笛奈《てきな》の休日 2
笛奈は両手いっぱいに荷物を持ち、騒がしい裏路地を覗く。
そこでは三人の髪を金、銀、赤に染めた男子中学生くらいの集団が、体こそ大きいが太って運動が苦手そうな一人の男子中学生を取り囲んでいた。
金髪の男子は、太った男子の胸倉を掴み問い詰めている。
それを赤髪の男子はスマホを構え、少し引いて状況を撮影しており、銀髪の男子はヘラヘラと笑いながら屈んで太った少年を見上げていた。
金髪男子は太った少年の胸倉を揺さぶり怒鳴る。
「おい、なんとか言えよ! 香織は俺と付き合ってるんだよ!」
「そ、そんなこと平井さんは言ってなか……」
「うるせぇ、黙ってろ!」
なんとか言えと言いながら都合の悪いことを発言すれば黙っていろと、昭和な笛奈が感心するほどなかなかパワハラ気質のある男の子だった。
(──なんだ。痴話喧嘩か)
笛奈はこの手の事には、なるべく関わらないようにしている。
だが、強く問いつめられている太った少年は、クラスこそ違うが同じ学校の生徒だ。
場合によっては助けるか、と様子を窺っていると、金髪男子は太った少年を強く突き飛ばした。
太った少年は見た目通り、運動神経が鈍いのだろう。
突き飛ばされた太った男子は足が追いつかず、仰向けに転倒する──。
「シッ!」
短く息を吐き飛び出した笛奈は、倒れた太った少年の後頭部の下に足を差し込んだ。
ぎりぎり頭を打たずに済んだ太った少年は、助けてくれたポニーテールの少女の白いパンツを、真下から見上げることになって目を見開いていた。
そんな太った少年に見られているなど、笛奈は気がついているが気にしていない。
ガン見してくる少年の無事を確認すると、その切れ長な目で三人組を睨め付ける。
「おいおいおいおいおい。最近の若いやつらは、ケンカの仕方を知らねぇってのは本当なんだなぁ」
突如現れた少女に睨まれ、その眼光と存在感にたじろぐ三人。
この隙に笛奈はそっと足を抜き、太った少年はバタバタと転がりながら立ち上がった。
差し出した足を引き戻しながら、笛奈は軽く回ってみせて教授を始めた。
「強く突き飛ばしす場合は、壁がすぐ後ろにある場合か受け止める仲間がいる方向にしろ。脅されて萎縮した奴ぁ、体が固まってるからな。倒れて頭を打つ可能性が高い。壁が半端な距離にある場合も、頚椎をやられてヤバい。どちらもないなら倒れない程度の突き飛ばし方くらい覚えろよな」
「あ……」
「な、なに言ってんだ?」
まさか乱入してきた少女が、教え授け始めるとは思わっていなかったようで、三人の男子はあっけにとられた。
「あ、ありがとうございます。で、でも危ないですから……、ぼ、僕は大丈夫ですから」
太った少年は立ち上がると、笛奈に関わらないよう薦めてきた。
しかし笛奈は太った少年に笑みで大丈夫だと答え、一歩前に出た。
両手に買い物いっぱいなので、あまり様になっていない。
マイバックと買い物袋を両手に持つ存在感に圧され、三人の男子は一歩下がった。
座っていた銀髪男子は、立ち上がりながら下がったためよろめいたほどだ。
赤髪男子が、笛奈の服装を見て何かに気が付く。
「その制服。イカ中か?」
「イカ? ああ、鵤木だからイカ中か。そうそう。イカ中だ」
「そうか。香織と同じ学校ならしゃーねえ。見逃してやるから早くいきな」
赤髪男子は顎で立ち去れと指図する。
それを見て、笛奈は喜んでしまった。
そして笛奈は相手の評価を上げた。
屁理屈を捏ねて「見逃してやる」という手は、実のところ悪い事でもない。
互いに無駄な争いを避けるため、顔を立てる言い方。
知らない人が見れば逃げているようにも見えるし、コントの「今日はこれくらいにしといたるわ」に見えて滑稽だろう。
だが子供のケンカなど、良くも悪くも実力伯仲。
どちらが勝って、どちらが怪我するか、互いにもわからないところが実情だ。
