い。
だから繋ぎ止めるための道具を用意した
……おそらく今も俺は監視されている。
「ごめん。母さん、父さん……」
俺の手では救えない。
助けを求めてどうにかなると思えない。
敵は、国だった。
あぁ、逃げてしまいたい。
……そうか、俺は逃げたかったのか。
巡の言う通りだった。
俺の異能はここでない何処かに逃げたいという願望が生み出したものだったのか……
……逃げよう。
俺が居なければ、2つの世界は交わらない。
母さんも、父さんも拘束される理由はない。
……きっとなんとかなる。
異能を使うと、俺の手から光が伸びた。
***
「コウのばか!なんでこんなことしたんだよ!」
「オレは……ごめん……」
「おい、もういこうぜ?」
「しね!」
理由はなんだったろうか。
覚えていない。
言葉が出ず、立ち尽くして泣いていた。
「オレの……せいじゃ……」
言い訳をこぼす。
あの頃の俺には自信がなかった。
両親に言われたことをやって、先生に言われたことをやって。
自分で決めてやったことはすべてうまくいかない。
それでどうして自信なんてつくだろうか?
「うぅ……ぁ……」
上手くいかない。
俺は消えたかった。
きっと俺がいないほうが世の中上手く回る。
そうだ、俺が活躍できる世界があればいいんだ。
そしたら俺はテンカイジャーみたいに格好良く悪者を倒して、感謝されて、それで……
その時、俺の手から光が伸びた。
***
俺は初めて異世界に来たときの森にいた。
成功した。
本当に俺の力だったんだ。
俺は記憶をなぞりながらギィの家に向かう。
たった数年、しかし森の中にあるギィの家の周りは酷く荒れていた。
「ん?」
しかしまるで人が通ったような道が出来ていた。
俺は家の扉を開いた。
「っ……久しぶり、フォルトナ。」
「あっ……良かったっ……!!お帰りなさい、コウ……!」
俺は、帰ったのだろうか。
フォルトナを抱きしめながら、俺は身を委ねるように目を閉じた。
***
1日経った。
俺達は今までの時間を埋めるように共にいた。
その中で俺はすべて話した。
「フォルトナ、結婚してくれ。」
「!」
俺は懐からクェトのスプーンを取り出す。
「あっちで彫ったんだ。君が好きだ。」
フォルトナがスプーンを受け取る。
そして……
「これは?」
「こっちは俺の故郷の風習だよ。プロポーズの時に指輪を贈るんだ。」
俺はスプーンだけでなく指輪も用意していた。
何と言うか、これが無いといけない気がして……
「俺と居てくれ。ここで、2人で暮らそう?」
俺はフォルトナの手を取り、左手の薬指につける。
彼女は見惚れたように指輪を眺めると、俺を芯のある瞳で見つめる。
「駄目よ。」
「え?」
「貴方の大切なものを捨てさせたりしない。」
断られた?
なにが何だか分からず、動揺する俺に彼女は言った。
「私……貴方が死んだかもしれないと聞いて、全部捨ててきたの。」
「センドールに何も言わず出ていった。貴方を探して随分歩いたわ。」
「そして、この家にたどり着いた。貴方が帰ってくる気がして。」
「……ここでずっと考えていたの。」
「復讐のために軍に入って、人を殺して、そのせいで貴方まで失うことに……耐えられなかった。」
「おかげで私にとって一番大切なものに気づけた。」
「本当は貴方だけで良かったって。」
「でもね。だから分かるの。」
「貴方にとって、ニホンのこと、家族のこともそれぐらい大切なものなんでしょう?」
「私、貴方のために戦いたい。」
「そして、きっと貴方も。貴方は大切な人のために戦うことを選べる人よ!」
「貴方が好きです。」
「私と一緒に前を向いて。そして未来を、歩んでくれますか?」
彼女の手が頬を撫でる。
そうだった。
俺はフォルトナのために剣を握ることを選んだ。
彼らが好きだ。
大切な人のためなら……
「俺はっ!!」
もう迷わない。
そう決めた。




