再来館
「兄ちゃん起きな。王都に着いたよ」
「んぁ。ありがとうございます」
馬車の乗車代金を支払い、地面に降り立つ。城壁がいくつか崩れているが、中からは特に火などは上がっていないように見える。門の前に着くと、兵士が槍で道を塞いだ。
「すみません、規則で身体検査を義務化しています」
キト族の男性は鎧の下からこちらを睨むような目つきで、敵対というほどではないが、警戒されている。戦時中はそういうものだ。
「これが身分証で、これが持ち物だよ」
「お預かりします」
「そういえば使いはしっかり通ったかな?」
「使いですか? 最近気にかけてくれる国が多くて…」
「ラビ族のロップイヤーの子なんだけど」
「ラビ族、ラビ族…あぁ!」
門番二人はさっと身を引いて敬礼する。
「以前は無償の供与感謝いたします! お通り下さい!」
「いや手荷物検査はしていいよ? 横領してないか気になっただけさ」
手荷物検査を無事通過して真っ先に宿へ行く。以前泊った宿と、同じ宿だ。しかし、経営者が変わっていたため、第一の目標は叶わずに終わってしまった。既に夕方のため、市場は閉店しており、各々の店で商品を売っている。ワールは宿で食事をとる手続きをして、王立図書館へ足を運んだ。
王立図書館は依然としてそびえたっており、傷の一つもない綺麗なままその姿を残していた。
「久しぶりだなぁ」
中に入って司書さんの列に並ぶ。しばらくして自分の番が来た。今の司書は二人しかおらず、青い服の司書の席には一輪の花が花瓶に刺さって置いてあった。ワールは緑の制服の司書に尋ねる。
「あの、青いスピーカーを使っていた司書さんは?」
更けた司書は驚いた表情をする。
「あの子はね~…ちょっと前に亡くなったのよ。フグって魚を食べてしまって…」
「そ、そうですか…あの、ドライアドの書物を探していたラビ族です。覚えて…いますか?」
キト族の名札に「ミャーチ」と書かれた女性は目を丸くする。
「あの時の……! ということは!?」
「はい、無事復興しました。今回はそのあいさつ回りに、青い制服の方に会えなくて残念です」
ワールが落ち込んでいると、ミャーチは涙ながらに言う。
「裏手の墓地に彼女の名前が刻まれた石碑があります。この名札をよかったらお持ちください」
名札と共に便箋を渡される。何か聞こうとしたが、ミャーチは次の人を呼んでしまった。
図書館の裏手に行くと、こじんまりした墓地があった。看板には”歴代司書墓地”と書かれていた。名札を元に歩いていくと、一つの墓石の前で足が止まる。
『レン ここに眠る フグ毒には気をつけよ』
石碑にはそう刻まれていた。花屋で一輪の彼岸花を購入し、彼女の石碑の前にそっと置いた。
「レンさん、冷酷ながらも丁寧な対応ありがとうございました。おかげでドライアド様に会えましたよ。む、村も無事に復興して…」
涙が止まらなかった。ずっとお礼が言いたかったのに、言えずに彼女は先に虹の橋を渡ってしまった。タイミングの悪さに涙があふれだす。カーン、カーンと、教会の鐘が鳴り響く。日の入りを告げる鐘で、この鐘が鳴るとともに店を閉店させるところも多い。
「レンさん、時々使いを送ります。毎年、貴方への御恩は忘れません」
深々と一礼して宿へ帰る。帽子にレンの名札をつけて帰った。便箋はいまいち分からなかったので、宿屋の店員に聞く。
「これはつい最近の切手だね、消印は押されてないから発送前だったんだね」
そう言われて不思議に思ったが、レンからワールへの宛名が書かれていた。つまり自分に向けた手紙だと、そう判明した。夕食を食べ、温泉につかっている間も手紙が気になり、早めに風呂を上がり自室へ戻った。窓を開け、ランプを灯し…夜風を感じながら便箋を開いた。
ドライアド様を探してたラビ族へ
あたしのこと覚えてるか知らないけど、青い服であんたを案内した司書。名前は最後に書いてあるから省略しとく。復興したって聞いたよ、おめでと。使いの人わざわざお土産まで買ってきてたから3人で食べた。美味しかった。
こんなのを書いてるのはね、フグの毒に当たっちゃってさ、先が長くないんだって。
せめて最後に一目会いたいって思ったんだけどあんたの村、絶望的に遠いから手紙に思いをつづっておくね。正直会えないと思ってた。それはごめん、でもそれぐらい稀なの。復興おめでとう。
キト族王立図書館より敬意をこめて。
レンより