そんな中、無駄に煽らず顔を立てて争いを回避するのは上策である。
だが、金髪男子の判断が逆に笛奈を刺激した。
彼女は今でこそ女子中学生の姿をしているが、中身は昭和の世代を生きた老婆である。
昭和四十年代半ばは、授業中に窓の外を眺めていると、上の階から机や椅子が投げ落とされてくるのが見える世代だ。
暴走族が我が物顔で公道を走り、かつあげなどといった恐喝、場合によっては強盗としか思えない行為が横行し、河川敷で角材を持った数十人の大乱闘などあった時代である。
そんな時代に暴れた笛奈にとって、令和の子供のケンカは微笑ましく思えた。
同時に、危なっかしく見えた。
昔は日常的に不良が幅を効かせて悪辣だったが、悪辣ゆえにズルく上手かった。
今は慣れていないし、先達の教え……というほどでもないが先輩方の指導もないため、ケンカの仕方どころか殴り方の一つも下手だ。
これは弱いという意味ではない。
笛奈からすれば、加減があまりに下手なのだ。
自分が勝ったと実感するために、相手が動かなくなるまで殴る者までいる。
相手が少しでも動けば、立ち上がって反撃される恐怖がどこかにあるからだろう。
手打ちの仕方も、手加減の仕方も、限度も知らない。
そう思っていた笛奈だが、目の前の三人は手打ちくらいは知っていたようだと喜ぶ。
「見逃してくれるなんて、お前ら見込みがあるな。オレ様が直々にケンカの仕方を教えてやるよ、金ちゃんに銀ちゃんに、赤ちゃんよ」
髪の色にちゃん付けして、無駄に煽る笛奈。
「は……はぁ、意味わかんねぇよ。頭おかしいのか」
三人は互いに顔を見合い、笛奈を指差して笑った。
一種の挑発だが、挑発する時に全員が目を離してはいけない。
笛奈はぬるり……と間合いを詰めて、撮影していた赤髪男子のスマホを覗き込む。
「ふむ。録画だけか。配信してないなら結構」
「なんだよ、てめぇ!」
不意に近づかれ、咄嗟に手が出たのだろう。
金髪男子は笛奈の制服の背を掴もうと手を伸ばす。
掴み掛かろうとした金髪に、見える程度の速度で足払いを繰り出す笛奈。
当てる必要はない。
人並みの金髪は、繰り出そうとした足を妨害するための蹴りは空を切る。
金髪本人は見切って避けたつもりだろう。
実際には体のバランスを崩しており、勝手に銀髪男子を巻き込んで尻餅をつく。
「相手に近づくときは下半身か、重心のどちらかが先だ。手を先に伸ばすとそうなるぞ」
銀髪男子と絡まった金髪男子は、互いにもがきながら笛奈を下から睨む。
「こ、この野郎〜……」
「相手が女の時は『この野郎』じゃなくて『このアマ』と言え。って、誰がアマだとっ!」
野郎扱い拒絶し、アマ呼びを強要しながら、勝手に怒る笛奈。
彼女もなかなかパワハラ気質である。
赤髪男子は鈍いのか、それが仕事だと思っているのかスマホでの撮影を続けていた。
金髪男子はなんとか立ち上がると、生意気な女に目にものを見せてやる! という顔つきで拳を振り上げた。
大きく振りかぶったテレフォンパンチが、笛奈の肩にめがけて伸びる。
顔を狙わない金髪男子に感心しながら足を高く上げ、靴の底で勢いが乗る前のパンチを受け止めた。
きっと金髪男子は、分厚い真綿でも殴ったように感じるだろう。
無理に押し込もうとするが、無駄だとやっと気がついたようで、やっと逆の手でフックを繰り出す。
訂正。
フックのようななにかだ。
笛奈にとって、フック未満のそれをテレフォンパンチを受け止め上げたままの左足で巻き込む。
もともとバランスも重心もバラバラだった左フックである。
笛奈がさほど力をかけることなく、巻き込まれた左手に引っ張られるように金髪男はアスファルトの上へ倒れた。
笛奈はまだ上げたままの足をわざと大袈裟に高く振り上げて、倒れた金髪男子の顔面目掛け叩き落とした。
誰もが金髪男子の顔面が砕けたと思った。
が、笛奈の足は金髪男の顔を擦り、すぐ横に落ちていた空き缶を踏みつぶしていた。
「おっと危ない。ダンス中に転ぶと、踏まれるぞ」
「ひ、ひ、羞恥心がねぇのかよ!」
金髪男は顔を防御し、跨ぐ笛奈に向かって精一杯の憎まれ口を叩いた。
奇しくもそれの格好は、下からパンツを見上げてみないように手で隠しているように見えた。
「羞恥心? 今はないね」
羞恥心を指摘され、笛奈はそう答えた。
彼女にも人並みに恥じらいもある。
ディスキプリーナの前で、下着を見せてもそれは相手が女性だからだ。
男性相手ではそれなりに気に掛ける。それなりに。
笛奈は羞恥心を、出したり引っ込めたりできると言った方が正しいだろう。
「ほら、立ちな」
笛奈はぶっきらぼうにそういうと、空き缶を踏みつぶした足の甲を金髪男子の襟足あたりの背中に差し込む。
と、次の瞬間、足だけで金髪男子は引き立たされた。
これは金髪男が恐怖で体を丸めていたため、できた技だ。
背中、臀部まで丸まっていたため、転がして足の裏を地面に付けさせる。
そこから相手の重心を利用して、前につんのめるようにさせる。
金髪男は前に倒れないよう、勝手に背筋を伸ばすので、その力を利用して引き立たせる。
これを笛奈は一瞬でやってのけた。
人体の仕組み、動き、咄嗟の反射を全て理解した妙技である。
なにが起こったのか、金髪男子も銀髪男子も撮影中の赤髪男子も、助けられた太った少年もわからない。
まるで魔法のようだった。
男子四人は、ぽか〜んとした表情を見せた。
金銀赤の男子は我に返ると、誰からともなく一斉に逃げ出した。
敵わないと悟った……というより、何が起きたかわからなくて、怖くて逃げたという様子だった。
「あ、ありがとうございます」
「助けてないぞ」
太った少年がお礼を言うが、笛奈は礼の言葉を拒絶した。
「え?」
「オレ様はあいつらに、ケンカの仕方を教えただけ。お前はまだ助かってない」
「はい。まだ解決してませんからね」
「わかってんじゃねぇか」
この場を逃げ出した三人は、「あいつのせいだ」と太った少年に更なる矛先を向ける可能性が高い。
笛奈はこの場を治めてもいないし、解決など全くしていない。
それを太った少年は理解しているようだったので、笛奈は彼への評価を上げた。
「ま、事態を拗らせたのはオレ様だ。なにかあるようなら、学校で言ってくれ。オレ様は……」
「出杉さんですね。大丈夫です。今回のことなら、なんとかなりますので」
「……そうか」
はっきりと大丈夫ですいう少年に、笛奈は感心した。
自分のことを知っていることも驚きだが、暴力以外で解決方法があるかのようなことを言う太った少年に対し笛奈はさらに評価を上げた。
◇ □ ◇ 人 ◇ □ ◇
裏路地で大人げなくトラブルに介入したその日の夕食後。
笛奈は夕食の片付けをディスキプリーナとしていた。
危なっかしいディスキプリーナな手から食器を受け取り、ざっと洗う。
そこにスマホが鳴り、ショートメッセージでアーたちからの呼び出しが届く。
「なんだ? あいつらから呼び出すとか珍しいな」
「なにかあったんじゃろうか?」
ひとまず食洗器へ食器をセットし、笛奈はディスキプリーナと共に地下の秘密基地へと向かった。
エレベーター操作盤を特殊な操作をし、地下深くへ二人は向かう。
「あ、来たっすよ」
未だ自動ではないアジトの戸を手動で開けると、すでに待っていたペーが手を上げる。
「お、なんだ、笛奈。その制服で来るとは?」
「着替えるのが面倒なんだよ。で、呼び出しはなんだ?」
ガーが制服を気に掛けるなど珍しいな、と笛奈は思いながら自分の席に着く。
ディスキプリーナが自分の席によじ登っている最中に、ペーが自分のスマホを取り出して笛奈に見せた。
「とりあえずこれ見てください」
「SNSの動画か……なんじゃいこりゃ!」
ちらりとペーのスマホを覗いた笛奈は、次の瞬間、目を見開いて奪い取って画面に釘付けとなった。
「なななな、なんでこんな動画が!」
「なんじゃなんじゃ、吾輩にも見せるのじゃ」
小さいディスキプリーナが笛奈の腕にぶら下がり、胸の前に潜って頭を出しスマホの画面を見る。
笛奈のパンツが、画面いっぱいにあった。
「なんじゃ、これ? 笛奈のケツか」
「ケ、ヶケケ……」
比較的冷静なディスキプリーナに比べ、笛奈は怒りからか羞恥心からか、顔を真っ赤にさせて動揺の呻きを漏らす。
画面には笛奈が路地裏で、髪を金色に染めた少年を翻弄している動画が流れている。
撮影していた側から、高く足を上げる笛奈のスカートの中を撮影するのにベストポジションとなっていた。
「お、おい! なんだよこれ!」
「むぎゅ……」
「さっきくらいから、SNSで騒ぎになってるっすね。バズってるみたいっすよ」
スマホに映る動画について尋ねる笛奈。
急な動きで胸と腕に挟まれるディスキプリーナ。
困ったっすよねぇと軽く答えるぺー。
ペーが言うように、バズって拡散がされているようである。
コメント欄もリポストも伸びがいい。
動画の隅にコメントが流れるSNSサイトでは、視聴者の声が止まらない。
>: オレ様っ子の意外な清純白パンツ
<: ギャップ萌
<: ギザ歯たまらん
>: ふとももたまらん
<: デカぁああああい
>: ケツ、デッッッッッッッ
<: 太いね
「太くねえよ!」
コメントにツッコむ笛奈。
太いねと言われたら太くねぇよと言い返すネットミームがあるのに、コメント欄やリポストで太くねぇよと言い返すユーザーはなぜかいない。
「なんだよ、うそだろ! 信じられん!」
見ているうちに、どんどん増えていく返信といいねとリポストに、身震いする笛奈。
なまじ顔立ちが整っており、スタイルがいいのが仇になった形だ。
普段の威圧感は、やはり画面越し……まして小さいスマホの画面では印象が薄い。
短い動画ということもあり、黙っていれば美人で動けば華麗な少女が、スカートを翻して太「太くねぇよっ!」い足を高く上げて振り回しているとしか見えない。
「誰だよ、誰がこんな動画をネットに上げたんだ」
「笛奈さんに、やりこめられた少年たちらしいですね」
アカウント辿って確認し、アーが眉を顰めながら答える。
「はぁ? あいつら本人たちがぁ? なんでだよ! 自分たちが負けて、コケにされたところ全世界に公開するバカいるのか!」
「投稿しちゃうんだなぁ〜これが! ぶべぇっ」
笛奈が理解できないと頭を抱えると、ペーが身を乗り出し達観したような煽りを入れて小突かれる。
「自分たちがいじめている……暴行をしているところとか、バイト先での奇行をネットにあげる若者がいるんです。そこに不思議はないでしょう」
「不思議だよ!」
さも当然と言うアーに対して、笛奈は反論する。
「いじめとかバイトテロとかそれはテンションが上がって、一種の幼児性万能感と幼稚な共感を得たいからだろ? これは動画上げてる側が、してやられてテンション下がってるのに、公開だぞ! 見ろ、あいつら雑魚すぎってバカにされてるんだぞ」
パンツ丸見えやケツでかや、助かるや太もも太いねのコメントが並ぶ中、イキっていたのに手も足も出ない金髪男子を揶揄するコメントも見られる。
それを指差して、アーに向けて画面を突きつける。
「ま、まあ、仕返しの意味もあるんでしょうね。それでバズるならやるでしょう」
コメントを見せるつもりだったのだろうが、動画はちょうど笛奈が地面を踏んだところでスカートが舞い上がり、揺れるお尻が映るシーンだったのでアーは返答に少し戸惑った。
アーの返答に、笛奈は少し納得した様子だった。
やられた仕返しに、恥ずかしい姿を公開するという仕返しならまだわかる。そう笛奈はうなずく。
だがそれでも理解しがたいという態度だ。
>: ケツデッッッ
<: 衝撃波でケツ揺れてる!
>: デッッッッッッッッッw
<: 助かる
>: 捗る
止まらない拡散とコメントを見て、笛奈は動揺をし始めた。
「デ、デ、デカくねーよ! 足だって筋肉だ! ほら、ほら! そうだよな。太くないよな? 普通だよな?」
よほど臀部と太ももを気にしているのだろう。
笛奈は制服のスカートの裾をめくって、やや筋張っていて鍛えている男性程度に太い……いや平均的な太ももを曝け出し同意を求める。
「そういうとこっすよ」
ペーが冷静に突っ込む。
男とはいえ、中身は百歳を超える枯れた老人である。
中身は娘程度、ひ孫より若い姿の笛奈に懸想することはない。
ペーに娘も息子もいないが……。
「そ、そんな、デ、デカいのか……。い、いやオレ様は平均のはずだ」
不安になった笛奈は、自分のスマートフォンで中学二年生女子の平均身長とヒップのサイズを調べ始め…………望んだ数値ではないのでウエストとの比率など計算し、最終的に「ウソだ……」と顔を真っ赤にして無言で落ち込みテーブルに突っ伏す。
人類最強は数字という現実に殴られ、ダウンした。
「なんじゃ。世界最強の萌えじゃの」
ディスキプリーナが他人事のように追い討ちをかける。
「安心せい。お尻が大きく見えるのは引き締まったウエストのせいじゃ。腹筋がいくらあっても後ろから見ては、くびれがお尻のデカさを強調するからなのじゃっ!」
「デデデ、デカいっていうな!」
一瞬、テーブルから顔上げ、涙目、涙声で笛奈が慰めに反抗する。
そこで自分が泣いていることに気がついたのだろう。
笛奈は再び突っ伏した。
「デ、デカくないもん……。普通だもん。ヒック、ヒック……ぐす……」
いつものオレ様系女子はどこに行ったのやら、羞恥やらなんやらで枯れ果ていた乙女心が湧き上がっていた。
年相応に泣く笛奈を微笑ましく見ていたディスキプリーナだったが、急に……。
「ぬぉぉーっ! ふん!」
と怒鳴って自分の横っ面を自分の杖で殴り飛ばした。
「な、なにやってるんすか、総統!」
「顔、大丈夫ですか?」
「頭、大丈夫か?」
突如のことに驚き、総統のもとに駆け寄るアー、ガー、ペーの三人。
いきなりの暴挙に、泣いて顔を隠している笛奈ですらびくりとして顔を上げた。
「い、一瞬、萌えたが中身は72くらいの婆さんなんじゃよな。しかも当時の見た目、ジジイの。あぶなかった」
ディスキプリーナは正気を失いかけて、正気を取り戻すため自分の顔を殴ったようだが、それはそれで正気には見えなかった。
冷静さを取り戻したディスキプリーナは、まだ涙目の笛奈の肩に手を起き、自分のスマホ画面を見せる。
「それと吾輩のスマホにも連絡がきたぞ、笛奈。おぬしと吾輩、生徒指導の東野木先生から明日、月曜の朝から呼び出しじゃ」
動画の拡散が鵤木中学の職員にも届いたらしい。
なにしろ笛奈は制服姿だった。目立つ容姿でもあり、すぐに身元がバレたのだろう。
「な、なんでだよぉ、オレ様悪くないぞ! 被害者だろぉっ?」
最強殺すにゃ刃物はいらぬ──などと誦んじようとしたガーだったが、自分が殴られるより笛奈が哀れに見えて口には出さなかった。
「最強殺すにゃ刃物はいらぬ。パンツとケツデッドヴォルザーーーーク!」
ペーも同じことを思いついたようで、無神経にも口に出してぶっ飛ばされた。




